平成10年の“トラウマ”
野菜暴騰・・・/平成10年の“トラウマ”(2004/12月号)
「緊急輸入」から見える外国産地の実態“上陸率”がなんと、イチローの打率を超す4割。今年の台風襲来はハンパではなかった。これに、10月に入ってからの長雨の影響とのダブル、トリプルパンチで、野菜の生育が遅れ出荷が大きく停滞。そのため、卸売市場ではレタスやホウレン草などの葉茎菜類を中心に価格が高騰。“最大瞬間風速”的には平年の6倍を超える品目も出現した。政府は、出荷前倒しや規格外野菜の出荷促進などの緊急供給対策打ち出したものの、緊急かつ当面の需要には追いつかず、今回も、素早い輸入対応によってようやくマーケットが落ち着いた、という状況になっている。
こういう事態になると、いやがうえにも思い出されるのが、今年同様、9、10月の夏秋野菜から秋冬野菜への切り替え時期に、いくつもの台風に列島を蹂躙された98年、平成10年秋のことだ。あの時は、10月から11月にかけて、緊急調達だ緊急放出セールだと輸入野菜が大人気となっただけでなく、それ以降、中国を中心とする野菜の輸入急増傾向が始まったのである。
これが3年後の暫定セーフガードをもたらし、勢い余って残留農薬問題までもが飛び出すなど、いわゆる“無秩序な野菜輸入”状態を現出させるキッカケだった。当然のことながら、今回も前回と同じような経緯をたどるのではないか、というのが国内生産者の“トラウマ”であろう。
実際、ここ2年くらい国産野菜主体に切り替えていた大手スーパー各社でも、10月末からはカリフォルニア産レタスを売り出す一方、これまで客からの敬遠気運で取り扱いをやめていた中国産ネギも輸入販売を再開している。また、国内契約農家からの新鮮野菜をウリにしていたモスフードサービスでも、「なるべく国産で対応したいが、これほどの品薄状態では、今後は輸入ものも視野に入れざるを得ない」と苦渋のコメントを出している。
さて、今回の野菜暴騰も輸入“暴走”のきっかけになるのか、前回とどこが似ていて、どこが違うのか…。
業務需要中心に素早い輸入対応
今回の野菜暴騰が前回と違う点があるとすれば、前回は12月に入っても需給の見通しがつかず、年末需要に対応できるのか、と不安視されたほどだったが、今回は10月こそ大騒ぎ状態だったものの、11月も上旬には一応沈静化に向かったことだ。これは、明らかに輸入対応が迅速だったためで、もっと言えば、需要構造に弾力性がなく数量調達に最も強い要求をもち、それだけに相場を吊り上げる元凶ともいえる業務用需要が、輸入品での調達に目途をつけたことだろう。
緊急輸入はほぼ10月から始まったのだが、暴騰のレタスの場合、10月に入り、米国からのものが1週間ごとに70トン、127トン、191トンと急激に増加。キャベツは中国を中心に10月第3週だけで272トン。韓国からのハクサイは1週間で1万1000ケース。ほとんどが漬物やカット野菜の原料として、あるいは外食など業務用の需要向けのものだ。
その結果、10月だけでも、レタスは米国産を中心に1194トンが輸入された。これは前年同期の4.2倍にも当たるし、キャベツなどは中国産を中心に3.5倍の1480トン、なぜかネギも連動するかのように1.8倍の8739トンが輸入された。
アメリカの生産システムが役立つ
あたかも、国内産地から調達されたごとく、これだけ迅速に輸入ができたのはなぜだろう。まず米国のレタスについては、空輸されたからだ。コストが高い分、スーパーなど小売店では輸入レタスであっても1玉380円、半切198円といった価格帯。これは緊急に品揃えできるだけでいい、という価格である。とりあえず空輸で対応しているうちに、2週間かかるが半値のレタスが船便物が到着してくる、というヨミだ。
しかし、これだけ緊急なオーダーに、どうしてすぐに対応できるのだろうか。自国への供給分を回してくれているはずはない。そんな余力がどこにあるのか。その答えは、主産地カリフォルニアのレタスの栽培方式、農家の経営感覚にある。
彼らは、常に予定販売量の2〜3割上回る量を作付ける。平年並みの相場推移であれば、その余剰分は圃場廃棄する。高値なら余分に作った分まで売るが、安値だったらさらに圃場廃棄は多くなる。日本では、すぐに“補償”の対象になる圃場廃棄も、彼らには単なる出荷調整にすぎない。そうした余剰分が今年は日本のために役立った。
緊急輸入先は米国だけではない。日本で需要の中心である結球レタスは意外にも、韓国からも中国からも一部輸入された。韓国についてはソウルオリンピック以降に徐々に増えてきた“サラダ”需要のため、中国では増えている外国人や富裕層に対してのレタス生産が存在していることが、これで明らかになったともいえる。
中国からの緊急輸入の仕組み
ただし、韓国や中国では米国のような形で余分に作っているわけではない。日本への緊急輸出は需給関係を逼迫させる。とくに韓国はまだ結球レタスの絶対量が少なく、昨年の長梅雨の際には価格が暴騰して日本などから緊急輸入したほど。韓国マーケットの混乱は少なくない。中国最大の野菜産地である山東省でさえも事情は同じだ。10月初めから「輸出向け野菜」が、日本からの注文が殺到したために値上がりした。品目によっては7割も高くなったほどだ。現地の野菜輸出商社によると、「ハクサイ、キャベツ、ダイコン、ニンジンなどへの注文も大幅に増え、価格が上がっている。ネギなども注文が多く、品切れ状態」とまでいう。
ただ聞いていると、なるほどと思うが、待てよ、山東省の年間野菜生産量は8000万トンというとてつもない規模だ。それに比べれば、日本に緊急輸出している野菜は微々たる量でしかないはず。それなのになぜ相場が上がるのか。その答えは、「輸出向け野菜」はそのうちの2%弱しかないからである。当然、国内向けの野菜の価格にはなんら影響は出ていないのだ。
輸出用野菜すべてが登録制に
さて、ここで注目しなくてはならないのが、この「輸出向け野菜」のことだ。これは単純に等級や規格によって、輸出用、国内用と分けているのではない。いま中国から輸入されている野菜類はすべて、あらかじめ輸出用として登録された圃場で生産されたものなのである。
中国農産物の残留農薬問題が日中間の大きな問題となった2002年、中国政府は異例の速さで「輸出入野菜検査検疫管理弁法」を発布し、輸出野菜(生鮮・加工用)は「検査検疫機関に登録した輸出野菜栽培基地」でなければ輸出を許可しない、こととした。
その栽培基地の条件として、@野菜基地の周辺の環境に汚染源がないこと A野菜基地の栽培面積は300ムー(約20ヘクタール)以上であること B野菜基地は専門の食物保護管理者を1人以上有し、食物保護管理者は関係部門の教育を受け、農学、食物保護、農薬使用の基本知識を有すること。植物保護管理者は野菜基地の病害虫防止農薬の安全使用、農薬残留について統一管理を行うこと C健全な農薬管理制を有し、専任者が農薬の保管、配給、使用に責任を持ち、農薬残留の管理・監督措置、専用の農薬保管場所、農薬使用と関係ある全ての情報、記録を有していることなど、厳しい条件を付与した。
しかも、登録された野菜生産基地において、以下のような行為が発覚した場合は、輸出検査が拒否(実質的な輸出禁止措置)される。@非登録基地からの輸出野菜の買い上げ A植物保護管理者がいない、または植物保護管理者が条件を満たしていない B規定にのっとらず農薬を使用する、農薬残量が基準を超過する C申請した使用農薬と検出された農薬が異なる Dサンプリング検査で2回連続で有害・有害物質が基準を超過する E輸入国政府の検査・検疫機関が、有害・有害残留物質が基準超過していることを検出する、など。
“何となく不安”の解消がカギ
いま日本に輸入されている中国産野菜は、常に防除から生産履歴まで管理された大型の産地で生産され、事前の農薬検査をパスしたものだけが輸出を許可され、いったん違反が見つかれば輸出できず、トレーサビリティーも保証されたものに限られる、という「品質保証」されたものなのである。
中国産野菜に対する消費者の“何となく不安”要因が取り除かれれば、ある意味では国産と同等かそれ以上に“品質保証”された中国産野菜は今後、前回とはまた違った意味で輸入増加が見込まれる、といわざるを得ないのだ。
その不安定要因は是か非か (2004/11月号)
全国の中央市場における、青果物のせり取引の割合が減りつづけている。この事実と、卸売市場における平均単価の低迷とを連動して考えるのは自然なことだ。しかも近年、卸売市場機能が低下し“市場外流通”も増えていて、その挽回を狙った市場法の改正も行われた…。すると、「せりの衰退=相対取引の増加=卸売市場機能の衰退=適正な価格形成機能の衰退」という“公式”が成立する。このところの「せり取引の割合の激減」状態が、生産者側に不安と不満、危機感をもたらしている原因はそのへんにありそうだ。しかし、こうした“思い込み”は必ずしも正しくない。いわゆる「せり回帰願望」をここで検証しておこう。
せりの醍醐味に味をしめる
「せり」といえばオークション。つまり商品を手に入れるためには、他の参加者より高値をつけなければならない方式である。そもそも「せり」とは「競り合う」の「せり」であり、高値を競い合うのだから景気がいい…、そんなイメージがある。
実際に、初物の出荷や品薄時には、まさに競り合い、奪い合いの状態でとんでもない高値もつくことも多い。この醍醐味に“味をしめる”と堪らない。いまはだいぶ大人しくなったが、果物類の“早出し競争”はまだまだ健在だ。
サクランボやモモ、夕張メロンやアレキサンドリア、イチゴやビワなどなど、「初ぜり」での高値は、必ず新聞、テレビで紹介されるほどの“異常”事態である。
札幌市中央卸売市場には、藤本青果という全国でも有名な場外仲卸業者がいる。5月中旬の「夕張メロン」の初ぜりには、必ず落札することで有名なのだ。その落札価格は、秀品2玉で20数万円、品薄だった2002年には30万円という最高記録を更新した。「メロンおやじ」こと同社の藤本博生社長にとって、数量・価格とも札幌でナンバーワンの実績を誇るメロン取扱い業者の、プライドと意地にかけて落札するのだからハンパではない。まさにこれは“お祭り”だ。
初モノの最高値を“ご祝儀相場”というが、まさにこれは“ご祝儀”なのである。誰に対するご祝儀かといえば、もちろん出荷側の産地に対するご祝儀と、そして納め先へのご祝儀。なぜなら、1玉15万円もする夕張メロンは、納め先にはせいぜい1玉5000円程度でしか販売しない。「今年もよろしくお願いします」という挨拶がわりなのだ。
こういうご祝儀相場を作り出す販売方法は、派手なせり上げでしかあり得ない。バブル経済崩壊以降、めっきり減った“ご祝儀相場”への郷愁のようなものが、「せり回帰願望」のなかにあることは事実である。
「せり」は“原価保証”の制度ではない
そもそもせりというものは、供給に対して需要が多い状態、供給が逼迫している状態でしか有効ではないはずだ。せりに供される商品は、売り手である生産者のものだからだ。しかし、わが国の場合、青果物は消費地市場における「需給バランス」にもとづいて価格形成されるという仕組みになっている。しかも市場までの出荷経費は生産者持ち、せりに供される場合は、生産者側から条件をつけないで販売を委託する「無条件委託」という制度で運営されている。そもそも生産者から「文句は言わないからせりで売ってください」という原則のものであり、販売委託を受けた市場(卸売会社)は断ることはできず(受託拒否禁止)、自分判断で分割して売るなどのことはできず(即日全量上場)、せり以外の方法で売ることも禁止されていた(自己の計算による卸売の禁止)。
その代わり、生産者側は出荷した市場の価格を見ながら出荷量を増やしたり減らしたりして、価格をコントロールする権利を確保していたから、JAなどの販売事業では、市場に対する仕向け量の調整、すなわち分荷調整作業が最も重要な仕事だったのだ。供給を調整できる者が、せりを相場を支配できたのである。ここに「系統共販拡大運動」の必然性があり、それが「有利販売」の具体的な方法だった。
再度言うが、せりは高値追求の手法ではあっても、生産者の“原価確保”や“再生産価格”を補償する方法ではない。それでも過去において、せり制度が問題視されなかったのは、戦後以降バブル期まで、初期には長期間にわたって拡大する一方の需要に供給面が追いつかない状態が続いていたからであり、後期になると系統共販による需給調整機能が有効に働いたからだ。
せりを卸売市場における「価格発見機能」と位置付けているが、その場合の「価格」とは、当該市場の需要量に対する供給量とのバランスによって生じるものであり、「適正価格」とはその需給バランスを正確に反映したしたもののこと。従って、その価格が“再生産補償価格”であるか否かは、あくまでも生産側の市場に対する分荷機能のいかんにかかっているのである。
ちなみに、この機能と仕組みを徹底追求して構築されたのが、長野県経済連(当時)のいわゆる「コンピュータ分荷」システムであることは有名な話だ。
「なんでも鑑定団」を例えてみると
それでは「せり」では“再生産補償価格”が実現できないのだろうか。最近話題の高視聴率番組「なんでも鑑定団」を例にとって、考えてみよう。
この番組では毎週、出品者の“希望価格”に対して、それぞれの専門家が相場、価値を鑑定し提示するという趣向だ。専門家は、その品物の絶対的な価値と市場(しじょう)への出回り状態などを勘案して、鑑定価格を出している。これがいわば「相対取引」に相当する。
これに対して年に1、2回、同番組では一般の視聴者を参加させてオークションを実施している。半クロウトから半シロウトまで参加するこのオークションは、会場の雰囲気に影響され、過小評価したと思えば極端に過大評価したりして、実に面白い。これが「せり」である。ただし市場における「せり」と異なるのは、この番組の場合、落札価格が出品者の“希望価格”を下回ったときには不成立となる点だ。
この“希望価格”を、生産者の“再生産補償価格”と読み替えてみよう。残念ながら、「無条件委託」が原則のわが国の市場制度では、希望価格を下回ったらせりが不成立になるという仕組みにはなっていない(厳密に言うと、ごく一部条件付き委託はある)。いくらでも高い価格が出てもいいという“天井知らず”である一方、1ケース50円、100円という“箱代にもならない”非常識価格も容認されている。せり制度自体が、高値を“期待する”制度なのだから、安値に歯止めを設けられないのは道理だ。そのかわり別個に各種「価格暴落時補填制度」を設けてある。
