[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2002年7月号


朝乃翔の長い一日、

電車道の新たな門出

文福ほのぼの噺  桂 文福


 平成十四年六月八日、花のお江戸は両国の、国技館の上に広がる見事な青空が、一人の男の再出発を、いや、二人の男女の新たな門出を祝福するようでした。
 私は、羽織ハカマの正装で、午前十一時すぎ国技館に入りました。元前頭二枚目、朝乃翔関の引退断髪式に出席し、ハサミを入れさせて頂くからです。
 先に二人の男女と書きましたが、この日は朝乃翔関にとって、とても長い一日でした。午前中に、八年間の愛を育んだ京美人の一色みどりさんとホテルニューオータニの神前で挙式を行い、新婚さんとしての初の大仕事が、午後からの断髪式だったのです。
 国技館の中に入りますと、土俵上では高砂部屋の幕下、三段目の力士がけいこの汗を流していました。朝乃翔関は、学生相撲の名門近畿大学の先輩でもあります元名大関朝潮の若松部屋に入門したのですが、今年の二月、若松親方が七代目高砂浦五郎親方を襲名し、合併という形で新生高砂部屋となりましたので、今や角界一の大所帯。
 やがて土俵には部屋の関取衆が登場。大関に王手をかけた朝青龍関、もみあげの闘牙関、朝乃翔関と大学時代からの名コンビ朝乃若関、小兵ながらも十両に定着し幕内をねらう泉州山関がけいこをはじめると、場内は大いにもりあがります。この名古屋で晴れて新十両として化粧まわしと大銀杏の晴れ姿を見せるモンゴル出身 朝赤龍も汗びっしょり。
 土俵がはき清められ、朝乃翔関が締め込み姿で登場。「朝乃翔最後の土俵」に大きな拍手。胸にぶつかって行くのは、今春幕下十五枚目格付出しデビューの部屋の米びつ(ホープ)近大の後輩の朝三好。今や準年寄、朝乃翔親方が万感の思いで朝三好の強烈なぶちかましをガシッとうけとめ、巨体を土俵にころがし、深々と頭をさげて土俵をおりました。
 その後、一門の呼出し利樹(りき)さんによる太鼓の打ち分け。朝乃翔のしこ名が入ったゆかたをさらりと粋に着て、テテンがテンテンと相撲情緒ももりあがり、続いて髪結い実演。モデルがなんと朝乃翔ご本人。一門の中村部屋(元関脇富士桜)の床山さんが、心を込めて最後の大銀杏を結っていきます。
 番付と同じで、二枚目。男前に大銀杏がよく似合うと、改めて思いました。
 さらに一門を超えての友情で、ご自身も九月に断髪をされる元幕内の大至親方が名人芸の相撲甚句。突っぱり一筋、人また一途よ〜ア〜ドスコイドスコイ、小田原城下の快男児〜と唄いあげ、いよいよ断髪式。
 紋付羽織ハカマで土俵上のイスにすわり、215人のハサミをうけました。途中からはご本人、涙、涙。マス席の片すみで涙をぬぐう新妻みどりさん。
 ハサミを入れてもらいながら、ふと目をつむると、十年間の現役時代の事が次々浮かんで来たでしょう。
 平成四年春、幕下 付出しデビューから六場所連続勝ちこして十両昇進。本名の大澤から出身校の相洋高にちなみ朝相洋、新十両で九勝六敗、前途洋々に見えたものの、翌場所ケガで休場、そして幕下に逆もどり。一年後根性で十両復帰。
 それを機に、入門以来兄貴としたっていた(株)トキワの萩原重睦社長に朝乃翔というしこ名を名付けてもらい、五場所連続勝ちこして十両を卒業、晴れて幕内になってからは、32場所も続けて幕内力士として活躍、一門の横綱曙関の土俵入りの太刀持ちや露払いも出来、カナダやオーストラリア公演も参加出来た栄光の数々。
 そして平成九年春、白星がたった一つ足りなかったために三賞と三役(小結)をのがしたくやしさ。
 それよりも椎間板ヘルニアとたたかいながら、幕下、さらに三段目の土俵でチョンマゲ姿で若い衆を相手にしたここ一年半。個室を出て大部屋ぐらしの屈辱。しかし、多くの後援者、ファン、そして愛する人のために復活をめざした矢先の網膜剥離に見まわれての引退決意。幼い頃の母の思い出、高校大学のアマチュア相撲の青春時代……。
 止めバサミは師匠の高砂親方。場内からアサノショー、ゴクローサン、アリガトー!!
 進行役のNHK田代賢アナが、あの日私はラジオの実況でしたとある大一番を再現。平成九年春場所十二日目結びの一番で大横綱曙関を得意のつっぱりで電車道の大金星。座ぶとんが舞う中の勝ち名のり。
 気分も最高潮でもう一つの宴へ。ホテルニューオータニに約400人が集い、結婚披露宴。ともすれば大相撲界のしきたりを重んじた男社会のパーティーになりがちなところ、仲人の萩原ご夫妻のはからいで手作りのほのぼのとした披露宴でした。 今宮戎の「福娘」だった新婦さんを囲んだ元「福娘」達、その中には高砂親方のおかみさんもおられ、金星(美人)ぞろいにうっとり。
 私は河内音頭をサービスし(どこでもやるな〜)、一門の親方衆や関取衆にインタビューにまわりましたら、曙親方が「さっきも僕が負けたビデオが大画面にうつったり、あの金星あたえた事が一日中話題になりまいったよ」に大爆笑。
 若いお相撲さんが「号外号外」と「高砂タイムス」を会場に配り、見ますと今朝の挙式や断髪式の事がもう出ていました。発行人が「京野名幸人」さん、今日の仲人さんとはしゃれてまんなあ。やはり朝乃翔関のお人柄でんなあ。



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