「ホフマン物語」リハーサル日記

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8/29(水)

8月28日火曜午後、成田から稽古場に直行して初稽古をすませました。夜半に実家に戻り、随分つかれているつもりだったのでそのまま床にはいったのですが時差ぼけか四時に目覚めてしまい、もぞもぞしていても仕方ないのでメールをとったところです。

メルビッシュ日記にも触れましたが、関係者のひとりにフランス人の高校教員がおり、八月一杯特訓してくれたのは随分たすかりました。連日開演前と一幕演奏中にかれこれ一時間ほど、歌ったり歌詞を読んだりするのを直してくれました。10回ほどやったでしょうか。ホフマンでも殊にぼくの役はレチタティーヴォが多く、「語ら」ないとはなしになりません。もちろんホフマンのような秀作では、メロディとリズム、および楽想の指定といった作曲家のさじ加減が緻密に行き届いていますから、丁寧に音符をおっていけば言葉の発音や抑揚はおのずとわかる、といえなくもないのです。でもぼくにとっては今回のフランス語のように会話能力が十分でない言語の場合、ネイティブのお手本があるととても助かる。アン・エンなど、特徴的な鼻母音を三種類使い分けるこなどは、しつこく訂正してもらわないとやっぱり身につかないものですしね。このフランス語師匠は逆に音符の読めない人でしたから純粋な言語的アプローチで教えてくれる。これがぼくにとっては「ああ、だからこういう音符が書かれているのかぁ」と再発見することにもつながりました。

なにせ日本のチームはとっくに立ち稽古をはじめている時分にオーストリアの宿で孤軍奮闘して覚えた役です。ピアニストとの音楽稽古すら今回はできなかった。他人のコントロールといえはこの仏人ジェラール氏の発音矯正だけでしたので、日本の初稽古にのぞむ気分は、さながら一夜漬けで期末テスト受ける高校生。

まぁ、まずまずはかどった稽古ができましたので、とりあえず安堵しました。ぼくにとっては先刻承知のヴィニー流で、まず大雑把な動きをどんどんつけていきます。最初に見通しつけてから細かい芝居づくりにとりかかるという、演者にとっては非常にありがたい手法です。昨晩も1幕から三幕までをみてしまいました。三幕のアントニア幕がやはり心理劇の芝居をおおく要求しますのでつっこむのはこれからですが、おおまかな映像を頭に焼き付けて帰宅できました。いつもながらこの辺の手腕は、ヴィニー氏見事なもんです。


一幕・終幕、リンドルフ
ドイツ官僚。傲慢・尊大。
三幕、ミラクル博士
悪魔的。
四幕、ダペルトゥット
マフィア風のワル。
二幕、コッペリウス。
慇懃で下品な薄笑いをうかべた商人

メモ風にまとめましょうかね。稽古初日の覚書です。今日昼間これで自習して、夜の稽古にのぞみます。

・一幕、リンドルフ。典型的な19世紀のドイツ官僚。傲慢・尊大。召使アンドレを幾度となく杖で殴る。酔いどれ芸術家のホフマンを嫌悪。自分が惚れてる歌手ステッラがホフマンに血道あげているので嫉妬強い。狭隘な老人了見でイライラしてもいる。ホフマンに皮肉をとばすが、皮肉とはいいがたいほどあからさまな嫌悪をおもてにだす。「奴のごとく思い悩む恋人はわしには出来ぬが、悪魔の才知で勝って見せる」と、自己陶酔的。

・二幕、コッペリウス。慇懃で下品な薄笑いをうかべた商人。欧州人的視点でいえば「ユダヤ商人」。ホフマンとスパランツァニ相手に二つの商談をまとめる前半は、この了見で十分だが、スパランツァニから不渡り手形をわたされたことが発覚して再び登場する。「復讐してやる!」の叫びには、いまいちピンとくる芝居がついていない。小切手にぎりしめて大見得きるのか?

