[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2001年11月号


サラ金から銀行へ個人情報漏洩



 消費者金融、いわゆるサラ金業界が真っ二つに割れて泥試合を演じている。業界内部の問題なら我々も見過ごすこともできようが、サラ金利用者の個人情報が綱引きの材料にされているというから、これは看過できない事態である。消費者金融で借金しているという理由だけで、新車のローンが組めなくなったらどうだろう。住宅ローンが組めなくなったとしたら、生活設計も狂ってしまうのではないか。今回の記事は、決して他人事ではないことを知ってほしい

(文/庄村有治)


  

 昨年の12月8日、朝日新聞の朝刊紙面に、「意見広告」と題する全面広告が掲載された。
付いたタイトルは「お客様情報が『流出』しようとしています―」。
 このなんとも奇妙な広告を出したのは、消費者金融最大手の武富士。派手な音楽と美人ダンサーたちが妖艶な踊りを繰り広げる、あのテレビCMで有名な、サラ金の武富士である。その同社が出した意見広告には、次のような内容が記されていた。

〈武富士は「個人情報の秘密は守ります」という約束をしており、この情報が開放される場合は事前の同意が必要と考えます。しかし、いま(株)テラネットを通じて個人情報が銀行系などの各社に流出しようとしており、「自分の情報が他金融機関、特に銀行などに流出する恐れのあること」を懸念する多くのお客様の声が武富士に寄せられています〉。

 消費者金融の個人情報とは、すなわち借金情報のことだ。どこの消費者金融でいくら借りたかという、借金のある人間にしてみれば、多少後ろめたい情報のことである。 この個人情報はサラ金系の信用情報機関が膨大なデータを蓄えているが、それらがテラネットなる新興会社を通じて利用者が知らぬ間に銀行や信販会社へ筒抜けになると、武富士は訴えているわけである。
 では、いったいこれの何が問題なのか。それを指摘する前に、消費者金融業界や銀行などが持つ個人情報の仕組みについて、まずは解説してみる必要があろう。

 

◎高精度なサラ金情報

 消費者金融を利用した人はご存じだろうが、支店に借り入れの申し込みをする際、客は氏名や生年月日はむろん、職業や年収、家族構成、さらには持ち家か借家か、また他店の借入総額といった事細かな個人データを所定の用紙に書かされる。
 このデーターは、全国各地にある消費者金融系の信用情報センターなる組織に瞬時に蓄積される仕組みになっている。
 その信用情報センターは全国に33あり、武富士やアコム、プロミスなど約4800社の消費者金融業者が会員として登録。約1500万人分という膨大な個人情報を業界内で相互交換している。
 ところでかれらが持つこの個人情報は、おもに利用者の信用調査に使われるが、その精度は銀行や信販会社の信用情報機関に比べて、ピカイチだといわれている。では、何がピカイチなのか。ひとつは情報の信頼度の高さだ。この高さのおかげで、融資までの時間が極端に短いのである。
 消費者金融で金を借りてみれば分かるのだが、申し込みから実際の融資まで、ほんの1時間で終わってしまう。これが銀行やカード会社なら、早くて数日はかかるだろう。
 だが消費者金融の場合、客が店に足を運んだわずかな時間の間にも、この客は他店からいくらの借金があるのか、過去に延滞はなかったかなどの個人データを信用情報センターから取り寄せ、融資実行の可否を短時間で決めてしまうのだ。
 しかも銀行と違い、消費者金融業界は不良債権が比較的少なく、かつ高収益を上げているのだが、それもかれらの信用情報センターが持つ精度の高さによるとされている。
 むろん、この信用情報機関は消費者金融以外の業界も持っている。銀行なら、全国銀行個人情報センター(KSC)を、信販・カード会社はCICという具合にだ。ただ、この三者の間では不良債権や多重債務者の増加防止を目的に、不良顧客情報(ブラック情報)に限って相互に情報交換はされているが、優良顧客情報(ホワイト情報)の交流はされていない。 
 したがって、銀行に融資を申し込む客が、消費者金融やカード会社からいくら借りているかまでは、不良顧客ではない限り、銀行は知り得ない仕組みになっている(これは、消費者金融もカード会社も立場的には同じ)。
 だが、銀行の本音はといえば、消費者金融業界が持つ膨大な個人情報を、喉から手が出るほど欲しいのである。なぜか。理由は簡単。消費者金融は儲かるからだ。武富士やアコムなど大手消費者金融4社の昨年9月の中間決算を見ると、いずも増収増益。不良債権も銀行に比べ、著しく低い。倒産したら多額の不良債権を抱え込む企業融資と異なり、小口だがちゃんと返済してくれる個人融資の方が、銀行にとってはるかに安全で儲かる商売なのだ。

