
戎橋から素っ裸で道頓堀川に飛び込むサポーター
「フーリガンが来る!」と散々ウワサされていた今回のワールドカップ(W杯)。筆者もその事実を確認しようと、W杯の開催前から大阪梅田や神戸三宮の外人バーに足を運んだ。だが、心配された本場の暴徒化したフーリガンは現れず、お目見えしたのはナニワの街を占拠した和製フーリガンだった!?
(文・写真/庄村有治) |
友人の外国人ジャーナリストから「イギリスからタイ経由で30人のフーリガンがすでに大阪に潜入した」という情報をもらったときは、「げっ、ほんまかいな」とは疑いつつも、イギリス人がよく集まる梅田のバーへカメラ片手に行ってはみた。だが相手は警察に逮捕されることも恐れず決死の覚悟で潜入した方々である。「あなたはフーリガンですか?」と質問したところで、「YES」と答えるお人好しがいるわけでもない。
結局、ガセネタだと後で分かったものの、バーに集まる外国人全員がフーリガンに思えるほど、彼らの亡霊におびえた今回のW杯であった。
だが、いたのである。本家フーリガンこそ幻に終わったが、大阪ナニワの街には和製フーリガン、その名も"フーリチン"たちが暴れまくったのだ。
★フーリガンの語源とは?★
ところで、「フーリガン(hooligan)」という言葉の由来だが、これは人の名前だそうである。19世紀、ロンドン周辺で暴れた不良グループのリーダーに「フールハン」という姓の一家がいて、これが"フーリガン"になまったらしい。以来、「ならず者」「不良」を意味する英語となり、その後、一般的にはサッカースタジアムの内外で暴徒化する過激なファンを指すようになった。
特にフーリガンが有名になったのは、85年にベルギーで行われた欧州チャンピオンズカップの決勝戦。このゲームでは暴徒化したサポータにより、39人が死亡する惨事が起きている。実に恐ろしきはサッカーファンである。いくら阪神タイガースのファンが「下品」「危ない」と罵られようが、彼らは人殺しまではやらないだろう。
★飛び込みは「お約束」?★
さて、和製フーリガンたちに遭遇しようと筆者が足を運んでのは、大阪ミナミの道頓堀。グリコの看板や食い倒れ人形など、コテコテの大阪を代表する街だが、道頓堀川を真下に臨む戎橋(えびすばし)こそは、かつて阪神タイガースが優勝した当時、ケンタッキーフライドチキンの象徴・カーネル・サンダース人形が宙を舞ったという、伝説の"聖地"なのである。
時は「大阪決戦」となった14日のW杯チュニジア―日本戦。試合開始は午後3時30分だが、まだ4時過ぎだというのに戎橋付近には多くの人だかりが。ほとんどが若い男女のサポータたちだが、中には勤め帰りのサラリーマンや国籍不明の外国人サポーターたちもちらほらと混ざっている。
人だかりは少しずつ増え始め、日本チームが1点を決めた頃には、戎橋の上はすでに満杯状態。「トルシエ、ニッポン!」などと気勢を上げている。百人以上の警察官が慌てて道路規制に乗り出すが、時すでに遅し。橋の上はもうお祭り騒ぎ、まったく手がつけられない状態である。
さて、警察がニラミをきかそうが周囲の商店が迷惑顔をしようが、熱狂したサポーターたちの関心は唯ひとつ。誰が真っ先に道頓堀に飛び込むか、である。86年に阪神タイガースが優勝したとき以来、大阪では戎橋から道頓堀川に飛び込むのは半ば「お約束」。まっ「嬉しさのあまり、つい」ということなのであろうが、今回のW杯の場合、ただ飛び込むことだけが目的で騒いでいるのは明らか。周囲も嬉しくて騒いでいる面もあるのだろうが、飛び込み見物に来ているのは、これも明らかである。
★フーリチン、あえなく逮捕★
その"需要と供給"に最初に応えたのは、白いTシャツを着た20歳の男性。ずぶ濡れになって川から上がってくる彼をつかまえた。
「なんで飛び込んだの?」と筆者。いわく「なんか雰囲気に押されて…。飛び込まないといけないような気持ちになった」そうな。まるで集団催眠である。
これをきっかけに飛び込み行為は加速。ふと横を見ると、びしょびしょに濡れた若いアンちゃんが真新しい衣服に着替えている。「ダイブしたの?」と聞いてみると、「うん」。「着替え、持ってきたの?」「うん、帰りが困らないようにね」。
やっぱり最初から飛び込むのが目的らしい。なんで飛び込むのかも聞いてみた。「目立ちたいからかなあ。テレビに映りたいし…」。やれやれ、どうも日本が勝って嬉しいからではないらしい。
そうこうするうちに集団催眠も越境に入ってきた。ひとりで5回も飛び込む"スカイダイバー"。浮き輪持参で飛び込む金づち男。さらには女子高校生やサラリーマン、中には素っ裸のフリチンで飛び込む猛者もいた。ただ、かわいそうなのはこの"フーリチン"である。川から上がってきた場所は、なんと数十人の警察官が辺りを威圧する交番所の前。さすがに警官も見てみぬフリはできないのか、彼を公然わいせつ罪で逮捕した。ご愁傷サマである。
現場に大阪府警の広報官がいたので、飛び込みは罪になるのかを尋ねてみた。 「いやあ、明確な罪はないんですわ。だから飛び込み行為は危ないですよ、と訴えるのが精一杯。自殺ではないから飛び込む人を羽交い締めにして止めるわけにもいかんのですよ」と、困り果てていた。
★そこに川があるからだ・・・★
騒いでいる人にも話を聞いてみた。大学生の女性(18)は「お祭りみたいで興奮します。こんなに混雑する風景は初めて。オールナイトで騒ぎたい」とトランス状態。専門学校に通うという男性4人にも聞いてみた。「W杯でここまで日本が勝ったのは奇跡。喜ばないほうがおかしいよ」。もし負けていたらどうした、と尋ねて見ると、「うーん、カニ道楽のカニ人形の脚をへし折っていたかも」と恐ろしい返事が。
若いサポータたちの真中で「日本バンザーイ、トルシエ最高!」と叫んでいる50代後半のサラリーマンもいた。お父さんはサッカーファン? という質問に、なぜか「いや全然知りませんねん(笑)」。 ではなぜ騒いでいるの? 「いやあ、若い人に混じって騒ぐのは気持ちいいからね。こっちも若返るわ。あっはは」。 筆者は「バイアグラ」という言葉を思い出した。
この日集まった集団は道頓堀界隈だけで数万人。飛び込んだ人の数900人。痴漢や公然わいせつ罪などで逮捕された人は数名。神戸三宮では『ケンタッキーフライドチキン三宮阪急駅前店』のカーネルサンダース人形が"暴行"を受ける騒ぎがあったが、多くのサポータたちが旗を振りながら騒いでいるだけで、物を破壊したり喧嘩したりという行為はほとんど見られなかった。これは、意外なことにトルコに負けた時も同様だった。 フーリチンこそ現れだが、真性フーリガンは大阪にはいなかったようだ。
喜びの表現は人それぞれだが、なぜ人は川に飛び込むのだろうか。「そこに川があるから―」なのか、飛び込む行為の先にパラダイスが見えるからなのかは不明である。ただ確実に言えることは、道頓堀ダイバーたちが消え去ることはない、ということだ。 さて次に彼らを目にするのはいつのことだろうか。