◆王妃の離婚◆佐藤賢一◆
(集英社 ISBN4-08-775248-8)


私の大好きな裁判もの。
裁判ものは、こうでなくては!
弁護士フランソワが引き受けたのは、とうてい勝ち目のなさそうな裁判。
王ルイ12世が起こした妻ジャンヌ・ドゥ・フランスとの結婚無効訴訟。
カトリックでは、離婚は認められていません。だからと言って、いったん
結婚したら、どうあっても添い遂げなくてはならないかというとそうでは
ありません。「離婚」は、不可能でも、結婚そのものを「なかったこと」
にしてしまうことはできるのです。
王が王妃に対して起こしたのもそういう訴訟。
でも、結婚が無効であるためには、夫婦が1度でも肉体関係を結んでいては
なりません。それは、すなわち、結婚の有効性を認めたことになるのですから。
でも、果たして、22年間も夫婦でいて、そんな強引な理論が通るものか・・・。
これが、現王のやることですから、証人は、その意を汲もうとして、彼に
不利になるようなことは言いません。被告、王妃の側の証人ですら、王に
有利な証言ばかり。
フランソワが引き受けたのは、そんな訴訟。

それは、王妃のためではなく、むしろ自分のため。
でも、引き受けた以上は、自分の全てをかけて全力で戦う。
登場時の彼の弁論の鮮やかさ!
圧倒的に不利な状況の中で、その途端、立場が逆転したかのような展開。
いいえ、まだまだ、「本当に」逆転したのではないのですが、周囲に、そう
思わせるだけの勢いがあるのです。

王妃の味方である大衆の歓喜。
そして、裁判記録がラテン語で取られ、フランス語は記録されないことを
利用したフランソワの独り言作戦に見事に反応して彼をバックアップして
くれる大衆。世論を味方につけると強いですね。

かつての後輩であるジョルジュをうまいことまき込むそのやり方。
まったくもって、見事なものです。
さぞかし、弁の立つ学生だったことでしょう。

王側からの恫喝や甘言。
でも、フランソワは屈しません。
王妃が自分を苦しめた暴君の娘であること、かつての恋人ベリンダとの
いきさつ。いろんなことを胸に去住させながら。

全てが終わったとき、失ったものと、手に入れたもの。
傷ついたこともないではないけれど、爽やかに、登場人物たちは去っていきます。
その姿の鮮やかさが、素晴らしい読後感を残してくれます。

それにしても、この佐藤賢一という作者、ただものではないという感じです。
先日『傭兵ピエール』を読んだ勢いで、この作品を読みましたが、どちらも
同じぐらい面白かった。
それにしても、どこか翻訳調の文章に思えるのは、扱っているのが西洋の
歴史ものだからなのか・・・。
もちろん、それもまた彼の魅力の1つでありますが。


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