ここまでのPen Fシリーズの説明の中で所々でPen
FT/FVについて触れてきましたが、改めてPen FからPen
FT/FVへの進化の道のりについて見てみようと思います。
1963年2月(東京オリンピック前年)に東京帝国ホテルで劇的な発表会を行いデビューしたPen
Fは、その小型軽量、突起の無いデザイン、画期的なロータリーシャッターなどで日本にとどまらず世界のカメラ関係者に衝撃をもたらしましたが、そのデビューから一年後の1964年、すなわちPen
Fが販売開始間もない時点ですでに設計者=米谷さんの次なる構想は始動していました。この飽くなきカメラ設計者魂にはほんと恐れ入りますです。米谷さんの次なる構想とは発表間もないPen
Fの改良、とりわけ悲願でもある露出計の装備に主眼が置かれていました。もちろんPen
Fと同じ大きさを維持しつつという大前提での構想です。米谷さんのカメラ設計の歴史を振り返ればこれは極めて象徴的な前提だと思います。最初に基本的な寸法と操作系をかため、それ以降のシリーズに関して徹底的に前モデルの寸法、操作を踏襲しつつ新たな機能を付加していく。新しいモデルと古いモデルにはそれぞれの存在意義があり、決してお互いの存在を否定することも無い。このことは後日に米谷さんが設計にたずさわったOMシリーズやXAシリーズを見ても明らかな事実であり、そこがオリンパスのカメラの魅力だと思うのは小生が今さら言うまでもないことですよね。
1960年(昭和35年)〜1963年(昭和38年)にかけていよいよ成長期にかかった日本の一眼レフは急速にその完成度を高めた時期で、TTL露出計も重要な課題のひとつであり、各社がその研究を進めていたものの、なかなか良い解決策を見いだせないでいました。
最初に一眼レフにTTL露出計が組み込まれたかたちで発売された一眼レフは、トプコンREスーパー(左写真のカメラです)で1963年、、この年はPhotokinaでPen
Fが同時に発表された年です!この時、米谷さんは次期カメラにはTTL露出計を組み込むつもりではいたものの、その方法はみつかっていなかったそうです。ただ通常の一眼レフが第2〜第4反射面をペンタプリズムでおこなっているのに対し、Pen
Fがポロプリズムファインダーというシステムを持ち、第3反射面にミラーを使っているという特徴を備えているが故に、そこに何らかの形でTTL露出計を組み込むことができるのではないか、、?という構想を持っていたそうです。Pen
F発表と同時にデビューしたトプコンREスーパーを手にした米谷さんは、確信しました。トプコンREスーパーのTTL露出計はクイックリターンミラーの裏側に張り付けられており、ミラーに細いスリットを切ってそこから透過する光を露出計に導きTTL露出計としていたのです。高速運動を行うクイックリターンミラーに露出計を装備できるのであれば、Pen
Fの固定された第3反射面であるミラー(第二ミラー)に露出計を組み込むことはたやすい!トプコンREスーパーは米谷さんにとって正に天のお告げのようなカメラだったのです。
Photokinaを終わりヨーロッパ旅行中、桜井常務から「この小さなPen
Fの中にメーターが入るのか?」と聞かれ米谷さんは「Pen
Fをシェーカーに入れてガチャガチャ振って詰め込みますよ!」と答えつつも、、さすがは米谷さん、、Pen
Fを設計中に隙間をみつけ次の機種にはここを使おうと用意していたのだった。その場所とは左図の3カ所(A,B,C)だった。この3カ所の使い道はすでに米谷さんの頭の中で決定していたそうで、Cに最重要課題である露出計、そしてその露出計の電源となる電池室をBに置くことにしていたそうだ。Aにはセルフタイマーを組み込むことにした。スペース的に小さいAには電池を配置するのが常識的ではあるが、Bの場所が三脚ねじに近く通常三脚にセットして使うセルフタイマーの視認性が良くない。また、メカニズムの都合上レンズマウント位置が右に偏りすぎて、デザイン上バランスを取るために右側の銀色スペースが漫然と広い。そのためにFでは花文字を配置した。Pen
Fの花文字には結構ファンも多いが(逆に嫌悪感を持つ人も結構多いんですよ、米谷さん)FTではここにセルフタイマーレバーを配置してがらっと雰囲気を変えてダイナミックなアクセントにしてしまおう!と考えたのだった。(たしかにダイナミックなアクセントであると思います)Pen
Fの大きな花文字のFの存在理由は単なる遊びではなく、このような理由が存在していたのでした。
ヨーロッパからもどった米谷さんはFTに搭載するためのTTL露出計の基礎研究をはじめた。およそ1年前に仕事のかたてまに考えていたPen
Fのファインダー系の第3反射面にCdsを配置するという構想図を机の奥から引っぱり出し、それをもとに実験ボディーを作り基礎実験を開始した!
