三.真相 
  

  陽も沈み、月明かりが照らす中、ロキはある小屋の前に立った。そこはロキの家から、少し離れた丘にぽつんと建
 つ、今は誰にも使われていない家であった。 
  左右を確認し、戸口に顔を近づけるとロキは小声を出す。 
  「おい、飯だぞ。」 
  が、中からは返事がなかった。ロキは不審に思い、もう一度声をかけようとするが思い止まり、そっと扉を開けた。
  しんと静まり返った部屋の中、暗がりに目を細めて足を進める。耳を澄ますと規則的な呼吸音が聞こえる。 
  その音を辿っていくと藁(わら)の上にシーツをかぶせただけの簡易なベットで眠る少女の前に行き着いた。 
  ロキはその少女の前にパンとミルク、小さな青リンゴを置くとその寝顔を眺めた。 
  いきなり匿(かくま)ってくれと言われたときはびっくりした。あまりの真剣な表情に思わず圧倒されてしまったが、
 こうして見てみるとまだあどけなさが残っている。 
  それはそう、自分と大して歳が変わらないのだ。そんな少女に何があったのだろう。 
  出会った場所から想像するにロードンの軍事船から逃げ出してきたのだろうか? 
  何のために?何故? 
  様々な疑問が交錯するが、この寝顔の前ではそれを問いただす自信がロキにはなくなった。 
  ロキは艶(つや)やかな少女の頬に魅入られるように手を伸ばし、触れる寸前でその手を引っ込めた。 
  この少女の目蓋が微かに動いたのだ。そして、その僅か数十秒後に、目を擦りながら少女は目覚めた。 
  「・・ん・・、おはよう。」 
  「おはようって、まだ、夜だよ。」 
  ロキはドキドキしながら、答えた。相手はまだ、少し寝ぼけているのだろう。体を起こし、ロキの言葉を確認する
 ように辺りを見渡した。 
  「本当だ。」 
  舌を出して、照れ笑いをする。この少女の名はリア=シークルス。それ以外、ロキは何も知らない。 
  リアは進んで語ろうとしなかったし、ロキも無理強いをしなかった結果とはいえ、妙な関係である。 
  リアをこの小屋に匿って五日が経つが、交わした言葉といえば今の通り、軽い挨拶だけであった。 
  ロキは思い出したように、リアに食事を差し出した。 
  「あ、ありがとう。」 
  リアはパンの香ばしい匂いにつられるように、ロキからの食事を受け取った。 
  ミルクを一口、口に含んでから、パンを頬張る。 
  ロキはリアが食事を始めると、部屋の中のロウソクに火を付けた。 
  そのまま、「じゃあ、また。」と、立ち去ろうと背を向けた。が、それをリアが止めた。 
  「待って、何も聞かないの?」 
  ロキはゆっくりと振り返るとリアの視線とぶつかる。初めて出会った時と同じ眼差しをしている。 
  「怖くないの?こんな得体の知れない人間を匿って。」 
  「んー。それはお互い様だろ。」 
  「お互い様?」 
  「ああ、だって、君も俺の事を何も知らないだろ。」 
  ロキの言うことは全く的を射ている。不安で夜眠れない事がリアにはあった。だから、不規則になり、今日のよう
 にロキが訪れたときにうたた寝をする事になるのであった。 
  しかし、そんな状態になってから、気付く。その不安を解消するには、自分の全てをこのロキという少年に知って
 貰うことだと。 
  その結果、相手がどのような反応を示すかは分からないが、その時はその時で色々と対応は可能だろう。ただ、今
 のように不安定な状態では、何の対策も立てることが出来ない。 
  「分かった。お互い、このままの状態は良くないわ。私の全てを話すわ。」 
  「そう。じゃあ、食事が終わってからにしよう。・・でも、ゆっくり、食べてくれ。」 
  ロキはそう言うとリアの向かいに腰を下ろした。ちょっと食べづらいかと思ったが、リアは別段気にする様子もな
