| 「石川や 浜の真砂子は つくるとも 世に盗人の 種はつくまじ」と辞世の句を 詠んだのは、大泥棒の石川五右衛門であるが、なるほど、五右衛門が言うように、い
つの時代でも悪が衰えることは決してない。ましてや現在のように世の中が不況にな ればなるほど、悪人どもの悪知恵はますます磨きがかかるようだ。
(文・庄村有治) |
| これがオーストラリアから送られてきた当選の公式通知!? |
「にっ、2億円が当たったでぇ〜」と妻が奇声をあげたのは、6月のある日のことだった。
なに、宝くじでも当たったのか、と聞けばイエスという。さては、亭主に内緒で宝クジを買ったはいいが、マジに当選してしまい、本来ならこっそりヘソクリにするつもりがあまりの高額さに腰を抜かし、つい本当のことを言ってしまったに違いない。
うーむ、2億円かぁ。何に使おうかなぁ、仕事を辞めて海外移住しようかなぁ。あっ、住宅ローンは完済しとかなアカンなぁ、その前に10年も乗っている車を新車に乗り換えて、と楽しい夢を見ている筆者の横に妻が差し出したのは、なぜかオーストラリアからのエアメール。開けてみると、なにやら役所からの手紙のようなものが。
中身を確認してみると、「オーストラリアン・ロトリーエージェントからの公式文書」と仰々しい題目に加え、それらしいサインやスタンプが押されている。さらに文書の真ん中には大きな文字で、「当選者身元確認通知」と記されているではないか。その右下に眼を転じてみると、「賞金当選候補者」とある欄にはカタカナで妻の名前が記され、さらに1等賞金総額2億3千4百24万円と確かに書かれている。
やったぁ、2億円が当たったぁ、と喜んではみたが、次の瞬間、新たな疑問が沸いてきた。つまり、妻が海外 宝クジをいつ買ったのか、というギモンである。国内の宝クジさえまともに買ったことがない妻が、わざわざ海外の宝クジを買う道理がない。聞けば案の定、「買ったことはない」と言う。
では、いったいこのエアメールはなんなのだ?
★当選を錯覚させる文章が★
文書の中央には赤く太い文字で「一等賞金当選者」とあり、その下には、こんなことが書いてある。
◇ALM独自のコンピューター化されたロトリー情報システムが、最新の抽選結果と登録を完了した応募者の方々とのクロスマッチ検索を行いました・・・
◇当社の賞金支払部より「おめでとうございます。●●(注:妻の名前)様、あなたはオーストラリアン6/45ロトの賞金\234,240,000を獲得しました!!
(中略)」といっ
た内容の電話連絡をさしあげます・・・。
まるで本当に宝クジに当たったかのようなハシャギぶりの文章だが、よく注意してみると小さな文字でこんなことが書かれている。「注意 上記の手続きは、登録完了後オーストラリアン6/45ロトで賞金に当選した場合に実施されます」。
さらに、よく見ると「当選者身元確認手続見本」の文字が。
えっ、見本? ホンモノではないのか。つまり、こうである。 あたかも2億円が当たったかのような錯覚を起こさせる、この"公式文書"は、「2億円が当たれば、こんな文書が届きますよ」という見本なのだ。その証拠に、文を注意して読み進むと、「●●様、本通知を受領後、14日以内にご返答頂くことが必要です。そうすれば、即時処理が保証され、あなたがこの次の当選者となったあかつきには、賞金の100%支払いも保証されます!」と書かれている。「あかつきには」とあるくらいだから、まだ当選してないのだろう。
さて、その14日以内の申し込みだが、これには2千円が必要なのだそうだ。もしくは、クレジットカードの番号を書いて返送する。そうすれば、ロトに当たったあかつきには2億円が…、てなことは絶対にない。2千円を騙し取られた程度ならまだ諦めもつくが、クレジットカードの引き落としを選ぶと悲惨な結果が待っている。買ってもいない商品を買ったとして、クレジット会社から高額の請求が来るのは間違いない。そうなれば後の祭りだ。
最近、消費者センターには同種の苦情が殺到しているというが、オーストラリアだけでなく、ドイツやフランスの宝クジを騙るものもあるというから、この手の詐欺師も国際的になってきた。
そもそも、日本国内で海外 宝クジの販売や取次ぎを行うことは、刑法187条で禁止されている。我々が国内にいながら海外の業者と直接取引することは法律違反なのだ。さらに、この手のエアメールはまるで当選したかのような錯覚を与えること、業者が本当に宝クジを購入しているのかが不明であることから、詐欺罪に該当する可能性も高い。
2億円の夢は一瞬にして消え去った。
★突然、代金催告のメールが★
そんな騒動があった日から数日後、今度は本紙スタッフの磯貝から電話がかかってきた。
「なんか、ヘンなメールが来てるんですぅ。請求書みたいなんですが、これ、払わんとアカンのでしょうか」と半ベソの彼女。
どれどれ、今度は何ですか。なになに、《御請求通知 大至急御連絡致します》?