生産者希望価格を確保するせりも
わが国では存在しないが、欧米には“再生産補償価格”確保を目的にしたせりがある。その代表例のひとつが、オランダ、ベルギーにおける、「せり下げ」方式の“時計せり”だ。このせりは基本的に、「産地市場」に売買参加者を召集して催される。上場に際してはすべて生産者が立会い、まず「生産者希望価格」が時計上に提示され後、それを上回る一定の価格からせりがスタート。売買参加者のうち一番早く(つまり高い価格で)ボタンを押した人が落札する。
一方、初めに示した「生産者希望価格」を下回ったところで時計の針が止まった場合、原則的にはせりは不成立となるのだが、立ち会っている生産者が了承すれば落札する。すなわちこのせり下げ方式は、生産者が自らの判断で「出荷価格」を決めるための方式なのだ。日本における「せり」が、基本的に消費地における「需給バランス」から相場が決まるとのは、大いに違う。
どちらがいいのか、というよりは、前提条件にまず差がある。これらのせり下げ方式を採用している産地は、すべてが大型で単品専作、しかも加温を必要とする施設園芸地帯である。厳格なコスト計算に基づいた経営が強いられ、銀行も経営に口を出すほどだ。「生産原価」の確保が最優先になるという必然性はある。
これに対して、わが国の場合は、露地、施設または稲作、畑作、園芸作などの複合経営が多く、一作がダメでも次の季節で代替が利く、というおおらかさがある。実際に、関東近県の露地ハクサイ産地などの経営感覚は、いちど相場が倍になれば3年は安値に耐えられる、といわれる。年間を通じて複数の品目を生産・出荷するなら、品目ごとに「勝った、負けた」というのも案外に“楽しいもの”だと言い切る農家もいるのだ。 やはり「せり」は無くならない
いま卸売市場では、基本的に相対取引の割合が高いものでも、品薄時には「せり」に移行する。高値追求が“得意な”せりの“面目躍如”たるところであり、生産者の“楽しみ”な部分も確保されている。一方、「定時・定量・定価格」を求める大口需要、業務用需要は、そうしたせりの不安定要因を嫌い、相対取引や契約的取引を要求する方向にある。こうした“綱引き”の結果、せりと相対の割合がどこかで均衡するのだろう、というのが市場のプロたちの感想である。だから「せり」はなくならない。
しかも最近、青果物販売で“元気のいい”のが、九州屋、澤光青果などを始めとする青果商出身の小売店である。これらの小売店は、卸売市場に毎日仕入れに行き、せりにも参加する青果物のプロたちだ。消費者がこうした店舗に集まるのは、スーパーにはない“お買い得”商品が毎日必ずあるからだ。せりの不安定要因を逆手にとって、毎日、日替わりでお買い得商品を演出できるのである。その価値観を知っている消費者は、高ければ少量に抑え安ければたくさん買っていく。こうした購買行動こそが、卸売市場における「需給バランス」を調整し「せり」の機能を実質的に支えていることを知るべきである。
「相対取引」とはナニモノ?(2004/10月号)
全国の中央卸売市場で青果物のせり・入札取引が、2年連続で3割を切り28・5%になった。つまりわが国での主たる取引形態は、いまや71・5%を占める「相対取引」だということだ。ところが、99年の卸売市場法の改正で、相対取引が“解禁”された当初から、市場で相場安となるのは相対取引のせいではないか、そして相対の比重が高まっているのは、スーパーなどの大口需要からの圧力なのではないか、という生産側からの“疑問の声”は絶えない。
それなら、この「相対取引」というものは、一体ナニモノなのか、果たして生産者にとって得なのかそうでないのか、検証しておく必要がありそうだ。 わが国の主たる取引は相対に
全国71中央市場の2002年度におけるせり・入札の割合(金額)は青果物全体で28・5%(野菜28・4%、果実29・4%)。前年度に比べ青果物全体では1・4ポイント、野菜が1・8ポイント、果実は0・9ポイントそれぞれ下がった。欧米における消費地型の卸売市場はすべて「相対取引」であることからすれば、日本も“グローバルスタンダード”に近づいた、ともいえる。
これだけ急速に相対取引に転換したのは、1999年の1回目の卸売市場法改正で、せり、相対どちらかにするか市場ごとに決められるようになったため。99年度には、せり・入札の割合は青果物全体で46.3%あったから、3年間で17.8ポイントも低下したことになる。
では、他の生鮮品はどうなのか。例えば水産品の場合、24.6%で最も低いが、これは冷凍品、塩蔵品など買付け集荷のものが多いこと、鮮魚の場合でも産地市場ですでに価格形成されていることが多いことなどが理由。花き類は、前年より3・2ポイント減でも60.7%と高いのは、全体に少量多品目で継続性、規格性が低いから。逆に、食肉は2.3ポイント増えて90.9%もあるのは、せり・入札価格が市場外流通品を含む全体の「建値」の役割を担っているから、とそれぞれにそれなりの理由がある。
プロ同士が「相場感」共有
では、青果物の場合、セリ・入札が減って「相対取引」が増えている必然性は何なのかだ。まず、青果物で必ずセリを行うものは、少量多品目で継続性、規格性が低いもの、例えば個人出荷された地場野菜などである。市場の卸売場に並んだ出荷品をセリ人、売買参加者がともに移動しながら、荷物の場所で取引をする「移動ゼリ」などがそれ。一方、セリ台で見本セリをしていた規格性の高い、継続性のある大型産地などのものは、基本的に「相対取引」に転換した、とみていい。
では逆に、「相対取引」が増える要因は何か。すでに相対取引の“解禁”以前からも増えていた「予約相対取引」や、前日に値決めする「予約は」、販売時間前の卸売つまり「先取り」が日常化していたこと。これらの取引は、その前提に量販店など大口需要者への納入があることから、この部分を根拠にして「相対取引はスーパーなど量販店のため」という見方ができそうだ。
相対取引とは、基本的には売り手である卸売会社のせり人が希望価格を提示し、売買参加者も買い取り希望価格を述べながら双方で価格を調整して最終売買価格が決まる。小売市場などの一般小売店で、店主と掛け合いながら価格交渉するのに似ているが、価格交渉ができる小売店というのは、値切られるのが前提だから、提示価格は通常、かなり“吹っ掛けた”もの。それに対して、卸売市場の相対取引は、その仕組みはせりと同じ。いわゆる「相場」が提示され、売買参加者との調整はあっても、結果的に相場の範囲に落ちつく。よく見られる手振りによるせりは、誰でも見ることができる公開性があるが、相対取引はその現場での公開性こそ低いいものの(後から発表される)、「相場」によって価格形成される点では同じということになる。
青果物などの生鮮品は、毎日入荷し毎日取引されている。それに携わるせり人や売買参加者たちプロは、自然に「相場感」が身についている。前日より多い少ない、品質がいい悪い、需要が強い弱いなどのファクターによって、「相場感」をせり人、売買参加者が共有しているため、ほとんどの場合、価格はほぼ瞬時に決まるものだ。
そのため、相対取引はせりに比べて、取引時間が短縮され相場の乱高下が少ないという特徴がある。 相対がグローバルスタンダード
世界的に見ると、日本式のせりを行っているところは、韓国のソウル中央市場、台湾の台北市中央市場、ニュージーランドのオークランド市場のほかコスタリカなどでも行われているが、これらの市場はそのせり方式を日本から学んだためだ。また、“時計せり”で有名なオランダ、ベルギーは、そのすべてが「産地市場」であり、生産者が「出荷価格」を自ら決めるための方式。基本的に消費地における需給バランスから相場を決めている日本とは、その発想が違う。
こうした例外を除いて、欧米の卸売市場はすべてが相対取引である。ただし、せりに比べて公開性が低い取引であるため、取引の透明性を高める必要があるという認識は共通していて、相場の公表や不正取引の監視システムをさまざまに工夫している。
EUの代表的な市場であるフランスのランジス市場では、毎日午前中、開設会社のセマリスが、出荷者、卸売業者、売買参加者の代表者を集めて、品目ごとにその日の売り渡し価格、買取価格の聞き取り調査を行っている。それを午後1時以降、インターネットなどを通じて公表している。聞き取りに際しては、不当な安値、高値はチェックされ、対象業者の調査や指導、監督を行っている。この仕組みによって、取引の公開性、透明性を確保しているのである。
安定しているから残った「入札」
全国の中央市場におけるせりの割合は、平均して28%であるが、当然のことながら市場による格差はある。とくに特徴的なのは、京阪神市場がせり・入札の割合は図抜けて高く、その中心である大阪市場の場合は7割に達している。これら市場は、かねてから先取りや予約相対取引の割合が低く、99年の法律改正後も、ほとんど相対が増えなかったことになる。この格差は何であろう。
京阪神の市場の他の地区市場と大きく異なっている点は、その売買参加者がほぼ全員が仲卸業者であることだ。関東をはじめとする他の市場は、仲卸業者の卸売割合が高いものの、小売店などの一般売買参加者も多数参加する。そのため、せりに際しては争うように大勢の手振りで賑わい、せり上げ方式のムードが高まる。実際、一般売買参加者が混じった市場のせりは、雰囲気に大きく影響することから、せり上げの末、びっくりするような価格が出ることがある。その一方で、沈滞ムードの際には、必要以上に安値になってしまうこともあるのが欠点。市場用語で、前者を「もがき」、後者を「なやみ」と表現するが、言い得て妙である。
これに対して京阪神市場は、せりというよりは「入札」であり、せり上げでなく「一発」で決まる。売買参加している仲卸業者は、それぞれがせり人だけに見えるように手振り(通常3ケタの数字)を提示(入札)する。せり人は、その中から一番高い数字を見つけ出して、その価格を提示した仲卸に全量を落とす。他の市場のように何人かで分けることはない。こうした仕組みだけに、京阪神市場は他の市場に比べて価格の乱高下が少ない、と評価されてきたのである。
要は「迅速」「安定」「適正」
せり・入札であっても相対取引であっても、大切なことは、価格形成のあり方が需給関係を正確にしかも公正に反映しているか、である。そして、迅速で安定的な価格形成が望まれていることに、だれも異議はないだろう。せりから相対取引にウエイトが移行することで、価格形成は迅速化し明らかに安定してきている。本来から勝負が早く、せりより安定していた「入札」方式は残った。ときどき、びっくりするような高値が飛び出し、“おもしろい思い”をしたかつての「せり」中心の時代を、ある意味では懐かしいと感じることは自然なことだ。しかし、いま時代は取引に「安定・確実」性を求めている。その象徴が「相対取引」なのである。
「野菜摂取」は“脅し”と提案で(2004/9月号)
「野菜をもっと食べなければ…」。消費者が誰でも潜在的に感じていることだ。野菜は健康にも美容にも効果があることは知っているし、必須の栄養成分を摂るための1日の摂取目標量も定められている。しかし、現実にはなかなかその目標値はクリアできない、というある種の“負い目”を、消費者は感じている。その“負い目”に乗じることができるからこそ、野菜の購入を促すための新製品提案、“効能”の売り込み、代替品の提案などが“商売”につながり、野菜摂取で健康を訴求する運動が注目されるのだ。消費者側も、“その気にさせてくれる”そんな売り込みや提案を待っている。
●消費者に野菜摂取プレッシャー
実際、成人の野菜類の摂取量が減っている。2002年の国民栄養調査によると、1人1日285.0グラムで、前年より10.8グラムも下回った。20歳以上の、02年の野菜類の摂取量は、緑黄色野菜が94.1グラムで、前年より5.5グラム、その他の野菜が163.7グラムで同じく5.5グラムそれぞれ減った。野菜類に入っている漬物・野菜ジュースは、27.2グラムで横ばいだった。
野菜の摂取目標は350グラム以上。だが、実態は65グラムも少ない。20代、30代は特に少なく、目標に約100グラムも足らない。うち緑黄色野菜の目標は120グラムだが、20、30代の実態は約78グラムであり、目標の3分の2でしかない。
生活習慣病を予防する目的で、世界保健機関(WHO)が国際指針として採択した「食生活と運動に関する世界戦略」の中でも、「1日30分以上の適度な運動」や「砂糖、脂肪、塩の摂取制限」とともに、「果物、野菜、豆類の消費拡大」を勧めているし、世界がん研究基金がまとめた「がん予防15カ条」では、「1年を通じて多種類の野菜・果物を1日に400〜800グラム食べる」としている。また、文部科学省のがん疫学研究班が男女約4万人を対象に10年間行った調査では、野菜や果物を多く食べている人は大腸がんの発生率が低かった。
消費者に野菜摂取を促すプレシャーには事欠かないのだ。
●生活改善調査でも「野菜をもっと」
野菜摂取不足の問題をもう少し詳しく見てみよう。農水省関東農政局の「最近の食生活に関するアンケート調査」では、野菜の1日の目標量である350gを「食べている」「ほぼ食べている」と回答したのは42%、「目標量までは食べていない」と答えたのが42.2%、「わからない」が15.8%。年齢別の比率で見ると「目標量までは食べていない」のが男性では31〜35歳で71.9%、女性では21〜25歳が61.5%とそれぞれ最も多かった。
「野菜不足の理由」として上げられているのが、「調理または食べる時間がない」が全体の22.6%、「野菜が苦手」が17.8%、「料理方法がわからない」11.4%、「料理や後片付けが面倒」11.1%、「家族が嫌いで食べない」9.8%。「時間が無い」と答えたのは男性で26〜30歳70%、女性で21〜25歳で34%と最も多かった。同世代の中で占める割合はそれぞれ、で、若い男性の比率が目立った。
当然、こうした状態に対しての改善も考えている。「食生活を改善する為に知りたい事」を聞くと、「バランスの取れた食事の採り方」「献立や調理方法」が高く、それぞれ54.9%、53.3%だった。続いて「体と栄養の働き」が32.9%、「栄養成分」30.5%、「サプリメントや健康食品の利用法」12.7%だった。
