[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2001年6月号


上海姑娘(クーニャン)がやってきた。(中)

ブッシュをどう思いますか、 私はあの人嫌いです!
―米・台を論ずる真剣な眼差し

 上海から我が家に、女子大学生がホームステイにやって来た。「お兄さん(彼女たちは年上の私のことをそう呼んだ)。お兄さんはどこの国に行かれましたか」。答えに窮していると母が、「この人、アメリカには何度も行ってはる。台湾も…」と代わりに答えてしまった。ああ…。私は彼女たちと徹夜になっても語り明かそう、 と覚悟を決めた。 (山脇 信成)

歓迎会の着付けデモンストレーションで着物姿の留学生たち
=「池田ホームステイ友の会」発行の『国際交流・友の会だより』第45号から

 さて、今回同済大の一行が搭乗して来た中国東方航空の上海―関西の往復のチケット代金は約35000円。片道の飛行時間が2時間未満なのと中国の貨幣価値から考えると私の感覚から言えばかなり無茶苦茶な値段なのだ。おまけに7泊8日という短い日程の中で彼女たちが観光や見学、そして、レセプション等で訪れた個所は15ヶ所を軽く超えてしまっている。


● 旅行のみのビザまだ難しく ●

 訪問するところなんて何も決めずにただホテルだけを予約してロスアンゼルスに行って10日間以上遊んで来るような旅行がすっかりと身に付いてしまった私には、今回の同済大の日程はどうしても理解できない(はっきり言ってホストファミリーもとてもせわしない思いをする)。
 3日目の夜にうちの家でOさんところと合同でバーベキューをしたので、食事の後、そのことに関して少し話してみた。偶然、その時私の横に座ったえぃえぃが「私にとっては、これがはじめての海外なんです。中国の国はまだ旅行目的だけではビザの発行は難しいんです」と。ふ〜ん、なるほど…。
 そのことばが返って来る前に私が「僕が上海に行く時はビザが必要なの?」と聞いてもなかなか通じなかった。これも笑いのネタみたいな話だが3人のうち誰だったか忘れたが「上海でもVISAカードを使えるお店はたくさんありますよ」と教えてくれた。
 話は少しずれてしまったが、要するに中国では、個人的な海外旅行、というのはまだまだ難しいようだ。しかし、実際に13億人の国民に自由渡航を認めたら世界が少し慌てるだろう。
 海外旅行がはじめてなのはえぃえぃだけではない、もちろん、ふぁふぁ、しょうしょうもはじめての日本、はじめての海外なのだ(私と違って恐らく3人とも日本語を話している程度の英語もできると思うのに、私に言わせれば、もったいないなぁ)。


● お兄さんはどこの国に? ●

 「お兄さんはどこの国に行かれたんですか」と私にえぃえぃが聞いた。頭の中ではすぐに「アメリカと北欧と台湾」と答えていたのだが、ちょうど、数日前に海南島にアメリカ軍の偵察機が緊急着陸したばかりだし、中国と台湾の関係は言うまでもない。
 私が言葉にするのを少しためらっていたら、隣で私たちの会話を聞いていた母が、私の言語障害の影響で私がどもっていると(差別用語ですが使用します)勘違いしたのか、「この人は、いろいろと行ってはるよ。アメリカ、北欧、台湾。特にアメリカには何度も…」と全部代わりに答えてしまった。 
 あぁ、言うてまいよった。である。えぃえぃとふたりで話していたはずなのにふぁふぁ・しょうしょうのふたりも素早くそのことばに反応して私に注目してくれた。もう、こうなりゃ、何でも俺の知っていることは答えよう! と腹を括った。
 「お兄さん、ブッシュをどう思いますか、私はあの人は嫌いです。とてもズル賢い人だと思います。クリントンは思い遣りがあったし、ブッシュパパはとても家庭的だったと思います。でも、今のブッシュは好きでありません」と、まず、ブッシュ大統領が話題に上った。


● 領空侵犯、えひめ丸、沖縄… ●

 無理もない、領空侵犯をした上に中国の国土に緊急着陸。日本に対してもえひめ丸を沈め、さらに沖縄でまた事件があった直後だ。「確かにこれだけトラブルが続くとねぇ。ブッシュさんは能力が足りない、ということになるよなぁ。日本の政治評論家やジャーナリストの間では君たちの言うブッシュはズル賢い、というより、能力に欠ける、とか、大阪弁で言う、アホ! といった声の方が多いよ」と答えた。
 まぁ、私自身も在任中のクリントンの不倫揉み消しのうまさをある意味では高く評価?している。
 「お兄さんは何度もアメリカに行かれているのは、アメリカのどういうところが楽しいのですか」と私への質問は続く。
 「そうだなぁ、僕はカリフォルニアにしか行ったことがないけど、とにかく人の表情が明るいのが好きだし、あのバリアフリーの街並みは自分みたいな身体障害者にとってはとても自由だし、それに呑みに行ってもすごく安いから俺のような酒呑みには最高なんだ。もっとも、ロスアンゼルスは食べ物はおいしくないけど、もう少し北に行けば最高だよ」と私は自然に思ったままのことを軽くことばにした。


