◆ミステリの女王にささげる映画−その4 ノン・シリーズ−◆

クリスティの作品では、エルキュール・ポアロ、ミス・マープルの2大探偵が
有名ですが、それ以外にも、数多くの作品を残しています。
中でも有名なのは、10人の人間が、謎の人物に孤島に招待され、
「10人のインディアン」の旋律にのって1人、また1人と殺されていく
この作品ではないしょうか。

「そして誰もいなくなった」(1945 米)
原作:『そして誰もいなくなった』
監督:ルネ・クレール
脚本:ルネ・クレール、ダドリー・ニコルズ
出演:ウォルター・ヒューストン、バリー・フィッツジェラルド他

同じ、『そして誰もいなくなった』が、あと3度映画化されています。

「姿なき殺人者」(1966英)
監督:ジョージ・ポロック
脚本:ダドリー・ニコルズ、ピーター・イエルダム、ピーター・ウェルベック
出演:ヒュー・オブライエン、シャーリー・イートン、フェビアン他

「そして誰もいなくなった」(1975 伊仏独西)
監督:ピーター・コリンソン
脚本:ピーター・ウェルベック
出演:オリバー・リード、リチャード・アッテンボロー、シャルル・アズナブ
ール

「サファリ殺人事件」(1989米)
監督:アラン・パーキンショー
脚本:ジャクソン・ハンシッカー、ゲイリー・オハラ
出演:ドナルド・ブレザンス、ブレンダ・バッカロ、フランク・スタローン
ハーバート・ロム

1番、舞台が原作に忠実なのは、'45のアメリカ版でしょうか。10人が招待
されたのは、絶海の孤島に立つ館です。ただ、クリスティ自身は、原作の
ラストを映画には持ち込まず、違った結末が用意されています。そして、
それが、さすが原作者の手によると言うべきか見事に成功しています。
さらには、監督の手によって、映像ならではの風味が加えられており、
優れた原作が、優れた映像となった、たいへん幸せな例の1つだと思います。
食事に集った彼らの耳に突然響く、過去の罪を告発する声。自分と同じように
招待されてきた人間が、1人、また1人と減っていくことへの緊迫感。
口に出しては、テープの告発を否定したとしても、自分の中で、
自分が有罪だと知っていたとしたら・・・。


「姿なき殺人者」や、「そして誰もいなくなった」(1975版)は、駄作だとも思
いませんが、特筆すべきところもないように思います。山頂の別荘を舞台にし
た「姿なき」では、元ネタとも言うべき「10人のインディアン」の意味付け
が薄いような気はしますが、それはそれで、楽しめないこともないですし、
後者は、舞台が砂漠のど真ん中という以外は、ほぼ、ひたすら原作に忠実に
作られています。原作にひたすら忠実というのは、文字と映像というメディアの
違いをうまく利用してほしい私にとっては、ちょっと物足りない気がしないでも
ないのですが。


「サファリ殺人事件」は、モチーフはクリスティの『そして誰もいなくなった』
かもしれませんが、なぜ、舞台がアフリカのサファリなのか、
よく分かりませんでした。
もちろん、サファリの風景など、みどころがないわけではないですし、10人
の招待客は、そこから脱出することもできず、外と連絡の取りようがない
という設定にもなってはいるのですが、あまりにも周囲が広々とした陸地だと、
彼らが、「孤島の絶壁に閉じ込められた」という緊迫感が薄いのです。
作品として、面白い、面白くないは好みの問題として、
クリスティが原作というには、雰囲気が違いすぎて、ちょっと拍子抜けでした。


「危険な女たち」
クリスティ女史のミステリ『ホロー荘の殺人』を、日本で映画化したものです。
出演は、探偵役に石坂浩二、その他、三田村邦彦、大竹しのぶ、藤真利子、
池上季実子など、なかなか豪華。とくに、大竹しのぶは、もう、これ以上は
ないというほど原作のイメージそのままです。

夏休みに、家族で海辺の家に出かけ、旧友たちと再会する。楽しい休暇に
なるはずが、夫は、一発の凶弾に倒れる。そして、その死体の傍らには、拳銃
を持った彼の妻が!
彼の昔の恋人や、愛人、その愛人に想いを寄せる男。真犯人は、いったい?

名探偵ポアロの役を小説家の石坂浩二に置き換えている他は、ほとんど原作
に忠実に映画化されています。そんな中、原作に登場しない女性や、警官が、
とてもいい味を出していて、にんまりさせてくれます。

それから、一族の女主人である、北林谷栄さん。彼女の持つ雰囲気が、
そうこなくちゃという感じではまっているのは、さすが大ベテランですね。

また、テーマ曲も、雰囲気があって素敵です。


クリスティの新作は、もう、埋もれていた未訳ものの出版を待つしかないわけで
すが、その映像化は、最近でも続いています。

「魔女の館殺人事件」(1996 英・米)
原作:『蒼ざめた馬』
監督:チャールズ・ピーソン
脚本:アルマ・カレン
出演:コリン・ブキャナン、ジェーン・アッシュボーン、マイケル・バーン他

映像の原題は、クリスティのつけたタイトルをそのまま"The Pale Horse"なのです
が、この邦題は、なんとかならないものなのでしょうか(苦笑)
まぁ、というのは置いておきまして、内容も、なかなか画期的です。
時代設定を現代に持ってきましたので、クリスティの作品の持つ雰囲気は、ほ
とんど残っていません。
ただ、登場人物は、なかなか魅力的ですし、謎めいた「蒼ざめた馬」の存在な
ど、楽しめる要素はたくさんあります。
ある男性が、路上で、瀕死の神父から、1枚のメモを受け取ったところから話
が始まります。疑問を抱いた彼が、調査してみると、「蒼ざめた馬」と呼ばれ
る屋敷と、そこに住む3人の「魔女」に行き当たるのです。
原作では、この3人の魔女という絡みで「マクベス」の3人の魔女の舞台での
演出論があり、読んでから見ると、いっそう楽しめるかもしれません。

ところで、この作品、NHK衛星で、放送されたときには、タイトルが
原作通りの「蒼ざめた馬」に戻っていましたね。
さすがに、あの邦題は評判が悪かったのでしょうか、、、


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