2001-04-14
炭水化物(carbohydrates)という一般名は、単糖、オリゴ糖(少糖)、多糖の他、単糖からカルボニル基の還元(アルジトール)、末端基のカルボン酸への酸化、1つ以上のヒドロキシ基の水素原子・アミノ基・チオール基・類似のヘテロ原子基への置換によって誘導される物質を包括する。また、それらの物質の誘導体をも含む。
単糖(monosaccharides)は、オリゴ糖(oligosaccharides)や多糖(polysaccharides)と対照的なものであり、他の同様な単位とのグリコシド結合をもたない単位を指す。
母体となる単糖は、炭素原子3個以上を含み、一般式 H-[CHOH]n-CHO で表されるポリヒドロキシアルデヒド、または、 H-[CHOH]n-CO-[CHOH]m-H で表されるポリヒドロキシケトンである。
なお、カルボニル基について潜在(potential)とは、ヘミアセタールないしヘミケタール構造をもつ場合を考慮していっている。
炭水化物の立体母核は、多数のヒドロキシ基をもつカルボン酸、アルデヒド、ケトン、アルカンとそれらの誘導体を命名するのに用いられる。また、骨格炭素原子は5個以上であり、かつ、その半分を超える炭素原子が酸素(または他のカルコゲン)または窒素と結合しており、しかも、末端にない炭素原子の少なくとも半分が不斉であって、かつ、カルコゲン置換基からの結合は、少なくとも1本は、末端にない炭素原子への単結合でなければならない。
環状ヘミアセタール(環状ヘミケタールを含む。CASはケタールにも acetal の語を使う)であるときには、炭水化物の立体母核を使うには、アノマー炭素を含めて、少なくとも3個の不斉炭素原子をもっていなければならない。
糖と認められるのは、IUPAC-IUBMBでは炭素原子3個から、CASでは炭素原子5個からである。
母体となる炭水化物の体系的名称([2-Carb]での称。CASでは半体系的名称と称す)は、炭素原子数を表す倍数接頭辞と官能基を表す接尾辞を組み合わせてつくる。具体例は、炭水化物の体系的名称を参照のこと。なお、特に官能基が示されていない主鎖の炭素原子には、ヒドロキシ基が1個ずつ結合しているものとみなす。
| 総称 | 官能基 | 接尾辞 |
|---|---|---|
| アルドース | HOCH2〜CHO | -ose
-オース |
| ジアルドース | HCO〜CHO | -odialdose
-オジアルドース |
| ケトース | 〜CO〜 | -ulose
-ウロース |
| ジケトース | 〜CO〜CO〜 | -odiulose
-オジウロース |
| ケトアルドース | 〜CO〜CHO | -os-ulose
-オース-ウロース |
| アルドン酸 | HOCH2〜CO2H | -onic acid
-オン酸 |
| ウロン酸 | HO2C〜CHO | -uronic acid
-ウロン酸 |
| アルダル酸 | HO2C〜CO2H | -aric acid
-アル酸 |
| アルジトール | HOCH2〜CH2OH | -itol
-イトール |
※hex-2-ulose の字訳は、字訳規準の通りには ヘキス-2-ウロースであるが、but-2-ene ブタ-2-エンのような場合と同様に母音を補ったほうが意味が取りやすいと思われる。補う母音は、ア(cf. buta-diene ブタ-ジエン)ではなく、オ(cf. hexo-diulose ヘキソ-ジウロース)にしてみた。
※[Carb]では -osuloseが1つの語尾であった。これではケトアルドースの環状形の命名に難があるので、[2-Carb]では [CAS]と同じように、アルデヒド部分の -os- と ケトン部分の -ulose が独立して扱えるようになった。
アルドン酸・ウロン酸・アルダル酸やアルジトールの命名例はリンク先を参照せよ。
アルドースの慣用名(後述)から誘導される名称は慣用名をもつアルドースの誘導体を参照せよ。
炭水化物の配置接頭辞(configurational prefix)はアルドースの慣用名に基づいて作られており、イタリック体で示される(それゆえ、索引配列のABC順には無関係である)。これらは半体系的炭水化物命名法に用いられ、>CHOH, >CHOMe, >CHNH2 などの不斉炭素原子1個から4個(これらの不斉炭素原子の間に不斉でない炭素原子があってもよい)のD, L の相対配置を表現する。
