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個人情報保護法というとんでもない法律が今国会で通過しようとしている。新聞やテレビが力を入れて報道しないので一般の関心はいま少し低いが、この法律が実現すれば、憲法で保障された言論の自由は有名無実になってしまう。
むろん、個人情報の保護は大切である。プライバシーはなにより守られなければいけない。しかし、名称こそ「個人情報保護法」と、あたかも我々のプライバシーを大切に守ってくれるかのような印象を与えるが、じつはそうではない。
この法案をつぶさに検討すれば分かるのだが、実態はメディア潰しにあり、権力者にとって都合の悪い情報は「合法的」に抹殺されてしまう。個人情報保護法とはいったいどのような法律なのか。Q&Aを作ってみた。
(文・庄村有治) |
Q この法律ができた背景は?
インターネットやコンピュータの普及が大きく影響している。これらは私たちの生活を便利なものにした反面、個人にとって他人に知られたくない情報が流出しやすくなったのも事実である。
たとえば、あるホームページに懸賞金の募集が掲載されており、参加するためにはメールアドレスのほか、氏名や住所、年齢、職業などを記載しなければならないとしよう。そのホームページに集まった膨大な個人情報がある日外部に漏れて第三者にコピーされ、それが通信販売業者などに渡りDMが送られてきたとする。このようなケースは皆無とはいえず、実際に似たような事件はたびたび起こっている。そこで個人情報の不正流出を防ぐための新しい法律が必要ではないかという発想が生まれた。
もうひとつは住基ネットである。住民基本台帳に記載されている国民全員に11ケタの番号を割り当て、コンピューターで一元管理するシステムが昨年から試験的に稼動した。
居住地以外でも住民票の写しが取得できるなどのメリットはあるが、ハッカーの侵入で個人情報が外部に漏れたり、警察などの機関による目的外利用の危険も指摘されてきた。国家が個人情報を一元管理するなら、それとセットで個人情報を守る法律も必要だ、ということで個人情報を守る法律の制定が急がれた。当初の趣旨は膨大な個人情報を一手に握る国家を縛ることにあったが、実際の法律案は国に甘く、民間や個人に厳しいものだった。
Q そもそもこの法律がいう「個人情報」とは?
氏名や住所、年齢、性別、さらにはメール・アドレスや携帯電話の番号、クレジットカードの番号、またビデオ店の会員番号なども個人情報といえる。法案は「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と謳っているが、早い話、少し調べればどの人に関することかが分かる情報といってもよい。
Q この法律では「個人情報取扱事業者」が規制の対象になっているが、これは誰のことか?
もう少し詳しく見ると、法案ではこの事業者のことを「個人情報データベース等を事業の用に供している者」といっている。
まず「個人情報データベース」だが、これはパソコンやCD―ROMなどに蓄積された顧客情報や社員名簿などのことである。最近では車に積まれたナビゲーションシステムの地図ソフトの中に店舗情報や個人の電話帳が入力されたものが売りに出されているが、この法律に従えば、これもリッパな「個人情報データベース」になる。
これらのデータを「事業の用に供する」とあるから普通なら企業の営業活動を連想し、個人的な用途で使う分には関係ないと想像しがちである。しかし、そうではない。NGO(非政府機関)やNPO(非営利法人)のように、商売のために存在しているわけではない団体の活動も「事業」に含まれるし、個人がこれらのデータベースを営利目的以外で使っても「事業」とみなされる可能性は大である。つまり、この法案がターゲットにおいているのは法人や組織だけでなく、個人も対
象に置かれているということなのだ。さらに法案は「個人情報の適正な取り扱い」のために、「個人情報取扱事業者」に
対して次のようなことが義務づけられている。
(1)目的外利用の禁止
→ 本人の同意がなければ、当初に予定した利用目的を超えて個人情報を取り扱ってはならない
(2)第三者提供の禁止
→ 本人の同意がなければ、個人データを第三者に提供してはならない。
(3)個人データの開示
→ 本人から個人データの開示を求められた時は、その人について保有しているデータを開示しなければならない。
(4)個人データの訂正
→ 本人から個人データが誤っているとして訂正や削除を求められたときは、必要な調査をして内容を訂正しなければならない。
字面を読めば、なるほど、我々の個人情報を守ってくれるありがたい法律のように思えるが、そこには大きな落とし穴が隠されている。
Q 誰が取り締まるのか
法案には「主務大臣」とある。要するに「監督官庁」のことで、役所のことだ。この「主務大臣」が「個人情報取扱事業者」に対して、個人情報の取り扱いに関して報告させることができるし、もし先ほど挙げた?〜?の義務違反があった時は、「個人情報取扱事業者」に対して必要な措置をとるよう勧告することもできる。しかも大臣の命令を守らなかったり、大臣へ報告せず、またはウソの報告をしたりすると、刑事罰も科せられることになっている。罰則は懲役6ヵ月以下、または罰金30万円以下である。
Q なぜ反対するのか
