十.お見舞い 
  

  「おーい、何だって俺まで付き合わなきゃいけないんだ。」 
  そんな赤松勇太のぼやきを無視するように杉下綾香と香取光博は、歩調を合わせて歩いて行く。 
  「大体な、あいつらが簡単に死ぬわけないだろ。」 
  「さっきから、うるさいわね。帰りたければ帰ればいいでしょ。」 
  道中、ずっと続けられた綾香はついに怒りを爆発させて、勇太を睨みつける。 
  「バーロ!バス代まで使わされて、帰れるかっての。」 
  そう言うと勇太は、睨む綾香の前を涼しげな顔で通り過ぎ、一人で歩いて行った。 
  「あんな文句を言っていても、実は勇太も心配なんだよ。」 
  「本当に、素直になれよな。あの男。」 
  「お互い様だろ。」 
  勇太と綾香、光博の幼なじみトリオは、突然、昨日から病気で休みだした四人の見舞いがてら、一体何があったの
 か真相を確認するつもりでいた。 
  勿論、本当にただの病気なのかもしれないし、その可能性の方が高い。 
  しかし、最近、周りで起きてる事件や転校生の町田亜弓に関することなど、不思議な出来事が多いのも事実である。
  ひょっとすると意外な事実が聞かされるかもしれない。 
  と、まあ、大体の名目はこんな感じであるが、三人で出かけるのは久しぶりという開放感が手伝ってか、それほど
 緊張した雰囲気などはなかった。 
  「ちょと、光博。今のどういう意味よ。」 
  「何でもないよ。」 
  今度は綾香に追いかけられ、光博達が勇太を追い越していく。 
  「おいおい、子供(がき)じゃないんだから。走るなよ、お前ら。」 
  「一番の子供(がき)に言われたくない。」 
  「同じく。」 
  前を走る二人が同時に振り返り、勇太にそう言った。 
  「おい、光博まで何だよ。」 
  「きゃー。」 
  勇太が二人を追いかけ、二人は逃げるように走り出した。結局、三人とも元気な中学生なのである。 
  すれ違う、買い物帰りの奥さん達の笑いを誘うのであった。 
  
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     町からは、やや外れた住宅街を勇太、綾香、光博の三人が肩を並べて歩いている。   この近くには病欠している四人の内の一人、高木由伸の家があった。   「この辺だと思うんだけど。」   住所を手がかりに綾香が自信なさげにそう呟いた。   「おい、大丈夫か?」    「うるさいわね。あんた、一度、遊びに来たことあるんでしょ。覚えてないの。」   綾香は不安をぶつけるように勇太にかみついた。   「駄目、駄目。勇太は極度な方向音痴なんだから。」   「そう、天は二物を与えず。完璧な人間なんていないのさ。」   勇太が舞台役者のように振りも交えて言った。それを見ていると真剣に考えている自分が馬鹿に見える。というよ  り、馬鹿にされた気分になった綾香は、   「何よ。一物も持ってないくせに。」と言って、勇太の足を踏んづけた。   「痛い。」   勇太が踏まれた足を高く上げ、二、三歩けんけんしながらバランスを崩し、その後、見事に転んでしまった。   「いや、運だけはいいみたいだよ。」   勇太が倒れ込んだ先を見上げると、そこには高木とかかれた表札があった。   「やっぱり、近くまで来ていたのね。」   「それじゃ、早速、挨拶をしよう。」   「おーい。俺に対してのコメントはないのか。」   無視する二人を恨めしそうに勇太が見上げた。その時、   「わざわざ、すいませんね。」という声とともに、高木家のドアが開いた。   まず、はじめに出てきたのは、恐らく、高木の母さんであろう。そして、もう一人、何と町田亜弓がドアから顔を  出したのだ。   勇太は、驚いて直ぐに立ち上がろうとしたが、慌てすぎてうまくいかない。   「あら、赤松君。」   そうこうしている内に案の定、亜弓に見付かってしまった。   「おう。あ、おばさん、こんにちわ。」   勇太が周りを見回すといるべき綾香と光博の姿はない。   『あいつらー。』   「赤松君もお見舞い。」   「ん。まあな。どうですか。」   最後は高木のお母さんの方を向いて尋ねた。   「いいえ、大したことないのよ。まあ、上がってちょうだい。」   「はい、そんじゃあ、少しだけお邪魔します。」   昨夜、町田家に忍び込んでいる。気付かれていないとはいえ、亜弓とは話しづらい。勇太は亜弓と視線を合わせな  いようにし、高木家のドアに手を掛けた。   「赤松君。話があるの。ここで待っててもいい。」   「え?」   不意に声がかかり、勇太の動きが止まった。ゆっくりと振り返ると、そこには真剣な表情だが、どこか哀しげな表  情をした亜弓がいた。   勇太は、うんと返事するしかなかった。   その後、高木にも会った。割合元気だったのを何となく記憶の片隅で覚えている。   一言二言、会話をしたのも覚えているが何を話したかは全く覚えていなかった。何故なら、その間、ずっと、町田  亜弓のことを考えていたからだ。  
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     「元気そうね。」   ベットに横たわる高木に綾香が声を掛けた。その横には光博も立っている。   「ああ。でも、今日は凄いな。お前達で四人目だぜ。見舞いに来てくれたの。」   「そう。」   綾香の返事は少し気のないものになっていた。   亜弓がドアから出てきたとき、とっさに綾香と光博は隣の家の角に隠れたのだが、その亜弓が高木の家の前からな  かなか離れない。   別に隠れる必要がなかったのだが、一度隠れてしまえば、今度は出づらくなり、その場で息を潜めてジッとする羽  目になった。   そして、そのまま隠れているといつの間にか亜弓はいなくなっていたのだが、勇太までもがいなくなっていたのだ。   綾香は、消えた勇太が気がかりであった。   「ねぇ、一体、何の病気なんだい。町田さんの家で何かあったの?」   そんな綾香に代わり、光博が今日の本題を聞いた。   「・・・いや、ただ具合が悪いだけさ。町田さんは関係ないよ。」   「そうかい。早く良くなんなよ。」   光博は高木の言葉に裏を感じつつも、そう答えた。やはり、何かありそうだ。直感的に光博はそう思った。   「今年の風邪はたち悪いって言うしね。」   「ああ、そう言えば、勇太が来ていたけど。お前ら一緒じゃなかったのかよ。」   高木は話題を変えようと先程、見舞いに来た勇太の名前を出す。高木の狙いは見事に綾香の興味を捉えた。   「ねぇ、勇太。それから、どこ行ったか分からない?」   「さぁ、ここには一人で来てたからな。」   「そう。」   綾香と光博は、取り敢えず高木が元気であるということが確認できたことと、高木の口からは何も聞き出せないこ  とを知ると高木家を去ることにした。   そんな帰り際であった。玄関まで見送ってくれた高木のお母さんが、   「そう言えば赤松君だったら、さっき見舞いに来てくれた町田さんとどこかに行ったみたいよ。」と、教えてくれ  た。   『やっぱり。』   勇太が町田亜弓と二人で消えた。綾香は何か嫌な予感がするのであった。




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