◆片想い◆東野圭吾◆
(文芸春秋 ISBN4-16-319880-6)
せつない、せつない、せつない。
人は、どうして、Minorityに、よく知らない、分からないものに対して、
冷たい反応をしてしまうのでしょう。
このタイトルの「片想い」は、決して、恋愛の上での片想いだけを言っている
のではありません。おおよそ、世の中に存在する、一方通行な、祈りにも似た
はかない想いのこと。
女が男に憧れるというと、一般的には、要するにその男性のことを好きだと言うこと。
そういう意味で使うことがほとんどではないでしょうか。
現に、今、手元にある国語辞典で、「憧れる」を引いてみると、
「思い焦がれる。理想として強く心を惹かれる」となっています。
でも、昔、高校時代に、友人と戯れに引いた辞書には、第一義で、
「〜に憧れる」というのは、「〜のようになりたいと思うこと」と載っていました。
その時は、笑いながら、「じゃぁ、先輩に憧れる」っていうのは、「先輩になりたい」
ってことなんだね〜、なんて言っていたのですが、間違いなく、その、
「そうなりたいと願う」の意味で、理想の男性として誰かに憧れることだって
突拍子もないことではないんですよね。
ただ、どちらにしても、その言葉には、何か、甘い、そしてほろ苦い、
感傷を誘うイメージがあるには違いないのですが。
学生時代、アメフトのエース・クォーター・バックであった哲朗の前に、
当時女子マネであった美月が現れます。
(と言っても、アメフトを知らないので、実感わかない〜(^^;)
「彼女」のもたらした衝撃の告白。
1つは、彼女が、実は「男」であるということ。
そして、もう1つ。人を殺してきた、ということ・・・。
自首する前に、「憧れの人」、「好きな人」の顔を見たかったのね・・・。
でも、でもね、そんな告白を聞いて、黙って、警察に行かせられるでしょうか。
ただ、この時の、女子マネ仲間でもあり、哲朗の妻でもある理沙子の言動、
ちょっと腑に落ちない部分もありました。
どうして、そこまでむきになるのかと。
終盤になって、ようやく、その気持ちが伝わった気がします。
彼女も、せつなく、苦しい「片想い」をしていたのだと。
だからこそ、美月のことで、そんなに必死になったのだと。
黙って立ち去ってしまった美月を探すため、哲朗は、否が応にも
事件と関わっていくことになります。
それが、かつてのチームメイトでもあった男との競合であったとしても。
そして、追うほどに、事件は混迷を深め、美月の行動の謎も深まり・・・。
「人と違うこと」を、受け入れられる社会であったら、こんな事件は
起こらなかったのかもしれない。
戸籍上の性別に、そんなにこだわらない社会であったならば。
それを「障害」とみなす社会なんかでなければ・・・。
あるいは、生まれながらに、どちらでもあり、どちらでもない人たち。
世間が、彼らを型にはめようとし、彼らもまた、その枠の中に自らを
押え込もうとして苦しんでいく。
自分で自分の生き方を決めること。
選んでそうなったのではないこと。
否定も、肯定もしちゃいけない。
そうであることを、受け入れるだけ。
それができないうちは、その社会は、まだ、大人になっていないということ。
「まだ」と言いたい。
「いつかは」と、祈りを込めて。
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