こうした実態は他の調査からも同様に浮き彫りになっている。JAMMが運営するWEB「たべるつくる」で実施したアンケート「あなたの食生活は何点?」で食生活の満足度を測定したところ、「非常に満足」が男性の7.5%に対し女性は4.6%と厳しい評価。「あまり満足していない」と「まったく満足していない」を合わせた「不満」派も、男性26.4%に対し女性は29.7%と女性が上回った。年代別の「不満」派は、女性では20代と30代が多いのに対し、男性では10代に集中している。
食生活の点数では、今の点数(現実)と今後の目標点数(理想)を聞いたところ、平均点は現実が68.7点、理想は85.6点だった。男女比では、現実が男性68.1点、女性69.2点と女性が高く、理想点でも同様だった。現実と理想の点数差についても、男性16.4点に対し女性17.4点と、男性の食に対する接し方が女性より甘いことがわかる。
現在の食生活に対して改善したいことを聞いた結果では、「食事・料理をきちんとしたい」が最も多く、次いで「野菜を多く摂りたい」、「安心・安全なもの、食材、素材に気をつけたい」、「食事内容・栄養バランスよく」、「多品目、多種類とりたい」などがベスト5だ。
そんな「改善意欲」の表れであろう、いま健康食品等の市場は拡大中だ。
健康食品やサプリメント(健康補助食品)を6割の人が利用、さらに中高年の女性の購入割合が高い。(市場調査会社のインテージの調べ)女性消費者や小売店への調査、生活健康基礎調査の結果を踏まえて購入実態をまとめたところによると、健康食品やサプリメントを利用したことのある人は全体の6割。購入ルートは、「小売店以外」での購入が個数べースで80%、金額べースだと87%になり、多くが訪問販売や通信販売などで購入している。
健康食品の小売店での販売金額は2001年度を基準にすると、03年度は1159億円で33%も伸びた。店頭販売品目(金額べース)ではアガリクス、クロレラが長い間1、2位を占めていたが、最近は伸び悩み傾向。逆に、ウコン、グルコサミン、それに野菜などの代替としてマルチビタミンが市場規模を拡大している。傾向としては、支出金額は年齢が高くなるにつれ多くなっており、市場全体が中高年女性に支えられていることだ。
●実際に野菜はどう買われているか
野菜の摂取状況やそれをどう考えているかは分かった。それなら実際、野菜はどう買われどう消費されているのか。生産者としては大いに知りたいところだ。
主婦が日常的に料理などに使う野菜55品目について、品目ことのイメージを調べてみると、「いつも買っておく野菜」ではジャガイモが1位。ジャガイモは「便利だと思う野菜」でも2位につけ、常備野菜の主力と位置付けられている。タマネギも「便利」で1位、「いつも買っておく」で2位となっており、保存しやすい土物野菜が便利と位置づけられている。
また、健康的な野菜としては、「体に良い」「子どもに食べさせたい」の1位にホウレンソウ、カロチンやビタミンが豊富な緑黄色野菜が強さをみせた。一方、「調理が面倒」な野菜では、ゴボウが1位と苦戦。だが8割以上が「体にいい」と答えている。ちなみに、「もっと利用したい野菜」の1位は山芋だった。
こうした日常使いの野菜に対して、消費者の目先を変えて購買促進のきっかけにしたいと、新しい商品提案は野菜の分野でも活発だ。
野菜売場で一般化した新顔野菜の購入経験や、日常的に料理などに使う野菜のイメージを調べた日本能率協会総合研究所では、首都圏で「目新しい」とされる野菜68品目の購入経験についての調査結果では、対象品目の中でパプリカが8割とトップ。水菜、エリンギも6割を超えた。
7年前(1997年)の調査結果と比べて、購入経験が最も伸びたのは、シャキシャキした歯応えで人気上昇中のエリンギ。前回調査の7%から64%に躍進した。また、鍋物、サラダなどに利用範囲が増え、産地も拡大した水菜は31%から64%。食べ方が広まったニガウリは20%から50%へ2倍以上に増えた。ゴマに似た風味でサラダなどに使われる西洋野菜ルッコラも、7%から35%に大きく増。高糖度のフルーツトマトも16%から47%に伸びている。
●キッカケは店頭での「提案」から
では、こうした新しい食材を購入するきっかけは何だったのだろう。同研究所の調べで全体の34%を占め最も多かった回答が「店頭で見かけて」だ。スーパーの店頭では、新しい食材紹介や料理方法を提案するケースが増えており、それを味見するなど気軽に試すことが、購入の大きなきっかけになっているということだ。この傾向は96年から3年ごとに行なってきた同調査でも増加傾向となって現れている。
次いで「料理テレビ番組」(21%)、「料理の本・雑誌」(20%)の順で、新しいものには調理提案が大切なことが裏付けられているのだが、しかし最近では明確な傾向が現れだした。それはいわゆる「健康志向」が背景にある理由だ。購入のきっかけとして「健康テレビ番組」が14%、「健康の本・雑誌」が8%と、どちらも3年前に比べ割合を増やし、「料理テレビ」「料理本」は低下傾向なのだという。
ただし、ここに大きな問題が横たわっている。それは「野菜は食べたいが調理の時間がない」という問題だ。そこで活発化しているのが中・外食マーケットである。
そんな傾向を裏付けるのが、キューピーがまとめた40代以上の中高年主婦の食生活調査だ。総菜への評価をたずねたところ、「時間がない時に総菜を買う」(64%)「手作りより割安」(60%)「手作りだと手間がかかるメニューは総菜を買うことが多い」(45%)と、便利さやおいしさに対する評価が高い。
ところが面白いことに、これら評価の回答以上に多かったのが、「添加物が多いので体に良くない」(70%)「手抜きをしているようで後ろめたい」(66%)。評価の一方で総菜に心理的な抵抗感を同時に感じている人が多いということだ。
後ろめたいけど、便利だしおいしいからつい買ってしまう…。そんな主婦の迷いを裏付けるように、いま惣菜産業は大賑わい、「デパ地下」大盛況である。
●野菜の「アドバイザー」や「ソムリエ」も
販売現場での“お勧め”には効果があることは、先に触れた。これは外食店でも同様だろう、と判断するのが「野菜版ソムリエ」を店舗に配置するロイヤルだ。
ロイヤルはグリル・サラダバーレストラン「シズラー」全8店に「野菜のソムリエ」を配置している。肉、魚料理との相性が良い野菜を勧めてバランスが良くおいしい食事ができる店づくりを印象づけ、固定客増につなげようとしている。
日本ベジタブル&フルーツマイスター協会が認定する民間資格を取得した従業員を置き、サラダバーのわきなどで消費者にアドバイスしたり、店員と会話しながら料理を注文する方法も導入した。店の入り口には主な野菜の生産者名、栽培方法を掲示。鶏肉は客に質問されたら生産履歴情報も公開するなど「食の安全」にも配慮している。
この業態で初年度の年商を、最低でも10%増やせる見込み、と強気の読みだ。
健康によくてもおいしい、さらに簡便、しかも本格的となれば、女性の“後ろめたさ”は吹っ飛ぶらしい。いま、ジューススタンドが人気上昇中。生鮮の野菜・果物の摂取が減少傾向でも野菜・果物ジュースに限っては消費が急増しているのだ。とにかく、手軽にヘルシーな野菜・果物が摂取できるのだから、女性からお年寄りまで人気は高い。
野菜の惣菜販売が中心のロックフィールドは、惣菜店をジューススタンド「ベジテリア」へ順次変更。現在、全国の百貨店を中心に31店舗を展開中だ。なにしろ惣菜の業態が1日60万円売上げるのに対し、ジュースでは70万円を超える日もあるという繁盛振りなのだ。
関西の駅構内スタンドを展開するジューサーバーは昨年関東に進出、今年は10店舗の新規出店。メニューもほぼ全国統一だが、中には地場野菜を活用したものも期間限定で販売する。単価は150円〜280円で、フレッシュジュースは280円の価格帯に多い。一方、ジューススタンドを国内で初めて手がけたサンフルーツは、メニューが豊富で買い物客にファンが多い。歳暮時期では1日の売上げが惣菜店平均を大きく上回ることもあるという。こうしたジュース需要増加の手応えで、福島県郡山市の果物店青木商店も首都圏に5店舗の進出を果たすなど、今後は新規参入も増えそうだ。
“あいまい”表示は「実証」せよ!(2004/8月号)
法改正や自主基準づくりが活発化いわゆる「不当表示」はもちろん、消費者が「優良誤認」してしまうような“あいまい表示”は禁止されている。そのため、スーパーなどの自己規制を含めて、青果物の表示から「完熟」「健康」「高鮮度」「おいしい」などの抽象的な表現が消えてきた。それでは、と、独自に表示基準を設ける動きも出てきたのだが、この6月には、さらにこれを規制強化するために法律が改正され、「立証責任」という聞きなれないものまで登場した。自慢の農産物の良さをいかに消費者に分ってもらうか…、知識とテクニックが必要な時代になったのだ。
「全体から受ける印象」でも不当表示に
先の国会で承認された改正「不当景品類及び不当表示防止法」では、すこし詳しく言うと、<第4条1号>の「不当な表示の禁止」に<2号>が新設され「当該表示事業者の立証責任」の項目ができた。これが「不実証広告規制」の指針といわれるものである。これまで、表示が不当かどうかは、公正取引委員会が立証する必要があったが、これからは「当該事業者が裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出する必要」がある、に変わった。これを提出しない場合は「不当表示」とみなす、というのだ。しかも、商品そのものに印刷した表示や小売店頭での表示だけでなく、これまで対象外だったチラシやパンフレット、インターネットなどでの表現や「表示」にも適用される。
ここでいう「合理的な根拠」とは、試験や調査によって得られた結果、専門家、専門機関の見解等などに基づくもの。仮に、「高鮮度」と表示したら、他との違いを調査して資料を用意しておかなければならないし、「健康」と表示するなら専門家や研究者の“お墨付き”を提示しなければならない。また、たとえそれを実証しても、内容が誇大に表示されていれば「合理的」と認められない、というのだから大変だ。
さらに気をつけなければいけないのは、文言や文章をよく読めば“誇大な表現ではない”と言えても、「全体から受ける印象」が優良誤認されるなら、それもダメ。例えば、これは実際にある事例だが、「私たちはおいしい野菜づくりを目指しています」という表示。これは、そのまま読み下せば何ら問題ない表現であるのだが、実際には
「私たちはおいしい野菜づくりを目指しています」
と表示されている。これは誇大な表現で不当表示になる。つまり「おいしい野菜」という部分の文字が太くて大きく、しかも赤い。消費者がこの部分だけサッとみて“優良誤認”し買うおそれがあるからだ。この改正法の施行は今年の11月。それまでに準備と覚悟をしなければならない。
生協やデパートはすでに“自主規制”
ここ2〜3年、農産物のニセ表示事件等の多発により、消費者からの信頼が失墜し、一気に“あいまい表示”が社会問題化してきた。いちばんこの問題に神経過敏になっているのが、スーパー、生協など販売の現場である。ただでさえ売上低迷の時代。店頭で“あいまい表示”を放置しておけば、企業の信用も失い顧客離れを誘発する。
最初に対策に乗り出したのが、コープさっぽろだ。同生協は、すでに2003年度から生鮮食品の表示基準を厳格化。農畜水産物の種別ごとに一定の表示項目を定めているほか「極上」「もぎたて」「フレッシュ」「幻の」「本仕込み」「脂がのった」など、約70用語を「あいまいで消費者の誤解を招く恐れのある表現」の使用を禁止した。ただし、「採りたて」は収穫後5時間以内、「甘熟」は糖度が一般品に比べて20%以上など、具体的な基準を設定できるものは使用可能としている。さらに、農産物では名称、原産地、内容量、価格の4項目を表示。畜産物や水産物はこれら4項目に加工者や保存方法などを加えた9項目を表示している。
一方、生協とは異なり“有利販売”のため、その表現や表示が誇大ぎみであいまいなことが多かった小売店業界。対応が早かったのは高島屋で、JAS法など法律で定められていない表現を「あいまい表示」と整理し、農産物の「朝どり」「旬」「新」、畜産物の「産みたて」「朝引き」などについて基準を設けた。
その基準とは、@安易に使っていないか A表示内容に裏づけがあるか B証明書があるか C客に明確に説明できるか、の4つが柱。これに基づき、「完熟」は「普通より収穫が遅く、一般に比べ明らかに成熟したもの」といった定義を設けた。その結果、例えばキュウリでは「やわらかくておいしい」との表示を取り止めている。これは「客に十分説明できない」から、というのがその理由。
こうした判断は企業によっても違いがある。おなじキュウリの場合でも、スーパー・マルエツでは、その「品種特性」が他品種との違いを「やわらかくておいしい」と表現されているものについては、この表示を使用している。
このように表示ひとつひとつに自主基準を設ける動きがある一方で、スーパーの西友などは「完熟や本場などは誤解を受けやすく、客観的な基準は作れない」と基本的に表示をやめた。ただし、従来から実施していた「朝穫り」だけは基準がある。群馬県のキャベツとレタス農家と「集荷時間は午前11時まで」との基準を定めているため、それまでに集荷したものだけが店頭で「朝穫り」と表示されているのだ。
最初に基準を作り当てはめる「PB」
このように過剰反応のように見える小売店の対応。これで競争激化する企業間競争に、どう生き残るのか、どう差別化するのかとも思う。そこでクローズアップされるのがプライベートブランド(PB=独自開発商品)強化の戦略である。まず企業が自ら基準を作り、それに合致する商品を開発するという“逆転の発想”の戦略なら、問題ない。
イトーヨーカ堂は昨年5月から、新たなPB「顔が見える野菜」の販売を始めた。従来のPB基準を見直したところ、「あいまいな点」が出てきたため、それまで複数あったPBの販売をやめて一本化したものだ。見直しは、生産地、栽培方法、農薬・化学肥料の使用量、栄養価、残留農薬、記帳など、大項目だけでも11に及んだため、作業には半年もの時間をかけた。
