◆ミステリの女王にささげる映画−その2 ミス・マープル編−◆
アガサ・クリスティの生み出した名探偵で、エルキュール・ポアロと並んで
有名なのが、ミス・ジェーン・マープルです。彼女は、ポアロ同様、初登場
のときから、かなりのお年で、セント・メアリ・ミードに居を構えています。
甥のレイモンドは、田舎の暮らしは刺激がなく退屈だろうと、いつも、敬愛
するジェーンおばさんに言いますが、彼女に言わせると、田舎だって、都会
だって、人間性に変りはないのです。そして、ミス・マープルは、長年培っ
てきた人間観察にモノを言わせ、警察の敏腕刑事でさえてこずる事件を、次
々と解決していくのです。セント・メアリ・ミードから、あまり出たことが
ないようなことを言うマープルさんですが、長編では、あちこち活発に出か
けて行くことが多いのです。
「カリブ海の秘密」(1983米)
原作:『カリブ海の秘密』
監督:ロバート・M・ルイス
脚本:スー・グラフトン、スティーブン・ハンフリー
出演:ヘレン・ヘイズ(マープル)、バーナード・ヒューズ
甥のレイモンドのはからいで、カリブに出かけたミス・マープルは、退屈な
長話の男性が殺される事件に遭遇します。旅先でも、なぜか殺人事件に出く
わすのは、名探偵の宿命でしょうか。
カリブの美しい映像。ホテルを経営する魅力的な若夫婦、偏屈な富豪の老人
と、彼の付添人などの個性的な人物で、気持ちを逸らさないで、最後まで、
見せてくれます。珍しい、マープルさんのダンス・シーンも、必見。
キャストでは、俳優から犯人を推測されるのを防ぐために、あえて、知名度
の低い人を使ったそうです。
ミス・マープルを演じた女優で、次に挙げられるのが、アンジェラ・ランズ
ベリーでしょう。この方、最近では、アニメ映画「アナスタシア」に出演し、
素晴らしい歌まで聞かせてくれていますが、ミス・マープルとしても、元気
いっぱい、溌剌としたマープルさんを楽しめます。
「クリスタル殺人事件」(1980英)
原作:『鏡は横にひび割れて』
監督:ガイ・ハミルトン
脚本:ジョナサン・ホールズ、バリー・サンドラー
出演:アンジェラ・ランズベリー(マープル)、エリザベス・テイラー、
ロック・ハドソン、トニー・カーチス、キム・ノヴァク
なんとも豪華なキャストですね。実は、エンドクレジットで、ピアース・
ブロスナンも出演していることを知り、慌てて、テープを巻き戻して、
じっくり観直してしまいました。ほんのちょっとですが、確かに、
007の若き日の姿を発見して、すっかり嬉しくなってしまいました。
小さな村に、往年の大女優が、邸宅を構えたお披露目のパーティで、
おしゃべりな女性が、グラスのカクテルを飲んで死んでしまいます。
そのグラスは、実は他の人のものであったため、
間違い殺人の先が濃厚になるのですが・・・。
例によってマープルさんは、おしゃべりから事件の真相に迫っていきます。
が、このお話、あまりにもラストがせつなくて、
やりきれない気持ちにさせられます。
人間って悲しいものだと、目の前につきつけられるような気がして。
でも、冒頭、作中で上映されるミステリ映画の犯人を、いい当てて颯爽と、
去って行くマープルさんの姿が、なんとも微笑ましくて、その切なさを
和らげてくれているのが救いです。
さて、1番、原作のイメージに近いミス・マープルというと、
やはり、ジョーン・ヒクソンという声が1番高いような気がします。
全12作に登場し、どれも、水準以上というのは、素晴らしいことではない
でしょうか。
「カリブ海の秘密」(1989英)
原作:『カリブ海の秘密』
監督:クリストファー・ペティト
脚本:T・R・ボウエン
出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)、ドナルド・ブレザンス
前出のアメリカ版の他に、イギリスで製作されたのがこちらです。
同じ作品を、原作から大きくはずれることなく映画化しても、イギリスとア
メリカでは、こうも違うものなのですね。
甲乙つけがたいのですが、やはり、本場イギリスのものの方が、雰囲気が出
ているように思いました。
「パディントン発4時50分」(1987英)
原作:『パディントン発4時50分』
監督:マーティン・フレンド
脚本:T・R・ボウエン
出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)、デイヴィッド・ホロビッチ
すれ違う列車の中で、男が女を殺すのを見たという友人の訴えによって、事
件の謎を解くべく、ミス・マープルは、ある一家に、家事の達人ルーシーを
送り込みます。やがて、その家の人間関係が明らかになっていき・・。
事件の謎はもちろんなのですが、この作品のもう1つのみどころは、
ルーシーの家事遂行能力と、ロマンスの行方です。
彼女の家事のシーンは、もう、目を見張るばかりで、ぜひとも呼んで協力を
仰ぎたいと思ってしまいます。
そして、若く美しい彼女に、一家の男性陣が、心を奪われるのです。それ
ぞれが違った角度でアプローチするのを見るのもまた面白いものです。原作
では明らかにされなかった、ルーシーの選んだ男性が、映画では明らかにさ
れているのも、ご愛敬ですね。もっとも、それが、クリスティの思っていた
男性なのかどうかは、保証の限りではないでしょうが。