配置接頭辞に配置記号(configurational symbol [IUPAC] / configurational descriptor [CAS])を加えることによって絶対配置を表現する。配置記号はD-またはL-であり、位置番号が最大の炭素原子における配置を特定する。
| 炭素原子数 | 配置接頭辞 | アルドースの慣用名 |
|---|---|---|
| 3 | glycero | Glyceraldehyde [2-Carb]
グリセルアルデヒド |
| 4 | erythro | Erythrose [2-Carb]
エリトロース |
| threo | Threose [2-Carb]
トレオース | |
| 5 | ribo | Ribose [2-Carb/CAS]
リボース |
| arabino | Arabinose [2-Carb/CAS]
アラビノース | |
| xylo | Xylose [2-Carb/CAS]
キシロース | |
| lyxo | Lyxose [2-Carb/CAS]
リキソース | |
| 6 | allo | Allose [2-Carb/CAS]
アロース |
| altro | Altrose [2-Carb/CAS]
アルトロース | |
| gluco | Glucose [2-Carb/CAS]
グルコース | |
| manno | Mannose [2-Carb/CAS]
マンノース | |
| gulo | Gulose [2-Carb/CAS]
グロース | |
| ido | Idose [2-Carb/CAS]
イドース | |
| galacto | Galactose [2-Carb/CAS]
ガラクトース | |
| talo | Talose [2-Carb/CAS]
タロース |
不斉中心1個には、D-glycero-でD-配置を、L-glycero-で L-配置を表現する。その他の接頭辞は、リンク先を参照。
不斉中心が5個以上ある場合は、位置番号の小さい端から4個ずつ区切り、位置番号の大きいほうから配置接頭辞を並べる。
CHO | HO―C―H | H―C―OH | H―C―OH | HO―C―H | HO―C―H | H―C―OH | CH2OH
※2-5位の配置に相当するのがL-galactoで、6,7位に相当するのがD-threoである。
ケトン性カルボニル基や(デオキシ糖において)メチレン基が主鎖にある場合は、配置接頭辞を決める時には無視する。旧版 [Carb] のようにカルボニル基やメチレン基ごとに主鎖を区切ってそれぞれに配置接頭辞を割り当てることは、もはや認めない。
CH2OH | HO―C―H | C=O | H―C―OH | CH2 | H―C―OH | CH2OH
ラセミ体は配置記号 DL- によって表現する。IUPAC-IUBMBでは、光学的表示 (±)- を用いてもよい。
CHO CHO | | H―C―OH HO―C―H | | HO―C―H H―C―OH | + | (1:1) H―C―OH HO―C―H | | H―C―OH HO―C―H | | CH2OH CH2OH
単糖の番号付けは、次のように行う。
すべての不斉中心が立体化学的に変化がない場合、慣用名が認められているなら、炭水化物の体系的名称より優先して用いる(詳しくは慣用名をもつアルドースの誘導体を参照せよ。)。例えば、D-Glucose D-グルコース(慣用名)は好ましい名称であり、D-gluco-Hexose D-gluco-ヘキソース(体系名)は好ましくない。ただし、ジアルドースの名称は、慣用名から誘導せず、体系的名称を用いる。
CHO | H―C―OH | HO―C―H | H―C―OH | H―C―OH | CHO
炭素原子6個を含むケトースには以下の慣用名が使われる。絶対配置を表すには、配置記号 D や L を用いる。
IUPAC-IUBMBでは、母体は次の規則を順に適用して、最も優先順位の高い部分を母体とする。
しかし、炭水化物命名法を有効に利用できるように、官能基の優先順位を厳密には適用しないこともときには許される。例えば、カルボキシメチル基置換の糖は、(酢酸ではなく糖部分を母体として)そのように命名してよい。