西友はPB「食の幸」を4月に新しく作った。基準の中に「生産から販売まで管理しています」と、「管理」という概念を明確にした。同様に、今後はいくつかあるPBを「食の幸」へ集約していく。東急ストアもPB「健康菜果」に重点を置く。力のある契約農家と、独自の基準で連携しながら、企業ブランドとして全店展開していくことにしている。
ジャスコを展開するイオンは、農産物のPB「トップバリュ・グリーンアイ」の割合を上げるため、安定供給できる産地にPBへの参加をアピールしている。また、「環境にやさしい」を実証するために、輸送や販売方法も明記するなどイメージ向上にも積極的だ。
食品産業、スーパー業界でも独自対応
こうした表示の厳格化傾向は、今回の「不当表示防止法」にまつまでもなく、粛々と進行している。とりわけ、「健康機能性」を“売り”にする食品が増えているが、「不当表示」にならないためには、食品メーカーが健康への機能性を証明しなければならない。そのため各社は、自社商品に含まれる原材料成分の健康効果を自社研究し、それを学会などで発表している。
フジッコは、黒酢と黒大豆を組み合わせた「黒酢黒大豆」が、便通の改善や、肥満に伴う生活習慣病の予防効果が高いことを証明したと発表、日本栄養・食糧学会大会で報告。キューピーも、「マヨネーズが野菜に含まれるβ-カロテンの吸収量を7倍に高める」と学会発表。テレビCMでその内容を流している。大手食品メーカーでは年間20〜30本、多いところでは80本もの学会発表を行うほどの勢いだ。
スーパーの業界団体・日本チェーンストア協会も、食品表示の自主基準づくりに乗り出している。4月末に食品表示ワーキンググループを設置。青果、食肉、水産、加工食品の部門ごとに、消費者に分かりやすい適正な食品表示のあり方について検討を始めた。
同協会では、すでに加工食品の原産地表示に関する自主基準づくりに着手。JAS法の基準見直しで原産地表示が義務付けられる品目が増えるのに合わせ、国より厳格な業界ルールを導入する方針。キャベツとニンジンなど異種混合したカット野菜やカットフルーツ、フライの衣をつけた食肉などは現在は原産地表示が義務付けられていないが、こうした加工程度が低く生鮮食品に近い20品目についても、これを先取りする格好で自主基準をつくる。
外食産業の業界団体、日本フードサービス協会でも、外食店のメニュー表示のガイドラインづくりに乗り出している。ガイドライン作成で検討しているのは、食材の原産地、カロリーや塩分など栄養成分、卵や牛乳など人によってはアレルギーを引き起こす恐れのある食材の使用の有無などのほか、原料の生産・栽培方法、遺伝子組み換え農産物の使用状況の5項目が中心だ。
ついにトレサビに「表示JAS」規格
さて、こうした適正表示にかかわるテーマで、いちばん“根っこの問題”として焦点になっているのは、トレーサビリティーを含む「生産情報」の適正化である。商品としてあるいは原材料としての生産情報が“あいまい”かつ不適切、不明瞭であっては、すべてが総崩れ状態になる。 そこで登場するのが、農産物の生産履歴を明らかにする「生産情報公表農産物JAS」。表示する記載内容を義務化して、それを公表する方法まで「JAS規格」にしようというものだ。
生産情報公表農産物JASは、同じ生産方法をとる個人、生産者グループがつくった一定の期間に収穫した農産物が対象。これに生産単位識別番号を付け、その生産情報を公表する。消費者は番号を基にインターネットなどを利用して、生産情報を調べることができる。茶を除くすべての農産物が対象になる。
公表する項目は@生産者の氏名、住所A圃場の所在地B収穫期間C使用した農薬D特定防除資材E肥料F土壌改良材の種類や回数など。生産者はグループ全員の氏名と住所の公表が必要。住所と圃場の所在地は番地まで表記する。農薬や特定防除資材などは使用目的、名称、使用回数を記載。回数は「1回〜5回」など生産グループの中で最も少ない回数と最も多い回数を入れる。
分類が難しい栽培方法や品種名などは任意表示だ。これも、早ければ11月遅くとも2004年度中には施行される予定。
今年度は、オリンピックがその発祥の地アテネに戻ったように、農産物の表示も原点に戻って新たな世紀を迎えるのだ。
青果物流通に「ビジョン」を =「ディストリビュータ」待望論=(2004/7月号)
●換骨奪胎され全体像見えぬ今回の卸売市場法の改正によって、「流通はどう変わるのか」、という質問をよく受ける。農家やJAなど生産関係者、そして普及センターなどの行政関係者からだ。中には、卸売市場法の改正内容に関する情報を集めて、自分なりに法律を“読み解こう”という熱心な人もいる。しかし、手数料自由化や第三者販売、直接荷引きなどの改正点を含めて、法律全体がどんな「流通像」を描こうとしているのか、大方は「よく分らない」という。
卸売市場の関連業界であれば、長年“馴染んだ”制度のどの部分が変わるのかという“位置関係”は理解できるし、もっと言えば、すでに制度の範囲を超えた現実の流通(取り引き)実態に、法律の方を合わせるための改正だ、と見抜いてもいる。
ただし、場当たり的な対応と小手先の改正を積み重ねてきた法律だけに、ちょうどいま議論沸騰中の「年金法」と同様、部分部分が複雑で、全体像としてみるとよく見えない、よく分らないということも事実。しかも、あろうことか市場業界自身も、この法律がどんな「流通」を目指しているのかが、分らなくなっている、というところに大きな問題が横たわっているのである。
●かつては明確なビジョンが
考えてみれば、昭和46年から施行された卸売市場法には、明確な「卸売市場流通像」が示されていた。中央卸売市場の整備を流通政策の中核として据え、市場の恣意的な取り引き操作を極力排除して、生産者の権利と消費者の利益を擁護したものであり、これシステムこそが日本の青果物流通の大宗を担うもの、と高らかに宣言したものでもあった。
この国による方針を、業界関係者は“ご神託”として聞き、その政策へ全面協力することが「公共的使命」であるとして神妙に従ったのであった。かくして、多くの対象市場が整備統合され、首長は中央卸売市場など公設市場を、ステータスシンボルであるがごとく開設を競い合った。
販売は、許可された売買参加者によって公開のセリ(または入札)で行われ、卸売会社は産地から販売委託されたものだけを対象にし、受託拒否もできないかわりに、定率の手数料が約束された。出荷調整はもっぱら産地によって行われることが原則だが、できるだけ大型流通を誘導するために出荷奨励制度が設けられ、野菜指定産地制度や野菜供給安定制度などのバックグラウンドも整備された。そしてこれらの制度に乗ることが、産地における販売事業の根幹である、との位置付けも明確になっていったのである。
●官の責任放棄で民に「自己責任」
かつて、市場関係者がお題目のように唱えていた「公共的使命」は、どこに行ってしまったのであろう。どの単協も経済連も高らかに掲げていた、「有利販売」を実現する販売事業はどこ行こうとしているのか。すべての関係者が戸惑うこの事態は、「卸売市場法」からビジョンが消えてしまった、文字通り見えなくなってしまったからである。
見えなくなってしまったのは、実は「市場像」なのではない。流通・販売というものに携わる「自分の姿」が見えなくなっていることにほかならない。自分の役割とそれに伴なう使命、責任、努力目標が見えないのである。
考えてみれば、規制緩和とは競争原理の導入だといわれる。官の統治から民の活性へ、などと言えば聞こえがいいが、統治は束縛する代わりに民にビジョンが示され、官はそこへの誘導に責任を持ってきた。だから自由競争への移行とは、すべて民の「自己責任」の問題だ、と官が責任放棄することに他ならない。
制度、規制などによって明確に役割分担が示されてきたのに、その規制を取っ払われるということは、新たに自分の役割を探さなければならず、それを実現するためには他者と競争しなくてはならない。例えば、卸と仲卸との“垣根”が取り払われるということは、両者が対等になるということなのか、どちらかに吸収されるということなのか。
では、産地としては、どちらの機能と組んでいけばいいのか、それともそれらと競争する第三の方法があるのか。しかも、生産業界を取り仕切る全農としても、園芸販売事業改革の方針を打ち出したばかり。そこでの2本柱は、従来の市場出荷は品目全体の情報と販売を一元化することと、直販機能を充実させていくことだ。では、そこでいう「市場」とは、どんな機能としてとらえているのか、だ。
●カネがなくてもビジョンと目標を
いま、現場では、いやが上にも混迷が続く。その責任は一に国つまり農水省にある。景気が悪くなったからカネは使えない、だから規制緩和して官から民へ、中央から地方へ…。それをケシカランと言っているわけではない。市場業界は、そもそも補助金などもらったことがないし、そこをナンとかしてくれる、頼もしい議員連盟があるわけでもない。それはそれで仕方ないだろう。しかし、規制緩和を理由に、国が果たすべき役割まで放棄してもらっては困る、というのだ。
国が果たすべき役割とは何か。それはビジョンを示すことである。カネはなくても、人は目標と心意気さえあれば生きていける。なのに、改正卸売市場法にはビジョンもなければ魂もない。場当たり的に改正し、対症療法的にツギハギだらけになってしまった市場法を見ても、だれが全体像を結べるのだろうか。例えば、農業の生産や流通に将来を託そう、という志を持った農業高校生が、これを解読しようとしても理解不能な法律とは、一体ナニモノであろうか。
●待たれる新たな「流通像」提示
ツギハギだらけで換骨奪胎した市場法は、もう「改正」でしのぐべきではない。新法を作るべき段階に至っているのである。生産、流通、販売、消費はすでに大きく様変わりしている。法律の抜本的改革を望む声は、今に始まったことではなく、すでに昭和50年代からあった。しかし、当時その声は黙殺された。例えば、「先取り」を正当な経済行為として認めずに、予約相対取引という“机上論”の採用や、卸売時間前の販売の条例化などで場当たり的対処で終わらしたのだ。また、スーパーによる売買参加権取得では、結局、業界の因習や力関係に屈する形で認めず、歴史的ともいえる大きな禍根を残している。
もう経緯はどうでもいい。前法律との整合性を考えなくてもいい。新しい、真っ白なキャンバスに、新たに「卸売市場流通像」を描いたらいいのだ。
●いまこそ「ディストリビュータ」
ここに私は、これからの青果物流通のビジネスモデルを提案したい。すでに数年前から、各地の講演会やセミナーにおいて紹介、解説し執筆もしているからご存知の方も少なくないだろうが、この流通モデルに21世紀の青果物流通が収斂していくだろうと確信するものである。同時に、卸売市場を含む青果物流通形態のこれからに、ひつとのビジョンを与えることで、卸売市場関係業界から産地業界、そして行政における目標や方向性が明確になるものと期待しているし、何よりも需要者業界にとって、誰とパートナーになればいいのかが明快だ。
流通を司る機能として、従来は、右手が川上の産地、左手に川下の需要者、そして川中、中間に「卸売市場」が配置されていた。私はこの「卸売市場」の位置に「ディストリビュータ」を置く(図参照)。つまり流通機能とはディストリビュータ機能そのものであり、卸売市場はそのディストリビュータに対する商品供給側、つまり川上側に位置付けられる。
●それは「仲卸」機能の集大成
一目瞭然であるが、この機能モデルは、現在の「仲卸」が果たしている、あるいは期待されている機能の集大成である。いわゆる先進的な仲卸といわれる業者は、もうすでにこの機能を装備しているし、市場外においても同様の機能を装備、目標にしている企業も少なくない。
「ディストリビュータ」の概念とは、
@自らが顧客を持ち、毎日の発注に対する納入業務を行っている。
Aそのための仕入れルートとして、卸売会社を中心としながらも産地市場を含む他市場、生産者グループやJAとの直接取引きや、輸入品を直接間接に調達できるなど、多元的な仕入れチャネルを持ち、自社農園的な生産機能にも関与している。
B顧客、産地側等からの要望に対応できる、加工、貯蔵、調整、配送機能を装備し、商品開発、商品提案機能を持つ。
などの条件を満たしているものであり、現実にはこれを市場内で行うもの、市場外に施設や企業を持つもの、卸売会社等と共同で、あるいはグループで対応しているもの、外資や農業外資本によるものなど、さまざまなバラエティーがある。
●制度はディストリビュータのために
これは単なる「絵に描いた餅」ではない。すでに、スーパーや生協、外食企業などの多くが、商品開発を含む年間のマーチャンダイジングを、これらディストリビュータに依存している。JA県連などの販売事業のターゲットを、卸売会社を飛び越えてディストリビュータに設定し、その供給、提案機能のおかげで飛躍的に扱いを伸ばしている直販事例も目立ってきた。
中央市場の卸売会社の中には、このディストリビュータ機能に着目して協働事業やバックアップ体制の整備に乗り出すケースも目立ち始めた。ディストリビュータ側も、自らの弱点である人材や資金力、企画力の不足を充足するために、他社との提携、合弁、資本投入に動き始めており、大手資本側からのアプローチもある。
こうした流通ビジョンが明確になれば、卸売市場制度がどこに向かって行くのかがよくわかるはずだ。マージン(手数料)は商品や取引、流通形態によってケースバイケースで、価格形成も産地側、需要側合意の上での契約的なものになってくる。商物分離や直接荷引きは当たり前。何よりも卸売市場における施設整備も、ディストリビュータの使い勝手のいいものにならなくてはならない。低温施設も利用者本位の適正規模が求められるし、包装、カット、ピッキングなど加工施設の充実、そして、卸売場の形態も「卸売」のための陳列、保管場所から、ディストリビュータのための荷置き施設、荷捌き施設に性格を変えていかなくてはならないだろう。
一方では、これら施設はよりいっそう受益者負担の原則が強まるだろうから、敷地は行政側が提供しても、設置そのものはPFI方式で行うのが道理にかなっている。それらを踏まえてみれば、市場開設者など行政の役割も、取引の監督者から「施設の管理者」へと変容を遂げていくだろう。
重ねて言う。卸売市場法にビジョンと魂を!
