| 面白い人に出会った。大阪中央区でバーを開いている岩崎さんという人物である。
一見、ごく普通で実に控えめな方なのだが、彼には特技(?)がある。粗大ゴミから使えるものを見つけてきては、生活品に変えてしまう、というものである。しかも、拾いモノをオブジェにしてバーまで開いてしまったツワモノだ。
(文・庄村有治) |
★本業は額縁屋のオヤジ★
岩崎晴彦さん(49)はかなりユニークな人だ。
「いま着ている服も全部拾うたもんですわ。ジャンパーもズボンもそうですし、帽子もメガネも拾ったモノです」
彼はホームレスではない。拾い名人なのである。
本業は『フレームハウス』という名の額縁屋さん。約25年ほど前から額縁の商売を始めた。始めてまもなく、得意先である絵描きの作家さんが、絵の題材にするため貝殻や古い皿、錆びたカンカンを欲しがっていたので、サービスの一環として廃品を拾うようになったのがきっかけだった。
実際、粗大ゴミを拾いに行くと、キジの剥製が置いてあり、大いに喜んでもらえたこともあったという。
収拾に回る場所は粗大ゴミ置き場がメインだが、たまに家の解体現場を見つけると家主に頼み込み、不要なモノを貰っていく。小さい頃からモノを拾うのが好きな少年だった。磁石で古釘を集め、小遣い稼ぎもしたという。
その廃品集めだが、これには苦労がある。「だいたい縄張りがあるんですわ。喧嘩になったことはありませんが、最初のころは、あっちへ行け、と先客に脅されたこともありました。でも、そのうち仲良くなりましたわ。というのは、集める対象が違うんですよ。彼らの多くは生計のためにゴミ集めするのですが、その人たちが集めるモノは銅線やアルミといった金属類です。こっちはガラクタですから競合はしない。『えっ、こんなモノでええのんか。ほな、もって行き』と言ってくれるようになりました」
そのうち、血が騒ぐというのか、歩いていてゴミ置き場を見つけると「早く行かないとなくなる」という観念にとらわれるという。人からみてゴミでも、岩崎さんにすれば、すべて宝の山なのだ。「いまは息子もゴミ集めが好きでして、たまにゴミ置き場で会うことがあります(笑)。彼も"不気味な雰囲気"のバーを開いていて、その雰囲気作りのためにゴミ収集をしていますよ」当然のことながら、そのうちモノが貯まり始めた。自宅も職場も足の踏み場もないほどの廃品が集まりだした。岩崎さんが集めてくる廃品といっても、アンティークな額縁や古いレコードプレイヤーなどである。それがアーティストたちの目にとまった。自然と彼らが集まり、店内でビールを呑むようになる。そのうち手狭になったので広い場所を探し、6万円の内装費でバー『フレームハウス』が5年前、新たに誕生した。
★海専門のバーも開店★
ところで、廃品でいっぱいになった倉庫には海から流れてきた流木やサンゴ、イカリなどもあった。収拾場所は沖縄の海が多いという。沖縄の好きな岩崎さんは、そこの美しい海に流れ着いた流木や貝殻などを広ってきた。「でも、大阪市内でもサンゴが見つかります(笑)。ゴミ置き場になぜか大きなサンゴが置いてあったりするんですわ。大阪湾は無理ですけどね(笑)」。
これをモチーフにして3年前、海専門のバー「シェルハウス」(大阪市中央区)を開店した。 店は駐車場の二階。もともと事務所だった所を家主と交渉し、バーにした。こちらの内装費は約10万円。「ちょっとかかりすぎたかな」と岩崎さんは笑う。店内は約10坪。15人も入れば満杯になる小さなバーだ。
ここは駐車場脇にあるらせん状の非常階段を登っていく不思議な店。真ん中に8人が座れる大きなテーブルがあるが、これも廃品を利用。椅子もすべて拾いものである。しかし、大きな貝殻に電球を入れて照明にしたり、船の舵があったり、はたまたサメの剥製まで置いていたりと、人工物にはない自然が持つ独特の雰囲気が店内に漂っている。
★お金はなくても生活できる★
開店にあたっては、いっさい宣伝はしなかった。しかし、表の派手なネオンに引かれて、一見さんのお客がどんどん入るようになる。そのうち独特の雰囲気に魅せられて、いつも店内は満杯の状態だ。「最初はキョロキョロしていたが、そのうちこの奇妙な雰囲気が好きになる」というお客が多いという。
オープンのころはカメラマンやデザイナーが多かったが、最近では会社の社長さんやサラリーマンもよく足を運んでくれるという。さて、岩崎さんのような人間は世間一般からみれば「ケチ」と呼ばれる人種なのかもしれない。しかし、本人は「ケチというより合理的なのでしょうな」と、これを否定する。「いまの世の中、生活する上でお金はいりません。店にではなく、外にモノが溢れているからです。この前も食パンを買ったものの、トースターがなかった。欲しいなあ、と思っていたら、新品に近いものを拾った(笑)。ストーブが欲しい、と考えていたらストーブも拾いました。捨てる人は新品に買い換えるのでしょうね。新しいモノが手に入ったから、古いモノを捨てる。だから外にモノが溢れているのです」「もったいない話ですよ。どうしてモノを大切にしないのでしょうか。十分使えるモノを捨てるんやからね」「使いたいモノが外にいっぱい落ちている」という岩崎さんは、ほとんどお金を使うことがない。最近、何を買ったかと訊くと、「3日前に食パンを買いました」。最近では、食料品すらも拾うことが多いという。「この前も新品のスパゲティーを拾いましたわ。新品の蜂蜜を拾ったことがありますよ」というくらいである。1ヶ月の食費も1万円少々だ。「自分はケチとは違うと思うんです。店にあるオブジェも欲しいという人があればあげてしまいますしね。なくなればまた拾ってくればすむことです。モノを大事にするだけです。それだけに、大事にしてこられたモノが捨てられるのがかわいそうですわ」
岩崎さんには格言があるという。それは「拾うは一時の恥じ、拾わぬは一生の恥じ―」というもの。なるほど、拾い名人ならではの至言である。
最後に年齢を尋ねると、「確か48か、49才だったかな。年だけは拾わないようにしてますねん(笑)」