「初湯千両 天切り松闇がたり」
真にかっちょいい男と出会いたかったら、四の五の言わずに天切り松を読んで頂きたい。そこには泣きたくなるほど粋でいなせな、まっつぐでどこまでもかっちょいい男たちが確かに居るから。数ある浅田次郎作品の中でも、私はこの天切り松のシリーズがいっち好きかもしれない(本書はシリーズ三巻)。大正の世に名を馳せた庶民の味方な義賊・目細の安一家の最後の一人、その名も天切り松が、現代の留置場にて犯罪者や警察に語って聞かせる物語。彼らの逸話はどれもこれもでっかくてわくわくするコーフンに満ち、かと思えば静かな悲しみをえいっとカバーする力まない優しさにぐっとくるものばかり。威勢の良い啖呵や胸のすくような台詞に官も賊も拍手喝采!こんな話を生で聞かれるなら檻の中もまんざらじゃァないな、なんて思わせる。それにしてもたかだか70年しか隔たりはないはずなのに、かの時代の人たちと平成の世のだるだるなわしらとの違いは何だろう。いちいち情けなくもなるけれど、でもわしらにはきっと目細一家のような、誇り高くまっつぐであった日本人の血が脈々と流れているはずだ。天切り松の語ってくれた話をしっかり受け止めて、”銭金よりも命よりも大事なもの”を”ひとっつずつめっけて、懐に収って”いきたいものよのうと思う。個人的には目指せおこん姐さん。無理でも。 |
「スローグッドバイ」
昨日石田衣良の夢を見た。自分本位なわたくしは、実に自分に都合の良い夢を見ることができる。それはもう、起きたくなくなる程に素敵な夢であった。このきゅうんとする感じを離す事は忍びなく、文庫で出たばかりの「スローグッドバイ」を読み始めた休日であります。って、イタイ話だ。イタイついでに勝手に盛り上がらせて頂くと、本書は相当きゅうんとするスイートな恋愛短編集だ。派手さはないが、ほんの少しの勇気やちょっと踏み出してみた一歩によって何かが変わっていくその瞬間が、丁寧に切り取られ描かれている。誰かの特別なワンシーンにいつの間にか入り込み、彼らの胸の痛みや抑えきれない思いが、わかってもよくわかんなくても泣きたくなるくらいのせつなさだ。あまりにも同調してしまった為に読み終わった後、小説の中の彼らに嫉妬したね。嗚呼。年齢的には30代の恋愛を描いた「1ポンドの悲しみ」のほうがツボだけど、20代の恋も違った熱さがあってなかなか良い。遠い日だけど。つうわけで衣良に会いたくても会えないわたくしは、会いたくなったら彼の小説を読めばいいっていうのもある意味幸せな恋なのでしょうか。これまたちょっとイタイ気もしますが。 |
「雨にもまけず粗茶一服」
茶道といふものは、門外漢にとっては何やら非常にこわいイメージがある。たかがお茶を飲むのにあのものものしさ、バベルの塔並に敷居が高くお作法がゴマンとありとにかくなんだかんだで果てしなくお金がかかり....的な。あくまでイメージですが。主人公はそんな一般人には謎多い茶道の家元の長男として生まれてしまった友衛遊馬18歳。ちゃらんぽらんで考えなしないまどきの若様の、もがきまくる青春を描いた力作であります。家なんて継ぎたくないぜ、なバンド少年である遊馬くんが色々あって出奔、落ち着いた所が何の因果か茶道の総本山(?)とも言える京都であった。図らずも一番苦手な場所で、癖のある、しかして魅力的な人たちと出会い様々な出来事に関わっていくうちに何かが少しずつ見えてくる、その過程にわくわくします。お茶なんて、と思っている遊馬目線で入る読者も、読み進む中で説明されるお茶についてのあれこれにぐいぐい興味がひかれていくの。ひとことでは語れない茶道の奥深さ、縛りがある中の自由さ、要求される知識の広さと発想の豊かさなどなど、確かにムツカシイけれどもそれと同じくらい面白そうで、そう思えたことに吃驚した。多分これからも自分としては茶道とは縁がないような気がするも、その精神みたいなものはもっともっと知りたくなった。あんまり新刊じゃないんだけど大層気に入ったので書いてみた。 |
「袋小路の男」 絲山秋子(講談社)こんな男を好きになっては駄目なんである。人並みの幸せを手にしたいと思っているなら特に。わかっちゃいるけどしかし、そんな”わかっちゃいる”は何の意味もなさないこともある。ただ一瞥だけで絡めとられてしまった始まりから、気まぐれや自分本位の行動にいいように振り回され、結局どこにも行き着くこともない終わりの無い終わりまで全部見えていても、この男を好きになることをやめられない。例え一万回傷つけられても、何か一度でも報われると嬉しくて今までの全てを許せてしまう。バカだなと言われても嬉しい。もう、書いてるだけで腹が立ってくる。感情移入しすぎ、自分!!この小説に出てくる男は相当イヤな奴で、その男に惚れ続け不毛の愛まっしぐらの女の子がバカじゃないのに奴に関してだけはすんごくバカで、もうもうバカバカ!!でもわかる!!辛い!!でも幸せ!!辛いと幸せは似てる!!なんつって、自分のことじゃないけれど自分ごとにいつのまにかすりかえてハゲしく動揺しながら一喜一憂してしまった。これはわたくしの話なのか。今まで読んだ、女子によるどんな恋愛小説よりも感情移入しちゃった。恋愛小説ではないようにも思うケド....そんなとっちらかった感想で少し恥かしい。(2005/1/8) |