ユニクロが「SKIP」に託した夢(2004/6月号)
「ユニクロには大いに期待するが、残念ならが失敗するだろう…」。筆者が、2年前の秋に書いた記事の内容である。予想が当たってしまったのだが、活性策を模索している関係業界としては残念な結果である。格安衣料チェーン「ユニクロ」の青果店として注目されていた「SKIP(スキップ)」が、この6月をもって全面撤退した。バブル経済崩壊以降、「ユニクロ」は最も伸びた企業のひとつ。あの“ユニクロの奇跡”の再来で、農産物消費のマーケットを活性化してほしい、というのが、生産・流通業界共通した願いだった。なにしろ、初年度の売上高10億〜20億円を目指し、さらに当面の目標は、売上高1000億円、経常利益率10%を掲げての船出だった。実現すれば、首都圏の生協の共同購入に匹敵する会員をほこる、新たな小売業態が出現するはずだった、のだ。
なぜわずか1年半で撤退したのか
いま、インターネットでこのSKIPを検索すると、約500件の情報が現れる。SKIPの会社情報からメールマガジン、ストア、安全検査情報、そして最も多いのが産地レポートである。すでに撤退を決めているから、どの項目をクリックしても、いまや「SKIP営業終了のお知らせ」の画面しか表示されないのだが、検索結果としてヒットしたそれぞれの項目に表示されている数行の内容紹介だけをみても、この企業とスタッフの熱意と意欲が伝わってくる。閉店した店舗の派手なネオンだけが残っている…、といった風景。まさに“兵(つわもの)どもの夢の跡”である。
なぜユニクロは失敗したのか。何が悪かったのか。どこに原因があったのか…。撤退というネガティブな状況で全てが否定されがちでも、その是々非々は的確に分析しておく必要がある。なぜなら、多くの生産、流通の関係者が大きな夢を託していたからだ。
そもそも「SKIP」は、ユニクロの売上高が低迷した時期に、経営母体ファーストリテイリングの多角化の一環として平成14年9月にスタートしたものだ。「ユニクロ」の知名度と、“緑健農法”の開発者である永田農業研究所の指導による野菜や果物を扱うことなどが注目を集めたから、かなり勝算はあったはず。インターネット通販の「SKIPストア」から始め、初めての店舗は松屋銀座店。同様の商業内施設では、東武池袋店、横浜シァル店、さらに路面店では成城店、世田谷上野毛店、あざみ野店をなどを次々と展開していった。同時に、販売チャネルとして会員販売の「SKIPクラブ」を設け、その会員数1万余人を獲得。急速に業績を伸ばしている、とみられていた。
ところが、スタートしてわずか1年半で解散となったのだ。倒産したわけでもないのに、その撤退の判断が早すぎやしないか?という疑問が湧く。通常、青果物販売という業態は、俗に“牛のよだれ”(のような商売)と言われるように、毎日の継続的な売上があるため、急激な経営悪化はありえない。
確かに初年度の売上高は6億5000万円で、目標だった10〜20億円からすればかなりの下方修正を強いられた。また、売上の大半が会員販売とインターネット販売によるもので、店舗販売は全体売上の10%程度。同期の経常損失は9億3000万円と売上に比べて費用がかかりすぎ、黒字化のメドがたたない…、というのが表面的な理由である。しかし、損失の大半は店舗展開のためのイニシャルコストであり、いわば開店したてのこの時期に“メドがたたない”とはどういうことなのか。それがまず一点。
たしかにコンセプトは当たった
このSKIPに、多くの関係者が期待したのは、そのコンセプトである。川上と川下を効率良く結んで、高品質商品を低価格で届ける。生産履歴や糖度、栄養価情報を開示するこだわり農産物の通信販売をメイン事業とし、その販売を補うための青果物のショールームを東京・銀座などにオープンさせる。女性をターゲットにして、有機野菜などのサラダ、カットフルーツなどもそろえ、「見て味わって、こだわり青果物の良さを知ってもらう場にする」というもの。
このために、同社は「緑健栽培」で有名な“緑健グループ”と業務提携し、同グループの“こだわり青果物”のほか、調達先についても「産地は消費地に近い方がいい。各地で休耕地が増えているが、効率を追求すれば海外より競争力はある」と“国産宣言”をしたものだ。
このデフレの真っただ中にあって、通常より2割前後は高い“国産のこだわり”商品をあえて販売しよう、その勝算はあると宣言したのだから期待は高まり、しかもその効果は確かにあった。SKIPのスタート当初はまだ、小売業の農産物販売の主流は低価格路線。そこにSKIPの「価値と価格」の見直し宣言がキッカケとなって、一部スーパーが高級路線の業態を出店させ始め、さらに各社とも通常より2〜3割高い「PB商品」戦略に邁進することになる。
SKIP は、消費者のさらなる“こだわり志向”を予見したか、少なくともその動きを敏感に感じ取ったことは、紛れもない事実だ。
しかも、消費者になじみのある「ユニクロ」の名称をあえて使用しなかった。販売戦略上はマイナスにも見えるが、低価格イメージとは異なった新たなメッセージを、農産物販売を通して消費者に届けようとしたのだ。また、ユニクロといえば「中国産」というイメージだが、青果物の調達先は中国ではなく、あくまでも「国産志向」を掲げたのは、その直後に中国産野菜の安全性が大問題になっただけに、卓見だったともいえる。とにかく、消費者が今後、もっと高品質、安全、鮮度を求めていくという予測と確信があってのことだろう。これだけコンセプトが大当たりしたのに、なぜ撤退なのか。それが二点目である。
製造小売業のビジネス・モデルを応用
SKIP の展開は、本体ユニクロの不振を受けての多角化の一環だった。ユニクロ自体の不振は、「お客様の要望にこたえられる商品を提供できなかったこと」。だから、「いまこの時期こそ、商品・業務をすべてゼロからみつめ直す絶好の機会」だという意気込みがあった。企業のテーマは「生活に密着した事業」「ファッション性があるベーシック商品」の開発だ。そして、「ほんとうに良い商品をほんとうに安く、しかもだますことなく、真っ直ぐな心のままで提供していく」こと。だから衣料品であり、そして農産物だ。「ユニクロ」も「中国産」も使わないのは「ゼロからみつめ直す」こと。生産者と直結し、生産履歴や糖度、栄養価情報を開示し、ショールームを設けるのも「だますことなく、真っ直ぐな心のままで提供」するための手段だし、銀座や高級住宅地に店舗を設置して女性をターゲットにするのはやはり「ファッション性」の訴求である。
しかしSKIPには、ユニクロから持ち込んだ技法があった。自社工場を持たない製造小売業のビジネス・モデルを農業に当てはめようとしたのだ。調達商品のすべてを、生産現場までさかのぼって管理するという製造業としてのノウハウを、高糖度トマトや低農薬・低化学肥料の野菜、果実、米などを直接農家と契約し買い取る方式に応用した。それが大きな誤算だった。
この一見ユニーク、斬新に見える方式。その発想は同様に農産物分野に進出し、そして撤退を余儀なくされた非農業系企業と、実はほとんど同根のものなのだ。トマト事業から撤退した弱電企業のオムロンも、野菜事業から撤退したJTもそうだった。
こうした企業は、例外なく同じ発想をする。SKIPも、事前に農家や市場、スーパーなど小売の実態を調査すると、「生産者と消費者の意識のずれ」「品質と価格」「規格の問題点」「複雑な流通経路」などある。そこにSKIPが進出して生産と消費をつなぎ、農産物の鮮度、味など多彩な品質を情報公開したら、「消費者に納得して買ってもらえる」「コストを抑えて届ける仕組みを工夫すれば、商売として成り立つ」と結論づけたのだ。そこが農産物の特殊性を理解できないシロウトの悲しさだった。
流通のプロとノウハウの軽視が失敗要因
SKIPの撤退を、デフレの下では、高品質という「価値の提案」を価格に結び付けることが難しく、消費者の支持を得ることができなかったから、とする見方がある。また、出店の遅れや天候に左右される商品の需給管理の難しさ、なども指摘されている。いずれの意見も、結果論であり正確性を欠く。ではなぜ、同様のコンセプトを持ったスーパーや生協、宅配業者が成功しているか、だ。
確かに、生産から販売まで一貫して取り組む場合、最も問題となるのが「需給調整」である。特に、農産物は衣料品とは違い天候などによって生産量が大きく変わる。そのため、青果物販売は通常、欠品や過剰対策のため調整機能を持つ市場や流通業者などを使う。肝心なのは、そうした中間業者の介在によって、結果的に、安定供給と低コスト販売が可能になっていることだ。
要は、小売サイドと生産側の意思疎通がありさえすれば、それが「直接取引き」であったり「産直」という表現を使っていい。商流・物流など調整とノウハウを必要とする部分を専門のプロに任せることのほうが、効率的であり経済合理性に合うことを知らなかった…、それがSKIPの失敗の最大の理由である。
生協やスーパーが、産直や直接取引き、開発商品と称しているものの多くは、「市場産直」「市場帳合流通」「契約的市場流通」というクロウトの手法によって支えられている。それを知るためには、1年半という時間は余りにも短かったということになる。が、逆に、「製造小売」の“ユニクロ方式”が通じないなら事業展開の意義がないと判断したのかも知れない。いずれにしても、ユニクロがSKIPに託した“夢”は破れたのだ。
青果物関連業界では“ギネス並み”ともいえる早期撤退を決意した「ユニクロ」は、“儲からないなら早めに撤退する”という、優れた経営感覚の持ち主であることは間違いない。それもやはり“ユニクロの奇跡”だといえるのだろう。
農業の衛生管理「GAP」はバイオテロ対策か (2004/5月号)
わが国でいま、「食品の安全性」といえばまず「残留農薬」がらみのことを指す。ある意味では平和な国だ。なぜなら、欧米を始めとする国際社会では、「安全性」とは常に細菌やウィルスなどの「病原体」に対して。つまり「安全性」とは、危険か否か、極端にいえば「生死」にかかわるの問題を指しているからだ。ところが最近、日本でも欧米並みの「安全性」が問題になる事件が勃発している。そこで登場したのが「GAP」という“安全性”を担保する基準、認定のあり方である。生鮮の農産物の「衛生管理」?
この言葉、「GAP」とは、Good Agricu1tural Practicesの略で、日本では「適正農業規範」と訳されている。よく似た言葉にGFP(Good Farming Practices)「適正農家規範」というものがあり、これは農家がどれだけ環境や家畜の健康に配慮しているか、という基準なのに対して、GAPは食品の「安全性」に対してのもの。つまり、生鮮青果物による消費者の健康被害を回避するために、農家が圃場から出荷までの各段階で、病害微生物などの危険要因をどう排除するかを示した衛生管理のためのガイドラインである。
衛生管理といえば、食品加工工場などで、食中毒菌などの細菌やウイスル防止策として導入が進むHACCP (危害分析重要管理点)方式が有名だが、その考えを農業に取り入れたもの、といえば分りやすいだろう。とはいっても、食品加工場などでは菌を持ち込まず、作らず、持ち出さず、の「3原則」を守るために、施設は常に滅菌され、従業員は頭まですっぽり被る白衣やマスク、長靴をはき、消毒のうえ加工施設に入っている。これと同様のことを農業でもやるということは、どんなことなのか、ほとんど想像が不可能である。
しかし信じられないことに、GAPによると例えば、「圃場に入る際には、手洗いをしてマスクをし履物を消毒したか」「使用する堆肥は、60度以上で数時間以上発酵させたか」「作物に土が付かないように配慮されているか」などと、やはり「菌を持ち込まず、作らず、持ち出さず」の三原則が指示されているのである。
現代は「突発出現病原体の時代」と言わる。その由来や出現の理由が不明であり治療方法も確立していないのは、BSEやSARSだけではない。HIV、エボラウイルス、ニパウイルスそして病原性大腸菌O−157。昨年問題化した鯉ヘルペスやまだくすぶり続けている鳥インフルエンザも不気味である。
一見して潔癖症ともいえる日本人だが、それは見かけで判断したり信用したりしているだけで、本質的、科学的に衛生問題を考えている訳ではない。情緒的、感覚的であり、理性的ではないから、目で見て判断できないだけに、いったん芽生えた不信感、恐怖心は簡単には払拭できない。その証拠がある。つい最近の調査で、鳥インフルエンザの“影響”によって売上が落ちた小売店は、全体の8割に上っているといわれるほどなのだ。
そんな日本人に対する「安全・安心」の担保は、簡単にはいかない。いま俎上に上っているGAPは、農業者からすれば「なにもそこまでしなくても・・」と思うだろうが、どうやら行政も小売店業界も本気のようだし、農家のなかにも先行して対応する事例も見え始めた。
先行した実践例ではコスト高に
埼玉県JAほくさい管内の北川辺町とまと研究会(27戸)では、減農薬・減化学肥料栽培トマトを施設栽培しているが、昨年の9月からは、GAPの指針となる国の「生鮮野菜衛生管理ガイド」などを基に新たにチェック項目をつくり、作業確認・記帳を始めている。
そのチェックは厳しい。例えば、作業前に手洗いしたか、製造中の堆肥の温度は60度以上かなどを毎日記帳。土壌や水質を3年に1回検査、雨を防ぐためハウス出入り口に屋根を設置、ハウス内にネズミや鳥の侵入を防ぐためのシートの取り付けたり、トマトに土が付かないよう作業通路にマルチを敷く、などだ。
すでに取り組んでいる生産履歴記帳に加え、このGAP導入でチェック項目は20も増えたが、導入の理由について同研究会は言う。「これまで病原性大腸菌O−157やダイオキシン問題が発生した場合、農産物が直接の原因ではないのに、結局、被害者は農家だ。それならあらかじめ衛生管理を証明しておきたい」。
スーパーも動き出している。小売店業界の先陣を切ってイオンは、昨年12月にGAPの考えを取り入れた「イオン農産物取引先様品質管理基準」を作成した。現在、取引産地のJAや納入業者の仲卸などに協力を呼びかけているが、これもまたチェックが厳しい。
「作物洗浄には水道水を使い、井戸水の場合は水質証明書が必要」「農場内外からの風、排水などの汚染が考えられる場合、汚染を少なくする取り組みを行う」など42項目もあり、第三者の外部監査も義務づけられている。
イオン側は、この管理基準を「産地と消費地の距離が離れているため、農産物の安全性の保証には共通の物差しが必要」という。すでに3500戸の契約農家のうち3割で協力の同意を取り付けている、としているのだが・・・。
「バイオテロ」がらみの米国追従?
