[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2002年10月号


中国・泉州へ 糸操り人形を求めて


 

昨年の春、私は友人の家で一冊の本に出会う。「アジア人形博物館」(アジア各地の人形劇やその歴史を紹介した本)だ。そこに掲載されてある中国の人形芝居に心をひかれ、ぜひ実際に手にとって見てみたいと思い、私は今年の中国旅行の目的地を「中国人形芝居のふるさと・泉州」にした。
 泉州に行くには直行便はなく、どのガイドブックも、国際線の着く厦門(アモイ)から車で約2時間で行けると記されていた。そこで格安の厦門のフリープランのツアーを利用し泉州入りすることにした。

(新野 貴子)

 

  厦門に着いて二日目、いよいよ泉州にむかうことにした。前日下見をしていた長距離バス乗り場で切符を買う。まだ出発には30分も時間があるというのに、「早く乗り場へ行って」と言われ、空港なみの手荷物検査を済ませて行くと、5分ほどでバ
スに乗車。定員にもなっていないのにと不思議に思っているとすぐに発車。20分ほどでさっきより大きな、電車の駅前のバス乗り場に着いた。発車時刻というのはここの乗り場での時刻だったのだ。

 バスにゆられ、2時間ほどで泉州に着いた。駅の公安に「木偶戯(でくぎ・中国語の人形劇の意)はどこ」と筆談で尋ねると、電話で問い合わせてくれ、住所を教えてから、リキシャの手配もしてくれた。お金をぼられないように、「六元でいけるから」と、運転手に交渉までしてくれた。重い私を荷台に乗せ、おじさんは一生懸命リキシャをこぐ。わずか100円足らずで重労働だ。
 ついたところは、狭い路地の途中のきたない(失礼)建物、それでも「木偶劇団」の看板が私の気持ちをほっとさせてくれた。それにしても異様に静かである。門をくぐり中に入ると女の人が出てきて「何?」と聞くので、「日本から来た。人形を見せてほしい。日本でもここの人形劇は有名です」と答えた。「劇団員は、今、地方に行っていますよ」と言いながら、女の人は別室にいた男の人を呼び、私のことを説明してくれた。男の人は、「陳列室」とかかれた部屋の鍵を開けてくれ、案内してくれた。中には今までいろんな国で公演したときのポスター、写真、ペナント、そして人形が所狭しと飾られてあった。日本にも数年前に来たことがある。大阪にある国際交流センターでのアジアフェスの中で、この人形劇が紹介された時だ。

 


今まで公演に使われた人形。各国を親善訪問したときの盾も飾られていた。

 

 人形は糸操りがほとんど。一体に10本以上の糸が使われている。指先や、眉毛はもちろん、精巧なものは、唇やあごまでも動くようにできていた。私は男の人に「一体売ってほしいのだが」というと、「この部屋にあるものは『博古文物』(たぶん博
物館にでも置くようなという意味なのだろう)だから、売れません。同じようなものが錦繍荘(きんしゅうそう)だったら売っていますから、そこへ行きましょう」と言われた。彼は私をバイクに乗せてくれ、店まで連れて行ってくれた。

 店に一歩足を踏み入れると、そのきらびやかさに驚いた。店先にならぶ人形の衣装。金色や銀色がふんだんに使われてあった。店の中ほどには人形たちの小道具、すげかえる首なども売っていた。しかし、完成された人形本体は数が少ない。私は奥のほうに見えた一体を指差し、「あれは売っているのですか?」と聞くと、「はい、1800元です」との答え。日本円で2万7000円もする。高いだろうと予想はしていたが、ちょっと手が出そうもない。困った顔をしていると、「別な店があるから、そこに行きましょう」と店にいた若い女の子に言われた。ちょっと怖い気もしたが、もう人形がほしくてたまらない私は、おそるおそるついて行くことにした。

 10分ぐらい歩き、着いたところは博物館のような雰囲気だった。そこには中国の人形劇の歴史が書かれた本も置いてあり、人形も完成されたものがたくさん吊るされてあった。

 


布袋木偶戯(ほていできぎ)が演じられる舞台。 一人の人間が両手にはめて演じる

 

 店の正面には舞台もあった。ここ泉州では、糸操りの「提線(ていせん)木偶戯」のほかに、手指使いの人形劇「布袋(ほてい)木偶戯」も盛んである。この写真の舞台は、布袋木偶戯で使われるものなのだ。
 中国では昔は人形をあやつる人は、魂が目に見えないものを動かすとして、霊的な能力のある、特殊な技能者であったのだそうだ。今では人形劇専門学校のようなものがあり、そこで未来の人形使いを養成しているとのことだった。
 さて、その店でもひげを蓄えた立派な武将の糸操り人形は1800元という。私が買うのを迷っていると、となりの(少し質素な服の)人形は1100元と教えてくれた。1万円もちがうのか…と思いながら店内を見回すと、布袋人形が飾られているショーケースがあった。見ると買えなかった糸操りと似たような衣装を着ている。「これはいくらですか?」と尋ねると「280元」だという。実際に手にとり動かして見た。「町に売っているものとは、前垂れの重ねる数が少ないので値段が安かったり、質が落ちたりします。ここは一流ですよ」店員が詳しく説明してくれた。「糸操りは、手法を見せるためのお土産にし、実際の衣装はこの布袋人形のようだと説明しよう」私は思い立ち、ディスカウントをする。店員は「二つで1100元でいいですよ」と気持ちよく言ってくれ、私も有意義な買い物ができた。

 夏が終わり、2学期が始まった。私は買ってきた人形をさっそく学校に持って行き、子ども達に見せてあげた。服話術のようにして使うと子どもの目は生き生きする。歴史的にも勉強になり仕事にも活用できる。人形収集をこれからも続けたい。





  [ 目 次 | 上へ↑ ]      月刊・お好み書き 2002年10月号