[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2003年3月号


障害者のヘルパー利用「上限」撤廃の顛末

支援費制度、来月スタート

個々の割り当て、いまだ決まらず


 

 お好み読者で、「脳性麻痺の障害を持つ自由人」として本紙にも何度か寄稿していただいている山脇信成さん(大阪府在住)から、4月から始まる障害者の「支援費制度」について、「弱者の中の強者しかうまく利用できないのでは?」という懸念の声が一部で上がっているというメールを、年始のあいさつとともにいただいたのは1月4日のことでした。続く数日後のメールには、「私たち障害者仲間の間では、支援疲になったり、支援悲になったりしています」とあり、いまだ詳細がはっきりしない制度導入への動きが、山脇さんたちの不安や心配をかきたてていることがうかがわれました。その直後、厚生労働省は突然、新制度のサービス利用に実質的な「上限」を設定する方針を打ち出しました。山脇さんのメールには、「障害者の孤独死が増えると思います」「国の政策に殺されます」といった仲間の悲痛な叫びが紹介されてきます。ここから、山脇さんや障害者団体の「上限」撤廃、に向けた戦いが始まりました。“短期決戦”は1月27日、「上限は作らない、現状サービスは原則として確保される」との厚労省回答を引き出し、「支援費制度要求勝利」として全国の関係者、支援者へ報告されますが、一定の歯止めと現状維持を取りつけたとはいえ、当事者不在で見切り発車しかけた支援費制度は、障害者の自立生活の本当の支えになるのでしょうか。山脇さんとのメールのやりとりや彼が自分のホームページに書いた文章、新聞記事などをもとに、この間の経過や展望について整理しておきたいと思います。

(門田 耕作)

 

 山脇さんから最初に「支援費制度」についてのメールをもらったのは、昨年の10月末でした。「障害者のインターネット仲間の間では支援費制度についての意見交換が盛んに行われている。みんな、自分の生活が掛かっているので必死だ」というものでした。
 彼自身が地元でのホームヘルパー利用について苦労していることなども書かれていて、私自身が制度について全く不勉強だったこともあって、それなら山脇さんにと、本紙での原稿執筆をお願いしたのですが、「(制度については)よく分からない。現在役所と交渉中。分かっていることは、各自治体の予算枠があってそれを障害者同士で取り合いになる、ということは確かだと思う」ということでペンディングになっていました。「お好み書きには読者の人の中に結構、障害者の人が多いので、ぜひ、支援費制度の特集をやっていただきたい」とも言われていたのですが…。

 

■予算枠の取り合い懸念■

 年明けのメールの説明では、「支援費制度になると、ガイドヘルパー月何時間、ホームヘルパー月何時間というようにしっかりと『枠』が決まってしまい、余程の理由がない限り、その個々の障害者に割り当てられたサービスの時間数の変更ができなくなる…」といったものでした。
 おぼろげながら抱いていた不安が、一転はっきりとしたのは1月中旬のことでした。厚労省が突然、「支援費制度の開始でサービスの需要が増えることが予想され、無制限に支援費を出して予算をパンクさせるわけにはいかない。目安としての上限を設けることを検討している」(1月10日毎日新聞)ことを明らかにし、1月28日に開催予定の全国担当者会議までに結論が出ることが分かったのです。
 それからは、障害者のインターネット仲間たちが一斉に、FAXやメールなどで当事者の「声」を国会議員に届けようと動き出しました。山脇さんも自身のホームページに支援費制度の問題点を書き、メールを送って「国会議員やマスコミへ賛同の声を届けて」と訴えます。

 

■賞味期限がないんです■

 その1通は私の元にも届きました。私はのんきにも、「まだ自分なりに咀嚼していない。お好み書き2月号に、ホームページの文章を転載させてもらえないか」と頼みましたが、山脇さんのいつになく厳しい返信メールの文面に目が覚めた思いがしました。
 「お好み書きの編集者の門田さんでなく、朝日新聞社の記者さんである門田さんに言わせて頂きます。…(お好み書きは)読者が少ないのも理由ですが、もう、お好み書きを待っていてもひとりの世論も動かすことが不可能な状態です。…28日までしか、私のホームページに書いてあることは賞味期限がないんです。…ひとりの障害を持った大手新聞社の記者として動いて頂きたく思っております」

 