GAPは、これだけ大変なの管理基準なのにもかかわらず、あまり話題にも論議にもならずに普及が先行しているのはなぜか。どうやらこれは、行政、とくに国が先行して普及を目指しているかららしい。例えばすでに2月には、農林水産省はGAPの手法について、消費者団体と意見交換会を開いている。
国の対応というものは、ほとんどの場合「消費者側からの要望に基づいて」“重い腰をあげる”というのが通常のパターン。しかしこの会合は違った。農水省側は、「GAPの考え方を消費者にも理解してもらうことが狙い」だというのだ。
会合では、前述したトマト栽培の農家グループの実例や、大手スーパーが農産物の取引条件に加えていることが紹介され、スーパーの担当者からは「欧米ではGAPの導入が一般的」だ、と言わせている。これに対して会場の消費者からは、“狙いどおり”に「安全な野菜が確保できる」との評価の声を引き出すのに成功した。
ただし当然のことではあるが、同時に農家の手間やコスト負担増を心配する声も上がっている。実際に、北川辺町とまと研究会の例では、GAP導入による新たな検査費用や資材費などをハウス1棟当たり6万7000円と試算。「手間や費用は予想以上で、衛生管理を行き届かせるにはコストがかかる。普及にはコスト負担や消費者がどこまで求めているのか議論が必要だ」と課題を提起させた。GAPは推奨するが、そのコストを含めて受け入れるのは消費者の判断次第、と認識させるのも、実は農水省側の“狙い”のひとつであったと思うのは、穿った見方すぎるだろうか。
こうして見てくると、ひとつの推論が見えてくる。それは小泉政権がアメリカの「テロ徹底対決姿勢」に全面的支持を表明していることだ。このところ日本国内における異常なまでの“テロ対策”が目立つ。食品分野における“テロ対策”が、GAPなのではないか、という見方である。
いまアメリカでは、「食品の安全性」に対する検証や認証、トレーサビリティーの問題で大論争が起きている。言うまでもないが残留農薬や偽表示対策といった“悠長”なものではない。「バイオ・テロ」対策としてである。アメリカでは、「バイオテロ法」が成立しており、食品製造、包装、保持する施設に対して、加工などの直前供給元と直後供給先を含む3段階の流通履歴が、法律で義務付けられている。食品関係でバイオ・テロが勃発したとき、数時間以内にその生産・流通を遡れるトレーサビリティー・システムだ。
義務である以上は実施しなくてはならないが、しかし「回収に最高2年間かかると試算」されているそのコストを、生産側、流通側どちらが負担するのかで大論議中なのである。
こうしたアメリカでの現状を受けて、農水省が日本でも“根回し”を始めた、というところだろう。
それなら国がカネを使うべき
農水省の「生鮮野菜衛生管理ガイド」は、新型ウイルスなどで食品の安全性が脅かされる緊急事態に備えるための基本指針、と説明され、原因が生産段階にある時は、農薬や飼肥料の製造業者らに配給停止や回収の指示、生産者にも使用自粛や回収を指示できる仕組みだ、といわれている。その「緊急事態」とは、実はテロを含む事態だったのだ。
いま日本では「安全性」を巡って、その証明を生産者側に押し付け、その判断を消費者に任せているのが現状だ。中間にいる流通・販売業界も指導する行政も、誰も責任を取りたくないらしい。しかし事態がここに至っては、いまこそ国など行政が責任を負い、カネを使うべきだろう。
「自給」とは/「地場消費」の積み重ね(2004/4月号)
アメリカのBSE牛発生事件で、牛肉輸入がストップしたため、わが国が誇る国民食であり、新しい“伝統食”ともいえる牛丼が食べられなくなった。「牛丼」は彼のアメリカの地にも輸出されている、日本独自の牛肉食文化であり、「ビーフボウル」の名前で、豆腐や寿司に続くほど親しまれポピュラーになっているとか。牛肉輸入再開を交渉に来たアメリカの政府関係者が、交渉が不成立だったために「本場日本でビーフボウルを食べたかったのに」と嘆いて見せたのも、あながちリップサービスではなかったのでは・・・、と思わせるものがあった。続いて東南アジアで起きた鳥インフルエンザ発生事件でも、鶏肉が輸入制限されたため、これも国民食である焼き鳥が食べられなくなるの?という“不安”が広がる。ここに至って、識者からの指摘を待つまでもなく、日本の食文化がいかに外部依存によって成り立っている、存立基盤が脆弱なものか、ということに気がつくのだ。とりわけ値段も安く気軽に食べられることで大衆から支持されてきたものほど、その傾向があるということだ。
「需要」とは“品目”ではない
ところで、安い牛肉はアメリカだけのものではない。アメリカに続く牛肉輸出国であるオーストラリアからも、牛肉は輸入されているし、現地には在庫も輸出能力もある。しかし同じ牛肉でもオーストラリア産は牛丼に向かないのだという。なぜか。かつてはオーストラリア肉はグラスフェッド(牧草食)のために臭みが強く、日本マーケットには向かないといわれた時期があった。しかし少なくとも日本への輸出用の肉牛はその後、グレインフェッド(穀物食)に転換させているはずだが・・・。
そうではない。流通方法が違うのである。アメリカからなら牛丼に必要なバラやハラミなどの部分肉だけを買うことができるが、オーストラリア産は伝統的に「1頭単位」(1頭分に相当する部分肉単位)での取引。したがって、他の部分が利用できない以上、牛丼用としてはオーストラリア肉は使えないのである。
需要とはそういうものだ。「牛肉」ならどこのものでも、なんでもいいのではなく、必要な部分肉が安く手に入るアメリカ産でなくてはならない、という必然性を持っている。
“県別自給率”の不思議な計算
そんな意味からすると、いま言われている「自給率」やその“自給率向上”とは何だろうか、と思う。たとえば、農水省がまとめた「2002年度食料自給率レポート」では、「都道府県の自給率」を試算しているのだが、それによると、「供給熱量(カロリー)ベースで自給率が100%を超えている」のは、北海道、秋田、山形、青森、岩手、佐賀の1道5県だったという。問題は、この場合の「自給率」とはどんな意味があるのか、ということである。
「都道府県別食料自給率」とは、住民1人が必要とする食料を県内生産物でどの程度、賄えるかを示したもの、だというのだが、食料の生産・供給熱量の総合計を、消費の総熱量で単純に割っただけ・・・。だから、冬場にはもっぱら内地からの移入に頼っている北海道が、都道府県別の食料自給率トップという“不思議な”結果になる。
また、米など熱供給量の多い作物の主産県で高くなる傾向にあり、逆に人口が集中する大都市圏を抱える地域では低い数値となる。こんなふうに計算したカロリーベースでの“自給率” が、国全体では02年度で4年連続の40%だというのだ。
一方、自給率は金額ベースでも計算されている。つまり、国内生産額を国内消費仕向け額で割って算出したものだが、それによると01年度では、国全体の金額ベースの自給率は69%。これは1999年以降、低下が続いているという。同様に都道府県別の自給率を試算すると宮崎(235%)が首位で、鹿児島(201%)、青森(197%)、岩手(181%)、北海道(179%)の順となる。付加価値が高い野菜や果実、畜産物の比率が高い県で高い傾向を示しているのだが・・・。
20万haあれば輸入野菜は不用?
どうしてこんなに大雑把な計算で“自給率”が計算できるのか、に疑問をもつ。牛丼用でアメリカから輸入される牛肉は月間ベースで3万トン前後もあるが、日本の消費者はこの3万トンの肉を「牛丼」として食べたいのであって「ステーキ」として食べたいのではない。飼料用の穀物まで国産化すると、いまの耕地面積が3倍必要だ、といわれ、この部分の自給は論議の対象にはならないが、では例えば野菜類ならどうか。生鮮野菜の輸入量88万トン(03年)を国産化するためには、10アール当たり2トンの生産なら4万4千ヘクタールで済む。例え野菜加工品の輸入総量400万トンといっても20万ヘクタールでいい。稲作転換目標面積が30万、40万ヘクタールという現状からすると、理論的には自給は充分可能だ。しかし、いうまでもなくそんな大雑把な計算で自給できるとはだれも思っていない。もっと個々別々の需要に応じたきめ細かな対応でしか「自給」につながらないのだ。
地場消費を積み上げて「自給」
では、「県内自給」を実質的に達成するためにはどうしたらいいのか。その事例の代表的なものが、長野県が行政とJAグループを主体に始めた「地域流通野菜事業」だろう。まず、野菜の県内自給の可能性を金額にして200億円と算出。次に、地域の市場やスーパーなど大口需要者から具体的な品目と生産時期を聴取するとともに、これらの需要者の要望に沿った地場生産をする農家を支援する事業を展開している。当初、5年間で40億円の達成を目標に設定(農家一人当たり年間100万円、4000人の規模)。その後、事業主体を地域市場に移行して、順調に拡大発展している。
「園芸基地」を標榜して地場野菜振興に取り組んでいる新潟県は、4年で3割の野菜生産拡大を目指している。典型的な都市農業地域に立地するJA横浜南は、農家の家庭菜園の余りや出荷に際して出るハネ(格外品)などを一元集荷し、アイテムを作るとともに市内スーパーなどに商品提案(「一括販売」と命名されている)。いまやこれが「はまっ子」ブランドとして定着するとともに、売れ筋や小売店からの要望を生産にフィードバック。種子や技術も提供しながら、規模拡大している。現在、400人規模で10億円を突破した。いずれも、地場の需要をひとつひとつ丁寧に発掘し、そのための生産を組み立てていく、それが「自給」への地道な努力である、というコンセプトが共通している。
さらに、いまトレンドとなりつつある「地産地消」だが、それを具現化しているのが、流通の原点ともいえる「生産者直売」“ファーマーズマーケット”。
こうした「地場野菜」「地場生産・地場流通」は、徹底して地域の個性を打ち出し、農家が顔を見せ、商品の新鮮さや安全性を保証することに加え、それを通じて地域の具体的な需要を発掘、見極めることができることがポイントである。
そうした地場野菜の振興を、広域でとらえて他のチャネルと連携する。例えば、スーパーの販売力、集客力とのドッキングである「インショップ」、地場市場の販売力との提携である。このような連携が進展すると、そこで得た商品化技術や情報、ノウハウをもとに、「消費起点」の商品づくり、産地化という拡大戦略につながっていき、それがようやく「県内自給」のための「システム」になってくるのである。
「自給」への道に“王道”はないのだ。
いまこそ有効 “共存共栄”戦略(2004/3月号)
キーワードはコラボレとクロスMD長引く不況と消費低迷の打開策の一環として、いま食品業界では「クロスマーチャンダイジング」とか「コラボレーション」といった手法が盛んだ。一品を単独で売るのではなくて他の複数の商品と組み合わせて売る、一社だけでなく他社とともに共同で企画や商品化をするという“共存共栄”作戦である。生産・メーカー側としても単独で行うより知恵や資金が結集できるし、小売店では複数商品が同時に売れる、消費者側としてもメニュー提案、“おいしさ”提案してもらえる、などそれぞれがメリットがあり、確実に実績が上がっている。もちろん、農産物においてもこの手法はイタダキである。
仕掛け人は“キリン一番搾り”
最初、食品業界のコラボレ、クロスMDが大きな話題になったのは、98年から始まったキリンビール「一番搾り」の一連のテレビCMだ。CMの手法としても、「ビールはおいしい肴(さかな)の“引き立て役”」というコンセプトは、斬新で秀逸であった。しかも、最初の登場はマグロのトロの炙り。「うわー、うまそー、食べたい!」と思わせたことに、インパクトがあった。もちろんその「組み合わせ」が“うまそー”だったことがポイントだ。
そこで早速、コラボレの動きにつながる。旬に合わせて登場する農産物は、その後、春にはソラマメが冬には「ナベ底ダイコン」と続き、紀文がすかさず同名のレトルト商品を売り出したのが契機になって、クロスMDが恒常化してくるのである。
山形県JA鶴岡の「だだちゃ豆」、JA宮崎経済連などと「ゴーヤー」とタイアップし、タラの芽、コゴミなどの名前を早口でしゃべり山菜通を披露する中山美穂が、取れたての山菜を堪能するシリーズからは、キリンはCM放映に合わせて、山菜とビールをスーパー店頭で一緒に販売宣伝(クロスMD)しようと、全国のJAにタイアップ(コラボレ)を呼びかけた。その結果、JAの販売額は前年比で30%以上増加したケースさえ。
昨夏の名古屋のウナギ料理「ひつまぶし」シリーズでは、クロスMDを展開した紀文食品と独自商品の「うなまぶし」を共同開発し、ウナギ関連商品の売り上げが6〜7月の最盛期に前年比33%伸びた。この旬の食材や新しいメニューが紹介できるキリンのCM効果に、スーパーも大いに期待して新しいシリーズを心待ちにしているほどだ。
相性のいいもの、意外なもの
相性のいいもの同士がタイアップするのがコラボレの基本。例えば、「オリーブオイル」と「トマト」だ。ホーネンコーポレーションは、JAあいち経済連と共同で、オリーブオイルとトマトのキャンペーンを企画。ホーネンは、オリーブオイルの購入者2000人に抽選で、同経済連の産地直送野菜をプレゼント。同経済連はミニトマト200万パックにオリーブオイルを使った調理カード、大玉トマト100万パックに8グラム入りのオリーブオイルなどを添付して販売した。
相性の良さそうなものの提案。ダイエーが企画した、韓国産パプリカと、韓国産唐辛子べースの合わせ調味料「野菜醤(ヤサイジャン)」をドッキングさせた試食販売は、韓国と共催のサッカーワールドカップの年だったこともあり話題になった。パプリカはドールが輸入を手がけ、野菜醤はトマトファーム・コーポレーションから発売された新製品。
パプリカと野菜醤とは一見ミスマッチな取合わせだが、韓国産パプリカと韓国産唐辛子を使った調味料を組合わせが、説得力と食味が合致し、パプリカを通常の約3倍も売り上げた店もあったほどだ。
こうした一見すると奇妙な組み合わせがインパクトとなり、新しいメニュー、食提案になる。旧冬からロッテがテレビCMで仕掛けているのは、チョコレートを牛乳で溶かし、イチゴやバナナ、キウイなどの果物を付けて食べる「ガーナフォンデュ」。スイス名物料理チーズフォンデュのチョコ&果物版。東京青果や住商フルーツなどとのコラボレだ。
ガーナミルクチョコレートの売り上げが、スーパー店頭でのクロスMDで実施前に比べ7倍、バナナも1.4倍に伸びた店があったという。
メルシャンは昨秋から、紀文食品と組んで「おでんとワイン」の共同販促を繰り広げている。日常の食卓にワインを登場させるため、クロスMDを仕掛けようと、紀文食品と組むと同時に、スーパーに売場確保を働きかけた。効果はてきめんで、ワイン市場全体が前年の95%程度で推移している中、販促実施店舗のワイン売り上げは販促期間中、前年を10%上回った。
鹿児島、宮崎の両県経済連合は、キューピーとともにゴーヤーをサラダで食べる提案を展開した。ゴーヤーの新しい食べ方を紹介してさらに、消費の拡大と定着をと、キユーピーに共同販促企画を持ち込んだ。その結果、湯がいたゴーヤーをスライスし、「深煎(い)りごまドレッシング」を使った「ゴーヤーの冷しゃぶサラダ」など5種類のサラダをメニュー化したところ、鹿児島県経済連の昨年10月までの販売実績は3250トンと、その時点で前年1年間の3176トンを上回わる結果を出した。
