レポート・論文の書き方について
堀江宗正
日本の大学では、現在のところ、講義の受け方やレポートの書き方に関するガイダンスをおこなっているところが意外に少ない。以下のマニュアルは、レポートや簡単な論文の書き方に関する、かなり込み入ったマニュアルである。場合によっては、大学4年間を通してほかの先生が誰も教えてくれないこともありうるので、熟読し、大切に保管して、レポートを書くたびに引っ張り出して、役立てて欲しい。こうした訓練は、社会に出てから種々の報告書を書く際にも役立つであろう。
資料を集める
・講義に関するレポートなら、日ごろのノートの整理が重要である。さらに余力のある人は、講義で紹介された参考文献を手に入れる、またそれ以外の参考文献は、著者名やキーワードを手がかりにデータベースで検索するように(国会図書館http://webopac2.ndl.go.jp/、大学図書館http://webcat.nacsis.ac.jp/、1980年以降の入手可能な書籍http://www.trc.co.jp/trc-japa/search/trc_www.asp)。
しかし、講義に関するレポートなら講義ノートを基本にしたほうがよい。講義ノート以外の参考文献をもとにして書かれたレポートは、とてもできが悪いものか、できの良いものかに、はっきりと分かれる。できの悪いのは、講義にまじめに参加せずに、締め切り間際になって関係ありそうな本を適当に読んで、書いてあることを継ぎはぎしたものであり、担当教官をうんざりさせる、害悪以外の何ものでもない代物である。できの良いものは、講義を十分理解したうえで、それを補足するために参考文献を活用しているものだが、このようなレポートにはめったに出会えない。
したがって、大部分の学生は、まず第一に講義ノートをしっかり理解するようにして欲しい。その上で、上記のやり方で参考文献を探して、ここが重要だと思う個所をしっかり熟読すること。そして、それを丸写しではなく、必要最低限の引用ないし要約をし、必ず自分独自のコメントをつけるようにする。もちろん出典は明記しなければならない。
・本の探し方について。本を探すときに、大きな書店を探し歩く人はいないだろうか。このような探し方はもっとも効率が悪い。大型書店の電話番号を何軒か控えておいて、電話で店頭にあるかどうか確認しよう(紀伊國屋書店新宿南店5361-3301、八重洲ブックセンター3281-1811、紀伊國屋書店新宿本店3354-0131、リブロ池袋館5992-8800、三省堂書店本店3233-3312、その他cf.
『東京ブックマップ』書籍情報社)。急がないのなら、近くの本屋に注文する。その際、その本が絶版・品切れになっていないかを注文する前にお店で確認しておくこと。
ただ、学術書は、値段が高い。また論文集が多く、単行本でも、すでに論文として発表したものを一冊にまとめたものが多い。重要な本でないかぎり一冊通して読む必要はないことが多い。そこで、図書館で探して、読む個所だけコピーするというやり方も覚えておこう。その場合、大学の図書館で探すことになるが、すべての本があるわけでないし、レポートの時期に他の人に借り出されてしまうことも多い。そこで、おすすめなのは公立の図書館を活用することである。東京の公立の図書館は、区や市の中にいくつも図書館を持っており、たいていの日本語書籍はその区内・市内の図書館で賄える。そこにない場合でも、どの市区にあるかが分かれば、2週間くらいで取り寄せてもらえる。
・自分の専門分野に関する入門書や辞典は、なるべく購入して手元に置いておくことをすすめる。その際に、なるべく新しいもの、索引が豊富についているものを選ぶようにする(教官に相談するとよい)。そして、分からない言葉や新しく習った事柄をチェックする習慣を付けること。辞典は高いので図書館や研究室を利用して、必要な個所をコピーするというのもエコノミックなやり方である。なお人文系は、『岩波 哲学・思想事典』(岩波書店)が便利。また、各種百科事典の同項目をコピーして比較参照するのもよい。
資料を読む
