◆火車◆宮部みゆき◆
(新潮文庫 ISBN4-10-136918-6)


休職中の刑事本間が依頼された人探し。
失踪した婚約者彰子を探してほしいと。
過去の自己破産の事実が明らかになったからと言って、なぜ、
あっという間に姿を消さなければならなかったのか。
捜査にかかった本間の前に、次々明らかになる彰子の真実の姿。
彰子の過去に隠された悲しい過去。
そして、そこに見え隠れするもう1人の女の姿。
彼女と彰子との接点は、いったいどこにあるのか?

それまでの、不幸な人生を捨てて、新しくやり直したいという気持ち。
それは、分かるのです。
でも、そのために、他人を犠牲になんて、していいはずもないのに。
彼女は、どうしても、そうしたかった。
そうせざるを得ないところまで、追い詰められていたのでしょうね。
許されない行為だし、なんとも身勝手な行動ですが、
その悲しさは、事実なのでしょう。
1人で、誰にも頼らず、自身のみを頼りに生きてきた彼女。
ガソリンの小瓶に、きれいに片付いた部屋に、自分の道への覚悟が
仄見えて切ない。

それとは対照的に温かい家庭を気築いているのが、追う本間。
妻を事故でなくし、息子の智と2人家族。
家政夫の井坂や、その妻でばりばりに会社をやっている久恵。
世間とは違う形の夫婦に、いろんなおせっかいを言う人間が少なからず
いたでしょうに、それれも、自分たちの選択した暮しを大事にする2人。
そんな存在は、智にとっても、すごく大きな意味を持っているでしょうね。
特に、ボケの一件での彼らの存在は、大きかったはず。
だから、智も、あんなにいい子にそだったのでしょう。

それから、本間が捜査の過程で知合った人たちにも、素敵な人が。
特に、失踪直前の勤務先のみっちゃん。
ああいう、無邪気で屈託のない女の子。とても好きです。
それに、社長も、なんだかすごく気のいい人で。

「しいちゃん」を気にかける保や、その妻の郁美。
郁美の、保への想いとその聡明さ。
夫の幼馴染への複雑な思い。
それを押し隠すだけの聡明さを持っていることが、いっそう
いじらしくて、2人のそれからの幸せを願わずにはいられません。

自己破産した以上、過去の借金は追っては来ないのに、一目散に
逃げ出さずにいられないほどの傷を負った彼女が、それだからこそ、
いっそう悲しく見えました。
離婚の原因となった、図書館で縮刷版をめくるその姿も・・・。
彼女に罪はないのに。
自分の人生を、自分の手に取り戻したいと、願っただけなのに。
それが、他の人には・・・。

許されないことをしたとはいえ、その心情がとても悲しかった。

全てが明らかになったことで、逆に、彼女に穏やかな日が
やってくれば、いいと願わずにいられません。


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