稲垣くんとコンサート コンサートやオペラなどある程度高いお金が必要な芸術であるが、当初こういったことは諦めていた。汚いジーパンにリュック姿の私である。当然そのようなところに出向く服装でもなく、お金の余裕もなかった。しかしそれはスイスで稲垣くんに合い、少し変わった。 アイガーやマッターホルンのふもとグリンデルワルドでふらふらしていたときに突然「ミートフォンデュ―を一緒に食べませんか?」と突然声をかけられた。旅で出会う一人旅の日本人の男の子の身なりとは異なり、背広に一応ネクタイ姿だったので、最初変なヤツと思った。 しかし私もスイスに来たからにはフォンデューを食べなくては…と思っていたが、どのレストランも御二人様からとなっていたので、諦めていたところだったので、一緒に食べることにした。 日本では大企業の優秀な営業マンだった稲垣くんは6年勤めた会社をやめ、1年計画で世界を旅していた。もともとクラッシックとミュージカル、食べることが好きで、それらを目的に旅をしていた。 しかるべきところにいくにはやはり背広とネクタイは必需品なのである。しかしそんな稲垣くんも普段はYHに泊まり、1日2〜3千円で旅をする貧乏旅行者であった。 いわく「一大決心で会社をやめ、すべての金をつぎ込み旅をしてるんだから、アメリカならアメリカの、フランスならフランスでしか体験できないことを見たり食べたりしたい。日本の何分の1のお金で本物が見れるんだよ。おそらく日本でこれから先30年かかっても、この1年で見たり触れたりする文化の方が多いだろうね。」 同じ貧乏旅行でも旅の仕方は一人一人ちがう。自由な旅ができるだけで、十分嬉しいことなんだからと、その間おしゃれをしたり、コンサートに行ったりすることは諦めようと自然と思いこんでいた私に、稲垣くんとの食事は何か気づかせてくれた。 以後、ジーパンの私が入れる場所は限られてはいたものの、立見席など服装を気にせずに入れるコンサートなどもたくさんあり積極的に足を運んだ。 これら文化・芸術面への支出は、国によって差が激しいが、平均して1日1000円といったところ。 1日平均3800円 旅の間の主な出費はこんなところだ。1日平均3800円。4ヶ月45万でなんとか収まった。 しかし、5年前、もし同じような旅をしていたら到底これだけでは足りなかっただろう。円高=日本経済発展のおかげである。 日頃は、経済急成長のために歪んだ日本社会のマナーの悪さに怒っていた私であるが、このときばかりは日本経済のおかげであると感謝した。勝手がいいのだ。 |