※[IUPAC-IUBMB]では、グリコシル基とは異なる位置から結合が出ている置換基を、糖の名称に接尾辞 -yl を添えて命名することも許される。位置番号を省略してはいけない(グリコシル基と区別がつかなくなる)。
CASでは、母体は次のように決める。開環形は立体母核を母体とする。順位の高い官能基があっても置換基や修飾句で表現する。
環状糖の誘導体は、グリコシル基が糖として(β-D-glucopyranosyl β-D-グルコピラノシルのような通常の基名を用いて)表現できる限り、立体母核であるかないかに拘らず官能基の優先性で決める。この場合、糖残基は、非グリコシド性ケトンやアルデヒドなどのより優先性の高い官能基が含まれていない限り、多価アルコールとみなされる。
立体母核が複数あれば、官能基の優先順位に従う。
不飽和糖は、不飽和を表す語尾 -en- を挿入して命名する。この結果、形式的には -C(OH)=C(OH)- というエンジオール形になる。ヒドロキシ基がない誘導体なら、デオキシ糖と同様に接頭辞 deoxy を用いて余分なヒドロキシ基を除く(エーテルやアセタールなどになることもあるし、アスコルビン酸はエンジオール形が安定であるしということで、deoxy操作が必要でない誘導体ももちろんある)。
CHO | H―C―OH | C―OH ‖ C―OH | H―C―OH | CH2OH
※二重結合の幾何異性を示す必要があれば、通常通り、EZで表示する。しかし環を形成していて、表示の必要がないことも不飽和糖には多い。
Ph―C――┐ ‖ | E―C | E:EtO2C― | O CH | ‖ | C――┘ | HO―C―H | H―C―OH | H―C―OH | CH2OH
※図が見にくいので判りにくいかもしれないが、C-1からC-4はフラン環を形成している。接頭辞 anhydro アンヒドロについては、分子内エーテルを参照せよ。
不飽和の位置番号は、選択規則に従って配置記号や配置接頭辞を決めたあとに決める。
※1,5-anhydro-L-lyxo-hex-1-enitol の誘導体とはしない。arabino は lyxo よりアルファベット順で早い。
三重結合や集積二重結合を含む糖は、IUPAC-IUBMBでは -yn- や -dien- を用いて命名してよい。
またこれらを飽和な糖を母体として、脱水素を表す接頭辞 dehydroで表してもよい。このとき、deoxy操作が dehydro操作より先に行われるものとして扱う。
CASでは -yn- は使えない。なぜなら三重結合があれば、末端炭素原子を除いては、置換基は置けない(そもそも元の水素原子がない)が、deoxyは分離接頭辞なので見出しの母体が仮想的にすらあり得ない構造になるからである。
CHO | H―C―OH | H―C―OH | C―OH ||| C | OH
そこで、次のようにしなければならない。-yn- を使うと接頭辞の分離・非分離の区別があいまいになるような気がしないでもないが、判りやすいということで [2-Carb] に採用されたのだろうか?
CHO | H―C―OH | H―C―OH | C ||| C | OH
分枝糖は、C-置換単糖として命名する。母体糖は、選択規則に従って決める。IUPAC-IUBMBでは、分枝部分の立体配置を配置接頭辞で表してもよい(一般的にはRS表示のほうが好ましい)。
CHO | H―C―OH | CH2 | R―C―OH R:MeCH(OH)― | (R) HO―C―H | CH2 | H―C―OH | H―C―OH | H―C―OH | Me
分枝糖の環状形は、環を形成している部分を優先して母体鎖を選ぶ(下の例は、上の鎖状形と配置が同じ糖の環状形である。環部分を優先するため短い鎖を母体に選んでいる)。
※長い分枝部分には、アルジトールから誘導した基を用いることができるが、この場合、1位の配置は配置接頭辞に含まれない(アルジトール自体、1位は CH2OH であるから不斉でない)ことに注意。そこは R S表示で示す必要がある。
鎖に枝分かれがある単糖としては次の分枝糖の慣用名が、IUPAC-IUBMBとCASに共通して用いられる。絶対配置を表すには、配置記号 D や L を用いる。
アピオースの環状形は、閉環したときに C-3 が新たに不斉になるので、IUPAC-IUBMBでは体系的に命名することを勧める。CASはC-3の配置を表すために、更に配置記号を添える。アノマー記号 α,βは、C-3とC-1の配置の関係を示す。