◆怪談◆阿刀田高◆
(幻冬舎文庫 ISBN4-344-40089-5)


これは、もともと、新聞に連載していたもの。
でも、その時は、読み損ねたのもあったし、大好きな阿刀田さんの本だし、
文庫本をGet。

タイトル通り、ラフカディオ・ハーン=小泉八雲の人生をたどりながら、
八雲に惹かれる日枝洋子と、彼女に恋する朝倉恒一。

八雲の「耳なし芳一」の朗読の練習を八雲の墓の前でしていた恒一の前に
不意に現れた洋子。
2人の関係が、とても穏やかで優しくて好もしく思えます。

共通の関心ごとである八雲の足跡を辿る道。
東京都内に、そんなに八雲の史跡があるとは知りませんでした。
「散歩学」
洋子の語る素敵な散歩。
そんなふうに、いろんなものを見られるって、いいものです。

どんどん親しさを深めたい恒一に比べて、洋子の意思はなんとなく曖昧。
決して恒一を嫌ってはいませんし、一定以上の好意は持っているようなのに、
積極的に打って出ることをしないのです。
その上、恒一にとってはなんともバッド・タイミングで、彼女の実家の父親が
体調を崩し、洋子が北海道に帰省してしまったりして、かなりやきもき。
そうでなくても、なんとなく、ふわふわと漂って、決定的に自分を
確定することを避けるような洋子ですから。

それでも、静かに、静かに距離をつめていく2人の関係。
洋子が、自分の作品を恒一に見せて感想を求めたのは、大きな進展。
八雲に大きな影響を受けた、というよりも、八雲を模して書かれた短編。
八雲はそんなに詳しくない私でも、かなり近い雰囲気を持っていることは
感じ取れます。
静的な恐怖。
はっきりとそこにあるのではなく、そこはかとなく、何事もないはずの
ところにさえ脈々と、確かにそこに存在する恐怖の気配。
ひたひた、ひたひたと。

それにしても、阿刀田氏の博識ぶりには、いつもながら頭が下がります。
東西の古典にも、神話にも、そして、今度は、小泉八雲。
この1冊を読めば、八雲の生い立ちから、生き様、人となりまで、
手に取るように見ることができるのです。
そして、あまり知られていない、『怪談』以外の作品についても。
私にとっては、八雲=怪談でしたから、南国を舞台にした作品が
あるということを知って、それも、なかなかにドラマティックな作品のようで、
ちょっと意外な感じでした。

そんな八雲を追いながら親しさを深めていく恒一と洋子。
洋子への想いを深めるに従って、恒一も、自分の人生を見詰め直します。
洋子と生きていきたい。
そんな想いが、恒一を、変えていったのでしょう。
洋子も、そんな恒一を、決して拒みはしません。
「草食動物のような」その生き方。
一陣の風のようなその姿。
だからこそ、恒一は洋子に惹かれたのでしょう。
もちろん、その心栄えや聡明さもあいまってのことですけど。

激しいばかりが恋ではないですね。
八雲の作品のように、静謐なままの恋というのもいいものです。


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