[ 目 次 ]      月刊・お好み書き 2000年10月号


プライベートライフ第一の社会基盤

野の花の国ヨルダンから(中)
−GDPは日本の20分の1だけれど。本当に「豊か」なのはどっち?−


 ここヨルダンでは、一般的な家庭のお父さんは(時には、お母さんも)朝8時ごろ仕事に出かけ、子供は学校へ出かけます。職場では10時か11時ごろ朝ご飯の時間があります。ホブスと呼ばれる平べったいパンにチーズやオリーブ油やホンモスと呼ばれるヒヨコ豆のペーストをつけて、甘い甘いシャイ(紅茶)を飲みながらみんなでわいわい食べます。今回は、典型的なヨルダン人の生活をご紹介しましょう。(津田加奈子・アンマン)



★毎日「お昼寝」タイム★

 職場での朝食の後、日本でいうお昼休みはなくて、お父さんやお母さんの仕事が終わるのは午後2時〜3時。みんな、家に帰ってきてお昼ご飯を一緒に食べます。基本的にはこのランチタイムがものすごく豪華だし、食べる量も一番多い。 そして食べ終わった後は「お昼寝タイム」。スペインの「シエスタ」みたいなものですね。4時ごろから7時ごろまで寝ます。どうして、こんな時間に寝るのかと不思議に思うかもしれませんが、その後があるからです。8時か9時ごろから友人宅に招かれたり、自宅に親戚を招いたりして、延々とおしゃべりタイムが夜12時ごろまで続きます。
 もちろん、家でなくても近所のレストランに集まる場合もあり、街中は、夜中でもタクシーや車で、道路は込み合っています。特に週末は、深夜にわたって、大勢の人が大人から子供までにぎやかに、大きなアラビア音楽と電飾のまぶしい屋外レストランで涼しい夜を過ごしています。

ヨルダンの「アヤ」ちゃん。つぶらな瞳がかわいい女の子



★夏が結婚式のシーズン★

 

 特に私が滞在中の夏は、結婚式シーズンということで(ここでは、冬に結婚する人はいません。)毎晩のようにどこかで結婚パーティがあり、きれいにデコレーションされたリムジンカーを先頭に何台もの車が列をなし、大きなクラクションをビービ−とならせながら花嫁を迎えに行くような風景を何度も目にしました。
 ヨルダンの人はとても家族・親戚を大切にします。なぜならこの家族・親戚のネットワークが、人々を守る役割を持っています。結婚前の男性も女性も一人暮らしをしているというようなことは非常にまれであり、何歳になっても結婚するまでは親元で生活するほうが良いとされています。また、結婚に関しても、たとえば、結婚前の女性がお付き合いしても、まず、だまされることなく真剣にお付き合いし、結婚できるのは親戚からの紹介、いわゆる「お見合い」であることが多いといわれています。
  

誕生日パーティーに集まった人達。これみーんな親戚



★お見合いの相手は親戚★

 ただし、日本のお見合いとは少し違い、紹介される者同士が親戚であるということ。婚期の娘をもった両親は「今度あなたが結婚することになる人はお母さんのお兄さんの奥さんの弟さんの息子さんだし、きっとあなたを幸せにしてくれるよ」と娘を説得するわけです。結局親戚間の絆が強いことにより誰の面子もつぶさない、つぶせない、ということが女性を不幸から守ると思われていることは確かです。
 しかし、昔から親戚間の結婚が、一般的であるアラブの習慣上、近親間結婚による障害児の発生率がこのあたりでは多いことも知られています。最近は女性が大学へ進学したり、仕事を持ったりすることになり、いわゆる恋愛結婚も、増えていますが、保守的な両親からの理解を得て、実際結婚できるまで、5年もかかったという話も聞きます。



