◆ミステリの女王にささげる映画−その1 ポアロ編−◆
ミステリの女王と呼ばれるアガサ・クリスティは、短編・長編あわせて、
数多くの作品を残し、そのうち、様々な作品が、イギリスやアメリカを中心に
映画化されています。その内容も、ポアロやミス・マープルなどの有名な名探偵の
活躍するものから、いわゆるノン・シリーズで、名探偵の出てこないものまで、
さまざまです。また、作品として高い評価を得ているものがある一方、
そうでないものも、いくつかは、やはり残念ながら存在します。
・エルキュール・ポアロの登場する映画
映像の中でポアロを演じた俳優には、有名なところで、
3名の名前が挙げられると思います。
アルバート・フィニー
ピーター・ユスチノフ
デビッド・スーシェ。
このうち、アルバート・フィニーがポアロを演じたのは、ただ1作ですから、
何作にも登場するユスチノフや、TVドラマ版に出演のスーシェと比べると、
印象には、それほど残らないかもしれません。
でも、そのただ1つの出演作は、かの有名なあの作品なのです。
「オリエント急行殺人事件」(1978 英)
原作:『オリエント急行の殺人』
監督:シドニー・ルメット
脚本:ポール・デーン
出演:アルバート・フィニー(ポアロ)、イングリッド・バーグマン、
ローレン・バコール、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンス、
ジャクリーン・ビセット、ヴァネッサ・レッドグローブ他
この、豪華な出演者たちを見ただけで、ため息が出るほどですね。
ある映画監督は、キャストから犯人を推測されるのを避けるために、
あえて、無名の役者ばかりで映画を撮ったことがあると言います。
だとしたら、この作品は、その逆を行っていると言ってもいいかも
しれません。
すべての登場人物が、立派な?犯人たりえるという意味で。
そして、この作品の素晴らしいところは、その、豪華なキャストによりかか
ってしまっていないことでしょう。そのかもし出す雰囲気は、まさに、憧れ
の豪華列車そのもの。この映画をみて、オリエント急行に憧れた方は、きっ
と、数多いはず。
そして、豪華なだけでなく、イメージに合ったキャストであることも
重要ですね。
軍人役のショーン・コネリー。
気弱な青年のアンソニー・パーキンス。
バーグマンにバコール、まさに圧巻。
(バーグマンは、この作品で、アカデミー助演女優賞を獲得しています。)
大雪に閉ざされて立ち往生した列車の中での殺人事件。
被害者は、生前、脅迫状を受け取っており、乗り合わせたポアロに身辺警護を
依頼して、断られていました。お金さえ積めば誰でも言うことを聞くだろう
なんていう考えでは、ポアロならずとも、依頼を引き受けたいとは
思いませんよね。
彼の体に残された、数多くの傷痕の意味することは?
そして、ポアロの調査によって、徐々に明らかになっていく、
被害者の素顔と、乗客たちの過去。
雪に閉ざされた列車の中ですから、科学捜査も、関係者の証言の裏付けも
ままならない状況だからこそ、証拠に頼らないポアロの「灰色の脳細胞」が
本領発揮する展開に、画面から目が離せません。
そして、それを、いやがうえにももりあげてくれる音楽。
伏線となる事実も、文字であれば、言葉で表さなければなりませんが、
映像であれば、なんでもなさそうに、画面の端を横切らせたり、
もれ聞こえるほんの一言であったりと、
観客の注意を引かないで提示することがやりやすいですね。
もちろん、文字であっても、それを上手にやってくれるのが、
推理作家の手腕の見せ所ですけれど。
閉鎖された世界から、現実世界への道が開かれる頃、ポアロは、事件に幕を
引きます。その幕の降ろし方は、降り積もる雪が、ポアロの心に化学変化を
起こしたせいだったのかもしれません。
一方ピーター・ユスチノフは、6本の作品でポアロを演じているものの、
見応えのあるのは、最初の2本だけだと思います。
あとの4本は、原作には登場していないヘイスティングを無理矢理登場させ、
しかも、演じるジョナサン・セシルに、まったく魅力が感じられないので、
私は、あまり好きではありません。
「ナイル殺人事件」
原作:『ナイルに死す』
監督:ジョン・ギラーミン
脚本:アンソニー・シェーファー
出演:ピーター・ユスチノフ(ポアロ)
ミア・ファーロー、ベティ・デイビス、オリビア・ハッセー
ジョージ・ケネディ、アンジェラ・ランズベリー他
ナイル川をすべる豪華客船の上で、
新婚旅行中の富豪の女性リネットが殺される。
彼女に恋人サイモンをを奪われ、執拗に追い回していたジャッキーには、
犯行は不可能だった?
そして、ポアロの調査で、彼女を殺害する動機を持つ人物が、他にも
その船に乗っていることが明らかになっていきます。
とくに素晴らしいのが、悠久のナイルの流れ。そして、エジプトの風景。
青い空、そして白い遺跡。
そんな雄大な中で繰り広げられる人間たちのドラマ。
ポアロが、ジャッキーを諭すように語り合うシーンは、ポアロの、ジャッキー
への温かい思いやりが伝わってきて、好きなシーンの1つです。
クリスティの書いた原作でも、ポアロは、一貫して、人間に対する優しさ
というか、愛情というか、そういうものを持っているのが魅力の1つです。
どんな悲劇も大自然に比すると小さいことを知っているナイルの流れは、
何も語らず悠々と・・・。
そんな中でも、幸せなカップルが生れたことが、爽やかな後味を
かもし出してくれています。
「地中海殺人事件」
原作:『白昼の悪魔』
監督:ガイ・ハミルトン
脚本:アンソニー・シェーファー
出演:ピーター・ユスチノフ(ポアロ)
ダイアナ・リグ、ロディ・マクダウェル、ジェーン・パーキン他
ピーター・ユスチノフのポアロもので、見応えのあるのは、上記の「ナイル」
とこの作品の2本でしょう。
こちらも、まず、風景が美しい!
地中海に浮かぶ島のリゾートホテルが舞台です。
どこまでも青い海と空、そして、真っ白な砂浜。
そこに、忽然と現れる美しい女性の死体。
そして、登場人物たちが、それぞれに生き生きとして、個性的。
ポアロの調査で、誰もが、殺された女性を殺す動機があることが明らかに
なっていきます。
そして、あっと驚くトリックと、意外な犯人。
事件が解決し、リゾート客達が去っても、海や空は、
何もなかったかのように、ただ、そこに・・・。
それにしても、ヘイスティングは、ポアロにとって、よき友人であり、
パートナーであるはずなのに、このユスチノフ=ポアロは、
その友人に恵まれなかったようで、ちょっと残念です。
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