 く、ミルクの入った瓶を口元に運んでいった。 
  ゆっくりとと言ったのにリアの食事は短く終わり、最後の青リンゴを食べ終わるのに五分とかからなかったのには
 驚いた。 
  リアは食事を終え、一息吐くと本題に入るために身を乗り出す。 
  「どうも、美味しかったわ。・・・それで、本題ね。うすうす、気付いてると思うけど私はロードンの軍事船から
 逃げ出したの。」 
  ロキの表情にはやはりという思いが浮かんだ。それを機敏に察したリアも頷く。 
  「で、どうして逃げ出したんだい?」 
  可能性として、リアの言葉は予想の中にあったものだが、やはり、その理由については本人しか知る由もない。
  「ロードンは今、南のヨークンハイムという島である古代兵器の発掘をしているの。」 
  「古代兵器?」 
  ロキは思わず聞き返してしまった。しかし、ヨークンハイムという島の名前も気になった。どこかで聞いた事があ
 るような、ないような・・・ 
  「そう、古文書では7日間で世界を焼き払った巨人兵。その発掘をロードンは十年前から行ってたの。」 
  ロードンという大国相手の話だ。それなりの想像は出来たが、ロキの予想を遙かに超える話に驚くを通り越してし
 まった。 
  そんな兵器を発掘して、ロードンは一体?噂で聞いた事があるが、本気で世界征服などを考えているのであろうか
 ・・・ 
  「その発掘作業に私の父は携わっていた。けど・・・」 
  「・・けど?」 
  「・・一年前から、行方不明になったの。」 
  父親が行方不明。ロキは自分の境遇とだぶらせる。と言っても、ロキの場合は父親だけではなく、母親も行方不明
 なのだが・・・ 
  「そして、父は行方不明になる前にロードン軍事部から古代兵器、巨人兵にまつわる機密を持ち出して行った。」
  「それを君が持っている?」 
  リアは頷くと衣服の胸元から、ペンダントを取出した。何気に見えた白い肌にロキはドキッとし、頬が紅潮するの
 を感じるが、慌てて横を向いて平静を装った。 
  そのロキの横顔にリアはペンダントをかざす。 
  「これがその機密かどうかは分からない。でも、父が姿を消す丁度、三日前に私あてにこれが送られてきたの。」
  ロキの前で揺れるペンダントは、ロウソクの光に反射して輝きを放った。 
  「じゃあ、ロードンはこのペンダントを捜してるって訳か。」 
  「いえ、このペンダントの事はまだ気付かれていないと思う。でも、いつかは気付かれると思ったから、逃げ出し
 たの。」 
  これでこのリアがロードンの軍事船から逃げ出した理由は分かった。で、問題はこれからだ。 
  ロードンの手からいつまで逃れられるか。ここに潜伏するのにも限界というものがいずれ来るだろう。 
  「それで、君はこれからどうしようって言うんだ。」 
  「・・確かに、いつまでも迷惑はかけられないわね。」 
  「別に迷惑って訳じゃないけど・・・」 
  出会ったのは何かの縁、今更そんな事は気にしてはいない。それにロキの言いたかったのは、別の事であった。 
  「いや、そうじゃなくて。そのペンダント、・・・重要な物なのか分からないけど、それを持って、これからどう
 したいのかって事。」 
  「そうね。」 
  リアは考え込んだ。と、いうより、答えは決まっているのだが、それを口に出していいものなのか迷ってるといっ
 た感じであった。 
  が、その迷いを断ち切って、リアは告げた。 
  「私は、・・私はロードンの発掘を阻止したい。いえ、阻止と言うより、その巨人兵を別の目的で利用したい。」
  「別の目的って?」 
  「ロードンは単純に軍事目的で巨人兵を発掘している。でも、その巨人兵の動力源になっているのは『運命の石』
 と呼ばれる石で、その石には不思議な力が込められているそうなの。その石の謎を解明することができれば・・・」
