外食産業 デフレ克服のための“大いなる挑戦”

期待?注目?警戒?/外食産業 デフレ克服のための“大いなる挑戦” (2003年12月号)

外食産業が危機感に襲われている。
長引く不況やデフレ傾向によって、売り上げの低迷や単価の下落傾向が続いているからだ。ただしその危機感によって、それを払拭しようとするパワーも同時に誘発される。消費者においしさ、安心を提供するために、食材に徹底してこだわる傾向がみられる。産地や栽培履歴を明確にするだけでなく、契約農家を増加させたり、ついには外食企業自らが直営農場を設けたりする動きさえある。ここで注目すべきは、外食産業のこうした自助努力は、食品流通・販売や農業の活性化にも連動していることである。

64%の企業が販売価格下落
 なにしろ、持続的なデフレ傾向によって、食品関連企業の6割が3年前に比べ販売価格が下落しているのだ。(農林漁業金融公庫2003年上半期食品産業動向調査)下落したと答えた企業は全体で64%。業種別にみると、最も多いのは小売の78%、次いで卸72%、飲食店65%、メーカー58%。下落幅は44%が「5%以上10%未満」と答えている。
 販売価格が下落するのはいわばデフレの宿命。そのために全体の売上高も落ちる。しかし外食産業にとって深刻なのは、長引く不況で消費が抑えられ、外食の利用回数自体も減っていることである。  
1年前に比べて外食の回数が「減った」(33%)と答えた人が、「増えた」(16%)の2倍に上った。減った理由は、「家庭で料理したり、市販の弁当や調理品(中食)を利用したほうが経済的だから」と答えた人が最も多く、消費者の財布の疲弊ぶりが知れる。(農林漁業金融公庫「中食と外食の利用アンケート調査」。今年6〜7月実施)
 外食が減っている分、中食の利用が増え、その頻度は「週1回以上」が45と日常的に弁当や総菜を購入する人は半数近いのだが、一方では外食の利用を継続、あるいは増加させることを前提とした「外食への要望」では、「より安全で安心なもの、健康にいいものを提供してほしい」(67%)、「減農薬の農産物や産地など素材にこだわったおいしいものを提供してほしい」(38%)などが高い。

デフレ対策とこだわり食材
そんな背景もあって、前述の食品産業動向調査で聴取した「価格の下落防止対策」でも、「原材料へのこだわり」が最も多い。食品メーカー、卸、小売り、飲食店の約4割が取り組んでおり、国産原料や産地・栽培方法を前面に出した販売方法が増えているのだ。飲食店(外食産業)の場合は、メニュー単価の硬直性から、価格下落対策は利益確保を優先するための「原材料調達コストの引き下げ」(52%)を真っ先に挙げてはいるが、小売、メーカーに次いで、デフレ対策として「こだわり農産物」を挙げていることは非常に興味深い。そのためにメニュー単価を上げても、あるいは利益を縮小してもいい、ということで、これまでの外食産業になかった姿勢だからだ。
 外食産業の業界団体、日本フードサービス協会がいま外食店のメニュー表示のガイドラインづくりに乗り出しているのも、そうした業界内の動きにいち早く対応しようという意図からだ。消費者の食に対する安心志向の高まりに対応して、業界として情報公開の“公式”を定めておこう、もっと言えば、あいまい表示やニセ表示を未然に防ごうというものである。
ガイドライン作成で検討しているのは、食材の原産地、カロリーや塩分など栄養成分、卵や牛乳など人によってはアレルギーを引き起こす恐れのある食材の使用の有無などのほか、原料の生産・栽培方法、遺伝子組み換え農産物の使用状況、の5項目が中心だ。15年度中にガイドラインにまとめ、公表することを目指す。
 すでに同協会の会員企業のうち、栄養成分やアレルギー成分など5項目について、何らかのかたちで表示をしている企業は7割弱ある。ただし、最も多い栄養成分でも表示している企業は全体の4割強程度で、栽培方法や遺伝子組み換えの有無についてはまだ1割台にとどまっている。消費者の食の安全・安心への関心の高まりを、現場で肌で感じている会員企業から「表示方法について、協会が一定のガイドラインを示してほしい」との要望が寄せられていたことに対応したものだ。

納得のメニュー作りのために
 外食産業のある意味では非常にシビアで“苦しい”部分は、小売店なら店頭表示で済まされる“こだわり農産物”を、実際に調理して食べさせなくてはならない点だ。より消費者に近くゴマカシが効かない。やれトレーサビリティーだ、こだわりだ、と言っても、食べて美味しくなければ消費者を納得させられないことだろう。だから現場レベルでは、必死の戦略が展開されている。
 例えば、ファミリーレストランのロイヤルが展開する「シズラー」では、サラダの商品力アップを狙って、農家と直接契約してサラダバーに産地表示を導入、安全性と鮮度を訴えている。サラダバーの産地表示は、まず千葉県富里市の契約農家から仕入れたレタスやトマトなど5、6品目で始めているが、原則、有機あるいは減農薬栽培の野菜を使っていく方針だ。コストは上昇するが従来の価格を維持。契約農家も漸次、増やしていく。
 同社はサラダの位置付けを重視している。実際、これまで主食の単品のみの購入客は全体の10〜20%程度しかない。一方でサラダバーのみ利用が50%、双方のセットが20〜30%もある。そのため、グリルやステーキなど主食のメニューはすべてサラダバー付きとした。しかも、肉など主食の大きさを、「サラダ付きでも食べきれる量」にしているほどだ。これで価格も下げられる。
 同社のこだわりはさらに、この9月にオープンした和風レストラン「いねや」で顕著に発揮されている。同レストランは、豆腐を自ら製造する和風レストランというウタイ文句。豆乳は、京都の老舗豆腐屋から京都・丹波産「オオツル」でつくる豆乳を毎朝宅配便で調達。米は福島県会津本郷町産「コシヒカリ」で、JA会津みどりなどが出資する第三セクターから精米したてを仕入れ、京野菜の漬物は京都のメーカーに毎日宅配便で配達してもらっている。
 食材を大事にした和食がこれからのニーズ、と話す同店では、素材にはこだわるが、そのコンセプトは「いいものを食べたい40〜50代の客が普段の生活の中で利用できる」というもの。いわゆる“高級志向”ではないといい、予想客単価をランチで1300円と従来よりやや高めだが、小鉢を減らすなどで値段を極力抑えている。
同様に、食材に徹底してこだわっているのがハンバーグレストランの「びっくりドンキー」だ。全国の約100の契約農家・グループから減農薬・減化学肥料の米や野菜を調達している。同社は10年以上も前から実験圃場(約4ヘクタール)で野菜の栽培を続けているが、それも「自分たちで実際に栽培試験などしなければ、契約農家へ自信を持って発注などできない」という同社の基本姿勢のためだ。
 そのため、単純に生産を“発注”するだけでなく、自ら圃場に検査器具を持ち込み、硝酸や糖度、土の有機度などをチェックしているほど。
 食材にこだわるあまり、業態を変えたり付加したりする事例も目立つ。例えばハンバーガーチェーンのモスフードサービスは、あたらに新業態の「四季の旬菜料理AEN(あえん)」を出店する。ミネラルバランスなど土づくりにこだわった野菜を提供するレストランだ。方針は「ファストフードでは表現できない食材へのこだわりを実現する」というもの。
すでにモス・バーガーでも使っている、全国約100の生産団体・個人から宅配便で届く野菜を中心に使う。だから、日によって野菜が変わる。そのため、基本メニュー以外は毎日変えるという念の入れよう。もちろん「青森産長芋の素揚げ」「千葉産二十日大根の酢味噌(すみそ)添え」などメニュー名に産地表示する。「ここでしか食べられないものを出すことが顧客の魅力になる」と地方の伝統野菜も扱っていく方針だ。
 同社はさらにステップアップし、これらこだわり農産物をホームページで直販することにした。食材調達で契約する農事組合法人やJAの減農薬野菜、無農薬米などを取り扱うほか、産地や生産者も紹介するトレーサビリティー付き。サイト名は「モス畑」。販売商品は、農事組合法人・和郷園(千葉県山田町)の「とれたて野菜セット(野菜10種類のセット)」や、千葉県JA山武郡市睦岡支所の生シイタケ、ながさき南部生産組合の「一揆米(無農薬合鴨米)」など7つ。

農業特区での自社生産へも
こだわりや安心・安全のコンセプトをさらに強調するためには、やはりどうしても向かわなくてはならないのが「自社生産」への道である。例えば首都圏を中心に約230店展開する居酒屋「和民(わたみ)」である。同社のメニューに、この4月から「有機野菜使用」の文字が目立っている。「有機野菜のシーザーサラダ」「国産有機大豆の寄せ豆腐」、お通しも「有機野菜スティック」だ。
なにしろ同社では、今年度、使用する国産農産物のうち4割を有機栽培や特別栽培とすることにした。すでに国産や有機農産物で商品力の強化のために、その道の専門家を採用したのは昨年末。食材の見直しを早速進め、わずかの期間で連携する農家やJAなどを60以上に増やした。
 今年4月には千葉県山武町の農業生産法人と連携、実験圃場(約3ヘクタール)でレタスや根菜類など年間30品目を有機肥料で栽培する取り組みも始めた。さらに、群馬県倉渕村で有機野菜の生産を始めた農事法人には、同社が10%を出資し、約7万平方mの農地を活用。年内には千葉県山武町で「農業特区」を活用して有機野菜の生産を始める予定。とうとう農業分野に本格進出することになった。
 このほど設立した農業生産法人、ワタミファーム(千葉県山武町)に、改正農地法が定める上限の10%を出資。残りの90%をワタミの元社員などが出した。レタスや大根、小松菜、かぶなど有機野菜の栽培を手掛け、全国に約360店ある「和民」「和み亭」など自社店舗に供給するだけでなく、小売店や他の飲食店向けの外販も手掛ける意向だ。
 「農業特区」の指定が認可され次第、全額出資子会社で、直接有機野菜の栽培を手掛ける。特区に認定されれば6万平方m程度まで広げる。将来は店舗で使う野菜の6割を有機野菜とする方針で、その半分近くは自社農場で生産したものにしていきたい、という目標を持っている。