・資料を読む際には、重要な個所にアンダーラインを引き、読んでいて思ったことを余白にメモしておく。これは、借りた本にやってはいけない。したがって、レポートや論文に使う参考文献は必ず、自分のものとして購入するか、コピーをとること。読み終わったら、アンダーライン個所とメモをもう一度読み直して、レポートに使えそうな個所は付せんをつけたり、端っこを折ったりする。まめな人は、読んだ資料のレジュメ・読書ノートを作っておいてもよいが、これは、とても重要な文献、あるいは本のままでは難解な文献に限定すること。そうでないと効率が悪い。
論を組み立てる
・まずワープロ(ソフト)を使うことをお勧めする。コンピュータでもワープロ専用機でも構わない(以下、単に「ワープロ」と呼ぶ)。安く上げたい人は、プリンタとモバイル機器だけでも十分だが、キーボードは十分に大きいものでないと使いにくいだろう。
・以下は、ワープロを使う場合を想定した論の組み立て方である。先の「資料を読む」でチェックしておいたことを、どんどんワープロで入力してゆく。そして、各要素をつながりのよいものどうしでくっつける。そして、それを読み返しながら、気がついたこと、考えたこと、思ったことを、行間にどんどん書き込んでゆく。その際に、本の引用部分と、自分の意見がはっきり区別できるように工夫する。それが一通り終わったら、今までやって来た一連の「読書―読書メモの整理―ワープロおこし」の作業を通じて、自分がどのような意見を持つにいたったかを反省する。方針が決まったら、あまり重要でないものは文末に追いやっておいて(あとで必要になるかもしれないので削除はしない)、さらに、資料の引用とそれに対するコメントの各ユニットを並べ替えて、自分の考えを導くのに都合が良いように構成する。
レポートとして完成させる
・以上を読み直したうえで、結論を書く。その際に、十分な理由付けがなされているかどうかを再度確認すること。学生諸君が書いたものを読んでいると、あまりにも根拠のない自分の「感じたこと」を断定的に結論づけたものが多い。ここまで、資料を読み込んでいれば、思い込みはだいぶ排除できるはずだが、それでも、資料と結論のあいだに飛躍がないように細心の注意を払うこと。根拠のない考えは、「思いつき」に過ぎず、レポートや論文に書くべきことではない!
・本論と結論を再度読み、レポートの目的と構成を序論としてまとめ、タイトルを決める(ただし、非常に簡単な小レポートの場合は必要ない)。
・ワープロがない人は、以上の作業を全部頭の中でやるか、それとも何回も草稿を書くかのどちらかである(頭の中でやる人は、静かな部屋で瞑想しながら考えることをすすめる)。いずれもワープロを利用する場合に比べて非能率的である。旅行に行くのを我慢するなり、親にこのマニュアルを見せて説得するなり、あるいは苦学生なら肉体労働を重ねてでも、ワープロを手に入れるべきである。ただし、ローンを組むことはなるべく避けたい。返済しているうちに、もっと性能の良い機種が安い値段で売りだされるので、とても悔しい思いをする。
最後の仕上げ
・反対意見をつねに想定しながら、何度も読み直し、修正すること。
・誤字を徹底的に無くすこと。ワープロの場合変換ミスに気をつける。手書きの場合、ちょっとでも怪しかったら辞書を引くこと。大学生なのだから、「価値観」を「価値感」と間違えたり、ましてや「学校」を「学行」などと書いたりなどしないこと!(どちらも某有名国立大学で実際にあった間違いである)
・参考文献を明記すること。できれば引用部分に、そのつど注を付ける。括弧で付けても脚注を付しても構わない。注の具体的な付け方は、自分がこれまで読んできた資料に習えばよい。専門分野ごとに若干の流儀の違いがあるので、先人に習うようにする。細かいことは先輩(ただしよく論文を書いている人)や助手や先生を捕まえて聞くこと。
・決して、参考文献の丸写しや要約だけのレポートを書いてはならない。そのようなレポートを教官に読ませるのは、悪趣味な嫌がらせと変わらない。紙のむだ遣いであり、時間のむだ遣いである(自分にとっても担当教官にとっても)。