一方、正直ド肝を抜く組み合わせ、提案もある。例えば、健康志向の高まりを追い風に伸びているのが、エステティックサロンなどと共同開発した食品類。森永乳業がエステ「TBC」を運営するコミーと共同開発した機能性飲料「TBCボディマネージメント」シリーズは、発売以来売り上げが5000万本を超えた。続く「ダイエット茶」も食物繊維の配合を売り物に販売を伸ばしている。
ロッテも「たかの友梨ビューティクリニック」と提携し、「エステな生活」ブランドの菓子類を開発。製パン大手の敷島製パンは茶飲料大手の伊藤園と提携、緑茶を素材に使ったパン「しあわせ茶」シリーズを発売。組み合わせの意外性が消費者の心をつかみ、月間売り上げ3億円を超えるヒットになった。
「協働」という意味なら広範囲に
こう見てくると、コラボレとかクロスMDとは、意外な組み合わせでアッと言わせなければならない、と思いがちだが、要は組み合わせてあるいは共同で行うことでメリットがあること、と考えれば、発想もしやすい。
例えば「伝統野菜」という切り口でコラボレする、といったこと。「加賀野菜」と「京野菜」の場合は、ともに首都圏向けの戦略で共同歩調を取る。片や五郎島金時(サツマイモ)、加賀レンコン、源助大根などで有名な石川県の伝統野菜「加賀野菜」が、最近急速に注目されてきているが、伝統野菜では先輩格、いまやブランド認証産品も21品目と充実してきた「京野菜」と、東京の百貨店などではコラボレーション企画を開催している。
ピーマンのコラボレも始動している。冬春ピーマンの主産県であるJA鹿児島県経済連、高知県園芸連、JA宮崎県経済連は、「ピーマン西南主産県会議」を結成し、消費宣伝活動を実施している。昨年のキャンペーンでは各産地に伝わる農家料理などのレシピを盛り込んだリーフレットを10万部作成し、スーパーなどで配布した。これまで競合関係にあった産地が、輸入攻勢や消費減少などの理由からコラボレートすることは有効だ。
それまでは、生産段階だけの交流だったが、共同でPR活動、出荷計画、相場調整などにも取り組み、ピーマン資料集の作成や料理番組でのプロモーションなどを実施。昨年からは、ピーマン嫌いを克服することなどを目指し、簡単で美味しい農家料理を食ベてもらうことで、消費拡大を狙っているものだ。
冬春ナスの主産県が提唱して、4月17日を「なすび記念日」として日本記念日協会に登録した。西日本の6主産県(福岡、佐賀、熊本、岡山、高知、徳島)が2月に福岡市で開いた「冬春なす生産販売振興大会」で正式に決めた。産地が連携して消費拡大運動を実施することは、それだけでコラボレの意義がある。
「よいなす」というごろ合わせや、ナス好きだった徳川家康の命日に当たることが設定の理由だ。共同して販促活動に当たる。
流通業界でも動きはある。東北や九州など、季節によっては遠隔地からの集荷が必要な時期に、青果卸売会社がそれぞれが単独で行うのではなく、共同して集荷してコスト低減を図るなどもその事例。
また、単独の市場内の場合もある。東京・大田市場の東京青果は、開発第2部を新設し、外食・中食など新規分野へのシェア拡大に力を入れている。といっても、青果会社が単独で新規顧客の開拓をするのではなく、あくまで仲卸のサポート体制、協業、コラボレーションの充実としてである。
そのパターンは3つ。1つ目は、同社が仲卸業者と連携し、その仲卸業者の顧客に対しビジネスパートナーとして商談する。顧客の不満や要望をリサーチし、出来る限りのソリューションを行えるメリットがある。その際、当該仲卸業者の発注は開発第2部を通る。2つ目は、同社が直接最終顧客に営業をかける場合。この場合は納入している仲卸業者を聞き、その仲卸業者にサポートの提案を行なう。また、3つ目は、直接営業を行い、仲卸業者を紹介するパターンだ。
いずれにしても、納入業者は仲卸業者であり、同社はサポートという位置づけだ。
驚きとともに喜ばれること
コラボレ、クロスMDともに、それを仕掛ける側のメリットは明確だ。それぞれの役割と力を持ち寄ることで、効果は何倍にもなる。しかし忘れてはならないのは、それが有効なのは、消費者、需要者側にも「便利だ」「効率的になった」「コストが削減された」「新しい生活やメニューを提案してもらった」「お得だ」「おいしいものが食べられる」など、驚きと共に喜ばれ、評価され、その結果“固い財布の口”を開けてもらえるものでなければならないことは、いうまでもない。
いまこそ有効 “共存共栄”戦略 (2004/2月号)
キーワードはコラボレとクロスMD長引く不況と消費低迷の打開策の一環として、いま食品業界では「クロスマーチャンダイジング」とか「コラボレーション」といった手法が盛んだ。一品を単独で売るのではなくて他の複数の商品と組み合わせて売る、一社だけでなく他社とともに共同で企画や商品化をするという“共存共栄”作戦である。生産・メーカー側としても単独で行うより知恵や資金が結集できるし、小売店では複数商品が同時に売れる、消費者側としてもメニュー提案、“おいしさ”提案してもらえる、などそれぞれがメリットがあり、確実に実績が上がっている。もちろん、農産物においてもこの手法はイタダキである。
仕掛け人は“キリン一番搾り”
最初、食品業界のコラボレ、クロスMDが大きな話題になったのは、98年から始まったキリンビール「一番搾り」の一連のテレビCMだ。CMの手法としても、「ビールはおいしい肴(さかな)の“引き立て役”」というコンセプトは、斬新で秀逸であった。しかも、最初の登場はマグロのトロの炙り。「うわー、うまそー、食べたい!」と思わせたことに、インパクトがあった。もちろんその「組み合わせ」が“うまそー”だったことがポイントだ。
そこで早速、コラボレの動きにつながる。旬に合わせて登場する農産物は、その後、春にはソラマメが冬には「ナベ底ダイコン」と続き、紀文がすかさず同名のレトルト商品を売り出したのが契機になって、クロスMDが恒常化してくるのである。
山形県JA鶴岡の「だだちゃ豆」、JA宮崎経済連などと「ゴーヤー」とタイアップし、タラの芽、コゴミなどの名前を早口でしゃべり山菜通を披露する中山美穂が、取れたての山菜を堪能するシリーズからは、キリンはCM放映に合わせて、山菜とビールをスーパー店頭で一緒に販売宣伝(クロスMD)しようと、全国のJAにタイアップ(コラボレ)を呼びかけた。その結果、JAの販売額は前年比で30%以上増加したケースさえ。
昨夏の名古屋のウナギ料理「ひつまぶし」シリーズでは、クロスMDを展開した紀文食品と独自商品の「うなまぶし」を共同開発し、ウナギ関連商品の売り上げが6〜7月の最盛期に前年比33%伸びた。この旬の食材や新しいメニューが紹介できるキリンのCM効果に、スーパーも大いに期待して新しいシリーズを心待ちにしているほどだ。
相性のいいもの、意外なもの
相性のいいもの同士がタイアップするのがコラボレの基本。例えば、「オリーブオイル」と「トマト」だ。ホーネンコーポレーションは、JAあいち経済連と共同で、オリーブオイルとトマトのキャンペーンを企画。ホーネンは、オリーブオイルの購入者2000人に抽選で、同経済連の産地直送野菜をプレゼント。同経済連はミニトマト200万パックにオリーブオイルを使った調理カード、大玉トマト100万パックに8グラム入りのオリーブオイルなどを添付して販売した。
相性の良さそうなものの提案。ダイエーが企画した、韓国産パプリカと、韓国産唐辛子べースの合わせ調味料「野菜醤(ヤサイジャン)」をドッキングさせた試食販売は、韓国と共催のサッカーワールドカップの年だったこともあり話題になった。パプリカはドールが輸入を手がけ、野菜醤はトマトファーム・コーポレーションから発売された新製品。
パプリカと野菜醤とは一見ミスマッチな取合わせだが、韓国産パプリカと韓国産唐辛子を使った調味料を組合わせが、説得力と食味が合致し、パプリカを通常の約3倍も売り上げた店もあったほどだ。
こうした一見すると奇妙な組み合わせがインパクトとなり、新しいメニュー、食提案になる。旧冬からロッテがテレビCMで仕掛けているのは、チョコレートを牛乳で溶かし、イチゴやバナナ、キウイなどの果物を付けて食べる「ガーナフォンデュ」。スイス名物料理チーズフォンデュのチョコ&果物版。東京青果や住商フルーツなどとのコラボレだ。
ガーナミルクチョコレートの売り上げが、スーパー店頭でのクロスMDで実施前に比べ7倍、バナナも1.4倍に伸びた店があったという。
メルシャンは昨秋から、紀文食品と組んで「おでんとワイン」の共同販促を繰り広げている。日常の食卓にワインを登場させるため、クロスMDを仕掛けようと、紀文食品と組むと同時に、スーパーに売場確保を働きかけた。効果はてきめんで、ワイン市場全体が前年の95%程度で推移している中、販促実施店舗のワイン売り上げは販促期間中、前年を10%上回った。
鹿児島、宮崎の両県経済連合は、キューピーとともにゴーヤーをサラダで食べる提案を展開した。ゴーヤーの新しい食べ方を紹介してさらに、消費の拡大と定着をと、キユーピーに共同販促企画を持ち込んだ。その結果、湯がいたゴーヤーをスライスし、「深煎(い)りごまドレッシング」を使った「ゴーヤーの冷しゃぶサラダ」など5種類のサラダをメニュー化したところ、鹿児島県経済連の昨年10月までの販売実績は3250トンと、その時点で前年1年間の3176トンを上回わる結果を出した。
一方、正直ド肝を抜く組み合わせ、提案もある。例えば、健康志向の高まりを追い風に伸びているのが、エステティックサロンなどと共同開発した食品類。森永乳業がエステ「TBC」を運営するコミーと共同開発した機能性飲料「TBCボディマネージメント」シリーズは、発売以来売り上げが5000万本を超えた。続く「ダイエット茶」も食物繊維の配合を売り物に販売を伸ばしている。
ロッテも「たかの友梨ビューティクリニック」と提携し、「エステな生活」ブランドの菓子類を開発。製パン大手の敷島製パンは茶飲料大手の伊藤園と提携、緑茶を素材に使ったパン「しあわせ茶」シリーズを発売。組み合わせの意外性が消費者の心をつかみ、月間売り上げ3億円を超えるヒットになった。
「協働」という意味なら広範囲に
こう見てくると、コラボレとかクロスMDとは、意外な組み合わせでアッと言わせなければならない、と思いがちだが、要は組み合わせてあるいは共同で行うことでメリットがあること、と考えれば、発想もしやすい。
例えば「伝統野菜」という切り口でコラボレする、といったこと。「加賀野菜」と「京野菜」の場合は、ともに首都圏向けの戦略で共同歩調を取る。片や五郎島金時(サツマイモ)、加賀レンコン、源助大根などで有名な石川県の伝統野菜「加賀野菜」が、最近急速に注目されてきているが、伝統野菜では先輩格、いまやブランド認証産品も21品目と充実してきた「京野菜」と、東京の百貨店などではコラボレーション企画を開催している。
ピーマンのコラボレも始動している。冬春ピーマンの主産県であるJA鹿児島県経済連、高知県園芸連、JA宮崎県経済連は、「ピーマン西南主産県会議」を結成し、消費宣伝活動を実施している。昨年のキャンペーンでは各産地に伝わる農家料理などのレシピを盛り込んだリーフレットを10万部作成し、スーパーなどで配布した。これまで競合関係にあった産地が、輸入攻勢や消費減少などの理由からコラボレートすることは有効だ。
それまでは、生産段階だけの交流だったが、共同でPR活動、出荷計画、相場調整などにも取り組み、ピーマン資料集の作成や料理番組でのプロモーションなどを実施。昨年からは、ピーマン嫌いを克服することなどを目指し、簡単で美味しい農家料理を食ベてもらうことで、消費拡大を狙っているものだ。
冬春ナスの主産県が提唱して、4月17日を「なすび記念日」として日本記念日協会に登録した。西日本の6主産県(福岡、佐賀、熊本、岡山、高知、徳島)が2月に福岡市で開いた「冬春なす生産販売振興大会」で正式に決めた。産地が連携して消費拡大運動を実施することは、それだけでコラボレの意義がある。
「よいなす」というごろ合わせや、ナス好きだった徳川家康の命日に当たることが設定の理由だ。共同して販促活動に当たる。
流通業界でも動きはある。東北や九州など、季節によっては遠隔地からの集荷が必要な時期に、青果卸売会社がそれぞれが単独で行うのではなく、共同して集荷してコスト低減を図るなどもその事例。
また、単独の市場内の場合もある。東京・大田市場の東京青果は、開発第2部を新設し、外食・中食など新規分野へのシェア拡大に力を入れている。といっても、青果会社が単独で新規顧客の開拓をするのではなく、あくまで仲卸のサポート体制、協業、コラボレーションの充実としてである。
そのパターンは3つ。1つ目は、同社が仲卸業者と連携し、その仲卸業者の顧客に対しビジネスパートナーとして商談する。顧客の不満や要望をリサーチし、出来る限りのソリューションを行えるメリットがある。その際、当該仲卸業者の発注は開発第2部を通る。2つ目は、同社が直接最終顧客に営業をかける場合。この場合は納入している仲卸業者を聞き、その仲卸業者にサポートの提案を行なう。また、3つ目は、直接営業を行い、仲卸業者を紹介するパターンだ。
いずれにしても、納入業者は仲卸業者であり、同社はサポートという位置づけだ。
驚きとともに喜ばれること
コラボレ、クロスMDともに、それを仕掛ける側のメリットは明確だ。それぞれの役割と力を持ち寄ることで、効果は何倍にもなる。しかし忘れてはならないのは、それが有効なのは、消費者、需要者側にも「便利だ」「効率的になった」「コストが削減された」「新しい生活やメニューを提案してもらった」「お得だ」「おいしいものが食べられる」など、驚きと共に喜ばれ、評価され、その結果“固い財布の口”を開けてもらえるものでなければならないことは、いうまでもない。
合言葉は「JA直販」/系統の販売事業拡大の決め手・・・(2004/2月号)
いま、JAの経済事業改革のスタートに当たって、キーワードは「JA直販」である。従来の市場出荷を基本とした販売事業に加え、需要者との直接取引きを含む「直販」に、新たな販売事業改革の目玉がある。まず経営安定ありき、で通用するか
JA系統の経済事業は、いまデフレ状態から抜け出させないでいる日本経済の状況や、市場流通など既存の流通・販売システムの見直し機運、自立志向を強める農業法人の登場や、農業特区での企業の農業参入など、大きく情勢が変化するなかで転機を迎えている。とくに、焦点となるのは農家の経営を考える上で最も重要な「販売事業」である。
いま、全国どこの地域に行ってもJAの販売事業に迷いと混乱がみられる。ひとつは、まず全農が合併を先行させたことから、販売事業を後回しにしてきたことの影響がある。そのため思い余って、県行政などが“慣れない手つきで”マーケティングなどに乗り出すケースも少なくない。その意味では、ようやくJA全中の経済事業改革中央本部が、さきごろJA経済事業の改革方向を定め、着実な実践を促すための「経済事業改革指針」をまとめたのは朗報であり、まずは改革への第一ステップが始まったと考えたい。
指針では、「経済事業の赤字を減らす経営改善と、農家・組合員の満足度アップを目指す事業強化」という総論を柱にして、1.目標と行動計画の策定 2.改革本部を全国と県段階に設け、改革の進み具合を点検し、個別JAを指導する――という枠組みを整えた。この経済事業改革が現場でどう実践されていくのか・・・、待ち遠しい限りだ。