JAも業務向けに本格取組み
こうした外食産業の動きに、全国の単協や県連組織ではその直販部門等の活用ですでに多くの対応事例があるが、JA全農でも、外食・中食や加工メーカーといった業務用向け青果物販売に本格的に取り組み始めている。初の専門部署・事業開発部を、直販流通拠点である首都圏青果センター内に設置。スーパー・生協向け販売に比べて対応が遅れてきた業務用向けを、10年後には同センター販売高50%に増やす計画だ。
業務用向け販売には、欠品対策や長期値決めなど細かな対応が求められる。そのための専任取引担当者を置き、学校給食や医療・事業給食、弁当チェーン、冷凍食品メーカーといった新たな分野の取引先を開拓していくが、併せて契約産地の拡大にも力を入れる。対応するのは青果物約200品目。業務用販売は今年度1万トンを計画している。
単純な物量の調達だけでなく、外食産業などの業務用はいかに“こだわり”部分を確保できるかも重要で、“直営農場”の誘致などを含めた幅広い“商品性”が要求されることは間違いない。
こうしたマーケティング活動を通じてこそ初めて、実質的な自給率向上や国内農業振興が実現することもまた事実であろう。

 

 

PB商品/生産者と、小売店と消費者の利益が一致する?  (2003年11月号)

 スーパー業界のPB(プライベートブランド=独自開発商品)戦略が活発になってきた。長引く景気低迷で消費者の購買意欲は減退してはいるが、生活必需品であるがゆえに食料品は元気。そのため、食品を販売強化することで経営が改善するケースが目立っているのだ。その中でも、店舗差別化ができて利益率もいいPB戦略のあり方が、企業の業績を左右するまでになっている。

種苗会社との提携でも
端的な事例が、スーパーの中で営業利益が最高だったイトーヨーカ堂だ。同社は、食料品の売上高を前年度に比べ5.6%伸ばし、全売上高に占める食料品の割合が50%を超えたほど。
全体に見ると、ばら売りや量り売りが好調だったからだと分析されるが、同社のPB戦略は他社に比べて積極的でかつユニークだ。
話題になったのが、タキイ種苗と共同開発したスイカ「たべやすいか」。種が少なく、糖度は13度、しゃりしゃり感が特徴だ。今夏も6月中旬から全175店舗の果実売り場に専用コーナーを設けて販売したが、低温にもかかわらず、前年に比べ3倍の売れ行きだったという。8月まで販売するため、沖縄から北海道までリレー出荷体制をとる。売れ行きの好調を受けて、契約産地を今年、全国15ヵ所に広げている。同様に種苗会社との共同開発品目には、糖度が高いトウモロコシ「おひさまコーン」もある。
また、メロンでは「オトメメロン」。一昨年から一部店舗で取り扱いを開始したが、昨年からは全店に拡大しているし、今年は7月からはカボチャの独占商品「ほっこり姫」の販売を開始。早くも、糖度が高いだけでなく、丸ごと電子レンジに入れて調理できるコンパクトさ簡便さが評判になっている。
このほかイチゴ、桃、ナシ、リンゴ、グレープフルーツなどでPBまたはヨーカ堂独占の商品を揃えているが、輸入品でも、フィリピン産バナナの直輸入に乗り出しており、「南国物語」というブランドで一部店舗で売り始めた。この商品、通常のバナナが糖度17度なのに対し、糖度は22度もあるというから、まさに差別化商品である。 
なぜ、これほどPB商品開発に熱心なのか。理由は簡単。価格はいずれも通常の商品に比べ40〜50%も高く売れるのだ。商品の特性が、@味がよいA食べやすいB生産履歴がわかる仕組みを持つ、などなのだから、それだけの付加価値を消費者が認めていることになる。同社も現状ではPB比率はまだわずかだが、実際にこれだけのPBを打ち出している青果物の売り上げが好調なことから、「将来はPB比率を7割まで高めたい」とまでいう。

“こだわり”の開発商品勢ぞろい
売上高が最高だったイオンの場合はもっと顕著で、食料品の売上高を4.3%伸ばし、食料品の割合を52%に高めた。利益率の高いPBの充実と総菜の強化が奏功した。とくに同社は、かねてから地場野菜などの地産地消的な商品戦略を基本としたPB商品で他社を引き離していた。それに加え昨年からは、こだわり農産物・食品「フードアルチザン(食の匠=たくみ)」がスタートしている。
フードアルチザンの趣旨は、失われつつある郷土の味を守ろうというのがキャッチフレーズ。商品開発の特徴は、環境に優しい栽培方法や郷土色、地域の特性を生かした農産物、食品であるかを、消費者や有識者に審査してもらった上で採用していること。同社グループのジャスコなどに特設コーナーを設け、商品特性を紹介した掲示板を立てて販売しているが、現在75の生産者や地方食品加工メーカーの約100品目が選ばれており、今年度中に300品目まで拡大する計画だ。
これまでフードアルチザンに選ばれた農産物は、岐阜県の「島ごぼう」など収穫時期が限られる伝統野菜や地域に伝わる昔ながらの栽培方法で育てた野菜など。農家単位で採用してきたが、今年の夏からはJAの農産物が初めて登場した。埼玉県JAさいかつ夏ネギ販売促進部会のネギだ。同JAのネギは地域のスーパーから出る野菜くずでたい肥を作り、環境保全型農業に取り組んでいる点が評価されたもの。
同社によると、フードアルチザンに応募するJAは増えているというが、量や時期は限られても地域独自のこだわりがある農産品、加工品を、今後ともグループでPRしていくとしており、とりわけJAや農家女性グループの応募も呼びかけている。
 中堅の東急ストアは、1割強であるPBの割合を、3年後には3割にまで高める方針だ。産地と契約し自社工場で精米した米や、産地限定の豆腐・納豆の販売が好調なことと、野菜のPB商品化が伸びているのだ。
同社の野菜販売戦略の特徴は、JAや仲卸業者、地元農家らと連携して、野菜売場に多彩なコーナーを展開していること。とくに「うちの畑から」「トレースナビ」などのコーナーでは生産者個人をアピールする。これが発展拡大してPBとするという戦略なのである。
各コーナーの内容は、「うちの畑から」コーナーの場合、キュウリ、トマト、ミツバなどの各商品には、生産者や確認責任者の名前、連絡先などを明記した。現在5店舗で展開し、今期中に倍増させる。JAが産直品のまとめ役となっているのは「アンテナショップ」で、現在7〜8店。生産・流通履歴が見られるのは「トレースナビ」で、5店舗。そのほか「地場野菜」コーナーは多くの店舗に設けられている。こうしたこだわり商品の展開店は今期中に50店舗になる。
 同社の方針は、こうして少量でも展開できる各種のこだわりコーナーの設置を通して、農家やグループと連携を深めながら、その中からPBブランドである『健康菜果』の拡大につなげていくことだ。
中堅のマルエツも、ヨーカドーと同様に種苗会社との提携を進める。サカタのタネと共同開発した高糖度トマトを「糖マト」(品種名・麗容)というPBブランド名で販売したほか、歯ざわりが良い、いぼなしキュウリや、芯まで赤く糖度が高いニンジンなどの開発も進めている。
一方、マルエツは経営再建中のダイエーの食料品の販売強化に乗り出している。ダイエーとしても、業績のいいイオンやイトーヨーカ堂に比べ、肝心の食料品の割合が約1割低いために、食料品に強いマルエツとの連携を強め収益確保を最優先課題にしたいという目的がある。
そのため、すでに一部地域でマルエツの販売ノウハウとともにPB商品を売っている。
改装オープンしたダイエーの東京・高尾店の最大の特徴は、青果売場の中央にある「トマト村」。マルエツが考案した独自のコーナーで、大きさ、産地、栽培方法の異なるトマトがPBを含めて10種類近く山積みされている。「地場野菜」というコーナーには八王子市など地元でとれた商品が生産者の顔写真と一緒に並んでいる。マルエツが、ダイエーのために新たに契約した。
キュウリやナスは極力ばら売り、その他の商品も大、中、小の3通りに分ける、値ごろ感を出すため、青果の価格は原則200円以内に抑える・・・、いずれもマルエツの綿密な市場調査の結果だ。
 青果売場は毎日14時になると、にわかに活気づく。「今朝どり野菜」というのぼりとともに群馬県赤城高原で早朝に収穫したばかりの野菜が続々と運び込まれる。通常のレタスが98円なのに対し「今朝どり」は128円と高いが、大半の来店客は「今朝どり」を買っていく。来店客を飽きさせないように常に売場を変化させるのがマルエツ流であり、PB戦略の柱だ。

市場経由の契約取引を利用
さて、このようなスーパーによるPB戦略は、生産者の販売戦略上でどんな位置付けになるのだろう。一見して直販の割合が増えそうに思う。JAなどの生産者団体の不得意な分野である直販では、なかなか生産側の主体性が確保できないのでは、という心配もある。
農水省の行った「市場外流通実態調査」によると、意外なことに量販店は“従来型”市場仕入れに75%も依存しており、いわゆる産直など市場外仕入れは10%にすぎない。PB戦略などで「産直志向」が強い“はず”の量販店の実態と、この数字は余りにも折り合いが悪い。では、残る15%は何か。それは、「市場を介した産地との契約取引」である。一般に「市場産直」とか「市場帳合流通」とか呼ばれているものであり、これを量販店側は「産直仕入れ」に含めているのである。この部分がスーパーのPB開発の流通戦略である。
 今後はどんな方向に向かうのかの意向を聞き取り調査すると、5年後の仕入れ方法の予想では、市場外仕入れにも相変わらずの意向はあるものの、「市場を介した契約取引」の増加がとりわけ目立っている。
いわば、従来の市場仕入れと産直をドッキングさせたかのようなこの仕入れ方法は、「産直」では価格、数量、取引など日常の調整に問題が多いのに対して、まず量販店が産地などと提携・契約を行い、その商流物流過程に卸売市場を介在させることで、固定的で継続的な取引が行なえる。
生協が「市場産直」という形でこの方式を持ち込んで以来、スーパー業界でも追従、さらに発展する傾向が強まっている。これこそがスーパーのPB戦略の具体的な手法なのだから。

 

「若者たち」が変えるか・・・/リンゴのマーケティング (2003年10月号)

 リンゴは、中・小玉を美味しく作り、若年層を中心に“丸かじり”でたくさん食べてもらう…。さらに外国の消費者にも買ってもらう…。少し前だったら耳を疑うようなマーケティング・トレンドが出現している。しかも、リンゴの生産、販売では最も“保守的”といわれてきた青森県が、文字通り県を挙げて取り組もうとしているのである。

