◆青のフェルマータ◆村山由佳◆
(集英社文庫 ISBN4-08-747149-7)


人には、心の傷を自分で癒す力があります。
でも、ときに、その力を越えた大きな傷を負ってしまうことだってあるのです。
そんなとき、他の人から、ものから、癒されることが、どれだけ救いになることか。

海には、そんな大きな力があります。
傷つき、悩んだ心を抱えて抱かれると、そんなもの思いをきれいに溶かしてくれる。
少しずつ、波打ち際から足を進め、やがて全身波にゆだねたとき、
心の傷は、ゆっくりと癒えていく。
それは、傷を消すことでなく、痛みを一時的に薄れさせるだけかもしれない。
でも、そのいっときが、痛みに再び向き合う力を与えてくれる。

ましてや、そこに、心を開くことのできる相手がいてくれたら!
他人との付合いに傷ついた心には、人間でない、でも、なぜか気持ちの伝わる
気がするイルカの存在は、大きな意味を持っています。

リオは、両親の離婚のショックから言葉を失っています。
そんな彼女は、言葉以外のことでコミュニケートできるイルカと接することで、
心の安らぎを得ています。
隣人は、心優しいアレックスとダグ。
そして、チェロの先生であるJB。

チェロは、言葉を失ったリオの自己表現の手段でもあります。
でも、もちろん、それ以上にチェロが、JBが好きなのですけども。
JBが、リオに送った「ブルー・フェルマータ」
聴かなくても分かる。
その曲が。
リオの手で、その曲は海となる。
海となって、全身を包んでくれる。

傷を負った人間は、同じ傷を持った人間に、相手の痛みに知らず知らず
共感、共鳴してしまいます。
それは、とても大事なことでもあり、でも、反面、危険なことでもあります。
リオと、キャロル=アンの場合は、これが、とてもうまくいったのだけれど。
でも、それで逆に傷ついたり、傷つけたりすることだってありえるのだから。
だからと言って、きっと、そこから逃げることは、正しいことではないのかもしれない。
リオだって、そうやって、成長していくのだから。

それにしても、村山由佳の言葉って、なんてビジュアルで、感覚的。
海を、砂を、太陽を、まるで自分で感じているような気になってしまった。
リオと一緒に、イルカと戯れ、一緒に癒されていくような感覚。
そう、イルカたちに癒されるその感覚を知っている、というような錯覚。
なぜか、イルカの温かさを、知っているような気持ちになってしまった。
海の中で彼らを抱きしめ、そのぬくもりを感じたことがあるような気持ち。
とても不思議。
もしかしたら、それは、私の願望が生んだ幻かもしれないけれど。


BookTopへ
Topへ