◆あかんべえ◆宮部みゆき◆
(PHP研究所 ISBN4-569-62077-9)


宮部みゆきの世界って、どうしてこんなに暖かいのでしょう。
幽霊がたくさん出てくる話なのに、なんだかほんわり優しくて。

料理屋「ふね屋」の1人娘おりん。
両親に、祖父母、店で働く人たちに囲まれて、
何不自由なく育った少女。
そんなおりんが、命に関わる大病の後、身につけた不思議な力。
それは、この世の者でない存在が見えるようになったこと。

素晴らしいのは、おりんが、幽霊を見て、
きゃーきゃー騒ぎ立てるだけの少女でなかったこと。
そんなおりんだからこそ、亡者たちも、見えるように
なったのかもしれませんが。

実に様々な亡者たちが、ふね屋に現れます。
色男優男な玄之介、なんとも艶っぽいおみつ。
おどろおどろなざんばら髪。
あかんべえの女の子。

彼らが、いったい、なにを思い残してふね屋に取り付いているのか、
それが分かれば成仏できるでしょうに。
だからと言って、調査に乗り出そうなんて、
たった7歳のなのに、おりんってば、なんて、まぁ。

でも、おりんにとって、もっと、切実な問題。
それは、幽霊騒動でふね屋の存続が危ぶまれていること。
それを支える、おりんにとっては祖父にあたる七兵衛。
このじいちゃん、なかなかどうして、たいした傑物。
孤児だったところを、拾われて仕込まれただけあって、
肝も据わっているし、妻おさきとのコンビネーション。
幽霊で評判になったなら、それを逆手にとってやれ、
なんて、なかなか言えることじゃないのでは。

生きている人も、そうでない人(?)も、
それぞれに、いろんな事情を抱えています。
だから、ある人にはおみつさんだけが見えて、
ある人にはざんばら髪だけが見えるのだという
その理由付けが、やけに説得力を持ってきます。

そして、過去の事件が見えてくるにつれ、
いっそう、その条件付けがいきてくる。

生きていく以上、出会いと分かれとからは、
誰だって、逃げることはできません。
おりんにとって、それは、初めて経験する
親しい人との別れでしょう。
でも、おりんなら、決して、悲しんでばかり
いるはずがありません。
彼女自身がしっかり前を見る力を持っている上に、
あんなに素敵な家族に囲まれているのですから。

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