>豹変?青森のリンゴ
少し前までの青森県のリンゴ生産は、なるべく大玉で袋掛けなどしてきれいに仕上げる、しかも、長期貯蔵に耐えられる品質に仕上げるのが目標だった。それが青森県のリンゴ農家の高収入への道であったのだ。10月から6、7月までの長期販売のためには、即売しなければならない“蜜入り”などは病気扱い。“いいもの”さえ作れば高く買ってくれる、大型のCA貯蔵施設を持つ産地商人こそが“お客様”であり、消費者の意向にはあまり関心がなかった、といってもいい。
その青森県が、「消費者の好むものは」「どうしたら売れるか」と、生産、出荷体制を根本から見直そう、というほどの豹変ぶりをみせているのだ。
ひとつには、かつて100万トン果樹として、ミカンとともに君臨していたリンゴが、大玉を中心に売れ行きが鈍り、02年産リンゴの主要都市の平均価格は前年産より約1割安の200円前後。2003年にはついにその「適正生産量」が過去最低の87万トンに設定され、“縮小再生産”の方向性が明確になってきたことだ。一方では、オーストラリア産、アメリカ産などの輸入リンゴも次々に解禁され、国内リンゴ産業としての危機感がいやが上にも高まっていること。
その危機感の一端は、青森県リンゴの価格浮揚などを目的に関係分野の専門家委員などを中心に開催されている「青森県りんご総合対策協議会」での検討経過からも聞こえる。
この協議会の意見交換では、消費地側の専門委員と産地側委員との間に明確な意識の違いがある。消費者のニーズは大玉よりも1回に食べきれる中玉サイズにあるという意見に対して、産地委員は「中・小玉では安くて再生産できない」との意見が大勢を占め、生産量を減らせば単価が上がるという意見に対しては、産地側から「減らせば輸入品が大量に市場に入る」と警戒の声があがる、といった具合だ。生産地の意見を無視することはできないが、これからは消費地の理論も必要、というジレンマである。

台湾をマーケットに
しかし、そんな本音と建前の間で立ち止まっているわけではない。すでに打ち出している対策の基本理念は、「これまでの定番だった贈答用の大玉に加えて、一般家庭消費用に中・小玉の売り込みを図る」というコンセプト。これを国内だけではなく、外国に対しても実施しようという。とりわけ輸出は、国内マーケットの価格浮揚のためには“有効”だと考えられている。ターゲットは、WTO加盟で関税引き下げなど、輸入制限を大幅に緩和している台湾だ。現地で新聞広告やテレビCMなどを行い、消費のすそ野を広げるという本格的な計画である。
 台湾はこれまで、日本産リンゴの輸入割当数を年間2000トンに制限していたが、世界貿易機関(WTO)加盟で数量枠を撤廃。この結果、昨年度の日本からの輸出量は、それまでの3倍に当たる約5500トン、今年度は約1万トンが見込まれている。青森産はこのうちの9割を占めており、昨シーズンは初めて「サンふじ」の輸出も試みた。ところが、現地ではみつ入りの甘さが予想以上の好評で、「はちみつふじ」「はちみつリンゴ」と呼ばれるほど人気を集めた。
 さらに、台湾の年間のリンゴ輸入数量は約12万トンで、このうち約8割が米国産だったが、昨年11月に同国産からコドリンガが発見され、全面的な輸入禁止措置がとられていた。米国産の信頼回復には時間がかかるだろうから、いまが青森産のチャンス到来との判断もある。

予想以上の人気「ばら売り」
 一方、国内マーケットを対象とした中・小玉作戦にも積極的だ。今年の年始めには、多彩な品種やサイズのリンゴをばら売りが大手スーパー店頭で試みられた。そこでは、46玉などの小玉リンゴの売れ行きが上々という結果が出ている。
 東京都内のイトーヨーカドーやダイエーなど60店舗の大手スーパーに、大きさ別に色分けしたシールが付いたリンゴが多種類並べられた。「ふじ」では「28」「32」「36」「40」「46」の玉数が明示され、価格も1個178円から59円まで。買い物客からは「大きさと単価を見て自分で選べるのはいい」、売場担当者からも「多彩なりんごが提案でき、店にとってもいい」と歓迎の声ばかり。
販売結果は、36玉(98円)、46玉(58円)、40玉(78円)の順に多かったという。スーパー側では、40、46玉の小玉の支持の高さにいまさらながら驚いており、試験販売だけでなく、通常の販売でも小玉を生かしたばら売りができれば、リンゴ消費の底上げにつながるだろう、との手ごたえをつかんだようだ。
そんなに好評なら、なぜこれまでやらなかったかだが、従来はばら売りリンゴの販売は手作業でのレジ打ちが必要なために、スーパーの現場サイドでの対応が難しかった。ところが今回は、品種やサイズ情報が入った「サイズJANコード」入りシールを産地が貼ることで、この問題を解決したのだ。
このばら売り企画に対応したのが、青森県リンゴ商業協同組合連合会。昨年度、農水省が推進している食品流通高度化プロジェクト事業に「生鮮JANコードのソースマーキング(貼付)を導入した果実の共同販売システムの構築」を提案して採用されたもの。農水省が開発した、産地、品種、等級などの情報が記憶された13桁の生鮮JANコードを活用し、リンゴ1個ずつにバーコードシールが貼付されたことで実現したものだ。
消費者にとっては、いろいろな大きさで、価格も違うリンゴを選べるという商品選択のメリットがあるほか、バラでも買える利点がある。一方生産、流通側には、産地、規格ごとの売れ行き情報が手にとるようにわかるようになり、マーケティング戦略として活用できる。もちろん青森県としても、効率的な県産ブランドの確立にも役立つ。

 

 

野菜・果物どれだけ食べる? (2003年9月号)
 1単位は「70グラム」。それを1日5〜7単位食べると、“日本型”の野菜・果物「摂取目安」になる。野菜・果物の消費構造の変革を目指して、「野菜等健康食生活協議会」が提案したのが、1日の摂取目標を達成するための最小単位を「可食部で70グラム」にすること。“日本版のサービングサイズ”として位置づけられている。
そもそものキッカケは、アメリカから始まった「5 A DAY」運動だ。同国では、青果物の消費動向が、この運動によってこの数年上昇を続けているといわれる。1980年代には1人当たりの野菜消費は年間70キロを切っていたが、90年代から増え始め2000年に92キロまで上昇している。一方、果実も70年代は40キロなかばであったが、2000年には58キロまで増えた。わが国でもこの運動にあやかろう、というわけだ。
ところが、「5 A DAY」運動は、アメリカでは「1日に5サービング以上の野菜・果物を食べよう」という呼びかけだが、その「サービング=単位」というのが問題。アメリカ人に聞くと、「1サービング」とはおよそその人の拳大くらい、というのだが、日本人にはいまいちピンとこない。なんしろ、日本人はアメリカ人とは体格が違うし食文化や食生活だって違う。そこで日本人の“数字好き”が頭をもたげるのだ。
協議会での検討は、摂取目安とは、野菜・果物の摂取を目標化するときに、基準となる最小単位のことなのだから、従来からいわれている「1日、野菜350グラム」を達成するためには“割り算”をすればいい。すなわち、野菜・イモ類・キノコ類・海草類からなる「副菜」で70g×4〜5単位、それ以外に「主食」「主菜」などから70g×1〜2単位を摂取すればいい。だから、合計では1日に5〜7単位を目安とするのがよかろう、ということになったものだ。
現在、同様の趣旨で野菜・果物の消費拡大の運動を実施している民間団体は、「青果物健康推進委員会」と「ファイブアデイ協会」の2団体。ファイブアデイ協会は「1日5単位(サービング)を」という呼びかけをしているし、青果物健康推進委員会は「ベジフルセブン」と「1日に7単位を」と説明している。これに対しても、偶然か故意か両団体の運動とも整合性がつけられている。

目標値は決まったものの…
ただし、「5 A DAY」とそれに続く一連の運動の広がりに対して、評価は一定ではない。成人病の予防などの趣旨で始まったアメリカに対して、日本ではどちらかといえば消費量の拡大に主眼を置きがち。量の問題なのか中身や質、バランスなのか、それとも機能性が重要なのか、さらに食べ方が大切なのかといったテーマもある。
日本人の野菜摂取の“理想”が「1日、350グラム」だとすると、年間では128キロに相当する。現在、110キロなら14%程度“不足”している勘定だ。それならその“目標値”をクリアすればいいのか。
FAOやWHOなどの統計を総合すると、例えば、レバノンは350キロ、ギリシャは260キロと途方もない野菜摂取量だ。オリーブやトマトの摂取がハンパではないからだが、同様の傾向はイタリアの180キロでもいえる。これではバランスに問題がある。お隣の韓国では200キロ近いが、あれだけの各種キムチを常食にすることは日本人には無理。ニュージーランドの140キロは、ジャガイモを“主食”のように食べている結果だ。野菜を何でも“炒める”中国もやはり180キロ近いが、その脂っこさにはついていけない。それなのに、これら“野菜消費大国”より日本人のほうが平均寿命が長いのはなぜ?という素朴な疑問も湧く。

健康志向にも落とし穴が
それでは日本人は、栄養バランスが問題なのだろうか。たしかに、2001年国民栄養調査の中でビタミンとミネラルの摂取状況も調べられているが、幸いおおむね必要量を上回っているものの、亜鉛、銅、ビタミンB6が不足していた。従来から不足ぎみのカルシウム、鉄も相変わらず足りないという。
不足している亜鉛は、細胞を作るのに必要なたんぱく質の形成に不可欠。不足すると新陳代謝が活発な部分に障害を起こす。亜鉛を多く含む食品は、肉類、魚類、穀物である。
 ビタミンB6も、たんぱく質の代謝を促す大切な栄養素。皮膚の健康や神経の機能を正常に保つ働きがある。特に妊婦や授乳中の人、発育期の子には重要で、不足するとアレルギー症状を起こしやすくなる。サツマイモ、イワシ、サンマなどに比較的多く含まれる。
銅は、腸からの鉄の吸収を助けるなどの働きをする。だから、鉄が十分でも銅が欠乏すると貧血などを起こす恐れがある。比較的多く含む食品は、カキ、牛・豚レバー、シャコなどだ。とすると、栄養バランスの問題は野菜・果実の摂取だけでは解決しない。
むしろ問題は、「食事から必要な栄養素がとれていない」と思っている人や、欠食の習慣がある人が、安直にサプリメント(栄養補助食品)を摂取していることだろう。錠剤やドリンクなどでビタミンやミネラルを摂取している人が、男性で17.0%、女性で23.6%もおり、しかも男女とも7割弱が「ほぼ毎日」飲んでいるというのだ。
 かつて「××ミニ」という飲料が「1本でレタス1個分の食物繊維が摂れる」と宣伝しながら、一般には「レタス1個分の“栄養分”が摂れる」と誤解され問題になったことがあった。さすがに、最近では消費者の栄養意識は高くなりそんな無知も通らなくなった、と思いたいが、では近年「野菜ミックスジュース」が成長の一途であることを、どう評価すればいいのだろう。“栄養志向”には、そんな落とし穴があるのだ。

