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部屋の板間の断髪式、「7年間、お疲れさま…」 北勝峰の門出に私もハサミを入れた |
3月26日月曜日、北勝峰の断髪式は2時頃からだというのに、「最後やから大銀杏を結うとこから写真撮ってやー」と彼に言われた私と友人は、会社を休んで昼前からかけつけた。 ● いつもの場所後の光景 ● 春場所千秋楽翌日の八角部屋は、いつもの場所後の光景だった。バスタオル一枚でウロウロしている力士。寝転んで漫画を読みふけっている力士。勝ち越したので昨夜は飲み明かし、二日酔いで寝込んでいる力士。中学を卒業したばかりで、まだまだ子供のようにじゃれ合っている新弟子たち。北勝峰が今日、ここで断髪を行うとは、私にはまだ信じられなかった。 断髪式というものに初めて行ったのは、平成5年1月30日、『横綱北勝海(現・八角親方)引退襲名披露大相撲』だ。会場は国技館。友人の紹介で受付をさせていただいた私は、来場されるお客さんの多さに、まず驚いた。そして、来るわ来るわのお関取衆や有名人たち。分厚くなったご祝儀袋もたくさん受け付けた。土俵上では幕内力士の相撲があり、横綱も、仲良しでライバルだった寺尾関と最後の一番を取った。そして、多くの方たちが土俵上で横綱の髷にハサミを入れた。 お関取を務め上げ、お客さんを呼ぶことのできる力士は、このように国技館で華々しく最後を迎えることができるが、北勝峰の断髪式は部屋の土俵上ではなく、土俵の上に張った板間の上であった。 お昼頃、八角部屋の広間へ北勝峰が現れた。八角部屋には床山さんがいないので、東関部屋の床泉が髷を結ってくれる。幕下力士でも十両で取組がある時は、関取に敬意を示し大銀杏を結って相撲を取る。彼も何度か大銀杏で相撲を取ったことはある。が、今日は、彼自身のために結う最初で最後の大銀杏。アタマをやってもらってるあいだ、彼はどんなことを考えていたんだろうか。 結い上がった最初で最後の大銀杏は、とても立派なものだった。 ● 八角親方の留めバサミ ●
部屋の力士たちにハサミをいれてもらい、声をかけてもらってるうち、彼の目から涙があふれる。彼の旅立ちを祝う日だから、泣かないでおこうと思っていた私も我慢ができなくなり、カメラマンという立場も忘れて泣いてしまった。 部屋の仲間達も涙ぐんでいた。日頃はベタベタすることもなく、我関せずって感じの男の子達の、友情というか戦友のようなものが感じられて、また泣いてしまう。 八角親方の留めバサミが入り、式は終わった。涙でグシャグシャになった北勝峰の顔が忘れられない。 「7年間、おつかれさまでした」 私が北勝峰と最初に出会ったのは、彼がまだ髷も結っていない新弟子の頃だ。友人を介して八角部屋へ何度か寄せていただくうちに、何故かしら、彼と仲良くなった。筋肉質のがっちりした体格で、一見したところイカツク見えていたが、話してみると気の優しい「エエオトコの子」だった。 ● 気の優しいエエオトコ ● 大阪場所だけではなく、国技館をはじめ地方場所から巡業まで観戦に行く私たちと、彼は時間を割いて会ってくれた。自分の相撲だけでなく、雑用や後援会者とのつきあいで疲れていただろうに、相撲のこと、おもしろかったこと、彼女のことなど、いっぱい話をしてくれた。 北勝峰の相撲は、師匠譲りの気風のいい突き押し相撲。相撲ぶりだけでなく、風貌も北勝海に似ているとよく言われていた。そして、いつの頃か、腰痛まで師匠から譲り受けてしまった。腰が痛くて稽古も出来なくなった彼は、八角親方も現役時代にされていた『冷凍治療』を受けるため、新潟まで何度か足を運んだ。『冷凍治療』とは、マイナス120〜130℃の冷凍室内に入り神経を麻痺させ、そのあいだにトレーニングを行うというものらしい。力士が2人で冷凍室に入ったときは、彼らの体温で、室温が20℃ほど上がったそうだが…。 ● 勝ちっぱなしのビデオ ● 幕下以下の力士は、15日間で7回相撲を取る。4回以上勝てば勝ち越しだ。毎日取組があり、新聞に取組が載るお関取とは違い、次の相撲がいつなのか一般人にはわからない。北勝峰が幕下に上がった頃から、BS放送を録画・編集し、『今場所の北勝峰』ビデオを作り始めた私のため、彼は次の割り(取組)がわかると「明日は○○と取組です。がんばります」と連絡をくれるようになった。 平成11年九州場所で彼は幕下全勝優勝を成し遂げた。土付かずの勝ちっぱなしの『北勝峰』ビデオだ。編集したビデオはもちろん彼にも送ったが、見終わった彼は実家へ送っていたようだ。 北勝峰から引退することを告げられたのは、春場所も始まってからのことだ。初場所後、腰痛がひどくなった彼は自分の中で葛藤した。今までにも「辞めたい」と思ったことはあるかもしれない。でも今回は「気力が無くなった」と言う。引退を決心するまで座っていることもできなかった腰痛が、決心をして親方に話をした後、嘘のように痛みが和らいだらしい。肩の重荷がとれたのだろうか。 ● 整髪、シ、シブイっす ●
今週末(5月26、27日)、私は東京へ行く。大相撲夏場所千秋楽観戦も目的ではあるが、一般人になった北勝峰、いや元・北勝峰に会うためだ。相撲を辞めた彼は実家のある京都へは戻らず、東京で仕事を見つけて頑張っている。力士のときより早寝早起き、もちろん昼寝もせず、体力の要るハードな仕事だが毎日が充実していて楽しいと言う。新しい世界でも大丈夫だろう、相撲の世界で最後まで自分と戦ってきた彼だから。 シブすぎる髪型になったあと、改めてカットをし直したらしい。チョンマゲに着物姿というイデタチから、今時の若い男の子に変身した彼と会えるのがいまから楽しみだ。
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