ビジネス情報誌

ELNEOS「エルネオス」

2004年 6 月号

連載53

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真の進歩指標であるGPIの直視を! 〜GDPの大きさに惑わされるな〜

 宇宙物理学者・池内了氏が、五月八日付「日本経済新聞」夕刊コラムで、GDP(国内総生産) より、社会経済の実態や人々の生活実感に近い指標として、GPI(Genuine Progress Indicator =真の進歩指標)をテーマに掲げていた。同氏は米国のNPO団体・リディファイニング・ プログレス(進歩の再定義)が、米国のGPIを計測して定期的に発表していることを紹介していたが、 日本のGPI計測値については触れていなかった。
 実は日本のGPIの数値を一九五五年から二〇〇〇年まで計測し、その報告書を去年九月、 「日本のGPI研究グループ」(大橋照枝、木内孝、中野桂、牧野松代、和田喜彦)が出している。 池内氏はスペースの関係でGPIの象徴的なことのみ紹介したのかもしれない。
 GDPの欠陥については、GDP(かつてのGNP)の生みの親、クズネッツ(一九〇一〜八五)自身が 四三年のアメリカ議会で「GDPという形で推定された所得からは国の豊かさは、ほとんど 推し測れない」と証言したほか、ハーバード大学名誉教授ダニエル・ベル、ボードリヤールや ラルフ・ネーダーなど枚挙にいとまがないほど指摘されてきた。
 GDPは市場を経由した金銭の額をどんどん足し算するので、交通事故が起こり保険や示談金、 医療費が支払われるとGDPに加算される。離婚や自殺でも金銭の支払いが生じるとGDPは増える。 また、美しい湖の癒し効果や水泳の価値はGDPに計上されないが、製鉄所が湖を汚染し、 その除去のために金銭が支出されるとGDPは増える。主として女性が担う家庭内の家事、 育児、介護などの無償の労働は生活に不可欠な役割を果たしているが、GDPには一切計上されない。
 こういうGDPの非合理性を解消し、福祉や厚生に真にプラスになった価値(例えば無償の家事・ 育児・介護など)を推計して加算し、社会の福祉にマイナスである自殺、交通事故、離婚の 費用、地球環境に負荷を与えた分を推計して減算するというのがGPIだ。
 その元になったISEW(Index of Sustainable Economic Welfare=持続可能な経済福祉指標) は、八〇年代にハーマン・ディリーやコッブ・ジュニアによって開発された。現在、ISEW/ GPIは日本を含め十三カ国で計測されている。過去約四十年間のGDPとの時系列のグラフを 比較すると、GDPはほぼ右肩上がりで上昇しているが、ISEW/GPIはある時点まではGDPと 並行して上がっていくものの、途中で伸びが止まって米国のように右肩下がりを示す国もあり、 GDPとのギャップが拡大していく。この変曲点を「閾値」と呼び、「経済成長は生活の質の 向上をもたらすが、ある一定の点(閾値)までで、それを超えると経済は成長しても 生活の質は低下していく」(Manfred Max-Neef 九五年)という閾値仮説といわれる現象が 見られる。日本のGPIも同様である。
 問題は、このGPIが示す厳然たる事実を日本社会の変革にどう生かしていくかである。 日本の二〇〇〇年の一人あたりのGDPは世界一。しかし同年の自殺者は三万二百五十一人、 人口十万人あたりの自殺率は二四・一で世界最高。また、国と地方の債務残高七百兆円は OECD諸国一で、若い世代へ先送りされていく。食糧の自給率(カロリーベースで四〇%)は 先進国で一番低い。構造改革を行うなら、これらの基本的問題を直視することから 出発するべきではなかろうか。

      2004・6・EL NEOSより