「どう食べさせるか」が問題に
きちんとした食事をすれば微量要素不足を心配することはない。だから毎日の食事を大切にしなければならない。とりわけ、日本の食文化を次世代にも継承してもらいたい…。それが“日本型5〜7 A DAY”の趣旨のはずだ。
 この1月から、小中学校のモデル校で具体的な食教育をする試みが動き出した。食の専門家を「ベジタブルティーチャー」として、学校に派遣するなどの取り組みである。一連の青果物消費拡大運動が、健康増進のための消費拡大だけにとどまるのではなく、現在の食生活の見直しを通じた、日本型食文化の再生と継承だとすると、重要なのは次代を担う子どもたちへの食教育であり、具体的な地域の“味覚文化”の継承だ。どう食べるか、の問題である。
「摂取目安」は示された。具体的な「食提案」こそが「消費」を生む。アメリカでは、ここ数年来、安くてうまい“食べ放題”レストランが増えている。この事実と、「5 A DAY」運動の成功とは無関係ではないことを銘記すべきである。

 

日本の自給率、高いか低いか?  (2003年8月号)

 56%。「国内生産できる食料は、輸入に頼らず国内生産すべきだ」と答えた人の割合だ。 いわゆる食料自給に対する意識の問題である。現状で、カロリー自給率が40%程度しかないことを知っての回答であるから、この数字は低いと見るべきだろう。
 調査したのはJA全中。農業団体の調査にしては、珍しい結果のようにみえるが、対象が首都圏の男女1200人(2002年11月に実施、回収率は89%。前回調査は1997年)というところがミソだ。食料生産を担う農村部を対象にしたら、こんな回答にはならないだろう。が、逆にいえば、生活者が最も集中している、言い換えれば食料を購入する割合が最も高いのが首都圏だとすれば、生産側としては大変意味のある結果だといえる。
 調査結果を良く見ると、食料生産は「国内生産できる食料は、輸入に頼らず国内生産すべきだ」と答えた人が56%しかいないのだが、5年前の前回調査より6ポイントも増えていることや、特に女性が61%と高く男性を11ポイント上回っていることを注目すべきだろう。デフレの影響で物価が下がり、食品の原材料の海外依存が増えていることに、不安とある種の恐怖を持っているのだろう。「外国産の方が安い食料は輸入する方がよい」という“国際分業論”的な意見が7%と減っているし、とりわけ毎日の食事に関与する女性の不安が、より増大している様子が伝わってくるようだ。
 ただし、カロリーベースで40%の食料自給率を「低い」と感じる人は71%と、意外に高くない。確かに9割近くの人が50%以上を求めているのだが、では「適当と思う自給率」を聞くと「50%以上〜60%未満」を挙げる人が最も多く3分の1の32%だ。“100%自給”などと言わないのは、世の中の諸情勢の中で、日本における海外依存はある程度は必要だ、という首都圏の生活者のバランス感覚なのだろう。
 一方で、大消費地なるがゆえに、生産の現場から隔絶されているため、安全性に対する懸念は“異常”なほど強い。食の安全が「大変不安」または「やや不安」と答えた人は76%にものぼるのだ。自らが食料生産に携わっていないことからくる、“見えない恐怖”なのだろう。不安に感じる事柄が、残留農薬(86%)、食品添加物(82%)、遺伝子組み換え食品(65%)などが上位を占めていることでもそれが分る。
 そうしたことから、日本の将来の食料供給について不安に感じている人(「大変不安」または「少し不安」)は9割ちかい89%にものぼり、5年前に比べても2ポイント増えている。社会情勢、経済情勢の不安定さと、それに対する漠然とした不安感の延長線上のものだとは思われるが、その頼る先は国内生産者だ。JA全中による調査であるという要素を差し引いても、92%の人が「新鮮で安全な食料の供給」をJAに求めているのは、生活者の本音部分であろう。

「自給率早見ソフト」も
 ところで自給率の向上は、究極には国内生産の拡大なのだが、その受け皿になる消費者の意識が問題。国産か輸入かを知り、選択してもらうための情報提供が不可欠である。そのための一方法として、農水省は、消費者が食べた献立の食料自給率や栄養バランスをパソコンで簡単に調べられる「食料自給率早見ソフト」を提供。情報も新しく更新して、常に最新情報で検索できるようにした。食材は、例えば米は精米だけでなく玄米も、ダイコンでは葉の部分や切り干しダイコンなどを新しく登録するなど、184品目から296品目に増やした。また、メニューはお好み焼きやピザなどを加え140品目から166品目に。基礎データの食品成分値は、日本食品標準成分表五訂にし、自給率は毎年更新していく。
 自給率だけではなかなか多くの人に使ってもらえない、という配慮もあってのことだろう、献立を入力するとPFC(たんぱく質・脂肪・炭水化物)バランスが、一回の食事だけでなく、1日、1週間単位でも調べられるのだから、“美容・健康”狙いの人にも知らず自給率の“お勉強”をしてもらえるのだ。
 (早見ソフトは農水省ホームページwww.maff.go.jpのトピックス「食料需給関係情報」に掲載されている)

食品ロス率は減ってはいるが
さて、自給率の話になると必ず議論の対象になるのだが、「食品ロス率」の問題である。単純に見ると、ただでさえ自給率が低い日本が食品を食べ残して捨てている、という事態はゆゆきしことである。海外から食料を買っているのに、食べずに捨てているなら買う必要はなかろう、という“論理”である。
そういう意味からすると、最近の日本はどうやら食品ロス率は減ってきており、消費者も自給率を意識するようになっているのだろうか。農水省の、家庭の食事に占める食べ残しや廃棄の割合(食品ロス率)の調査(世帯員数や都市人口別に抽出した1000世帯で、1週間の継続調査)によると、2002年(9〜10月の1週間)は5.6%で、3年連続で低下しているという。そもそも、不況の影響で食べる食品も減っているのでは…、と思ったら何と、一方では家庭で1日にとる1人当たりの食品使用量は1213グラムと過去最高を記録しているのである。どういうことなのだろう。
 食品ロス率は2000年(8〜9月の1週間)と比べて2.1ポイントの低下。特に無駄が少なくなったのは弁当や食パンなど調理加工食品で、廃棄率が2000年の半分以下に減った。1人1日当たりの平均食品ロス量は前年比2.7%減の68.3グラムだ。家庭で食べる食品は、弁当など調理加工食品が最も多く、1日1人当たりでは234グラムと全体の2割を占め、前年から23グラム増えたという。
たしかに、不景気の進行でムダを減らそうという意識が広まったこともある。さらに、小売店でのバラ売りなどの商品小口化も進んでいるだろう。では「食品使用量」が増加しているのはなぜだろう。一つ考えられるのは、不景気で外食が減り家庭での食事が増えているためだ。ただし、家庭の食事も食品ごみの出にくい調理加工食品が増えているということが問題である。
食品ロス率の低下は、自給率の向上にはストレートにはつながらない。廃棄されるのは輸入品も国産も同様だからだ。しかも、結果的に見ると、調理加工食品の利用が増えているということは、輸入原材料の割合が増えていることでもある。すると、調理加工食品の利用が増え、しかも食品ロスが少なくなったということは、「逆に、容器類のごみ量を増やす」という指摘はさておくとしても、「捨てるもの消費」というかつての“論理”を思い起こしてしまう。
そこで立ち戻るのが、冒頭の「国内生産できる食料は、輸入に頼らず国内生産すべきだ」ということになるのだろう。しかし、その一方で輸入に依存すべきは、「海外に生産をお願いする」という姿勢も必要になるのでは…。

 

中国の“お金持ち”に売り込め!/どっこい売れるぞ(?)日本の青果物 (2003年7月号)

 日本の青果物は、外国の人からは揶揄を含めて「芸術品だ」と評価されてきた。高い生産技術は認めながらも、食べるものではなく鑑賞するもの、という皮肉である。当然、日本から青果物を輸入しようという国はごく一部の例外を除いて皆無で、日本の生産者も輸出できるものとは思ってこなかった。ところが最近、日本のデフレと長引く不況とは対照的に、中国を筆頭とする東南アジアなどの購買力は飛躍的に向上し、どうやら、日本の青果物でも恒常的に輸出できる商材になれるのか?という状況になっているようなのだが…。

急成長の中国にワサビやメロン
中国に誕生しているとてつもない“お金持ち”に、日本が誇る高級青果物を売り込め…。彼らのステイタス意識からすれば、絶対に商売になる、と「アジア市場テストマーケティング事業」に乗り出したのが静岡県。中国の富裕層から、ワサビや温室メロンなどの同県特産青果物が好感触を得ているという。
今年初め、同県とJA静岡中央会は、香港や上海、北京で実態調査を行い、卸売市場や百貨店、飲食店に商材を持ち込み反応をみた。特にワサビは、中国で刺し身を食べることが多くなっていること、チューブタイプの“本生わさび”などが普及しつつあることなどから、ホンモノをすりおろして実演すると、大変興味を示したという。
 こうした特殊な特産物とは異なり、一般野菜を売り込もうという福岡県の場合は、中国本土に乗り込む前に、とりあえずまず香港をターゲットにしようという。
香港は、従来から同県産の青果物が、主に日本人向けにレストランや日系スーパー用として定期的に輸出されていた。だたし、これまで香港には品目のPRをするなどで、多分に名目的なものだったが、これを、確実に実需に結び付く手法に転換していくのだという。
具体的には、香港の福岡県人会を組織化。福岡ブランド販売戦略事業に、新たに「県産品アジアマーケット販売戦略展開事業」を盛り込み、地元・福岡と香港でそれぞれ協議会を立ち上げる。それによって、香港でイチゴ、ミカン、「博多万能ねぎ」など特産品の販売実績が着実に上がる仕組みをつくろうというものだ。
日系スーパーなどで常時、福岡産農産物を供給し販売が拡大することで、その波及効果が香港から中国本土や他の地域に及ぶことを、当然、期待してのことである。

