◆褐色の文豪◆佐藤賢一◆
(文芸春秋社)



アレクサンドル・デュマ。
数々の名作をものした文豪。
だから、名前こそ知っていたものの、
黒人の血が混じっていることも、
父が「黒い悪魔」と呼ばれるほどの豪のもの、
ナポレオン政権下の将軍であったことも、
何一つ知らなかった。

息子もまた作家であることは、かろうじて
知っていたけれど。
『椿姫』は、とても好きな作品だから。
グレタ・ガルボ主演の、あの映画の素晴らしいこと!
ガルボの美しさは、ヒロインにまさにはまり役。
坂慶子主演の、邦画も、とてもよかったし。
あのラストは、本当に素晴らしかった。


っと、閑話休題


アレクサンドル・デュマというのは、
なんというか、自然児というか、天衣無縫。
ものにこだわらない、その姿は、やはり
(作中でいろんな人が感じているように)
父への敬慕の念からくる大いなる自信が
大きく影響しているのだろうな、と思う。
それは、時に人の心情を害したりもするけれど、
懐にまっすぐ飛び込んでくるような、
あけっぴろげな親しみは、
拒絶されることなんて思いもしない笑顔は
人を虜にしないではおかない。


しかし、あの、女性関係の奔放さは
なんとかならないものかと思うけれど(笑)
まぁ、人懐っこい笑顔で踏み込んでこられたら、
やっぱり、拒絶するのは難しいでしょう(笑)
褐色の肌、というのも魅力の1つであるのだろうし。


将軍であった父譲りの肉体的な強靭さ。
生き生きとした物語をつむぎだす心。
何よりも、夢中になったら止まらない、その行動力。
銃を取って危険の中に飛び込んだりもする。
なんてパワフルな魅力なのだろう。
そんな彼のペンから、『モンテクリスト伯』や
『三銃士』が生まれたことに、すとんと腑に落ちる思い。

その分、それをねたむ人が出るのも無理はない。
幼馴染で、アレックスが文学の道に進むきっかけを
作ったルーヴァンにとってさえ、
それゆえに距離を置かないではいられないほど。

アレックスの才能を真っ先に見出したノディエ。
出会いのシーンの微笑ましさ。
その作品を劇場にかけるために骨を折った一幕。
他人を、そんなふうに動かす、彼のために
何かしてあげたいと思わせるものが、ある。

ヴィクトル・ユーゴーが同時代の人だという
認識すらなかったのだけど、その交流が
デュマに与えた影響は小さくなかったはず。


時代の寵児となり、稼ぎに稼いだデュマだけれど、
稼いだ分だけ、使ってしまう。
デュマ工房と悪口を言われるほど
下書きをすると称する自称作家の卵たちの
めんどうまで見て、好き勝手にさせているなんて
鷹揚にもほどがあるとあきれてしまうほど。


晩年、蓄えもなく、年のせいで体の自由も
きかなくなっていったデュマ。
痛ましさもあるけれど、きっと、彼は不幸ではなかった。
挫折や痛みや、鬱屈を知らない人生ではないけれど
(それを知らない人生なんて、かえってつまらないじゃない?)
心の命ずるままに生き、ひたすらに後を追っていた
父の影すら、いつか追い越した人生だから。


だから、デュマ・フィスよ。
嘆いたり案じたりす必要はないよ、と言ってあげたい。



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