九.ニュース 「ふーん。で、お前達二人は、その黒ずくめの男と女を屋敷で見たって言うのかい。」 「ああ。」 赤松勇太と杉下綾香は頷いた。その向かいで、へーと驚いてみせるのは香取光博である。 ここは勇太の部屋で、町田亜弓の家から帰った勇太と綾香は、ついさっき見てきた出来事をたまたま塾の帰りに勇 太の家に寄った。もう一人の幼なじみの光博に話していたところであった。 「あの格好、まるで吸血鬼よね。」 「格好はな。」 「吸血鬼・・・ね。」 直接見ていない光博は、なかなか想像することができないが、二人が口を揃えて嘘をついてるとも思えない。しか も、最近、そんな言葉をどこかで聞いたような気がする。 「あの人達って、何者なのかな。」 「ありゃ、多分。・・・町田の肉親だな。」 「どうして?」 勇太の発言に綾香が身を乗り出して聞き返してきた。綾香の顔が妙に近付き、勇太はドキッとするが咳払い一つし てから答える。 「女の子の一人暮らしだ。血縁者か相当親しい人間のどっちかじゃなきゃ一緒には住まいだろう。」 「で、何で肉親なのよ。」 もったいつける勇太の手を揺すって、綾香が催促する。 「ん?こっからは推測だけど。ほら、お前も見てるだろ。廊下に飾られている大きな肖像画を。」 そう、屋敷の中に入ると真っ先に目に止まる大きな男性の肖像画が確かにある。綾香は昨日、訪れたときに知って いたので大して気にも留めていなかったが・・・ 「あれと黒ずくめの男が何となく似ていたような気がする。」 「えー、そうかなぁ。」 綾香の記憶の中でその肖像画とさっきの男を照らし合わせる。そういう目で見れば似てないこともない。が、何せ 鮮明に覚えているわけではない。 「なるほど。肖像画ってのは有名な作品以外は、普通、その家の主のものを飾るはず。」 「そう。俺は絵のことは詳しくないけど、その家の中に似た人間がいるんだ。あの絵が有名作とは考えにくいんじ ゃないか。」 「あんたってば、本当にときどき凄いよね。」 綾香は感心し、光博は勇太のそういった才能を認めているので笑顔で頷いている。勇太は更にちょっと自慢げに、 「で、父親がいるんだ。母親もいてもおかしくないだろう。」と、言う。 「それがあのとき言っていた勘ってやつ。」 「まあね。」 勇太はそう言うと何気なしにそばにあったリモコンを取って、テレビをつけた。といっても、別に見たい番組があ ったわけではないのだが・・・・ 「でも、町田さんのご両親って、確か海外に住んでるってふれ込みよね。」 「何か特別な事情があるんだろうな。」 勇太の言葉に二人は納得した。「何か気になるなぁ、そういうの。」 「駄目だよ。家庭の事情だろう。興味本位で近付いちゃ。」 光博がたしなめたので、綾香は口をとがらせるが、それは綾香自身にも分かっていることであった。 「いいよ、もう止めようぜ。大体、あの四人の病欠と町田を結びつけること自体が無茶だったんだよ。」 「それもそうね。」 話も一区切り付いて、三人の興味も別なものに移る。勇太はぼんやりとテレビの画像を見つめた。 その時、三人の顔が同時に変わる。最初に口を開いたのは光博だった。 「やっぱり、最近、吸血鬼ってどこかで聞いたと思ったんだ。」 三人の視線が見つめるテレビには、どでかいタイトルコールとともにあるニュースを取り扱っていた。 『現代に甦る、ドラキュラと。』* * * * * * * * * * * *「ねぇ、光博はどう思う。」 「さあ、あれだけじゃ、よく・・・」 綾香と光博は勇太の家からの帰り道、並んで歩いていた。家が近所の二人は、当然帰る方向も一緒である。 「あのニュースじゃ、噂だけが先行してるって感じだから。」 