「京都スーベニイル手帖 冬・春」
またまたまたヌマおじさんが作ってくれた贈り物が到着しました。高級箔押しの和紙で出来たカバー、「京都なんて大嫌い!」で始まる一見アンチ実は熱烈ラブ京都な前書き、大体において懐かしめトーンのスーベニアガール的グラビア写真。一澤帆布のイラストカタログや花名刺の見本帳みたいな頁はファン垂涎で、そこここにちりばめられたちっちゃい写真とキャプションまでも乙女のココロにヒット&ヒット、そしてラン・乙女・ラン!あまりにキュートなこの本を書店で見つけた途端、うううやべえやべえと乙女らしからぬ呟きを発してしまったわたくしであります。でも何がやばいんだろう??ヌマおじさんの世界を目の当りにしてしまいその全てを余りにも愛しすぎてしまう事への危惧だらうか。それともそこいらへんの女子よりも遥かに乙女なヌマおじさんへのうっすらとした嫉妬だらうか。フクザツ微熱のままに冬の京都へ今すぐにでも飛んでいきたい年の瀬でありました。 |
「アキハバラ@DEEP」
頁を捲っている間中味わえる、登場人物たちとの一体感!そして読後に訪れる、このタイトルからは想像もつかない爽快感!不潔&女性恐怖症のデザイナーやコスプレ喫茶の武闘派美少女、中卒の天才プログラマーなどそれぞれに個性的でちょっぴり病んだおたくたちがアキハバラで出会い繰り広げる、創造と闘いの物語!伝説の勇者である彼ら一人一人は世間から見ればはずれた変わり者かもしれないけれど、そのチームワークは絶妙でなかなかに魅力溢れた愛すべき奴らである。キャラが濃いので映画にしても面白そうだけど、いやでもやっぱり何でも早い時代だからこそ活字を噛み締めながらもどかしいほどのスピードで読むのがいいのかなあ。彼らが次に何を起こすのか楽しみでわくわくして、一緒になって悔しがったり泣いたり歓喜の声をあげたりともう忙しかったよ。しかし久しぶりに読書に没頭したーっつう心地よい疲労感。アキハバラ、ってあのすっぱい感じの街?ってイメージしかなかったけど見方が変わった。松尾ちゃんの「恋の門」然り話題の「電車男」然り、今おたくは思いっきりアツイのかもしれない。今更、って言われそうだが。 |
「夜のピクニック」
みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。――主人公のクラスメートが”歩行祭”について語った言葉がしばしば象徴的に使われる。全校生徒が朝の八時から翌朝の八時まで歩くと言う行事。決して楽なものではないが、それ故強烈な忘れ難い思い出となるであろう行事。高校生活最後の歩行祭の一日を描いた、ただそれだけなんだけど一人一人の気持ちの動きがドラマチックな長編青春小説であります。ストーリーの中心となる二人に関する出来事はやや特殊かもしれないが、この年頃にありがちな全ての微妙な感情が懐かしくもイタイ。しかしてとってもいとおしい。歩くだけの中にも流石の恩田陸、読むものを全く飽きさせないサスペンスな要素もアリ。読んでいる間わしらは歩行祭に参加する一員で、ゴールが見えてきたラスト近くでは長いような短いような歩行祭が終わってしまうのが(ひいてはこの本を読み終えてしまうのが)嬉しくもあり残念にも思えた。嗚呼こんな気持ち、うまく言えないっすね。 |
「京都のこころ A to Z」
AはART、京都芸術センターのことに触れる。全国で一番最初に作られた小学校を利用して、今は芸術を「つくる」場として使われているという。静謐で崇高で且つぬくもりのある感じがとても良い感じ。ここの喫茶店もすこぶる雰囲気が良いと聞いた事があります。BはBOOK、恵文社一乗寺店の本棚のこと。”洒落っ気のある文学少女にはぴったりだと思った”というこの本屋に、洒落っ気のある文学少女でありたいわたくしとしてはゼシ行っておかねば!と軽く焦る。ゆっくりと滞在したい本屋だなあ。CはCUP、スマート珈琲店のなんとも愛嬌のあるカップの話。あったかい写真を見、味のある文章を読んでいるだけで、かのお店の珈琲を焙煎するいい匂いがしてくる気がするよね...。この本は、項目ひとつひとつを大切に読むのがふさわしい。じっくりと味わいながら、ちょっぴり遠い京都に思いを馳せながら。少し違った角度から見る京都の魅力をこっそり教えてもらって、またまた京都へ行きたくなること必須なのであった。 |