[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2001年1月号


「麗子肖像」を3億6千万円で落札!

購入者はJリーグチームの大スポンサー

 不景気で多くの企業はまだまだ青息吐息だというのに、昨年12月初旬、なんともバブリーな話が世間を賑わした。オークションにかけられた国内絵画が、過去最高の3億6千万円で落札されたというのだ。問題の絵は、日本の近代西洋画の巨匠で知られる岸田劉生 作の「麗子肖像」(写真上)。中学校の美術教科書にも掲載されている超有名作品だ。
バブル時代を彷彿とさせる、なんともゴージャスな話題。筆者はその購入者を取材。当の人物、サッカー・Jリーグ、某チームの大スポンサーでもあった。(庄村有治)



★購入者は上場企業の社長★

 この「麗子肖像」を購入したのは、東証1部上場企業で広島県に本社を置く(株)住建産業。昭和10年創業の同社は、住宅用の木質建材を扱うトップメーカーである。
 家庭用のフローリング床材やドアなどの製造を手がけ、従業員約1800名、年商約650億円にも達する地元でも超優良企業として知られている。絵を落札したのは、同社の中本利夫社長(72)。
 二代目社長で今日の同社の礎を築いた立身出世の人物である。決してバブル紳士ではありませんので、念のため。
 「我が社は本業以外にスキー場や美術館を所有するなど、様々な顔を持っていますが、私自身、あなたは何者かと問われた場合、迷わず林業家と答えます」 こう語る中本社長の趣味は、もっぱら山歩き。自然や植林が好きな中本氏は 休みになれば近くの山々の木を見て回る。「木」という本まで出版しているほどだ。ゴルフなどはやらないという。
 社長がいう「様々な顔」はスキー場ばかりではない。じつは、Jリーグのサンフレッチェ広島の大スポンサーでもあるのだ。
 「ウチは後発メーカーですから商品力で勝負しています。品質には絶対の自信がありますが、これまでシェアNO1の企業に比べてネームブランドで負けるところがありました。そこで、ネームバリューを上げるためにJリーグのスポンサーになろうと言い出したのは、専務の息子でした。私は、『ああ、そういうものか』と思った程度でしたが、専務に言いくるめられ、結局スポンサーになってしまいました(笑)」。
 94年にサンフレッチェ広島のスポンサーになった同社は、年間1億円を拠出。押しも押されぬ大スポンサーである。が、PR効果はあったようで、地元での知名度が向上したことで就職希望者の数も例年の3倍になり、業績も大幅アップした。もっとも中本社長自身、サッカーには「さほど興味はない」のだとか。


★落札価格4億までは覚悟★

 さて、問題の「麗子」の絵である。都内でオークションが開かれたのは昨年12月2日のこと。会場には中本社長自身が足を運び、落札に参加した。
 「絵は大好きで、絵画や美術品などの収集は昔からやっていました。ウチは財団法人・住建美術館という美術館も持っているのですが、そこに展示するためです。この絵は前から欲しいと思っていました。売りに出れば買おうとも。そこにあのオークションです。勇んで出向きました。最初の売り出し価格は2億5千万円。そこからスタートして1千万円単位で値が吊り上がっていくのです。3億円まではアッというまに値が付きましたが、そこからはジリジリといった感じでしょうか。4、5人の方が残っていたようです。ただ、3億4千万円まで残っていたのは2人。じつは私ではないのです。私は最初から手を挙げていません。最後に勝負をかけよう思ったからです。3億5千万円の値が付き、これで落札かという時に、最後尾にいた私が初めて手を挙げました。会場にいた全員が、いったい何者か、という顔つきで後ろを振り返りましたね。その価格は3億6千万円でした」
 3億5千万円での落札に失敗した人物は最前列に陣取っていたが、中本社長に絵を買い取られた瞬間、どんな顔だったのかは、前をじっと見ていたので分からず仕舞だったとか。社長いわく「マラソンでいえば、グラウンドまで単独で走ってきたランナーが優勝を確信してゴール寸前で後ろを振り返った瞬間、見慣れぬランナーが抜き去って行った感じでしょうね」と、豪快に笑う。
 冒頭でも述べたが、この価格は日本絵としては過去最高の落札額。もし3億6千万円でも競っていたとして、いったいいくらまでなら購入を考えていたのだろうか。
 「4億円までは覚悟していました。それ以上になると、うーん、ちょっと考えますかね(笑)」
 バブル全盛のころ、ゴッホの絵を100億円で購入した大企業のワンマン社長が、「オレが死んだら棺桶に絵を入れて、いっしょに焼いてくれ」と宣い、世間から顰蹙を買ったことがあったが、この「麗子肖像」、失礼ながら中本社長が死んだらどうなるのだろう。まさか「棺桶に入れろ」とおっしゃるのだろうか。
 が、「それは絶対にありません」と社長は断固否定。
 「むろん後生にまで残すつもりです。美術史的にも価値あるものですから、決して私物であってはいけません。ただ善し悪しは別として、美術品もお金と同じで、『天下の回りもの』といった性格を持ちます。時とともに所有者は変わります。その意味では、いまは弊社がその時期を担っていると考えてください」
 ところで、絵は同社の美術館で一般公開されるが、その時期は今年4月の予定とか。
 最後に、今後も超有名絵画のオークションがあれば参加するかを尋ねてみたが、「うーん、それは未定ですね」と社長は笑うのであった。



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