■月120時間、1日4時間■

 厚労省がホームヘルプサービスの利用時間数に設けようとした「上限」、月120時間程度、というのはどういう数字なのか。山脇さんはこう言います。「月に120時間の上限を設定されたとしたら、1日4時間。重度障害者にとって『4時間』という時間はトイレ介護と、まあ、1日に1食の食事介護が受けられるかどうかの時間なんです。1食の食事に1時間以上掛かる人は珍しくありませんし、トイレだって腹筋がない人は何時間と掛かります。そのようなことを厚労省は理解していないと思います」

 

■新聞にもようやく動き■

 その通り。厚労省が予算と障害者1人当たりのサービス費から算定した机上の数値です。役人が理解しているわけがありません。支援費制度の問題点をそれなりに理解し、取材、報道する記者も、本当のところは分かっていない、というのが実際でしょう。
 山脇さんの言葉につき動かされ、大阪編集局の担当部署に取材を打診しました。大阪の反応はいま一つでしたが、たまたま東京の担当部署にも山脇さんの仲間から声が届いたらしく、24日の社説では「地域福祉の名が泣く」と批判し、27日のオピニオン面でも「障害者支援の低下を懸念」する記事が掲載されました。読者の投稿欄でもいくつか取り上げられました。
 山脇さんたちが動き出した2週間ほどの間に、遅ればせながらではありましたが、確かにマスコミも、「上限設定に問題あり」という報道をするようになりました。
 そして迎えた“賞味期限”前日の27日。支援費制度撤廃行動を進めた障害者団体は、「上限は作らない、現状サービスは原則として確保される」との厚労省回答を得ます。社会・援護局長が説明不足を謝罪するとともに、補助金の交付基準については、新年度に開始される利用当事者を入れた検討委員会において再検討すること、来年度は支援費制度の移行段階として位置付けられることを文書で約束したのでした。

 

■駆け巡る“要求勝利”■

 「支援費制度要求勝利」。障害者のインターネット仲間の間ではすぐさま、「自立生活運動の輝かしい成果」として勝利報告が駆け巡りました。
 1月29日、山脇さんも一息ついていました。「やっと一段落着きました」と関係者にメールを送り、この間の報告とお礼をしています。山脇さんたちの動きをお好み読者の皆さんにも知っていただくために、引用させてもらいました。


 □1月29日

 「厚生労働省がヘルパーの補助金に上限を作って、月に120時間しか国から補助金は出さない方針でいるらしいぞ」という情報がネット友達から入って来たのが、1月9日の深夜です。
 それからネット仲間たちと、今、我々にできることは何だ!と、考え、国会議員のみなさん、各省庁、47都道府県、それぞれの地方自治体、マスコミ各社にFAX、Eメールをみんなで送ろう!と決めて、「私たちの生活を守るためにヘルパーの上限設定はやめてください」と訴え続けて来ました。
 私の知り合いの中には厚生労働省の玄関前に座り込みに行った人もいます。私も国会議員さん50人以上、5省庁、大阪府、マスコミ多社と、もちろん、私が住む市。全てを 合わせると100カ所以上のところにFAXやEメールを送り続けました。
 大物有力議員と思われる方には地元選挙区の事務所にまでFAXを送りました。お歳を召した後援者の方に目を通して頂けるように。私のアドレス帳の中に入っている全ての方々にメールをお送りして、ご協力を要請しました。
 我々の仲間の中には、300を軽く超える個所にFAXやEメールを送り続けた人も数人もおられます。
 厚生労働省の前まで行き、寒風が吹く中、「地域で生きている障害者」の姿を示し続けた人、多方面に自分たちの声を送り続けた人、みんなが本当によく踏ん張りました。
 1月20日前ごろから、マスコミ各社さんが、支援費制度のヘルパーの上限を設定に問題があり、という視点から頻繁に支援費制度の問題点について報道してくださり、それから3〜4日後には、坂口大臣が会見で「現状の障害者の方の生活が変わらないように経過措置をとる」との発表がありましたが、我々は「経過措置」ということばには納得はしませんでした。
 経過措置とは、暫定的なものでいつ無くなってもおかしくない表現だ、と判断したからです。
 23〜24日になっても全国の障害者からの「声」がFAXやEメールで国会議員の手元に続々と届き、厚生労働省には都道府県の知事や各自治体から事実上の補助金削減に対して反対する要望書が届きました。
 寒風の中、私たち障害者に追い風が吹きました。
 28日、支援費制度について厚生省から47都道府県の福祉課長を集めて、制度の運営についての最終説明があるということは、ずいぶん以前からわかっていました。
 その28日の全国課長会議まであと1日と迫った27日になってやっと、厚生労働省の社会援護局長が「上限設定を撤廃します」ということばとともに「障害者の方々とのコミュニケーション不足があった」という弁があり、障害者の代表がそのことばを受け入れて、約20日間に及ぶ厚生労働省と障害者との間のゴタゴタが終わり、双方合意が成立しました。
 私もたいへん疲れました。
 何と言っても実施期限を先に決めておき、その直前に障害者にとってたいへん不利な案を出して来た今回の厚生労働省の手法は決して許されるものではありません。
 しかし、私が今回の件で学んだことも大きいです。
 これからは今まで以上に一国民として日本の国をしっかりと見続けて行きたく思います。
 ありがとうございました。