国内より台湾優先の戦略も
野菜類は“安くて当たり前”という感覚の地域や国に売り込むのだから、ハードルは高くて多いが、一方、果実類は若干ニュアンスが違う。すでにカナダに対する温州ミカンの輸出は30年にも及び定着しており、輸入販売される時期から「クリスマス・オレンジ」と呼ばれたり、その手軽さから“テレビを見ながら”でも食べられるということから「TVオレンジ」などと呼ばれて愛好されている。最近では、スペインや南米での日本種温州ミカンの栽培が拡大され、かつてのような日本からの直輸入の価値感が薄れてはいるが、植防上の問題も解決してその範囲もアメリカにまで広がっている。
 日本ナシについても、端緒を開いた20世紀ナシは東南アジアでは「クリスタルペア」、その見た目と食感から“水晶のような梨”と呼ばれて愛好されてきた。いまでは、鳥取県では台湾中心に県の生産量の2割以上を輸出するまでになっている。ニュージーランドなどでは、輸出用の品種として国際競争力のある日本種ナシの栽培が盛んで東南アジアから欧米にまで輸出しているが、日本からの輸出品は、その品質において“別格”扱いで、高級品としての評価は定着した。
 台湾で梨の「二十世紀」の購入に高い関心が示されていることは、JA全農とっとりの現地アンケートでも分かる。高値でも購入意欲が高いのが特徴だ。
 台湾の人の「好きな果物の順位」は第1位は梨で、次いでリンゴ、スイカの順。梨は2番目、3番目に挙げる人も多く、回答者の8割以上が「3位以内」に挙げた。水分を多量に含み甘いものに人気が集まったのは、気温が高いことが影響しているのだろうが、「梨の選択基準」については、大きさは「大」が圧倒的で、さらに果汁では「多い」が、糖度では「高いもの」が大半を占めた。
 驚くことは、「二十世紀」の大玉4Lの1個当たりの購入希望価格では、90元(約324円)以上が3分の1を占め、約半数が高値でも買う意向を持っていることだ。日本国内でさえも4Lは小売価格でせいぜい200円程度だ。

ナシに続いてリンゴでも 
 台湾はWTO加盟で、関税引き下げなど、輸入制限を大幅に緩和している。そんなことに注目しているのだろう、青森県でも2003年度から、台湾へのリンゴ輸出を拡大することにした。これまでの定番だった贈答用の大玉に加えて、一般家庭消費用に中・小玉の売り込みを図るため、現地で新聞広告やテレビCMなどを行い、消費のすそ野を広げるという本格的な計画だ。
 台湾はこれまで、日本産リンゴの輸入割当数を年間2000トンに制限していたが、昨年1月の世界貿易機関(WTO)加盟で数量枠を撤廃。この結果、昨年度の日本からの輸出量は、それまでの3倍に当たる約5500トン、今年度は約1万トンが見込まれている。
 青森産はこのうちの9割を占めており、今年度は初めて「サンふじ」の輸出も試みた。現地ではみつ入りの甘さが好評を得て、「はちみつふじ」「はちみつリンゴ」と呼ばれるほど人気を集めた。
 しかし、日本産が浸透しているのは台北で、ほかの地域ではまだ十分知られていない。それに加え、主な需要期が旧正月の、それも大玉の贈答用が中心とあって、米国産に比べて3〜5割高いなどの難点があった。
 ところが、台湾の年間のリンゴ輸入数量は約12万トン。このうち約8割が米国産だったが、昨年11月に同国産からコドリンガが発見され、全面的な輸入禁止措置がとられていた。米国産の信頼回復には時間がかかるだろうから、いまが青森産のチャンス到来との判断だ。

輸出支援の体制も続々と/
 このように個々の取り組みが活発化し、特に、アジアの経済発展などを受け香港、台湾、さらには中国本土も、日本食品の輸出市場になるとの見方が強まってきたことから、ジェト口(日本貿易振興会)でも、農水産物・食品輸出セミナーを開くなど、対応に動き出した。
 2002年の品目別輸出実績は、野菜・同調整品が56億300万円で前年の1.2倍、果実(生鮮・乾燥)が46億1300万円で同2.1倍、清酒が35億2200万円で同1.1倍、茶が19億6000万円で同1.2倍と、増えた。このように輸出が伸びているのは、アジア市場が拡大しているためだ。香港は人口がわずか700万人ながら、日本からの食品輸出額は米国に次ぐ大きさ。近年は、日本企業のスーパーはもちろん、地元スーパーにも日本食品コーナーができ、キャベツ、レタス、ニンジンなど日本の野菜が品質、安全性で人気を集める。映画やファッションと一緒に、食にも日本文化が浸透してきているのだ。そして、今後は“本命の”中国本土にも市場が広がるだろうとの判断がある。
 日本の食品輸出3位の台湾へは、梨やリンゴの輸出が増えているが、高所得者には高級果物の人気が高い上、世界貿易機関(WTO)加盟により2004年度までに、リンゴや桃の関税が50%から20%に下がるため、さらに輸出のチャンスが広がると予想される。そのほか、北海道産のナガイモが、ジュースやシャーベットの機能性食品として人気が高く、販売金額は20億円ともいわれている。また、中国については近年、生産拠点としてではなく、市場として各国が熱い視線を注いでいるが、日本からの輸出も、酒、しょうゆ、みそなどで始まっており、生鮮食品にも販路の広がりが期待されている。
 輸出への取り組みは、さらに広がりを見せ、国産農産物などの輸出を進めようと23の道県が、「農林水産ニッポンブランド輸出促進都道府県協議会」を立ち上げている。また、ジェトロは、国産農産物・食品の輸出を支援するため、専門家らによる「日本食品海外市場開拓委員会」をこの7月に立ち上げ、経済発展が進み、高所得者層が増えている中国や台湾など東アジアを中心に海外市場を調査、輸出戦略を提案し、JAなどの商談も支援する計画だ。

海外の値ごろ対応や海外優先の問題が
さあ、いよいよ日本農業にも本当の国際化が到来か、というところだが、懸念されることが2点ある。ひとつは為替レートの問題で、どうしても海外マーケットは、日本国内とはまた違った“値ごろ”がある。その価格差を補助金なしでも埋められるような生産、出荷体制とマーケティング意識をどう作り上げていくか。もうひとつは、二十世紀梨の場合、輸出は国内市場の需給調節の機能を果たす、として奨励された結果、例えば関東マーケットには台湾より少ない15%程度しか出荷されていない。つまり、国内の消費者を犠牲にして海外マーケットを優先される事態がありうる事を、生産側が承知の上でやるのかどうかという問題だ。

 

素材を売るなら、メニューを売り込め (2003年 6月号)

 メニューを売る。このコンセプトは、最近では「メニュー提案」という形で普及している。つまり用途、料理を提案することで、その“素材”が売れる、という仕組みだ。有名な事例は、キューピーが長年にわたって野菜サラダの宣伝をしていること。サラダを作ろうとすると、“自動的”にマヨネーズやドレッシングが売れる。主食や主菜にはなり得ない野菜を売るためには、具体的な形にしてメニュー提案することこそが、不可欠である。

“あと5分で調理”が「THEキット」
 メニュー提案は、多くの場合、単に小売店頭などでチラシなどによって調理を提案するにとどまっているが、もっと具体的に単刀直入に「メニューを売る」戦略に出たのが、カット野菜製造の大手であるデリカフーズ(東京都足立区)である。
同社の顧客は約95%が外食、中食業者。なかでもここ数年中食の需要が高まっているが、これらの業者に対して、一般の「丸野菜」(原体の野菜)と「カット野菜」を供給してきた。最近では、これら外・中食業者のニーズの変化を受けて、様々なアイテム作りが拡大の一途で、現在は自社工場及びフランチャイズを合わせ16工場が稼動しているほど。
その「ニーズの変化」とは、簡便化やコスト節減、ゴミ対策などであり、丸野菜からカット野菜に、そしてそれらのセット化や加熱化などだ。要するに、調理素材の供給に加え、「メニュー」としての供給、納入へのシフトということになる。
具体的には、数種類のカット野菜と魚や肉類などの主食材、調味料を組み合わせたものを「キット」という。さらに、熱を通した数種類のカット野菜と主食材、調味料を組み合わせて「あと5分で調理できる」というところまで加工したものを「THEキット」という。
例えば「カボチャのそぼろあん」というキットは、カットしたカボチャ、スナップエンドウ、サトイモ、挽肉などがセットされている。外・中食マーケットが相手なだけに、同社が用意しているキット、THEキットは600メニュー程度にものぼり、ピーク時には1日の取扱が3万5000パックにもなる。
一般家庭での食の外部化は約44%といわれる昨今。その受け皿である外・中食業者においても、調理、加工の外部化が進んでいるということになる。そのためこの「メニューを売る」という形態が新たな「商品」となり、野菜販売における新しい付加価値流通になってきているのである。
 同社では「メニューを売ることは時代の流れ。現在はまだ丸野菜、カット野菜の販売が中心だが、今後は丸野菜とキット、THEキットを含むカット野菜で5対5になると見ている」といい、今年度売上見込み200億円、平成17年度には250億円を見込んでいるというから、明らかに今後のトレンドになってくるのだろう。

