困った遺言
Question
先日、父親が亡くなりました。
葬儀などが終わって、ようやく落ち着いたところで遺品を整理していると、
遺言が出てきました。
開けてみると、なんと全財産を私の弟にやると書いてあります。
ちなみに、母はずっと前になくなっていて、私と弟の2人だけです。
父と一緒に住み、ずっと面倒を見てきたのは私と私の妻です。
父と私の妻の折り合いは、確かに余りよくなかったようですが・・・・。
こんな遺言が有効なのでしょうか?
Answer
結論から言うと、遺言自体は有効です(お父さんが自分の意思で書いたものであれば)。
ただし、この遺言は弟さんが脅して書かせたものだとか、
いまわの際に朦朧としている状態を利用して書かせたというのであれば、
遺言自体が無効になります。
しかも、勝手に遺言状を開けてしまったことは、法の定める手続にも反します。
遺言状が発見された場合、発見者は家庭裁判所に持ち込んで
「検認」の手続きをとらなくてはなりません(民法1004条)。
具体的には、相続人を集めて、裁判官が遺言状にはさみを入れ、亡くなった方の署名を見せて
「これはお父さんの字に間違いないですか?」
と聞きます。
この時おもしろいのは、署名だけ見て即答する相続人はまず絶対にいないということですね。
どうやら、その署名がお父さんの字かどうかは、遺言状の内容によって決まるらしいのです。
さて、この方の場合ですが、検認の手続きを踏まなくても、
遺言状自体が無効になるわけではありません。
本来の相続分は、兄弟で折半となるはずですが、
お父さんが自分の意思に基づいて「弟に全部やる」という遺言を残していれば問題です。
この場合も、弟さんに全ての財産が行くかどうかは、お兄さんの意思次第です。
お兄さんは、お父さんの子ですから、「遺留分」というものをもっています。
この遺留分に基づいて権利を主張すると
(遺留分減殺請求=いりゅうぶんげんさいせいきゅう、といいます)、
本来の相続分の半分は自分のものとすることができます(民法1028条)。
この遺留分をもっているのは、被相続人(亡くなった方)の
配偶者(夫から見て妻、妻から見て夫)、直系尊属(主として亡くなった方の親)、子です。
遺留分制度は、亡くなった方が
「自分の愛人に全財産をやる!」というような遺言を残していた場合でも、
配偶者や子には一定の権利を主張できるとすることで、
亡くなった方の収入で家計を支えてきた人の生活を保障する意味があるとされています。
現在では、社会保障制度も発達したため、
未成年の子どもがいるような場合を除いて、
果たしてこの遺留分制度が意味のあるものと言えるのか、
立法論としてはかなり問題となっています。
この事例でも、弟さんへ全財産を相続させるのが真にお父さんの意思ならば、
その意思を尊重すべきではないか、という問題です。
ただし、権利を主張するかどうかは、遺留分をもっている人の意思次第。
この事例でも、お兄さんがお父さんの死亡を知ったときから1年以内に権利を主張しなければ、
全財産は弟さんのものとなります。