リタイア犬の引退後の 生活の問題を考える |
本誌7月号で、「盲導犬ポリーの引退」という私の友達の盲導犬の引退記事を書いた。それからしばらくして、本誌スタッフの笑福亭伯鶴が「引退した犬を預かる人は大変なんやで。僕の知ってる人がこの11月20日で、18歳になる引退犬を預かってはるんや。元盲導犬で18歳まで生きた犬はいてへんらしい。もし18歳まで生きたら、盲導犬の最長寿記録らしいわ。盲導犬を作るためには募金やら色んな啓蒙はしてるけど、引退犬のことて全然話題になれへんやろ。今度会いに行くからお好み書きの取材かたがた一緒に行かへんか」と言う。その元盲導犬の名前はユキちゃん。9月28日、伯鶴と大阪市の南、堺市の泉北ニュータウンにほど近い、引退犬ユキちゃんの今のお母さん、松井順子さん宅へ伺った。
★ユキちゃんとご対面★ ユキちゃんはラブラドールレトリバーそのもの。白色に部分的に薄い茶褐色の犬。フローリングの部屋の中に敷物を敷いて貰い、同じ体勢を維持するのは苦しいらしく、ユキちゃんの体がより楽である様に、バスタオルを何枚か重ねて敷いてベッドにしてある。その上に前足を伸ばして後ろ足を曲げた状態で寝ていた。伯鶴は「いつ死んでもおかしない状態らしいで」と言っていたのだが、それほど重体のようにも思えないが、自分で立ち上がることは出来ないらしく、どうにか動く前足だけで少しずつ身体をずらせていた。
★松井さんと盲導犬★ 松井さんは1948年生まれの55歳。ご主人はただいま広島へ単身赴任中。息子さん1人との2人暮らし。
★寝たきりの犬を預かろう★ これまた点字が縁で、大阪市西区の日本ライトハウス盲人情報文化センターでアルバイトをすることになった松井さんだが、ライトハウスの盲導犬を支えるボランティアグループ『ライトフレンズ』にも籍を置き、そんな縁で高齢のリタイア犬ユキちゃんの存在を聞いていたのだが、ライトハウスでの仕事もあり、寝たきりの犬にかかりっきりになれる状況にはないので、「私が2003年春にアルバイトが終わった時に、もし、元気やったら面倒見るわ」と伝えていた。そして、休みの日には訓練所の犬の世話をしようと思ったのだが、なかなか現地に足を運べない日々が続いた。しかし、いずれはリタイア犬を預かろうという気持ちを暖めていた。
★引き取られる迄の日々★ ユキちゃんは神戸市北区で盲導犬として活躍し、引退後もユーザーが何とか最後まで面倒を見たいと、ユーザーと幸せな日々を過ごしていた(と思う)。しかし、ユキちゃんが高齢化でほとんど寝たきりに近い状態になり、ユーザーも全盲夫妻で寝たきりの犬の面倒を見るには限界もあり、彼女の生まれ故郷、大阪府と奈良県の境、楠木正成でお馴染みの千早赤阪村にある日本ライトハウス盲導犬行動訓練所に引き取られることになった。
★サニーちゃんは介護犬★ 松井さんの家には、今、ユキちゃんの他に2頭の犬(前述のサニーちゃんと、ラブラドールレトリバーのルナちゃん)がいる。松井家は「今まで犬がいなかったお正月はないくらい、ずっと犬がいる生活をしてました」というくらいの犬好きの家族。02年12月に、強度な恐がりで盲導犬になれなかったサニーちゃんを引き取ることになり、何とか犬のいないお正月を回避することが出来た。ルナちゃんは、03年11月に松井家の一員になったばかりだが、まだ1歳未満の遊び盛りの子どもなので、松井家に来るのは、特別なことはしなかったが、ユキちゃんが松井家に来たときは、サニーちゃんが妙齢の雌犬なので、ユキちゃんとの相性がうまくいくかどうか「お見合い」をして、見事に相性バッチリということで、リタイア犬のユキちゃんは松井家の一員になることになった。
★食べて寝てそして…★ ユキちゃんの毎日の生活は、朝7時半に他の犬たちのゴソゴソし出す音で起床。8時半から9時にかけて朝食をとる。食事は基本的に3食同じ。(1)ドッグフード(2)『エスビラック』という犬専用の粉ミルク。この二つをお湯で溶かして(ふやかして)食べる。この基本食の上に、(3)さつま地鶏のミンチ(骨付き)(4)果
物(ラフランスやリンゴ、キーウイ)(5)野菜(茹でたさつまいも・人参・ブロッコリー)を時と場合に応じて、みじん切りにして一緒にトッピングして貰って食べる。食事は、4時間か5時間おきにたべさせることにしている。分量としては、成犬の3分の2程度ということだが、これはユキちゃんの場合、太ってしまうと足や体に体重がかかり、床ずれがおきるというので、この分量になっているようである。 ![]() 自宅でくつろぐユキちゃん
★諸費用色々かかります★ この排泄の度に拭くタオルは松井さん曰く「洗濯出来る量ではないので」使い捨てにせざるを得ないそうだ。このタオルの必要量が生半可な量ではない。体の下に敷いているタオルが、フェイスタオルにして、12〜13枚。排泄用として、フェイスタオルの半分に切った分が、10枚。こうして文章にしてみると、「そんなもんか」と思われるかもしれないが、実際ユキちゃんの排泄の後など丁寧にきれいに拭いてあげている松井さんを見ると、「そりゃ、使い捨てにしてもバチはあたりません」と思う。他にも、必要なものはあって、「紙おむつ」「(ユキちゃんの体の下に敷く)ペットシート」の二つだけで、実は一日500円かかるそうだ。これからの季節には「毛布」が欠かせない。こういうものを松井さんは、引退犬のことを知るユーザーさんや、個人的な知り合いの人から善意で貰っている。
★いてくれて良かった★ 松井さんは、本当にユキちゃんが大好きで大好きで仕方がない。松井さん自身も、「ユキがいてくれてどれだけ私自身も助けられているか」と言われるし、「ユキのいない生活は考えられません。ユキがいてくれてよかったとおもったことは何度もありますが、ユキがいなければよかったのにと思ったことは一度もありません」と断言された。
★みんなかわいい家族★ ユキちゃんの介護をしながら、サニーちゃん・ルナちゃんの散歩をし、遊び相手をし、単身赴任のご主人憲三さんが帰宅しておられる天気の良い日には、ユキちゃんを台車に乗せて自動車で、サニーちゃん・ルナちゃんと一緒に3頭の犬を連れて、近くの公園に遊びに出かける。公園に行くと犬たちが、特にユキちゃんが精神的にリラックスするのか風や草の匂いをかいだり、他の2頭がそんなユキちゃんの周りを走り回っているのを松井さんは幸せに思っている。
★全てボランティア任せ★ リタイア犬を預かるというのは、並大抵のことではない。第一、何の金銭的、物質的、精神的援助もない。「人生の最後を『看取る』」という最も辛く悲しい役目を“ボランティア”が引き受けている。 |