地産地消との連動でも活発
「野菜を売るためには、メニューを売ることが必要」という発想は、多くの地域、産地で見られるようになった。その前提となるのは、魅力的なメニューをどう作って、どう売り込むかである。とりわけ、地産地消運動などとの連動で、熱心な動きが目立つ。
 地場の農産物を使って「カレーの街づくり」を目指す北海道富良野市は、市民による初めてのカレー料理コンテスト「ふらのを食べよう! オリジナル・カレーコンテスト」を開いた。一般公募の市民の親子連れなどが出場し、それぞれ工夫を凝らした自慢のカレー料理を競った。優勝したカレーのレシピ(調理法)を、同市の広報誌で紹介するとともに、市内の各カレー店などの新メニューに加えてもらう。
 カレーコンテストは、地元の特産物を使ったオリジナルカレーを作ることで、地産地消を進めようと、同市教育委員会が主催。カレーの食材(タマネギ、ニンジン、ジャガイモ「男爵」)は、JAふらのAコープ山部支店が提供、ハウス食品も調味料などを用意した。
 コンテストでは、焼き豆腐や男爵薯をメーン食材に、調味料にチョコレートや牛乳なども使って工夫した「ヘルシートウフカレー」が1位に。主催者側では「地元の米のおいしさも再認識され、食材の豊富な富良野の街を、さらにカレーの街として全国に広げよう」と呼び掛けている。
宇都宮市を中心にラーメン店が地産地消にスクラムを組んでいる。「ネギニラ」「那須の白美人ねぎ」「LaLaポーク」など栃木県オリジナルの食材を使って、各店がオリジナルのメニューを提供。身近なラーメンを通じて地元の食材を広く消費者に伝えていこうという運動だ。
 取り組んでいる栃木スローフード・ラーメン研究会の14人がメンバーで、何回も勉強会を開き、食材や料理法を話し合い、「ネギニラとレバーいため」「アユを使ったスープ」「イワイノダイチの麺(めん)」「LaLaポークのチャーシュー」などのメニュー、料理を開発。「ラーメンは身近な料理。ネギ、ニラなどおいしい食材をたくさんの人に知ってもらうのに最適」と意欲的だ。
 熊本県の芦北町、水俣市など4つの市町村が後継者不足の起爆剤として栽培を始めた「サラたまちゃん」が人気だ。甘くて辛みがない、サラダに適したタマネギが、最近ではテレビでも紹介され、JAあしきたによると消費者からの注文が増えているという。また、地元ではサラたまちゃんを使用した料理コンクールや掘取り体験などを行い、年々参加者が増えるなど町起こしにも一役買っている。
 「サラたまちゃん」はタマネギの極早生品種を減農薬・減化学肥料など独自の方法で栽培したJAあしきたのブランド商品。極早生品種をサラダ用として販売し始めたのは昭和63年、以来注文が増え、現在70haで172人が栽培している。
「生で食べておいしいタマネギを」のスローガンのもと、訴求するメニューは「サラダ」など生食。環境保全型農業に徹しており、今までは葉を取り除いて出荷、葉の部分は生産者が食べていたが、おいしいというので今年から葉のついたもの(葉玉)を出荷している。通常のタマネギよりも3〜4割高く取引されているから、その訴求効果は大きい。

“こだわり野菜”を実際に調理して提案
野菜販売促進の難しさは、いくら“素材”の段階で「おいしい」とか「こだわり栽培だ」とか言っても、実際に調理してみておいしいかは別問題。それなら、それを“証明”しましょう、と「メニュー」にして売り出したのが、無農薬野菜などの宅配事業を展開する、らでぃっしゅぼーや(東京都)だ。この3月に、初の総菜店舗をオープンさせた。メニューの8割が野菜の総菜で、素材産地や生産者名、使用農薬回数も明示。総菜ブームを追い風に、無・減農薬野菜のおいしさを具体的なメニューとしてアピールしている。
 1号店は、京王百貨店聖蹟桜ヶ丘店(東京都多摩市)で店名は「らでぃっしゅでり」。店内での調理も行っている。販売しているのは、総菜を中心にサラダやスープ、デザート、生ジュースなど百種類。「パプリカの肉詰めグラタン」(1個480円)、「食物繊維たっぷりピリ辛スープ」(240g580円)などのほか、ジャガイモを丸々一個入れた肉じゃがや、「三浦ダイコン」など伝統野菜を生かした料理も旬に応じて提供する。同社では、今年中にさらに2店、3年で10店を出店する計画だ。

 

糖度やミネラル、硝酸態窒素で(2003年 5月号)
野菜の「デリシー度」

“ポスト・トレーサビリティー”の動き
 単なるトレーサビリティーではない。もっと積極的な商品保証の概念である。宮城県JAいしのまきは、おいしさの目安となる栄養価や糖度などを「デリシー度」として品目ごとに定め、「デリシー野菜」の名で販売することになった。安全性だけでなく、「食味」を証明するデータを伴った野菜の販売の提案である。当面はホウレンソウ栽培で生産資材を統一し、糖度などの測定を全員で始めている。単に、後ろ向きの“トレーサビリティー”ではなく、産地としての「ポスト」トレーサビリティーの動きのひとつである。

おいしい+ヘルシー+ジューシー
 宮城県JAいしのまき矢本支店は、「安全性」だけでなく、「食味」までも証明するデータを伴った野菜の販売にチャレンジしている。手法は、栽培履歴記帳や土壌分析はもちろん、土壌改良材などの資材も統一して、土づくりを基本に減農薬減化学肥料栽培を進める。作物の硝酸含有量と糖度は全生産者が測り、合格すると出荷ができる。糖度が高くなるチヂミホウレンソウでは、糖度を年内8度以上、年明け10度以上だ。今年4月から、品目ごとに「デリシー度」という基準を定め、それを満たしたものだけを「デリシー野菜」として、有利販売していきたいという。
 「デリシー」とは何か。「デリシャス(おいしい)と、ヘルシー、ジューシー、おいシーの合体語」だと説明するのは、仕掛け人の同JA矢本支店志田正次営農部長だ。おいしさの目安となる栄養価や糖度などを「デリシー度」として品目ごとに定め、イメージ先行の安全・安心ではなく、データで裏打ちされた生産物を「デリシー野菜」として提供していこうという。
 すでに矢本町ほうれん草生産組合では、土壌改良材などを統一し化学肥料を従来の3分の1に減らし“安心栽培”を実施している。作物の硝酸含有量と糖度は全生産者が測り合格すると出荷ができる仕組みだ。寒気に当て糖度が高くなるチヂミホウレンソウでは、糖度を年内8度以上、年明け10度以上にしたというから、「デリシー度」は抜群だ。
 また、99年からは野菜のミネラル分を測る生体分析をネギ、ホウレンソウ、ダイコンで始めており、03年度からは同検査に加え残留農薬分析を共販する全品目に広げる計画だ。これらは出荷ダンボール箱に各生産者の栽培履歴書として入れPRしていくのだという。
 こうした取り組みが前提になって初めて、品目ごとに「デリシー度」という基準を定めることができる。4月からの「デリシー野菜」として販売が待たれるゆえんだ。

「丸かじり条例」で安心、安全訴求
 おいしさは安心感を生み、安心がおいしさを生む…。そんな取り組みが果実でも始まった。昔、リンゴは丸かじりが当たり前だった。それができなくなったのは、農薬散布が多くて心配なこと、そして、リンゴが大きくなりすぎたことなのだが、さて、リンゴ産地、青森県の板柳町ではリンゴの「まるかじり条例」を制定して、おいしさと安心をアピールすることになった。
同町は、定例議会に、「りんご生産における安全性の確保と生産者情報管理によるりんごの普及促進を図る条例案」(通称=りんごまるかじり条例案)を上程。リンゴ生産の安全性確保と生産者情報の管理を通して、消費者に安全・安心なリンゴを提供するシステムの整備・確立を目指すことになった。きっかけは、昨年、無登録農薬問題で大揺れだった同町が、より高い安全性を求めて、生産者個々の農薬残留検査を行うようになったこと。そして、「まるかじりできるリンゴは、イコール安全なリンゴ、というイメージを打ち出したい」(舘岡一郎町長)というリンゴ産地としての意地だ。
具体的には、@まず生産者や専門知識を持つ人による「ガイドライン委員会」を設置。A農薬、土壌処理剤、肥料や検査に関する事項などを定める「安全ガイドライン」と、生産者情報の管理や表示に関する「生産者ガイドライン」を策定する。B生産者や関係団体は、ガイドラインを順守したリンゴの品質管理体制の整備に努力する。C「観察員」を置き、重大な違反行為があった場合、違反者の氏名や団体名、違反内容を公表する、という自己査定する自律的なシステムである。
 支援組織として、生産者、町長、関係団体代表、消費者、有識者などで構成する「町りんごまるかじり協議会」を作って推進していく。さて、これで「『りんごの里』いたやなぎ」の地元消費者も“丸かじり度”はアップするだろう。

インショップで「うまい菜くらぶ」
 単純にトレーサビリティーが確保されれば、それで安心・安全問題もマーケティングも完了するわけではない。安全性とその証明は食品として当然の資質であり、その上に親しみやすさが安心やおいしさを“証明する”という段取りにならなくてはならないだろう。 
福島県のJA伊達みらいは、スーパー・ヨークベニマル福島西店の青果売場に、インショップの「朝どり産地直送品コーナー」を設置、「梁川うまい菜くらぶ」の名称で梁川町産の朝どり野菜の販売を始めた。生産者直売の安心感や名称の親しみやすさだけに頼るのではなく、ここに出荷されるすべての農産物は、「農薬使用散布履歴書」が提出されているのが特徴。この季節、ホウレンソウやカブ、ニラなどの葉物を中心に23品目、690品にもなるが、商品ひとつひとつに「梁川うまい菜くらぶ」のラベルを張り、それぞれの生産者名とコード番号が記載されており、消費者に安心感を提供している。
同JAでは、「地産地消に向けた、新たな販路をさらに確立していき、今後の有利販売に期待したい」という。確かに結果的に“有利販売”につながっている地産地消の動きが、各地で活発化している。が、地場生産や“顔の見える”親しみやすさだけに頼らず、システムとしてのトレーサビリティーをさりげなく付与している同JAの試みは、今後この分野のスタンダードになっていくのであろう。

 

中・外食産業の需要を狙え!(2003年 4月号)
 =用途別・仕向け先別規格・品種を=

 食の中・外食化がますます進展している。とくに、デパ地下の惣菜類や、こだわりの食材を使ったレストランなどに、消費者が列をなす現象が見られる。その一方で、顧客を呼ぶためにはどうしてもメニューの恒常的な差別化と単価の引き下げが命題。ところが、わが国の農産物生産は、主に小売店用の商品づくり特化してきた感があり、中・外食産業からの不満が鬱積し、安直に食材の海外依存が増える要因にもなっている。それを何とかしよう、という動きがようやく活発になってきた。

