サンヨー SS−56


 サンヨー製のSS−56というコンパクトラヂオ。昭和30年前後に製造された大衆向けのラヂオである。部品を思いきり絞りこんで値段を六千円台にしたもの。当時としては物品税がかからない一番安い機種のひとつだったようである。

 手に入れたラヂオは前面に何ゆえか無様な赤のペインティングが施されているのでまずこの塗装を剥ぐことから始める。なんのためにこんな派手な色を塗ったのか真意が分からなかったのだが赤色の塗料の下から金色の塗料が現れた。もともとの色は金だったようだ。しかしこれもキャビネットの修復にけっこう苦労しそう。その分、蘇ったときの喜びも大きいのだがね・・・。

 電気系の修復は意外に簡単だった。あまり大きく損傷した部品は無く、交換したのは電源プラグ、電解コンデンサ、ペーパーコンデンサ。電解コンデンサはオリジナルのものがすでに取り替えられていて東芝製の耐圧の高い容量の小さいものになっていた。しかしこれではトランスレスのセットには容量不足なので本来の容量に近いものに交換した。おっちゃんの修理ではブロックコンデンサは中身を出してそこに新しいコンデンサを埋め込む細工をするのだが今回はどうせオリジナルのケースではないので素直に置き替えるだけとした。

 ペーパーコンデンサはすべて絶縁低下がはっきりしていたので全数交換とする。このセットは当時としては最低価格帯のラヂオとして作られたものだから部品もかなり安価なものでまとめられたのだろう。そのせいで50年経過したコンデンサは絶縁低下でまったく使い物にならなかった。


 部品をケチったといえばさらに驚くことにこのラヂオにはフューズがついていなかった。最初は以前の修理の際に外したのだろうと思っていたがキャビネットの底に貼られていた回路図にも確かにフューズは入っていないのである。回路上、フューズの代わりになるのはパイロットランプか真空管のヒーターである。どちらも切れてしまうとフューズよりも高くつく。パイロットランプは現在1個100円。整流管は中古でも千円近い。


 こういう回路構成はアメリカ製のコンパクトなラヂオでは見たことはあるが恐らく日本のものでは二つと無いであろう。しかし音はなかなかいい。できる限り部品数を減らして低価格のラヂオを作り多くの家庭にラヂオを普及させようとした昭和30年前後という時代の意気込みを感じるセットである。


 電気系の修理が無事終わったのでケースに収めることにした。普通ならこれで修理完了というところだが今度のラヂオには裏ブタがない。したがって最後の仕上げは裏ブタ作りである。

 ケースの内のりを採寸し先日買ってきた厚紙製の棚板にサイズを写す。切断はカッターナイフを使うが鋭利な刃をもってしても二十回ほどなぞらないと切れてくれない。さてオリジナルの裏ブタがないのでデザインをどうするか。これは同じサンヨー製のSS−50というラヂオの裏ブタを真似ることにした。大きさも発売時期もほぼ同じなので裏ブタのデザインに大きな違いはあるまい。


 穴あけは切るよりもずっと簡単である。電源コードとアンテナ線を引き出す細長い穴だけはドリルとヤスリを使って少し加工が必要だがあとはドリルの刃を交換して穴を穿つだけ。ただし大きな穴をきれいに仕上げるには一気に明けようとせず表と裏の両側から刃を入れることである。これ何度か失敗しないと分からない。

 形ができあがると仕上げに柿渋を塗って古い感じを醸し出させることにしよう。この柿渋は去年裏山の渋柿を潰して絞った液を寝かせて置いた自家製である。一年しか経っていないので市販のものよりまだ色は薄いが匂いは紛れもなく柿渋独特のものである。重ね塗りをすればいい色になっていくだろうと期待している。

 無様に赤く塗られた部分のペンキを少しずつ剥がして本来の色である金を塗った。下地のプラスチックがアズキ色だとムラが出てなかなかきれいには塗れなかったが少しはオリジナルの雰囲気に戻ったような気がする。