額は2万5千円で、内容はアダルトコンテンツ? えっ、磯貝くん、女性なのにインターネットでアダルトサイトでも見てるの、と笑いながら尋ねれば、そんなワケない、と一蹴されてしまった。
その「御請求通知」なるメールを送ってもらったのだが、これも詐欺の臭いがプンプンする代物である。
中身は写真の通りだが、要約するとこうだ。
過去に電話回線から接続されたアダルトサイト利用料金について、運営業者より未納利用料金の債権譲渡を受け、回収作業を代行している。ついては、●月●日までに指定口座に入金すること。振り込み先は●銀行●支店の普通預金口座(口座名義ヨコタマサミ)。さらに、入金しない場合は、担当員を自宅に訪問させ、交通費、人件費等を上乗せして数倍の請求をする、というものである。
念のため磯貝に確認したところ、インターネットへは電波を使ったワイヤレス回線を使用し、そもそも電話回線など使っていないという。
今でこそインターネットはADSLや光ファイバーといった常時接続、高速回線が一般的だが、かつて電話回線での接続が普通だったころ、アクセスすればダイヤルQ2と同種の仕組みで課金されるアダルトサイトは確かに存在した。
しかし、それも昔の話。ADSLのような非電話回線による接続のみで課金されるサイトは、まずない。見たい場合にはクレジットカード番号を打ち込むのが普通である。したがって、「電話回線から接続された」とあるだけでペケである。
次に、この請求書、債権回収会社は(株)債権データネットと法人になっているのに、支払い先の名義はなぜか個人名になっている。頭隠して尻隠さず、とはこのことだ。詐欺師ならもっと巧くやらんかい、と励ましたくなってくるドジぶりである。
ちなみに、「債権管理回収業に関する特別措置法」という法律が施行されてからは、債権回収を専門とする会社の設立には法務大臣の許可が必要であるが、法務省のホームページを調べても許可された業者一覧に(株)債権データネットという会社は存在しない。
まっ、そんなワケで、このメールは明らかに詐欺であるから払う必要なし、と磯貝には連絡し、一見落着。
その数日後、新聞を見て驚いた。こんな記事が載っているではないか。
【インターネットの架空の成人向けサイト利用料を電子メールで請求し、現金をだまし取ったとして、茨城県警生活環境課とつくば中央署は12日、埼玉県志木市本町、無職菊池将雄容疑者(27)を詐欺の疑いで逮捕した。調べによると、菊池容疑者は3月上旬、つくば市内の男性(36)に、「入金がなければ法的手段をとる」などと書き込んだサイト利用料の支払い請求メールを送信。架空の会社名で開設した東京都内の銀行口座に約4万3000円を振り込ませてだましとった疑い。菊池容疑者は、主に都内などの複数のインターネットカフェのパソコンを利用。青森、福島、和歌山、福岡各県などの銀行に別の会社名義で口座を開設し、犯行を特定されないよう隠ぺいを図っていたらしい。調べに対し、菊池容疑者は「ネット上でメールアドレスのリスト数十万人分を数万円で買った。2月以降の4か月で(督促を含め)計110万通のメールを送り、約700万円を稼いだ」などと供述している(読売新聞6月13日)】
調べてみると、この容疑者の男こそ、磯貝宛に送られてきたメールの主「ヨコタマサミ」なのであった。
しかしさらに驚くのは、あんなインチキメールで700万円も荒稼ぎしたことだ。よほど後ろめたいことをしている男性が世の中には多いということだろうか。覚えがないなら、払う必要はなし。払うから詐欺師が跋扈するのである。
ところで、海外 宝クジもそうだが、この手の詐欺を働くためには、カモを引っ掛けるための個人情報がどうしても欠かせない。詐欺メールを送った容疑者も「ネット上でメールアドレスのリスト数十万人分を数万円で買った」と供述しているらしいが、どうも我々の個人情報はジャジャ漏れのようである。
さて、ここからは余談。かつて筆者は本紙で個人情報保護法の恐ろしさを訴えたが、なにも個人情報を野放しにしてもよい、と主張しているのではない。個人情報は守られるべきだし、詐欺師やヤミ金融に個人金融情報を横流しする名簿業者は厳しく罰すべきである。そのために必要なことは、個人情報を扱う業者ごとに保護の法律を定めることだ。業態の異なる金融や通信、運輸、それにマスコミなど、一括して同じ法律で括るからヘンなことになるのである。いまの「個人情報保護法」などは、本質的にはマスコミ狩りの法律である。これこそ、個人情報の保護を騙る詐欺法だろう。
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