 

◎銀行が新たな貸し渋りを

 去年あたりから都市銀行は合併を繰り返し、超大型の銀行が続々と誕生しているが、内実は不良債権の屍に苦しんでいるのが現状だ。しかも、経済の低迷で多くの企業は設備投資を控え、銀行が金を貸せるような企業は一握りしかない。そこで、銀行が目を付けたのが個人金融、すなわち消費者金融の分野なのである。
 昨年、三和銀行はプロミスと組んで「モビット」を、旧さくら銀行(現三井住友銀行)は三洋信販と「さくらローンパートナー」といった消費者金融を設立したが、その理由はいま述べた通りである。
 だが、銀行が個人金融の分野に進出するために欠かせないのが、消費者金融業界が持つ膨大な個人情報である。もっとも、当初は消費者金融業界も自らのメシのタネである個人信用情報を銀行系のサラ金に売り渡すことには強く反対していたが、しばらくすると、銀行側に立つ派と反銀行派に分裂。銀行派は「テラネット」という別会社を設立し、昨年12月から銀行系の消費者金融などに対して、ブラック情報以外にも優良客の情報(ホワイト情報)を有償提供し始めた。
 冒頭の意見広告にもあるように、武富士は「銀行系などの各社に流出することを強く反対する」とし、同社を含む消費者金融21社とともに東京地裁へ情報提供の中止を求める仮処分申請を行った。
 筆者の意見を述べれば、武富士の主張は正論であろう。テラネットなる会社を通じて客の同意もなしに無断で銀行系のサラ金に個人情報を売り渡すのは、法的にも道義的にも問題ありと考えるからだ。 
 しかし一番重要なのは、情報が母体銀行に流れることで、銀行は客の選別化を進める、という点である。銀行はサラ金未経験者の優良客だけを囲い込み、既存利用者に対しては住宅ローンなどの融資を拒否する事態も起こりうる。
 テラネットや銀行は「銀行系サラ金が得た個人情報が銀行本体に流れることはあり得ない」としているが、昨年12月4日付けの産経新聞は、(銀行は)「『顧客の同意がなくても、グループ会社間で個人情報を共同で利用できる』よう政府に要望していた」と報道、銀行の本音をあぶり出している。繰り返しになるが、情報が銀行に流出することで、銀行による個人への新たなる貸し渋りが始まる点が問題なのだ。

 

◎漏れていた個人情報

 武富士などはテラネットから銀行へ個人情報が漏れる危険性を訴えているが、実は消費者金融の個人借金情報はすでに漏れていると見た方がよい。「既存利用者は住宅ローンなどの融資を拒否する事態も起こりうる」と書いたが、その兆候はすでに見え隠れしているのだ。
 筆者は最近、『消費者金融利用により銀行融資を断られた具体例』と題したペーパーを入手した。A4の紙に書かれたこの書類には、複数の消費者金融に届いた顧客の"苦情"がまとめられている。全部で約20ほどの事例が記されているが、その中身は、「銀行に住宅ローンの申し込みをしたら、消費者金融から借り入れがあることを理由に、融資を断られた」というものがほとんどだ。 

 その怒りの声を一部紹介しよう。

 「勤務先の上司に、私がサラ金を利用していることがバレた。上司は取引銀行から私の情報を入手したらしい」

 「中国地方の某地銀にマイカーローンの融資を申し込んだが『消費者金融○社から○円の借入がありますね。完済しない限り融資は無理です』と担当者から言われ、急いで消費者金融の融資分はすべて解約した」

 「先日、某都市銀行に住宅ローンを申し込んだが、後日、審査担当者から電話があり、『貴方は消費者金融で借入金額が年収と同じくらいあるので、融資は無理』と言われた。自分からサラ金に借金のあることは話していないので、これは情報が漏れているなと思った」