★「アラブ人は働かない」?★

 日本人や欧米の人々が「アラブ人は仕事をしないで遊んでばかりいる」と批判することを耳にしますが、私は果たしてそうかなあと疑問に思います。もちろん、十分働かないことによって、自国の経済をまかなえず、他国から借金をしたり、援助をもらったりしていることは、あまりよくありません。
 しかし、このように結婚、子供、家族、親戚という、いわゆるプライベートライフを重要にする社会基盤がこの国には存在しており、仕事は仕事、プライベートはプライベート、寝る時間は寝る時間とわりきって、生活をエンジョイしているヨルダン人の暮らしのほうがよほど豊かにおもえます。
 プライベートな時間を要求することがまるで「悪いこと」のようで、家族との時間を犠牲にし、寝る時間を削って健康を害してまで働く日本人の皆さん。「まめで勤勉な民族」と呼ばれること。それもいい。経済指標では、一人あたり年間GDPが33,000ドルで世界一。それもすばらしい。(ちなみに、ヨルダンの年間一人あたりGDPは1,500ドル。中所得国の中でも低所得国に近い額である。)

証券マンのお父さんは忙しいけれど家族との時間を大切にしている


★日本の「幸せ度」は?★


 しかし、いくら経済的に裕福になったとしても、家庭崩壊という大きな犠牲を生み出し、地球上に住むすべての人に平等に与えられている24時間を有効にエンジョイできていないとすれば、このヨルダン人を含むアラブの人に比べて私たち日本人はとてもとても貧しい人生をすごしており、失っているものは大きいのではないかと感じるのは私だけでしょうか?
 もし、この世に「人生の幸せ度」を示す指標があったら経済的にトップにいる日本は全世界のうちいったいどのあたりに位置するのでしょう?

歳をとっても仲のよい老夫婦



□□「やばい」の語源はヨルダン語?□□


 日本では、ピンチ状態のときなどに「やばい」といいますよね。これは正式な日本語ではないでしょうし、どういう語源なのかわかりませんが、皆さんも「やっばーい!」っていったことありますよね。これが、おもしろいことに、ヨルダンでよく「ヤッバイエー」と人々が言っています。まさしく日本人が使うのと同じタイミングでつかわれていて、とても愉快に聞こえるし、最近では自分でも「ヤッバイエー」と現地の人と一緒に話すときに使っています。アラビア語の場合は語源がはっきりしていて、直訳すると「OH MY FATHER」と言っています。英語で言うと「OH MY GOD」というかんじでしょうか。正式なアラビア語では「ヤー、アビイ」でそれがヨルダンなどで話されている方言では、「ヤッバイエー」となります。もしかしたら、日本語の「やばい」はアラビア語起源だったりして?!
 それから、他にも日本人が覚えやすいアラビア語としては、「あなた」は「アンタ」。「問題」は「ムシケラ」。だから, 「アンタ、ムシケラ」というと「あなたは問題よ」ということになります。
 また、「アヤ」という女性の名前もあります。発音は「アッヤ−」というかんじですが、イスラム教の聖典であるコーランの「一文=ONE SENTENCE.星マークから星マークまで」」という意味だそうで、とても敬虔で美しい名前だそうです。



津田 加奈子さん 近況

もう今はすでに日本に帰国されている津田さんですが、原稿をくださった時点では、まだヨルダン滞在中でした。電子メールでインタビューした中からいくつかお伝えします。
 −いつヨルダンを発って、いつ日本帰国予定ですか。
 9月25日にヨルダンの首都アンマンを出発、ドバイ(アラブ首長国連邦)とクアラルンプール(マレーシア)を経由して、成田に着くのは29日の夜です。 ちなみに航空便は「エミレーツ航空」( アラブ首長国連邦の便)。一番安い格安チケットで。値段は往復約15万円でした。エミレーツ航空なんて初めて聞く方もおられるかもしれませんけど、世界有数のなかなかハイレベルな飛行機会社です。エコノミーなのに一人一人の座席にフットレストがあり、体にフィットする座席、そしてなんとタッチパネルでチャンネルいっぱい自由自在。
 −おみやげには何を買いましたか。
 死海のミネラル入りのクリームや無添加オリーブオイル石鹸。それに、パレスチナ人が6割のヨルダンの典型的お土産として、パレスチナ刺繍のクラフトを何点か購入しました。
      ◇
 シドニーオリンピックの開会式で、日本(JAPAN)の選手入場のすぐ後にヨルダン(JORDAN)が入ってきました。ただそれだけのことが嬉しかったのは私だけですか。未知だった国は、たった少し知るだけで親しみを持てるんですね。来月もヨルダンレポートお楽しみに!(敦)


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