  「何かいい事でもあるのかい?」 
  「それは、まだ、分からない。分からないけど、きっと・・」 
  考古学の権威として、巨人兵発掘に携わっていた父の事を思うと、せめてこれぐらいの希望がなくてはやりきれな
 いと思うリアであったが、ロキの考えは違う。 
  一言で、『危険だ。』である。 
  例えばそのペンダントが無くなった場合、巨人兵が動かなくなるのであれば早めに処分した方が良い。形見の品の
 ようだし、可能性の段階なので強くは言うことは出来ないが・・・ 
  いずれにせよ、ロードンという大国を相手にするには力がなさ過ぎる。ロキは一介の学生なのだ。 
  「きっと・・か。でも、ロードン相手にどうにかなるかな。」 
  「それは・・・。」 
  リアにも分かってる。いや、分かりきっている事だけに、すばりと言われると痛い部分であった。それに痛いのは
 それだけではなかった。 
  これまで、一応協力者的にリアを匿ってくれていたロキという少年が、自分の考えに否定的であるという事だ。 
  「分かってるけど、どうにかしなければいけない事だと私は思う。もし、ロードンが巨人兵の力を手に入れたら、
 本格的に世界征服に乗り出す。それだけは絶対に阻止しなければいけないの。」 
  「でも、ロードンは君の祖国だろ。」 
  「そうね。・・そうよ。でも、古代の遺産をそういう目的で使うのは誰であろうと間違っている。間違いを正すの
 は当たり前の事よ。」 
  リアは諦めの表情とともに言い放った。もう、ここを出ようと決めたのだ。 
  これ以上いれば本当に迷惑がかかる。相手にその気があれば別だが、一方的な感情をおしつける訳にはいかない。
  「それじゃあ、ご飯、ありがとう。美味しかったわ。・・・私、ここを出ていく。」 
  「え?まさか、今かい。」 
  「ええ。そうよ。」 
  手荷物一つなく、やって来たリアである。自分の服装だけを確認してから、ドアの方へ向かった。 
  「夜が明けてからでもいいんじゃないか。」 
  「いえ、ロードンの情報網を考えれば長居しすぎた方だわ。」 
  ロキの制止を振り切って、リアは小屋を出て行った。行く宛もないだろうにとロキは思ったが、彼女を止める権利
 はロキにはない。 
  ロキは先程までリアが立っていた空間を見つめ、溜息を吐いた。 
  その時である。甲高い悲鳴がロキの耳の届いた。それは間違いようもなく、リアの声であった。 
  ロキは慌てて飛び出す。 
  しかし、目にしたのは走り出す黒いオープンカーであった。その中に暴れるリアがいる。 
  ロキは反射的にその車を走って追った。追いつく訳がないが、気が付けば全力で走っていたのだ。 
  車の中のリアと視線が合った。そして、リアは迷う事なく、胸のペンダントを引きちぎり、ロキに向かって投げつ
 ける。 
  ペンダントは放物線を描いて、ロキの手にキャッチされた。ロキの視線がペンダントに集中され、その後、前方を
 確認した時には、もう車の影すらなくなったいた。 
  手の中のペンダントには、リアの温もりがまだ残っていた。ロキがペンダントを握りしめると人の気配を感じて、
 振り返る。 
  そこには痣だらけの顔のテッパが立っていた。 
  「アニキ、ごめんよ。」 
  涙顔に訴えるテッパは痛々しく、ロードンの手荒い詰問のあとが伺える。 
  ロキはいつしか自分が握りしめるペンダントに力を込めている事に気付く。そして、キッと唇を結ぶと優しくテッ
 パの肩を抱いた。 
  「大丈夫、大丈夫だ。俺が何とかするよ。」 
  ロキは走り去っていった車の方角を見つめ、そう呟くのであった。  




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