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幻のPen FS

 1963年、初代Pen Fの登場は、超小形軽量一眼レフという世界を構築し、世界とりわけ当時カメラ王国でもあったドイツ技術者の目を極東の小国日本に向けさせた。洗練された流れるような、突起の少ないボディーに秘められた数々のアイデアと技術は、ドイツカメラ産業界から喝采をあび、設計者「米谷」の名は瞬く間に世界に響き渡ったのだ。奇跡的とさえ思えたPen Fの登場の陰で、米谷氏はすでに次の世代Pen FTの設計開発にあけくれていた。Pen Fと同じ寸法のボディー内に、TTL露出計を組み込む構想はPen Fの開発段階ですでに米谷氏の頭の中にあったもので、彼にとっては当然の進化論であった。しかし、露出計を組み込むというのは言うは安しであり、ロータリーシャッターの設計開発に勝るとも劣らない程の難しい道のりであった。

 ところが、当時のオリンパス開発部門の関係者が明かしたところでは、さらに驚くべき事実が隠されていたのだ。米谷氏は、なんとFTの開発と併行して別のモデルの開発研究も行っていたという事実である。ひとつはより高速なシャッターを搭載するモデル、そしてもうひとつがモータードライブ仕様のモデルである。

 Pen Fは確かに画期的な一眼レフではあったが、設計者である米谷氏自身、不足と考えていた弱点があった。それは一眼レフが活躍するシーン、とりわけ高速な被写体への対応、また超望遠を駆使した遠距離からの撮影といったシーンへの対応であった。マクロの世界において、十分過ぎる程の充実したシステム群をかかえたPen Fシリーズではあったが、こと高速な被写体や、超望遠による連続撮影といったことに関して、報道ユースにも答えうるシステムの構築は、Pen Fシリ−ズをシステムカメラとして呼ぶには必須であったが、その分野において明らかな不足があった。

 この問題は、しだいに大きな、困難な、、しかし絶対に乗り越えなければならないハードルとして、オリンパス光学工業の前に立ちはだかった。東京オリンピックの開催が迫っていたのである。オリンピックという場、とりわけ東京という舞台で繰り広げられるこのスポーツの祭典において、Pen Fが名実ともに正にシステムカメラとして世界に認められること、そのことは、オリンパス光学工業の社運をも左右するほどの意味を持っていた。この事は、設計者である米谷氏自身が、誰よりも痛切に感じていた事であり、Pen Fのロータリーシャッター開発時点において、すでに彼の頭の片隅に芽を出していたと語っている。

Pen FSPen FS Proto Model

 こうして、Pen Fの高速シャッター仕様=Pen FSは、極秘里に開発が進められていたのだ。高速シャッターの搭載と、モータードライブによる連続撮影という問題は、一見なんの関係も無いかのようであるが、切っても切れない程の関係を有していた。Pen Fのロータリーシャッターは開角度が一定で、常に全開になるという独特なフォーカルプレーンシャッターを装備していたが、この為に世界でも類を見ない程のシャッターチャージエネルギーを必要としていた。もちろんシャッターそのものの作動時間は世界でも屈指の30micro secであり他一眼レフの1/3以下の性能を有していた。この値は想像を遥かに超えるもので、この瞬発的な大エネルギーに耐えうるシャッター板の実現は並々ならぬものであった事は、周知の通りである。このようなシャッターメカニズムを連続作動させることは実現不可能であり、シャッター作動速度を抑えて加速度の二剰に比例する力を低下させる必要があったのだ。何故ならば、大きな力に耐えうるには、より強固な構造が必要であり、それはすなわち重量の増加を意味していたからである。

Pen F Shutter

 米谷氏は逆転の発想から、シャッター板の開角度一定で1/500秒を実現できるのであれば、開角度を可変とすることで、すなわち、通常のフォーカルプレーンシャッターの様に前幕と後幕とでスリットを形成して、シャッターの作動速度を抑えつつより高速なシャッター速度を実現できる、ということに着眼した。開角度可変式ロータリーシャッターという未知へのチャレンジはこうして始まった。

Pen FS Variable Opening Rotary Shutter

 米谷氏の基本的な構想としては、Pen Fに搭載したRotary Shutterを二組組み合わせ、第一のシャッター板が作動後、時間差をおいて第二のシャッター板が作動することで、スリットを形成させ、見かけ上のシャッター速度を飛躍的に高めるとともに、本来Pen Fが有していた作動速度そのものをより低速にすることで、耐久性と耐ショック対策を、より緩やかにしようというものであった。この方法だと既に実用化されたシャッターメカニズムを利用でき、短時間で確実性の高いシャッターユニットを生産ラインに載せられるという光りが見えていた。問題は第二のシャッターユニットを搭載するスペースであったが、FTにて搭載を予定していたセルフタイマーを見送り、かつ高さで約5mm、横幅で約5mmだけカメラボディーを大型化し、その空間に納めるということになった。

 

 Pen Fシリーズ独特のレリ−ズ時に発生するショックは、いくら作動速度を緩やかにしたとはいえ、そのシャッターユニットを2組みも載せた関係で、かなりのショックになってしまった。そこでシャッター秒時の乱調防止と衝撃の緩和を目的とした、大形エアダンパー及びフライウェイトを装備することとなった。

 こうして1/2000秒を実現したPen FS Proto Modelは、オリジナルPen Fの595gに対して150g増加の745gという範囲に納まった。高速な被写体への対応能力を追加したPen FS Prot Modelは、こうして東京オリンピックを前に華やかなるデビューを飾るかに見えた、、。しかしそこには想像もし得ない展開が待ち受けていた。次なるステップであるモータードライブ化の壁の前に、無惨にも消え散ったのである。Pen FS単体として捕らえた場合には、十分な実用性を兼ね備えたモデルではあったものの、スポーツ報道という世界においては、単に高速シャッターを搭載しただけのモデルは、あまり意味を成さない物であった。しかもオリジナルPen Fの約1.8倍もの価格設定を余儀無くされたPen FSは、一般大衆にとっては、あまりにも高い価格設定であった。報道などのプロユースにターゲットを絞り、モータードライブ化の道が唯一の活路となったのだが、、、(Pen FSの結末は、幻のPen F MOTORにて明らかになります。)

Pen FS Prot Pen FS Proto Model


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