・三幕、ミラクル博士。悪魔的。マジックショーの奇術師的な感じもあるか。可憐なアントニアと実直な親父をそそのかして破滅に追い込むプロセスをどう積み上げるか。レチタティーヴォが長く、そそのかしの説得はもっぱら話術にかかっているところがある。音楽稽古のときから厄介だなとおもっていたが、ここは熟慮の必要な個所。動きでは、アントニアを診察するシーンが要。彼女本人はおらず、全部ぼくの一人芝居、パントマイムで表現しなくてはならない。ヴィニーのアイディアではなくオッフェンバックのオリジナルだから文句言えない・・・。ホセ・ファンダムの録画が脳裏にのこっている。とくにミラケルの演技が出色。


そういえば、昨年のオランダ人の衣装はローマでヴィニーが演出したときにファンダムが着たものでしたっけ。オランダ人の彼は絶対世界一というほどではないかもしれないけど、このひとのホフマン四役はうまいんですねぇ。フランス語のネイティブでこのタイプの世界的な歌手はあまりいないので、とくに出色の出来といえるでしょ。生でも何度か昔みたし、昨年夏のオランジェ音楽祭録画をNHKが放送したのでヴィデオでもっています。具体的に真似したくはないのでしょっちゅう見たわけではないけど、ことにミラクル幕のうまさはまぶたに焼きつくものでした。

9/2(日)

まめにリハーサル日記をかけないまま、3日間の立ち稽古を終え、きょうはオケ合わせまでやってきました。

立ち稽古二日目はジュリエッタ幕(四幕)と終幕の荒立ち。そのあと一幕をくりかえしておしまい。三日目は全曲のぼくのシーンを通しました。荒立ち一回と通し稽古一回でおしまいというわけです。ヴィニーの手法は前から書いているとおり、あたえられた条件下で最高の効果を、というものですから、細かくやればドンドン注文もでるはずですが、とりあえず芝居に仕立てることはできました。早いもので彼とももう四作目の共演ですから、そういう信頼感もおおいに役立ったことと思われます。

ジュリエッタ幕のダペルトゥットはマフィア風のワル。ダイヤモンドをみつめて自分の企みに陶然とするアリア、つづいてジュリエッタとのエロティックなやりとり、ホフマンの恋に焚き付けたうえで嫉妬をあおる黒幕・・・・ま、そんなコンセプトでしょうか。アリアの出来にかかる幕、といえるでしょうね。

オケ合わせでは芝居をつけず、オケにのって全曲フルヴォイスではじめてうたってみました。いつものことですが、この時点の稽古の反省は力みすぎ。低い音がおおいので太く太くと意識しすぎているかもしれません。

明日は芝居をつけたオケ稽古です。着替えが一部心配。ジュリエッタ幕から終幕のリンドルフにもどる着替えには音楽一分二十秒分しかありません。楽屋にはかえれないので袖でやりますが、分厚いコートなどがあるからはてどうなることか。

9/3(月)

衣装つきオケ合わせをおえて帰宅しました。

二日連続でこういう役を歌うのは大変ですね。途中で大分声がつかれたけど後半また持ちなおしたりして。衣装とオケという条件がくわわると神経がそっちにむくので、こういう初役で稽古が少ないケースではなかなか大変です。歌詞がロレッたところもあるから、次の水曜日の直し稽古と金曜日のゲネプロまでに確認しておかねば。力みのほうは注意しながら歌いましたが、芝居のテンションの分、むつかしいところもあります。しかし芝居がつくと逆に役と役の対比ははっきりしますので、流れにのりやすくもあります。心配した着替えもなんとかできました。本番までには楽屋係も慣れてくるでしょうから、まずできるとおもいます。

9/7(金)

ゲネプロをやってきました。着替えをふくめ、めまぐるしく変わる4役ですので、実際舞台でやってみると段取りの注意点にも気づくし、芝居心もあおられるというものです。今回は自分で稽古しておいて遅刻参加でもありましたから、本当にあっというまでした。もう、あと一回になってしまいました。音楽の美しさもさることながら、ぼくの役は演劇的要素がとても楽しい役柄です。フランス語もだいぶサマになってきたな、と密かな自負がちょっとだけ芽生えてもきました。ただ長丁場なのでペース配分には冷静な神経をはたらかせなきゃ。

あと一回。