2000-10-31
指示水素は、いわゆるmancude環系が必要とする記号である。
指示水素は、環系をmancudeにしたときに二重結合に関与しない骨格原子があるために二重結合に関する位置異性が生じる可能性がある場合、その構造を特定するために使う。
例えば、ピロールの例を挙げる。
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| 1H-Pyrrole 1H-ピロール | 2H-Pyrrole 2H-ピロール | 3H-Pyrrole 3H-ピロール |
※一般的には単に Pyrrole というだけで 1H-Pyrrole を意味するが、ここではCASがそうであるように、必要な指示水素をすべて表記する。
このように、飽和な原子の位置番号をイタリック大文字の H に添えたのが指示水素の表記である。
二価の原子に挟まれて孤立した位置の指示水素は、省略できる(CASでは必ず省略する)。
IUPACでは架橋やスピロの導入の後でmancudeを求め、それに応じて指示水素の必要性と位置を決める。
CASでは元の縮合環に必要な指示水素は、その名称の前に必ず記す。必要なら架橋やスピロの位置に指示水素を合わせる。
官能基による環外二重結合(ケトンやイミン)を持つ原子は、環内では二重結合を持てない。
元の環系には指示水素が必要ないが、官能基導入により飽和原子が現れた場合、CASではその位置を丸カッコに入れた記号(付加水素)で示す。
ただしIUPACでは、hydro を非分離接頭辞と見なして、水素化を官能基化より先に示し、付加水素を使わない方法もある。
※付加水素より主基に優先して小さい位置番号を与える。
元の環系に指示水素が必要なくて、官能基が偶数個あり、その導入で新たな飽和原子が現れない場合、付加水素は付けない。
(Naphthalene-1,4(1H ,4H)-dione ではない)
(IUPACでは通例 1,4-Naphthoquinone)
単結合の官能基でも、縮合位に結合すれば付加水素が必要となる。
指示水素が必要な環に主基が結合している場合、小さい位置番号を与えられる優先性は、(官能基ではなく)指示水素にある。
(5,6-Dihydro-4H-pyran-2-carboxylic acid ではない)
※もし 2H-Pyran-6-carboxylic acid を 6H-Pyran-2-carboxylic acid と命名したならば、母体として 6H-Pyran を想定しなければならない。しかし官能基がなければピランには 2H-Pyran と 4H-Pyran しかあり得ない。
このような矛盾を防ぐため、優先順位をこのようにとるのである。
CASでは、元の環系に指示水素が必要で、必要な指示水素の数と官能基の数が同数であり、官能基の位置に指示水素を置いて問題がないなら、指示水素を官能基の位置に合わせる。
※IUPACでは hydro を非分離接頭辞として使う場合、環系が完全に飽和で、紛らわしくなければ指示水素は不要になる。
CAS では、官能基の位置に指示水素を置けない場合、また、必要な指示水素の数より官能基の数が多い場合、飽和原子のうち最も位置番号の小さい位置(ただし縮合位はできれば避ける)に指示水素を置き、官能化の際に現れた飽和原子を付加水素で記す。
(3H-ピランは存在が不可能である)
※上の例は、名称の組み立てが、IUPACでは
Pyran → Tetrahydropyran → Tetrahydropyran-3-one
の順に、CASでは
2H-Pyran → 2H-Pyran-3(4H)-one → Dihydro-2H-pyran-3(4H)-one
の順に、それぞれ行われていることを知れば理解できよう。組み立てのそれぞれの段階でも正しい名称となる必要がある。