産経新聞

2000.05.29

H2Aロケット解約の波紋

H2失敗連続、シナリオ崩れ…需要落ち込み追い打ち
衛星ビジネス失速の危機

 日本の宇宙開発を支えてきた宇宙開発事業団の国産大型ロケットが、失速の危機に直面している。主力機だった「H2」が二回連続の失敗で開発を打ち切られ、汚名返上をかけて開発中の次世代機「H2A」も先週、米国の衛星メーカーから打ち上げの解約通告を受けてしまった。失敗の原因究明と再発防止策がまとまったと思ったら、肝心の客に逃げられ、関係者は落胆を隠せない。(長内洋介)

 衛星メーカーの米ヒューズ社は二十三日、H2Aの打ち上げ仲介会社「ロケットシステム」(本社・東京)に対し、平成八年に結んだ衛星十基分の打ち上げ契約(総額約九百億円)を解約すると通告してきた。

 「H2が二回連続で失敗し、H2Aはまだ打ち上げ実績がゼロ。解約されても仕方がない」。理事長が十九日に打ち上げ失敗の引責辞任をしたばかりの宇宙開発事業団は半ばあきらめ顔だ。所管する科学技術庁の中曽根弘文長官も「H2Aは国際的な利用を視野に入れて開発を進めてきた次期主力ロケットであり、非常に残念。今後の開発を確実に進めることが大事」と話すのが精いっぱいだった。

 H2Aは平成六年に実用化したH2の改良版。打ち上げコストを欧米並みの約九十億円に半減させて国際競争力を高め、商業衛星の打ち上げ市場に参入することを目的に開発された。

 H2の成功を背景に「低コストと高い信頼性」を売り物に掲げ、ヒューズなど二社から十二年以降に計二十基を打ち上げる契約を獲得していた。ところが平成十年と昨年十一月の相次ぐH2の失敗で、そのシナリオが崩れ始めた。

 H2Aの打ち上げは試験機が一年遅れの来年二月に、商業衛星向けの実用機が十四年に先送りが決定し、今月九日にH2の事故原因がまとまったことを受けて同様の不具合がないかどうか最終確認が始まった矢先の解約通告だった。

          ◇

 契約には打ち上げが二回連続で失敗した場合は解約できるとの条件があり、ヒューズ社はこれを行使した。ロケットシステムは具体的な解約理由を明らかにしていないが、信頼性に疑問符を付けられたのは、まず間違いない。

 一方、今回の解約には、ヒューズ社の“お家の事情”があると指摘する声もある。同社は夏をめどに、ロケットの製造メーカーでもあるボーイング社へ吸収される。「経営効率を考え、グループ内で調達した方がいいと判断したのではないか。トヨタの系列会社が日産の車を買わないのと同じだ」(業界関係者)

 また、年間百基以上だった商業衛星の世界需要は、アジア経済危機などで三十基程度に落ち込んでいる。このため「信頼性が未知数のH2Aに巨額の投資をしてまで、打ち上げ枠を確保しておく必要性が薄れた」(同)との見方もある。

 商業衛星は一基当たりの回線数を増やすため、大型化が進んでいる。欧米の主力ロケットは、静止トランスファー軌道への投入能力が七トン級に達しつつあるのに対し、H2Aは四トンで、時流に乗り遅れている面もある。

 ヒューズ社の解約通告が、こうした経営判断に基づくものであれば、H2の連続失敗はむしろ「渡りに船」だったのかもしれない。

 ロケットシステムは、米ロラール社とも十基の契約を結んでいる。解約がロラール社にも広がれば致命的な打撃となり、官民を挙げて推進してきた商業衛星打ち上げ国際ビジネスへの参入は、まったく先行きが見えなくなる。

          ◇

 科技庁と事業団は、事故原因と再発防止の報告書が十八日に宇宙開発委員会に提出されたことを受け、「あとは来年二月の成功に向けて努力するだけ」と強調するが、再出発の基礎が固まったとは言いきれない。

 事故原因は、液体水素燃料の圧力異常によるエンジン部品の金属疲労と断定されたが、開発や実用後の段階で、その可能性は一部で指摘されていた。にもかかわらず、なぜ適切な検証が行われなかったのか。これも十分に究明されていない。

 さらに疑問なのは、報告書がまとまる前に科技庁がH2Aの打ち上げ時期などを早々に決めてしまったことだ。事故原因や再発防止策が不透明な段階で、スケジュールだけを優先した動きだった。

 「日本は欧米に早く追いつこうと目先の成功だけを急ぎ、信頼性の再評価を怠ってきたことが最大の弱点」と専門家は指摘する。その体質は今も変わっていない。過去に問題なしとされた技術に盲点がなかったか徹底的に洗い直し、必要なら打ち上げの再延期も辞さない「急がば回れ」の姿勢が、求められている。