 一連の動きが一段落ついた先日、性懲りもなく私は、「上限」撤廃を実現するに至った経緯を、今後に警鐘を鳴らす意味でも執筆してほしい、と三たび要請しました。 「今回の文章については(メール文も含めて自由に使ってもらっていいので)門田さんの方でまとめてください」という返事をいただいたのですが、そのあとに、山脇さんなりの「総括」のような一文がありました。

 

■捨て石に過ぎなかった■

 今後の展望に加えて、ジャーナリズム(本紙のようなミニコミも含めて)が注視していかなければならない問題点を含んでいるように思えましたので、これも紹介させてもらいます。

 2月16日

 厚生労働省にとって、今回の上限設定はひとつの捨て石に過ぎなかった、ということです。1月27日の時点では、障害者の声が実った、と思いましたが、それは考えが甘かったようです。
 どれだけの障害者が異論を唱えることが可能かを、調査するという目的もあったみたいですね。
 ますます、弱者の中の勝者と、弱者の中の敗者の差が広まります。
 生き残りを賭けた争いですね。
 2月の初旬には個々に割り当てられた時間数の通知があるはずでしたが、まだ、その気配すらありません。間に合うのかなぁ?
 私のところだけじゃなく、通知があった、という話をきょうの時点で仲間からも聞いていません。
 この前、夜の10時を過ぎてから市役所の横を通ったのですが、障害福祉課のところだけ明かりが灯っていました。末端の行政機関は俺たち以上にたいへんなのかも知れません。

 2月23日現在、山脇さんのところへ役所からまだ、通知は来ていません。他の自治体もまだのようです。通知が来ても利用者が事業所を選ぶ時間や、事業所が利用者(障害者)の生活の実態を把握するにも時間が必要なことから、すべての利用者がどこかの事業所と契約を結ぶには相当な時間が必要です。山脇さんらの間では、もう、4月1日には間に合わないだろう、と噂されているそうです。

 

■宣伝躍起の自治体HP■

 「障害のある方がいきいきと生活できる社会に向けて」(熊本県)、「利用者本位の障害者サービス」(福井県)がスタート!などと、各自治体のホームページはいま、障害者の「支援費制度」の宣伝に躍起です。しかし制度開始を1カ月後に控えてもまだ、障害者個々人の割り当ても決まっていないのが現状なのです。
 障害者の自主的な選択のもとに、多様な在宅サービスが受けられ、だれもが充実した地域生活が送れる、そんな高邁な理想を掲げながら、実際は、障害者の間に「弱者の中の勝者」と「弱者の中の敗者」の差を広げ、「生き残りを賭けた争い」を強いるような思いをさせているとしたら、こんな悲しい、腹立たしいことはありません。
 障害者のみならず、福祉はすべての国民に供されるべきものです。当事者不在の福祉切り捨て許すまじ、との姿勢を私たちみんなが心しなければならないことを、今回の「支援費上限」を巡る顛末は教えてくれたような気がします。


【障害者支援費制度】身体・知的障害者が必要な福祉サービスを自ら選び、事業者と契約する仕組み。行政がサービス事業者を決める現行「措置制度」を改め、利用者と事業者を対等な契約関係に変えることで、サービスの質向上を目指す。「支援費」とはサービス提供に必要な費用。障害者は市町村に支援費の支給を申請し、市町村は障害の程度などを考えてサービス内容を決める。財源は従来通り、国や自治体の障害者福祉予算で、利用者が支払い能力に応じて費用を負担する点は変わらない。利用見込みは約42万人。
 今回浮上した利用時間の「基準」は、全身性障害者、そのほかの身体障害者、知的障害者など障害種類ごとに月単位で設定する。基準時間数と障害者数、サービス単価をかけた額の2分の1が国庫から市町村に支給される。

(03年1月27日朝日新聞より)

 





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