● ライバル意識に満ち溢れ ●

 しかし、彼女たちには私が言ったことばは決して軽いことばではなかったようだ。
  「中国は今、国を揚げて街のバリアフリー化に一生懸命に取り組んでいます。確かに地方の街は遅れていますが、北京・上海といった街はお兄さんみたいな身体に障害を持った人に来て頂いてもきっと楽しんでもらえると思います。中国の食事はおいしいですよ」と彼女たちのことばは真剣そのものである。
 その時の彼女たちの眼差しはアメリカに対するライバル意識に満ち溢れて輝かしかった。そして、アメリカに対等に物を言う、ということをついつい忘れがちになっている私たち日本人の心にはとてもそのことばが刺激的に聞こえた。
 海外旅行が大好きな私は迷うことなく「君たちが学生の間に、ガイド代がタダの間に絶対に上海に行かせてもらうよ。約束します。案内をよろしく!」と言った。もちろん、彼女たちは満面の笑顔で「是非、お越しください。ご案内します」と言ってくれた。
 さぁ、この辺で今夜の討論会は終了かなぁ、と思っていたらまたうちの母が「兄ちゃん、去年の台北の食事は思っていたよりおいしかったし、あんたあの足ツボマッサージ気持ちよさそうだったやん!」のひとこと。あぁー、どこまで世界情勢に疎いオカンなんだろう、と思いつつも、えぃ、もうこうなったら徹夜になっても私の思ったままを彼女たちに語り明かそう、と覚悟を決めた。
 今から思えばもう少し母が世界情勢に詳しかったら私と彼女たちとの会話はほんの挨拶程度で終わっているだろう。そのことを考えると私は彼女たちと熱い会話ができたということに関して母に感謝しないといけない。
 「お兄さん、台湾に住んでいる人はどうでした? お兄さんのような身体に障害を持った人にやさしかったですか」


● 来た来た、「中国は一つ」 ●

 早速、来た、来た。彼女たちにとってはあくまでも「台湾に住んでいる人」なんだ。
 もう開き直っている私は「そうだなぁ、街の設備なんかはカリフォルニアと比べたらまだまだだし、やっぱりアジア人は人を楽しますのがはっきり言ってうまくない。でも、台北の街で車椅子に乗った僕が段差なので困っていたら黙って手伝ってくれて黙って消えて行く。結構、親切な人多かったよ。アメリカなんかはロスアンゼルスというひとつの街でいろんな人たちと触れ合うことができるからおもしろいよ。やっぱり華僑も含めてアジア人は表現が下手だし、人を笑かすことが苦手だよ。だから、ロスアンゼルスでタクシーに乗る時なんかは、ラテン系のドライバーに出会いたいという気持ちなんだ。ラテン系の人たちは人を楽しますのがとてもうまいからネ。ロスアンゼルスやサンフランシスコにはチャイナタウンがあることはもちろん知っているだろう。中国人や韓国人は静か過ぎてなんとなく淋しいんだなぁ。アジア系の人たちもやさしくていい人が多いんだけど、どうも明るく楽しくという表現ができないんだなぁ」。
 と、まぁ、この辺の話題はにこやかな顔で聞いてくれていた。
 「お兄さん、私たちは中国と台湾はひとつの国だと思っています。お兄さんはどう思われますか!」
 来た、来た。ついに来ましたその質問が、「ドイツも統合したことだし、中国と台湾も一緒になれないことはないと思うよ。しかし、僕の今の印象では中国と台湾は別の国だと思っている。国家体制も違うし、貨幣価値も違うから。統一するためには長く時間をかけて話し合いをしなければならないと思うよ」と、やっぱりついつい少し不透明な発言になってしまった。


● おいおい、そら違うやろ ●

 しかし、彼女たちは私のことばを、統一できる、というふうに自信を持って受け取ったらしく「そうですよ。香港とマカオも中国に帰って来てうまく行ってますから」と隣にいたえぃえぃは目を輝かせながら言った。
 「おいおい、イギリスやポルトガルが中国から半ば強制的に借りていた香港・マカオと台湾とではずいぶん事情が違うだろう」ということばが私のノドまで出ていたのだが、そのことばは飲み込んでおいた。(つづく)



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