個性化メニューのためインターネットで食材
 インターネット取引を通じて、個性ある食材を確保しようとする外食企業が増えてきた。通常の出荷品でもなく市場流通でも集められない食材で、店舗差別化できる新しいメニューを開発しようとする現れである。
例えば、通常の白ネギに比べて巻きが多く、甘みと香りが豊かな「千住葱(ねぎ)」。「太くて長さが30センチのアスパラガス」や「長さが15センチほどのオクラ」など、特徴のある野菜がネット取引され、串焼き店の差別化メニューになる。生産履歴の分かる新潟産「コシヒカリ」などは、安かろう、悪かろうのイメージがある食べ放題焼肉店が調達する。すべてネット取引である。
もちろんその理由は、「作られている産地、農家が限定されていて卸売市場からも直接的な産直でも調達できない個性的な農産物」だからだ。インターネットで国内最大の企業間食材・食品専門サイトを運営するインフォマートでは「これまでの市場流通では取引がなかった食材がインターネットで確保できる」をウリにしている。

農水省は「国産食材利用」の観点から
こうした状況にも対応し、しかも「国産食材の利用を高めよう」という観点から乗り出してきたのは農水省。外食企業と産地とが互いに意見を出し合って、取引に伴う弊害を取り除くことによって新たな事業へと発展できれば、との意図で、来年度からその両者で構成する「産地加工推進委員会」を立ち上げることになった。
すでにこうした課題についての議論や意見交換は、同省が企画し外食企業と生産者の代表者とで数回にわたり行なわれている。そうした経過の中から、外食側からは「一般商品のような厳密な規格は必要ないが、安定供給できる体制を」、「ゴミ処理や人件費コスト削減のため、調理用食材として使いやすく産地で一次加工してほしい」などの要望がでていた。そのため、こうした「産地での一次加工」などをめぐって検討するほか、実際に取引を進めるモデル事例を作っていくことになったもの。さらに産地と外食企業との交流を進めるためにコックさんや料理人を対象にした産地研修会などを開催して、産地の伝統料理を学んでもらう機会も作りたいという。
 食材の海外依存は増えているとはいえ、実際には外食産業の国産食材志向は高い。そうした状況を招いている原因のひとつは、国内産地の生産、出荷が、単価の高いスーパーなどの小売向けの体制になっていること。しかし、同省では国産食材のあり方をめぐって、外食産業と産地が同じテーブルにつくことによって「国産食材の活用促進の道が拓けるはずだ」(同省外食産業室)とみている。

卸売市場も業務用産地づくりに着手へ 
このような産地と需要者との直接的な取引を模索する動きに対して、「それはそもそも市場の役割だ」と名乗りをあげたのは、東京・大田市場の東京青果である。規格外品の取り扱いを含む、中・外食産業向けの野菜の産地づくりに乗り出したのだ。
現在、野菜需要に占める業務用の割合は6割を超える。とくに最近は、業務用といえども「規格外品のみならず、鮮度や食感、こだわり栽培など、特徴のある農産物を求めている」ことを重視。中・外食産業が求める農産物情報を収集して、各県の試験場などとも連携しながら、産地に業務用の野菜栽培を提案していくという。また、とりあえず今春からは、中・外食のニーズに対応する規格外品の流通にも着手していくことにしている。
 卸売市場がこうしたきめ細かな対応に乗り出すのは、中・外食産業を中心に、食材仕入れの合理化や個性的な食材調達などのため、産直や契約栽培などの市場外流通や、産地と需要者が提携して取引を組み立て、その決済機能など便利な部分だけ市場の仕組みを利用する「市場産直」などが増えているためだ。市場が積極的に商材開発と提案していかない限り、市場流通が“空洞化”する危険性がある。
同社はこれまでにも、薬味用ネギやサンドイッチ用レタス、ハンバーガー用やステーキ用トマトなどを開発、提案してきたが、さらに外食用に特化した野菜の開発を進めるために、外食・中食産業からの要望や外国の情報などを収集して、農業試験場など試験研究機関とも連携して当たりたいとしている。

用途・仕向け先規格・品種への道
 野菜の標準規格の廃止や規格簡素化などがいわれている。また、生産、流通の効率化などの観点からは、品種の統一化や汎用品種の採用などが進んできた。しかしこれらの動きや措置は、主に生産の現場からの都合だけで進んできたもので、「消費」から発想されたものではない。
 過度な等階級づけは論外だとしても、日本は野菜の規格が“多すぎる”という指摘はいかがなものか。欧米ではもっと規格が多いケースがある。例えば、オランダ、ベルギーなどの果菜類産地では、日本以上の等階級があるし、アメリカの野菜、果実産地においても同様に規格はきわめて多いのだ。 
 これらのケースがなぜ規格が多いのか。それは果菜類にあっては、日本同様の一般マーケット用の規格のほかに、レストラン用、スープ用、エスニック料理用、ジュース用などの規格がある。つまり日本でいう「格外」という概念がなく、「用途別」の規格だからだ。一方、アメリカの場合は、パッカー(日本の選果場の機能を持つ業者)では納入先であるスーパーごとに規格が違うし、ブランドまで変えている。「仕向け先」すなわち得意先の数だけ規格があるのである。
 日本においてもこれをヒントに、キズ物のリンゴを「ジュース・サラダ用」、小玉のイチゴを「ジャム用」、格外のシイタケを「野菜炒め用」、太目のネギを「なべ用」などとして格外品まで商品化しようという試みが成功しているが、消費者、需要者にとってみれば「用途別」の便利な商品なのである。
 また、品種の統一や汎用品種の登場は、流通の効率化、消費の安定化や拡大、周年化に役立ってきたことは事実だが、いまや時代は変わった。周年ある野菜を購入するスタイタス意識は消費者にはない。それより旬のものを、地場のものをという意識に変わり、地場野菜、伝統野菜、そこから派生して「地産地消」への“回帰”がみられる。
 汎用品種は、「どんな調理法にもあう」ものである一方、「どの料理にも中途半端」という実態をされらけだした。「青首ダイコン」の汎用性は、ダイコンおろしにもオデン用の煮大根にも合わない。薬味としては「辛味ダイコン」が見直され、オデン用には大蔵系のダイコンが契約栽培されてきた。完熟トマトとして伸びてきた「桃太郎」も、イタリア料理などの酸味が求められる料理には向かない。ハンバーガー用のスライストマトにも、ゼリー質や形状から向かない。そこで「サンマルツァーノ」など調理トマトが増えている。
 「専用品種」はその調理に向く特質、とくに“おいしさ”、食味、食感を提供するのである。その定型的なものが伝統野菜。長年かけて地域の伝統料理の食材として育まれてきたからだ。昨年「京菜」が関東で火を噴いた。この「水菜」独特の“はりはり”感が、「はりはり鍋」や「はりはりサラダ」として定着したのは、偶然ではない。ヨーロッパのサラダ専用野菜である「ルッコラ」がヒットしているもの同様だ。

「数字」を読む @(2003年 3月号)
『メニューを選ぶ際にカロリー、塩分、脂肪分表示などを参考にしない人の割合』 54%

外食で「メニューを選ぶ際にカロリー、塩分、脂肪分表示などを参考にするか」を聞いたところ、「参考にしている」人が39%に対して、「参考にしていない」は54%。カロリーなどを気にしないで食事を楽しみたいという人が多い、という傾向が、(社)日本フードサービス協会(JF)による「消費者の外食実態と意識に関する調査」からわかった。
健康ブームといわれているのにもかかわらず、この数字は何を意味するのだろう。例えば、常日頃は"健康"に気をつけていても、「外食」は"特別の日"だから"おいしさ優先"になるのだろうか。ところが、毎日の食卓を通じた健康意識についても、最近は低くなっているのだ。キューピーが実施している「食生活総合調査」では、「無農薬や有機栽培の野菜を買うようにしている」は50%で98年と比べ11ポイント減、「塩分の多い物を控える」「食事1回ごとに栄養バランスをとれるようにしている」もそれぞれ同8ポイント減っている。

素材に徹底的にこだわる?
要するに、一応安全な食材にこだわるが、メニュー選びは「美味しそうなもの」を優先させるというのが実態。JF調査によると、その"美味しそう"なものとは、「素材に徹底的にこだわったもの」だという。なにしろ、「素材に徹底的にこだわったものを食べたい」と思う人が全体の54%で半年前より17ポイントも増えている。だから、"素材のことを知りたい"つまり「産地、生産方法等情報が知りたい」人も48%で7ポイントも増えているのだ。テレビの"料理ショー"などが高視聴率なのも、"デパ地下"が繁盛しているのもこれで説明がつく。
しかし気になるのは、現実に生活習慣病への恐怖はあるはずだ。"美味しさ追求"の一方で、全体では「食べたい料理しか食べない」人は前回よりも7ポイント減少している。とりわけ健康が気になる50代、60代のシニア世代についていえば、カロリーコントロールが利きにくい外食に"敬遠傾向"がみえる。若い世代よりも1日3食しっかり食べているシニアだが、外食機会については、昼食で10ポイント、夕食でも8ポイントのマイナスとなり、外食の機会が減っているのだ。

シニアはスーパーが好き?
それでは外食機会が減っているシニアは、家庭料理に回帰しているのだろうか。ところが、そうではない。シニアが向かっているのは、どうやら中食らしい。それもスーパーで購入しているのである。
 セゾン総合研究所が弁当や総菜などの中食利用を調査したところ、スーパーマーケットでの中食購入が消費者にかなり定着していることが分かった。特に、男性は60代になると急増し、「週1回以上の利用」が4割強を占めているという。
 全体では、中食の購入先として利用が最も多かったのは「スーパーマーケット」で70%を占め、次いで「コンビニエンスストア」の55%。これを性別、年代別にみると、男性の場合、若い年代はスーパーの中食利用は少ないが50、60代になると利用が増加。特に60代は1カ月間に「7回以上」の購入が28%、「4〜6回」を合わせると43%にも。彼らが"家庭回帰"をしようにも、女性でさえもスーパーからの中食購入は、「週1回以上」利用している40代から60代までがそれぞれ45%前後あるのだから、ままならない。
 調査対象者となった60代の男性は、無職の人が半数を超えており、この年代の半数近くが週に1回以上利用していることになる。同研究所は「家庭での食事回数が増えた退職後のシニア男性にも、身近なスーパーの弁当や総菜が抵抗感なく浸透していることがうかがえる」と分析しているのだが、問題は「抵抗なく浸透」している理由だ。

手抜きが増えている?
 前掲のキューピーの主婦に対する調査では、「食料品は時間をかけて、よいものを見つけるほう」とする主婦は42%ながら、98年に比べると25ポイントも低下している。これに代わって、「できるだけ食品の買い物時間、回数を少なくしたい」「料理は後片付けの簡単なものを作る」「冷凍素材食品をよく利用する」がそれぞれ5〜7ポイント増えている。主婦が買い物や料理に時間をかけない傾向が強まっているということだ。
自分では作りたくないが「素材に徹底的にこだわって」美味しいものを食べたい、という風潮のなか、シニアはスーパーで中食を購入するのに"抵抗なく"なってしまっている…。なにやらシニアにとっては"寂しすぎる"傾向になりつつある。
ただし救いは、家庭での調理(多分、シニアの健康を考えて作ることを含む)を前提として"素材にこだわる"主婦は健在である。「生鮮食品の産地表示は必ず確認してから買う」が全体では22%だが、"献立を事前に決めている主婦"の場合は11ポイントも高いし、加工食品や総菜を買う場合であっても「使用原材料は確認してから買う」が全体の17%に対し、献立を決めている主婦は同様に11ポイント高い。
シニアには"こだわり主婦"を!