などである。むろん、かれらは支払いが滞っている不良客ではない。全員、月々ちゃんと返済している真面目な客である。
 いまでも消費者金融の窓口にはこのような事例が数多く報告されていると聞くが、筆者は"情報漏れ"の被害に遭ったという複数の人物に直接話を聞くことが出来た。
 その中のひとり、都内に住むAさん(30代の男性)の場合も内容は上記とほぼ同じであった。会計事務所に勤めるAさんは、都銀2行から住宅ローンの融資を断られたという。
 「私の場合、F銀行とA銀行へ住宅ローンの申し込みをしましたが、最終段階になって融資を断られました。理由を尋ねると、サラ金2件から総額150万円の借金があることを指摘されました。もちろん、自分からサラ金の借金の件は話していませんし、銀行もどこから情報を取ったのかは教えてくれませんでした」とAさんは憤慨した様子で語ってくれた。
 さらに、「銀行側はサラ金の借金を整理すれば融資には応じられると言うので、親戚から金を借りて、なんとか完済しました。その後、(消費者金融系の)信用情報センターに出向き、完済したことを証明する書類を受け取りに行きましたが、その際、これまでの出来事を担当者に話すと、驚いたことにその担当者は『銀行から問い合わせがあれば、事情によっては件数・金額くらいは話します』」と平然と語ったのだという。
 この説明に納得できないAさんは「客の同意もなしに教えるのか」と迫ったところ、その担当者は言葉に詰まり、お茶を濁したというのである。 筆者は他に中国地方と関西に住む人物とも話をしたが、内容はAさんや入手ペーパーの具体例とほぼ同じ。むろん、名前の上がった銀行や個人情報センターにも確認したが、いずれも「情報が漏れることなど、絶対にありえない話です」と完全否定している。だが、消費者金融の借金情報が銀行などへ漏れていることは、どうも間違いなさそうである。
 ある消費者金融の関係者は「苦情が増えだしたのは昨年末から。実際は何百件とあり、対象となる銀行も都銀から信金まで幅広い」と苦り切った表情で語っていた。
 ただ、状況から見て、活動を開始したばかりのテラネットから情報が漏れているとは考えにくい。では、銀行はどのようなルートを使って情報を入手したのだろうか。かつて政府系の銀行に勤務していた人物が筆者にそっと打ち明けてくれた。 「消費者金融の個人情報が銀行などへ漏れているのは事実です。その理由は、不良債権に悩む銀行はこれ以上の損失を出したくないからです。つまり、サラ金から借入があるなど、少しでも懸念材料のある客を敬遠している」からだと、その人物は説明する。では、いったいどのような手段で個人情報を入手するのか。
 「大手のサラ金と違い中小規模のサラ金業者は、銀行から融資を受け、その資金を客への貸付に回しています。いわば中小サラ金にとって銀行は、資金の源となる大事な取り引き相手なのです。その相手から『○○さんの情報が欲しい』と頼まれると断りにくい現実がある」とし、消費者金融業者は違法と知りつつデータバンクにつながったコンピュータを操作し、個人情報を入手。銀行に横流しするのだという。
 確かに経済原則からいって、サラ金利用者に銀行が融資を渋る気持ちも一応は理解できる。多重債務者をこれ以上増加させないという主張も一理あろう。が、それならそれで、立法化を目指すなど合法的な手続きを踏んで情報を取ればよいのだ。ただでさえ個人情報の漏えいが問題になっている時期である。組織的な行為とは思いたくないが、一部の銀行が違法な手段で個人情報を入手している行為は、銀行の信用をさらに失墜させるものだろう。

 

◎問われる銀行のモラル

 以上の情報漏洩はテラネットによるものではなく、おそらく銀行側のモラルの低さによるものと考えられる。ただ、銀行が中小の消費者金融業者に圧力をかけてまで、個人情報を奪取する本音が、「不良債権に悩む銀行はこれ以上の損失を出したくないから」にあるのなら、テラネットの存在は、銀行本体に借金情報が流れるハードルをさらに低くしているといえよう。なぜなら、銀行は不正手段を使うまでもなく、テラネットに参加した系列の消費者金融を使えば、簡単に借金情報が手にはいるからである。銀行のエゴと政府の無策で個人情報が無断で売買されるこの国に対してこそ、我々は怒りを向けるべきなのかもしれない。



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