個人情報の保護が必要ない、と言っているのでは決してない。プライバシーが簡単に売り買いされる社会は、やはりどこか陰湿である。
いま議論されている個人情報保護法は有効な面もあるが、あまりに危険な面もありすぎる。個人情報の内容は多種多様であり、その保護は包括的な法律で出来るものではない。金融情報や医療情報、通信情報といった、各分野に応じた個別の法律で対処するのがベストだと考える。すべての分野の情報をすべての国民に適用することになるから弊害が予想されるのだ。
Q どのような弊害が予想されるのか
政治家や企業の不正、疑惑を糾すことが困難になる可能性がある。たとえば、某食品会社が自社で取り扱う食肉の産地を偽装し、それを小売店に卸していたとする。その疑惑に気づいたNPOが調査に入ったとしよう。だが核心まで迫った時に、疑惑の渦中にいる社員が調査に気づき、「私についてどのような情報を持っていますか」と尋ねてきた。NPOは調査の目的を明かさなければならないし、応じなければ、役所に訴えられる。この間、NPOから調査意図を聞き出した疑惑の社員は重要資料を改寛してしまう。調査の出発点となった企業情報は個人情報とは異なるが、その中に個人の名前などがあれば、それは個人情報として扱われてしまう。そのため、このようなケースが出てくることも考えられるのだ。
また、企業や政治家の不正・疑惑は内部告発で表沙汰になることが多い。しかし、この法律が通れば、その内部告発者が危険にさらされることも十分にあり得る。 内部告発者が漏らす不祥事には個人情報が含まれるケースも大いに考えられるが、これが個人データの目的外使用、第三者への不当な提供などに該当するからだ。もっとも法案によれば内部告発については、報道機関に報道目的のために個人情報を渡す場合は主務大臣は関与しない、となっている。しかし、単に内部告発者に刑事罰は科さないということであって、個人情報保護法違反であることには変わりないのだ。内部告発された側の企業なり政治家は、「違法行為を働いた」として損害賠償を求めることもできるのである。
Q 報道機関は罰則規定から除外されているから問題はないのでは?
法案では、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関が報道目的で個人情報を取り扱う場合には、個人情報取扱事業者としての義務は適用されないことになっている(作家、評論家、フリージャーナリストなども罰しない、とある)。
憲法で謳われた言論の自由もあり、政府もとりあえずは報道機関を罰則規定から除外しているかのようだ。しかし、問題なのは法案でいう「報道」の定義である。「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること(これに基づいて意見又は見解を述べることを含む)」とあるのだが、あまりに抽象的すぎて恣意的に解釈される可能性があるのだ。
「不特定かつ多数」を対象としなければ「報道」にはならないというのなら、社内報やメルマガ、本紙のようなミニコミ紙は「特定の会員や社員だけを対象としている」という理由で「報道」と認められないことになる。
つまり、新聞やテレビなどの、いわゆるメディア産業に携わる人だけが罰則から免除されるといっているわけだ。しかし、である。これで新聞やテレビなどのメディアが安心できるかといえば、それも違う。場合によっては彼らの取材活動すら規制される恐れがあるのだ。
法案には報道機関が適用除外を受けるうえでの条件として、「客観的事実を事実として知らせる」という一文がある。つまり、「客観的事実」でないと判断されれば、いかに報道機関であっても法律に触れるというのだ。
たとえば、ある政治家の金銭疑惑をつかんだ新聞記者が当の政治家に取材を試みたとしよう。その政治家が「疑惑は客観的事実ではない」と居直り、役所に訴え出れば、「あなたのつかんだ内容は客観的事実とはいえないので、あなたの行為は報道と呼べない」と圧力をかけられることも考えられる。
だいたい何が悲しくて報道であるかどうかを、どうして政治家や役人に「定義」してもらわなければいけないのか。個人情報保護法が「政治家疑惑保護法」と揶揄される所以はここにある。
また、法案には報道機関として出版社が含まれていないことにも注意しなければいけない。実際、政治家や官僚の腐敗を週刊誌や月刊誌などの雑誌が暴くケースは少なくない。ある意味、個人情報保護法は雑誌潰しのための法律だといえなくもない。
Q 個人は関係ないか?
繰り返すが、個人でもこの法律の対象になる。昨今、インターネットの普及により、誰もが情報の発信者になれる時代が到来した。ホームページは専用ソフトで簡単に立ち上げることが出来るし、人気が出れば何万人もの人がアクセスしてくれる。こうなればもう立派な「個人情報取扱事業者」である。
そのホームページに政府批判や政治家批判が出たとしよう。危機感を抱いた政府は、「個人情報が漏れている疑いがある」「あなたたちが批判している政治家に関する記載に、事実誤認がある」などと難癖をつければもう最後。悪くすれば懲役や罰金刑に処せられる可能性もゼロではないのだ。
参考:個人情報の保護に関する法律案の概要(別ウィンドウで開きます)
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