 

検証!"アグリビジネス"F(2003年2月号)
カゴメが提唱する「NB」-下

 カゴメが生鮮トマトのマーケットに乗り出して1年余。そのオリジナルブランドである「こくみトマト」を、"ナショナルブランド"にまで育成するという。そのための産地作りと物流・販促システムの整備が、いまその勢いを増そうとしている。異業種のトマトの事業の、唯一といえる成功事例。(前回の続き)
<生産・流通・販売>
現在、最初の実証ハウスだった美野里町に加え、広島県世羅町には3ヘクタールの大型ハウスが稼動しているほか、全国で20ヶ所、合計20ヘクタールの契約農場(同社では菜園と呼んでいる)、生産者は約200名いる。20ヶ所のうち、JAとの契約農場は10ヶ所にのぼり、年間同一価格で契約量は全量買取り制だ。
事業の本格スタートからの約1年間で、販売数量は150万パック(1パック、ラウンドレッドで400g入り)、取引先のスーパーは50社、2000店舗。同社設置の3ヶ所の集配センター(首都圏、近畿圏、北海道)から、スーパーのセンター、納入業者に直送している。スーパーへの納入価格は、年間1本価格の1パック200円。年間の売上が約30億円の規模である。
今後の計画では、03年秋からは高知県三原町で2.7ヘクタールの農場が稼動するが、前述の和歌山県における日本一のハウスを含めて、2〜3年で100億円規模にするのが、中間的な目標。それに伴って、契約産地の拡大と集配センターの設置(少なくとも名古屋、福岡地区を追加)を進めていく。
100億円を目安とする根拠は、「現在の取り引きスーパーからの"こくみトマト"への要望に対して、実際に供給できているのは2〜3割程度。希望数量を全量供給できれば、現状の3〜5倍の規模になる」(同社生鮮野菜ビジネスユニット佐野泰三部長)ということなのだ。
<販売促進・消費拡大>
"こくみトマト"を"国民的"ブランドとするためには、認知の向上や用途、メニュー提案を不断に行うことが必要だ。それを小売店頭で実施して効果をあげることは、カゴメ製品ですでにそのノウハウを積んでおり、同社の得意とするところ。その販促活動を専門的に行う「こくみレディー」を自社で養成して、主要店舗に派遣し、徹底したプロモーションを展開する。それによって、販促の"成功事例"を作り上げて他店への普及効果を期待するという、なかなか手の込んだ戦略だ。
そこでは単純な試食販売にとどまらず、思い切ったメニュー提案を仕掛ける。とにかく、「日本人の旨みだしに」というチャレンジなのだから、「トマトのオデン」「トマトラーメン」「トマトどんぶり」というド肝を抜くメニューもある。(が、これが実にうまいのだが)さらに、小売店頭に限らず外食産業や惣菜産業とのメニューの共同開発にも熱心。
<トレーサビリティー>
食品への安心・安全志向に対応するだけでなく、自社の物流ロジスティックの確立や徹底した品質管理のためにも、「こくみトマト」の追跡システムは、独自の思想に基づいている。「こくみトマト」の全パッケージには、9ケタの商品ロット番号が付されている。最初の3ケタは産地、次の3ケタは生産者番号、そして最後の3ケタは何と、生鮮品では初めての試み「包装の日付」なのである。すべてのクレームは、このロット番号によって照会されるのだ。
農薬散布や肥培管理も、生産時に農家個々の栽培計画が提出されデータベース化されているが、その実施の1週間以内に随時データを更新し、農薬の安全使用がチェックされると同時に、常時、流通品からサンプルを抜き取り、カゴメの分析センターで検査、モニターされる。ここで、農家の申告と実際の検査結果が違っていた場合、生産者はペナルティーが課せられる。最も重度の違反は、すべてのトマトを抜根の上、契約解除。さらに損害賠償を要求される。先ごろの無登録農薬問題で、検査がクロだった農家には、実際にこれが起きている。
この厳しさは尋常ではないが、現在の消費者からの不安と不信を払拭し、品質への保証とブランドへの信頼性を担保するには、このくらい自己に厳しいトレーサビリティー・システムでなければならないのだろう。
03年春から「こくみトマト」のトレーサビリティーも同社HPから。
http://www.kagome.co.jp

 

検証!"アグリビジネス"E(2003年 1月号)
カゴメが提唱する「NB」―上

どっこい!カゴメは生きていた
 どうやらカゴメは本気らしい。生鮮トマトのマーケットに乗り出して1年余。そのオリジナルブランドである「こくみトマト」を、"ナショナルブランド"にまで育成するという。そのための産地作りと物流・販促システムの整備が、いまその勢いを増そうとしているのだ。異業種のトマトの事業の、唯一といえる成功事例である。
 2〜3年前、確かにカゴメは生鮮トマトに参入した。当時は、トマトの"フルライン"品揃えの一環として、ジュース類などとの組み合わせでギフト用セットに生鮮のトマトを加えた。同社がトマト製品に特化した存在であることは周知のこと。だから消費者への直販品としての生鮮品なら、品揃えしても不思議ではない、と関係業界はそう思ったものだ。
 が、そのうち同社の生鮮トマトはスーパーなどに流通し始める。オムロンやJTがトマトなど野菜生産に参入していた時期でもあり、こうした異業種からの進出が、話題と関心を集めるが、一方では、果たして生鮮マーケットにシロウトの企業農業が、どこまで通用するのか、という疑問視のほうが大勢を占めていた。
 果せるかな、彼らは多くの場合「直販」を標榜してのスタートだったのだが、時を移さずして、卸売市場に"投げる"ような流通・販売に変質してきた。そして、昨年の春にはオムロンが、11月にはJTが、野菜事業から撤退を余儀なくされたのである。
 そういえばカゴメはどうしたのだろう。どっこい、カゴメは生きていた…。業界関係者の多くが、昨夏に報道された新聞記事で、それを知ってびっくりしたのだ。

国内最大のハウス栽培に乗り出す
 カゴメが、「生鮮トマト事業の拡大」に向けて、なんと、国内最大規模となるトマト温室を和歌山市加太地区に建設する計画を明らかにした。発表によると、20ヘクタールの用地に、幅200メートル、長さ500メートルの巨大温室を2棟建てるという。
すでに、同トマト事業では、茨城県美野里町、広島県世羅町の2カ所に2ヘクタール前後のハウスを建てているが、今回はその10倍の規模。9月から6月まで収穫、生産した生食用トマトをカゴメが買い上げる方式。それを同社のブランドで販売する仕組み、というのだが…。
これまでこの事業は、消費者などに対する直販などは実際にはうまく機能しておらず、既存の生産、流通の中で位置付けがあいまい、と思われていた。しかも、東日本では最大級のガラスハウスを作ったことで話題をさらったオムロンの事業撤退が、すでに明らかになっている。そんなことをブチあげて、カゴメは大丈夫なのか、という心配の声があがったのも無理からぬことだ。
カゴメは脱落しなかった。脱落どころか、この間、しっかり地盤を築き上げてきた。そしてさらに確実な普及・拡大が予想されているのである。

カゴメの<基本理念>
7年前、同社の加工用トマトを実際試食して"完熟トマト"のおいしさを知った取引先スーパーから、何とか商品化できないのかとの要望で始まったこのプロジェクト。茨城県美野里町に1.3haの実証ハウスを建て、ロックウール栽培で試作が始まってから、多くの試行と失敗を続けてきたものの、とうとう01年秋からの本格的な事業スタートにこぎつけた。
その推進力とバックボーンになったのは、同社の企業理念「21世紀ビジョン」である。
それは、カゴメは「トマトと野菜カンパニー」として、新しい時代の「食」を創造していく、というもので、その実現のために、@トマトを21世紀の日本人の"旨みだし"に育成する A野菜系飲料を国民健康飲料に育成する、という2つの企業ミッション、つまりそれを企業の「使命」と位置付けたのである。これは確かにハンパではない。

トマトの「ナショナルブランド」?
トマトを単なる"儲かりそうな商材"と見る他の異業種参入とは、全く趣を異にして、トマトを"日本の旨みだし"のひとつに育成しようというのだ。そのために、6500種保有する原種から、「グルタミン酸」と「糖分」「リコピン」含有量の多い品種を、品種名ではなく"ブランド名"として「こくみトマト」と命名し、それをナショナルブランドすなわち、全国統一ブランドとして普及していくという。"こくみ"とは"コクのある味"という意味である。(ちなみに、"こくみ"は"国民"に掛けているという説もあり)
トマトに限らず国産の青果物は、主に品種名が商品名になっているが、"こくみ"はブランド名であり、品種に縛られない。ただし通常の丸トマトを「ラウンドレッド」、ミディやミニトマトを「プラムレッド」(楕円形のもの)、「ミディレッド」(丸いもの)と区別しているだけである。ちょうど、バナナやパイナップルも品種は色々だが、商品名、ブランド名としては「ドールパイナップル」「デルモンテバナナ」と同じ考え方だ。  (この項つづく)