が、、しかし、、ここで高いハードルが立ちはだかることになったんです。実験を何度繰り返しても測光データーに原因不明のばらつきが生じてしまったのです。理論的には正しいはずなのに、、この測光データーのばらつき事件の原因究明には時間を要しました。なにせ原因が解らないので、どう対処して良いか見当もつかなかったわけです。対処のしようが無いこのばらつき事件は思いもしない形で解決することになりました。
ある日、実験を諦め焦燥感にひたりながら米谷さんは実験室の照明を切って部屋をあとにした。屋台でやけ酒を引っかけながらこの原因不明の測光データーばらつき問題を考え、、、たかどうかは定かではないが、、頭の中でぐるぐる回るこの問題に気分が悪くなって、道ばたでおもわずおえー、、となったかも定かではないが、、翌日、真っ暗な実験室に戻り部屋の照明をつけるのも面倒でついそのまま実験を開始した(おそらく二日酔いで、頭がくらくらしていたのか、、)。すると何故かこの日の測光データーは極めて安定していたのだった。何故か、、二日酔いの米谷さんにはまったく見当もつかなかった。この偶然の結果の解析には時間を要したが解ってしまえば、なーんだ!当然だ!というものだったのです。
明るい部屋では接眼レンズからの逆入射光が災いしていたのです。受光センサーのある第3反射面には撮影レンズからの光が来るとともに接眼レンズからの逆入射光も届くために、そのわずかな光量によって悪影響が出ていたのです。
ミラーのところで測光するのは、TTL露出計を実現させるのによい解決策と思ったものの簡単にはことは運ばなかった。撮影レンズと接眼レンズの両方から来る光のうち、撮影レンズからの光だけを選択してCdsセンサーに届けなければならない。右往左往したのちにたどり着いた答えはCdsの前に撮影レンズに向けたグリッド状のフードを付けることであった。
固定された第3反射面のおかげで厚く効果のあるグリッドを付けられ、接眼レンズからの逆入射光は遮断できた。TTL露出計のカメラを使う時、接眼レンズに目を近づけるように注意書きがあるのは、この逆入射光防止のためなのだが、Pen
FTではその心配もなくなった。しかし測光データーばらつき問題はまだまだ続くのであった!
TTLはレンズを通った光を測るため、レンズの持つ欠点もそのまま測ってしまい、それが計測の誤差として表示されてしまう。レンズの開口効率、周辺光量の問題、レンズの光を吸収する量、反射量、ミラー切れ、焦点距離の違いによる集光具合の違いなどによりなかなか誤差を取りきれなかった。これを一挙に解決する決定的な対策がPen
FTに採用されたTTLナンバーシステムだったのです。各レンズの性能、各種特性に応じて絞りを補正した係数で表示し、完璧なTTL測光をマウントの変更をすることなく実現したのです。このTTLナンバーシステムによって、ようやく正確なTTL露出計が実現可能となりました。しかしPen
FTはこのTTL測光の実現だけに終わることなく様々な改良が施されることになります。
主な改良点として米谷さんは以下の項目を写真工業誌であげています。
1 セルフタイマーの組み込み
2 ピント合わせ機構にマイクロプリズムを加え、フレネルの線を見えなくした
3 フィルム巻き上げを1回とし操作性を高め、また巻き上げレバーをプレス物から鋳造物に変更
4 ミラー面積を拡大して超望遠レンズの使用時にもミラー切れを無くしファインダーのけられを無くした
5 シャッターボタンの重さを約1/3に軽減した
6 ミラーの消音、ショック対策を強化し、ショックと音を小さくした
7 M接点を追加した
8 フィルム巻取り軸にイージーローディング機構を追加した
9 三脚取付け穴をレンズ軸に移動し安定性を高めた
10 Pen
Fでトップカバーがやや下がり過ぎの感があったので、左右ともに下がり方を減らした
などなど、様々な改良が施されています。それらの多くはカメラ雑誌などで、専門家がPen
Fの欠点や弱点としてあげたもので、使う人の立場に耳を傾ける姿勢が見てとれます。
アサヒカメラの診断室での記事を紹介しますと、
「世界で唯一の本格的なハーフ判一眼レフ、オリンパスペンFを診断したのは1964年1月号であったが、それからちょうど3年目の今月号(1967年1月号)で、ペンFの改良型であるペンFTを取り上げることになった。
このペンFTは、外形こそペンFとほとんど変わっていないが、内容においては相当大幅な変革が行われている。とくにこの小柄なボディーに開放測光式TTL連動露出計を組み込んだことは、技術的にも一つのヒットとして注目に値するといえよう。読者から診断要望の投書の数も、このカメラはいままでの記録を大きく破っていた。
付属のレンズとしては、前回に標準のFズイコーオートS38ミリF1.8を検討したので、今回はもう一つの標準レンズ、GズイコーオートS40ミリF1.4を選んだ」
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