とにかくJAの経済事業改革は遅れている。今回は、販売や購買事業で他業態に対抗する事業機能の再編・強化という従来の課題に加え、「経営健全化」という新たな視点を前面に出したのが特徴なのだが、心配するのは、まず経営健全化ありき、という姿勢では、経済事業はなかなか思い切った改革はできないのでは、ということだ。末端の流通・販売・消費の現場は、さらに厳しさを増しているのだ。
市場販売と直販との2本柱で
その経済事業改革指針の流れに沿って策定されているのが、JAの園芸販売事業改革である。これまでのJA系統の販売事業は、卸売市場への「出荷(分荷)」と「販売委託」が中心であったが、このバブル経済崩壊後からとくに強まったJAの直販志向によって、一部のJA単協や県連などで成功事例が増え始めた。一方では、従来からのJA全農の直販施設による販売も、生協などとの連携が功を奏して成長を続けている。こうした土台と実績を踏まえて、今回の園芸販売事業改革に結実したといっていいだろう。
JAの園芸販売事業の改革は、デフレ経済のもとで農産物の価格が低迷する中、「生産者の手取りをどう確保していくか」がその出発点。そこで、販売力強化のためには「消費者起点」への発想転換が必要だとし、消費者や需要者の求めるものをつかみながら生産・出荷に反映させていくという手法をとっている。
従来からの販売事業の柱である市場流通でも、あらかじめ売り先や数量、単価が決まっている「予約相対」などの取引が増加している。これに加えてさらに多様な販売ルートを確保するためには、購買力の強い大型スーパーや中・外食などの大型需要者との結びつき強化していこうという。そのための具体策は県本部とも調整して、「市場販売」と、需要先との「直接販売」に分ける。この改革構想の柱は、販売力の強化と事業の効率化だからだ。
計画の概要と骨格を整理しておこう。
1 まず市場販売は、大消費地での販売を強化するために2004年4月に「青果物情報センター」を設ける。具体的には東京・大田市場と大阪・本場の両市場にある各県本部の駐在事務所を一カ所に集める形で段階的に集約する。
2 センター駐在員は、各県の品目やブランドを担当しながらも、売れ筋の品目や包装形態など消費動向を共有し、販売力の強化につなげる。
3 センターは市況が低迷した時、産地間の連携が必要な需給調整の機能を高める。
4 市場だけでなく、スーパーや生協、食品加工業者などへの直接販売も強化するため、各県本部には直販事業の専任部署を設け、JAと全農(県・全国域)それぞれで直販を行う事業体制を整備する。
5 全国本部の直販は、首都圏・近畿の青果センターが担ってきたが、同センターも営業力を強化しながら、外部委託を進めてセンター運営のコストを下げる。
6 安全で安心できる農産物の供給では、「全農安心システム」の売り上げを05年度までに3倍の30億円を目指すなど、生産履歴記帳をもとにトレーサビリティーを拡大する。
7 一方、販売事業の部門別収支を確立するために、今後、大型化するJAと全農の県・全国本部の役割分担を明確にする。とくに、市場への分荷や市況の把握など重複する機能を見直し、収支を改善する、などである。
生協との連携で成長した直販事業
JA直販とは、JA全農の直販施設での扱いだけでなく、JA県連やJA単協の直販事業全体を指す。それぞれに特徴がある反面、組織ごとに取り扱い規模など様々で、取り組み姿勢にも“温度差”はある。先進的で示唆的な事例には事欠かないが、そんな個々の動向に触れるのは別の機会に譲るとして、まず「園芸販売事業改革」の中核的な存在であるJA全農の直販について見てみる。
JA全農の直販施設は昭和40年代後半に次々に整備されて現在は主に、東京、大和、大阪の3センターに集約されている。これら直販施設での取扱い高は02年で1700億円余。1990年を100とした指数は103.3。ちなみに、同時期の東京市場における取扱い実績の指数が76.6であることを見ても、この12年間、バブル経済崩壊とデフレ経済の中で直販施設がいかに奮闘して成長してきたかが分る。取扱い規模の増大によって狭隘化してしまった東京センターなどは、昨年、新施設をオープンさせたほどだ。
とりわけセンターの扱いがコンスタントに成長したのは、生協との連携である。産消の協同組合間提携といった建前的な対応にとどまらず、生協の共同購入事業への特化した商品、産地開発や包装・加工施設の整備、低温流通システムなど品質保持システムの強化など、「顧客満足」の追及姿勢が評価されたものだ。
しかし、生協への販売は2002年度で792億円の実績があり、直販事業でスーパーに次ぐ規模となったものの、全農チキンフーズの鶏肉偽装事件で、生協への販売高は前年を下回ってしまった。そこでセンター運営を総括するJA全農大消費地販売推進部では、安全・安心の販売戦略をさらに進めることで、生協への直販強化を進める方針を打ち出している。
同推進部は、直販事業の大きな販売先である生協との関係を深めるためには、全農安心システムを核にした販売強化や、国産原料の総菜開発など、生協との商品共同開発に積極的に乗り出すことにした。
具体的には、03年度中には100産地の認証を計画している「全農安心システム」を販売戦略の柱にすえ、生協の産直基準などと連動させながら、生産履歴が確認できるトレーサビリティーを確立し、失地回復とさらなる連携強化を狙っている。
また、生協との連携で、国産原料を前面に出した特徴的な商品開発、とくに最近の人気商材である惣菜の強化だ。全農と生協でプロジェクトチームをつくって、対応する。「直販の強化」とはここまで共同して取り組むことを意味しているのである。
市場対応も「青果情報センター」方式で
さて、園芸販売事業改革の目玉のひとつである「青果情報センター」方式とはどんなものなのだろう。その典型事例としては、昨年実現したタマネギのリレー出荷があげられるだろう。これは、需要者に対して供給の端境期対策を示す具体的な動きであり、輸入対策にもつながるものとして注目された。
ホクレン、JAあいち経済連、JA全農兵庫、JA佐賀経済連が、昨年秋の産地切り替わりから本格的にスタートさせたもので、主産地北海道産と補完的な府県産の、産地切り替わりを円滑に進めることで、国産の安定供給体制を確立するとともに、国産需要を確保するのが狙い。加工向け販売や消費宣伝でも共同歩調をとっていくというもの。
リレー出荷は、府県産から北海道産に切り替わる8〜9月に合わせて、4道県が今までより詳しく生産、出荷情報を交換することで、各産地の状況に合わせて、端境期ごとの出荷計画を調整する。これで国産の極端な品薄などを防ぐことができるという。
また、生食用だけでなく、需要の多い加工用タマネギについてもリレー販売の検討を始めるほか、1.重複する取引先での不必要な競争の回避 2.選果、保管施設の有効活用による流通コストの削減 3.国産の共同での宣伝――などにも取り組んでいく。
ところで今回、リレー出荷に参加する4道県は総合すると、国産タマネギ作付面積の7割、出荷量の8割を占めるほどの“メジャー”だ。つまり、国産の大半を占めるほどの産地が、こうした連携強化に踏み切った理由は何なのだろう。
まず背景には、国内産地の縮小がある。国産タマネギの収穫量は01、02年産と連続して豊作となった。このため価格が低迷して作付けが減少。02年の作付面積は2万5400ヘクタール。5年前より7%減っている。さらに、昨年春には国産の産地切り替わりが円滑に進まず、品薄高となり3〜5月の市場価格は前年の2〜3倍に高騰したことから、輸入が急増した。
そんな“原理”からすると、今年の3〜5月は作付けは大幅に増える、という予想が成り立つが、果たしてそんな相場頼りの生産動向がいつまで通用するのか、という問題提起はかねてからあった。それを「青果物情報センター」方式で産地間調整することによって、従来に増して需要者本位に安定供給でき、その結果、生産者には健全な経営を提案できる、という“筋書き”なのである。
“裸の王様”と「消費起点」/農薬と虫 (2004/1月号)
消費者の無知か生産側の説明不足か?
農産物生産に「消費起点」の発想を・・・。これはマーケティングの原則であり、どんな商品にも共通していえることである。そのために、あらゆる企業は消費者からのクレームには神経を尖らせる。消費者からの苦情は、放置すれば消費起点の原点を失うが、それを活用すればより消費起点に近づくからだ。しかし、農産物とくに青果物は、市場に出荷してしまえば「販売」は終結するという意識が強く、市場からさらに川下の情報は良きにつけ悪しきにつけ、生産側に返ってくることが少なかった。ところが最近では、生協などを通じて生産側と消費者が直接意見交換する機会が増え、消費者側からの生の声やクレームが聞ける状態になると、また違った現実に直面するようになった。消費者の知識や認識不足、そしてある意味ではそれを招いた生産側からの説明不足の問題である。
「虫はもう、生理的にダメ」がホンネ
例えば、消費者の意識と生産側の対応で常に問題になるのは「農薬」の是非である。農薬に対してほぼ反射的に拒絶反応を示す消費者と、農薬は経済生産にとって不可欠であり使用法を遵守すれば問題はないという意識の生産側との意識の対立、乖離は根が深い。無知と説明不足のせめぎ合い、といってしまえばそれまでなのだが、その状態を何とか改善していこうという試みも続けられている。
この問題で象徴的なテーマは「虫食い野菜是か非か」である。首都圏コープ事業連合が、「虫食い野菜はどうですか?」という質問をインターネットで問いかけたところ、消費者や生産者から一週間で数百件を超す意見が寄せられた。消費者の本音を公開して、農薬の問題を討論しようという“壮大な”試みだ。(都圏コープ事業連合のホームページ「産直フリートーク」で、昨年8月に意見募集)
同事業連合の狙いは、こうしたテーマを通じて「ネットを通じて消費者に農業への関心を持ってもらい、生産者とのいい関係を持ってもらいたい」というもので、結論は出ないものの、さまざまな本音やタテマエが飛び交った。
同じ消費者とはいえ、生協の組合員という性格上、「虫が食べている野菜は安心でおいしい証拠」というのは、いわば“模範解答”。女性の場合、「虫はもう、生理的にダメ」というのが最大公約数的な感覚、ホンネだ。だから「虫食い野菜は大丈夫と思っていたけど、実物を見てダメになった」、「虫食いは大丈夫、でも虫付きはイヤ」というのは正直な感想だろう。
一方、「虫食いは大丈夫、でも食べるところが減るのは困る」という現実派や、「虫は、慣れの問題」という猛者もいるが、実際は「自分で野菜を作って無農薬栽培に虫が付き物と分かった」「親になって虫に対する考え方が変わった」と、自分の経験を通じて理解が深まっていることに注目すべきである。とはいえ、農薬への理解が進んだというよりは、「農薬の怖さと虫の怖さで葛藤している」ということであることもまた忘れてはならない。
そんな意味からすると、次のような投書のケースは、確実にひとつのモデルだろう。
『近所の農家で軒下販売している野菜をよく買います。作っているおじさんと親しくなってお話を聞きました。「なんでも無農薬というのはどうかなあ。」とおじさん。虫や病気があると、植物のほうもそれに対抗して自ら毒を作るそうです。東京では自分の手で防除できる範囲くらいの畑しかないので、薬をあまり使わず比較的きれいなお野菜ができているのかもしれません。とれたてなのでとてもおいしいし、おじさんの作った野菜だという安心感もあります。虫もついていることがありますが、取り替えてくれます。高いお金を出して無理して無農薬のお野菜を運搬してもらうより、自分の住んでいるところで取れる旬の野菜を食べていく方が自然な気がしています』
ナンでもカンでも農薬のせい?
とにかく、消費者からの商品クレームや苦情、相談、問い合わせの中でいちばん多くて“強硬”なのは「農薬」がらみのものである。生協やスーパーでから聞いたもの、東京都の保健所に持ち込まれたものなどのケースを紹介してみよう。すべて「農薬の影響では?」という苦情である。全くの無知が原因のもの、そう思われても仕方がない?ものなどいろいろだ。(カッコ内はその時の回答例)
知識、経験不足?
「ホウレン草をレンジで調理したらエグ味があった」(茹でなかったためアク抜きできず?)
「ナスの味噌汁を作ったら汁が黒くなった」(黒皮の成分のアントシアン?)
「ラッキョウの漬け汁が青い」(成分の硫黄化合物が酸化?)
「カリフラワーの花の先にポツポツと黒い点が」(保存しすぎでカビ発生?)
「レンコンの切り口が黒ずんだり紫色になる」(成分のタンニンが鉄分と反応?)
「ゴボウと鶏肉を煮たら鶏肉が黒くなった」(アク抜きの不足?)
「菜っ葉を放置していたら徐々に黄色くなった」(葉のクロロフィルが分解したフェオフィチンの色?)
生産側からの説明不足?
「カリフラワー茎やブロッコリーの花の部分が紫色に変色した」(低温時のアントシアン?)
「ブロッコリー茹で汁に油膜ができた」(露地栽培で発生するロウ分?)
「ミョウガに真っ赤な部分が」(内部に結実しているもの?)
「ダイコンにスが入って青くなっていた」(老化現象の青あざ症?)
「キャベツの葉に白い物質が」(分泌されたロウ物質?)
「オオバが苦かった」(オオバの原種のイコマは苦味がある?)
「ニンニクが変色していた」(芽止めのための加熱処理のムラ?)
「シュンギクの洗い水にキラキラ光るものが」(栽培地の土壌に含まれていた雲母?)
専門的な解説が必要?
「トマトを食べたら苦くて食べられなかった」(低温障害によるアルカノイド?)
「トマトを洗ったら水が赤く染まった」(着果ホルモン剤の着色料が残っていた?)
「冬にキュウリを食べたら異常な苦味が」(本来キュウリの持つ苦味成分ククルビタシン?)
「メロンに苦い部分があった」(発酵時に出る揮発性物質?苦味成分ククルビタシン?ばら色かび病?)
「新キャベツにカビのような異臭がする」(辛味成分が分解したジメチルジサルファイドは石油臭に似ている)
「イチゴの葉が赤い」(窒素肥料による枯れあがり。アントシアンの色?)
中には「農薬」由来の原因も
これらのなかには、消費者自身が“常識”として知っておかなくてはならないものも少なくない。家庭での教育のあり方や、学校教育のカリキュラムの問題、地域内での相互扶助などが課題にもなるが、生産側も「そんなの常識だろう!」と言う前に、その常識を裏付ける原理や仕組みを科学的に説明できることも必要。(前述の回答例に中には、なるほど、というものもあったはず・・・)そしてそれを機会あるごとに解説する積極性が求められるし、一緒に考えるという姿勢も大切だ。
とにかく、消費者とは「柿を切ったら黒い点がいっぱいで、気持悪くて食べられなかった」(甘柿のゴマ?)、「茶豆を茹でたら臭かったので捨てて」(品種特有の香り?)、「スイカを10日ほど置いといたら中身がグチャグチャだった」(腐った?)ということを、平気で“クレーム”として突きつける人たちなのだから。(生協の共同購入品に対するクレーム集より)
そして、一緒に考えることが必要なのは、「トマトが薬品臭して食べられなかった」というクレームは、ほとんどが未熟果のアルカロイドが原因だったのだが、そのうち何件から実際に農薬のプロチオホス、ダニコール、イプロジオンが検出され、それが異臭の原因だったことが報告されている。(東京都衛生局「食品の苦情Q&A」より)
消費者は“裸の王様”だと侮ってはいけない。(「地上」3月号掲載分)