「うん、でも人が亡くなっているのは事実だよ。」 勇太の部屋で見たニュースでは、瀬川素子という女性が謎の原因で死んでるとのことであった。死因が突然死とな っており、その首筋には二つの噛まれたような傷跡があったそうだ。 そして、これは噂だが、その女性の血が半分以上抜かれていたらしい。これにマスコミが飛びつき、あのような放 送になったようだ。 「だからって、吸血鬼と結びつけるのは短絡的だよ。警察の方もはっきりとしたコメントをしていないようだし。」 「でも、私と勇太は町田さんの家で見ちゃってるのよね。吸血鬼の格好をした人を・・・事件現場も比較的近し、 広瀬君達が休んでいるのもひょとしたら。」 「いや、番組で紹介された女の人は死んでるけど彼らは生きてるだろ。」 「そうだけど。もしかしたら・・・」 やはり、町田家で見た二人の人物というのが、今になって強烈な印象を与えているのだろう。綾香は不安な表情で そう言った。 「よし、それじゃあさ。明日にでも広瀬達の様子を見に行ってみよう。そしたら、少しは安心できるんじゃないか。」 「うん・・そうね。」 光博の提案に綾香が乗る形で返事をした。「分かった。それじゃ、また明日。」 「じゃあ、勇太には俺から言っておくよ。」 話し合いに一応の決着がついたと所で、綾香と光博は別れる。そこは綾香の家の前であった。 「じゃあ。」 二人の声が重なり、綾香は家の中へ入っていった。 「じゃあ。」と、もう一度、光博が綾香がいなくなった空間に告げるとそのまま背を向けて歩き出した。* * * * * * * * * * * *勇太は暗い路地を必死になって走っていた。目の前にはT字路が見え、一瞬の判断で左に曲がった。が、すぐに失 敗に気づく。 『行き止まり。』 勇太は、慌てて引き返そうと振り返ったとき、黒いマントを羽織った影が目の前に立っていた。それを見た瞬間、 金縛りにあったように動けなくなってしまう。 その影はゆっくりとゆっくりと勇太に近付いてくる。 そして、その影が勇太に触れるぐらい近付き、顔の表情がはっきり見えたとき、驚きのあまり声を上げてしまった。 その影の正体は、 「・・・何だ。夢かよ。」 勇太はベットから、体を起こすと目を擦りながら時間を確認した。十時を少し回ったところだった。 どうやら、綾香と光博が帰ってすぐ居眠りしたようだ。 「勇太。電話。」 ベットの上にチョコンと座り、ぼうっとしていると下の階から、母親の声は聞こえる。 「電話。」 「今、行く。」 2回目でやっと返事ができた勇太は、欠伸を噛み殺して階段を下りていった。電話口には、気持ち悪いくらい、に やけた顔の母親がいる。 ある意味、さっきの夢より恐怖を与える。 「何だよ。」 「女の子からよ。綾香ちゃん以外の。」 『そういう事かよ。』 「あ、そ。分かったから、あっち行ってろよ。」 母親はハイハイと返事をし、居間へ戻る。「綾香ちゃんには内緒にしとくね。」 「うるさいな。ったく。・・・はい、もしもし。」 「面白い、お母さんね。」 「ん。面白いっていうか、ちょっとおかしいんだけどな。」 勇太は、そう言いつつも声の主を分かりかねていた。 「フフフ。お前、誰だって感じね。じゃあ、今度は忘れられないように、もっと熱い口づけをしてあげるわ。」 「森村茜。」 「やっと、思い出したのね。ねぇ、何かつかめた?」 「ん、いや・・・・」 勇太は、今日見てきたことをそのまま話していいものか迷った。第一、この森村茜という人物も得体が知れないの だ。 「何か知ってるって口調ね。」 茜は勇太の迷いをズバリと突いてきた。それでも迷う勇太は、受話器に手を当て周りを確認すると、意を決したよ うに受話器を口元に当てたのだった。