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フレーゼットの分析法

−エレメンタリー フレーゼットと、演奏におけるその重要性−

Elementary Phraset

-Minimum division of a phrase and its importance in a performance-

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はじめに

  

音楽において演奏の為の分析というものを考えた時、通常楽式と呼ばれる音楽形式についての学問を思い起こす。しかし実際の演奏においてより重要である旋律構造についての考察はあまりされていない。

その旋律構造を構成する意味の有る最小単位を、エレメンタリー・フレーゼットと定義する。以後「フレーゼット」と言う。

その必要性に付いては、多くの人によって論じられている。

熊田為宏氏は『演奏の為の楽曲分析法』1)で、「楽曲分析の実際はグルーピングに終止するといっても過言ではない。」といっている。

この中で使われている「グルーピング」という語は、G.W.クーパー・L.B.メイヤーがやはり旋律を構造化されたリズムパターンにグループ化の必要を「音楽のリズム構造」2)の中で唱え、その用語として使われた物である。

最近では、作曲家である保科洋氏がその著書の中で、やはり音符をグループ化しなければならないと主張している。

 

「では、文字の羅列に等しい音符に意味をもたせるには、どうしたら良いでしょうか? 英文は、単語ごとに隙間を開けることによって、始めて意味を伝達機能が働きます。すなわち、個々のアルファベット(文字)をグループ化する事によって、単語としての意味を持たせているのです。音楽にもこれと似たようなことがいえます。音符に音楽的意味をもたせるためには、複数の音符をグループ化しなければならないのです。」

 

そしてそれに続き、作曲家としての立場から

 

楽譜に記された音符の状態に即して音をグルーピングし、それを通して作曲家の意図を読み取る事 を基点とすべきなのです。」(「生きた音楽表現へのアプローチ −エネルギー思考に基づく演奏解釈法−」3) 第1章第2節p。21参照)

 

と太字で強調してまで述べている。

これらの様に旋律を解析する試みの必要性は多くの人達によって語られている所であるが、今だに実際の演奏に反映されず、これらの方法論が一般化していない。

今現在聴かれる演奏の多くは、こうした分析を経なかった為に説得力を失っているだけで無く、それを補う為に過度の演出効果により「感動を呼ぶ」事を狙う演奏が多く見受けられる。

この原因の一つには、旋律の分析法が確立していない事に有ると考えている。

そこで本稿では、新たな旋律の要素を分析する方法を述べてみたい。

旋律を分析する方法は、保科洋氏の著書の引用文にあるように、文章における文節に分ける事を試みるのであるが、これが文章の様に簡単明瞭ではない。

旋律は音楽を音符と言う記号に置きかえられた物で、区切りが無くカタカナやアルファベットを羅列したような状態である。

演奏される時には、演奏家がのその旋律に独自のイントネーションを加えるのである。

しかしその様に演奏家が自身の解釈で新たなイントネーションを加えるには、正しい分析をした上で演奏しなければならない。

演奏家の好みや習慣では、本来の作品における作曲家のメッセージとはかけ離れてしまう。

しかし、そのような正しい分析法をしていない演奏が氾濫し、本来の作曲家への共感や敬意が無くなってしまっているのではないだろうか。

旋律の分析がいかに良い演奏の為に必要であるかを、前に筆者の「演奏の解析法」2) の論文でSound Spectrogram を使って演奏の良し悪しを判断する方法として述べたが、その中の“イントネーションの問題の解決と成る解析法”でこの分析の必要性の検証を試みる。

このフレーゼット分析の方法論によって、演奏の良し悪しを判断する基準が明確になるのではないかとさえ思っている。

 


 

フレーゼット分析

分析の手順

 

フレーゼットの分析手順を説明する。

 

基本的な考え方としては、1つの音がどの音へつながって行こうとするかを見ていく事である。

 

  1. 最初の音を出発として、行き着く先を見つける。
  2. さらにその次の音を出発として、次の行く先を見つけ、順次進める。
  3. 本来1つであるべき音のグループを特定する。(A.音の分割 B.音価の小さい音)
  4. 旋律本来の音符以外の記述に惑わされていないかを見る。(C.スラー・スタッカート・小節線など)
  5. 前後の旋律感、モチーフ、その変奏に矛盾していないかを見る。(D.アウフタクト E.即興と装飾とヴァリエーション)
  6. ハーモニー進行を上手く説明できるかを見る。(F.カデンツを考える)
  • (  )内は詳しい解説書の、根拠の説明の項を示している。
  • このフレーゼット分析法の目的としては、一つ一つの音について意味付けすることにより、演奏の表現に論理性をもたらす事である。

    その為には、書かれた全ての音について見ていかなければならない。

    なるだけ大きな音符群にならないように、極力分割する。

     

    手順としては最初の音から順に終着点を見つけて行くのであるが、むしろその終着点こそが重要な音であるので、逆にその音を導き出す音を見つけ出す思考も大切である。

     

    より大きな単位での音の結びつきもある。

    先に引用した【グルーピング】の分析は、音楽の構造を解析した方法論として大変に詳細であるが、この【フレーゼット】においては最も小さい単位を扱うものである。

    その最小単位を先ず見る事から始め、さらにより大きな単位での結び付けを考えれば、矛盾なく論理的な演奏をする事ができる。

    この他の注意点としては、この手順にしたがって分析を進めた時、5.6.での矛盾や大きな単位を崩してしまう問題が生じてしまった時に、それまでの分析に疑いを持つ事がある。

    しかしその疑問は、最小に分割されたフレーゼットの論理的関係を積極的に見出す事によって解決できる場合が多い。

    そのような場合多くは変奏に変奏を重ねた為であり、音楽的には問題を感じず音楽分析的矛盾である場合が多い。

    ハーモニー分析を含め音楽分析の知識が十分でないと矛盾が起こるのであり、本来はそのような矛盾を晴らす事こそが音楽分析の役割であるはずだ。それを音楽の解釈というものであろう。

    逆ではないはずだ。

    自然な音のつながりは大変に強力であり、その感覚を持って表現しているのが音楽であり、そのつながりを断つことなく演奏する事が最も大切な事であると思う。

    音を聴けばこのフレーゼットの分析は難しいものではない。

    むしろ自然に結び付けられた音が、どの様な関係かを説明するものと思っても良いだろう。

     

    1.方法の概念

    分析の手順でも述べたように、音の結びつきを説明するのが目的であるが、その根拠となる理論的裏付けが必要であろう。

    ハーモニー理論による解析はよくなされるが、旋律の解析法としてのアプローチをする。

    かつてからの旋律の解析法の一つに、「リズムのグルーピング」がある事については、先程引用した保科洋著「生きた音楽表現へのアプローチ −エネルギー思考に基づく演奏解釈法−」3) に詳しい説明がある。

    重要な理論であり、今から述べ様とするフレーゼットの分析法と矛盾するものではない。

    今から述べ様とする方法論との違いは、そのアプローチを「リズム」でなく「旋律」に基づいている点である。そしてその旋律の即興法を参考にしている事である。

    即興演奏の基はバロックの演奏法である装飾法に有るが、その詳しい理論の説明は専門の書に譲る。(参考文献4) 参照)

    実際に即興演奏を試みる時には、いくつかのパターンで組み立てられている。

    そのパターンを楽譜に書かれた旋律の中に見る事が、フレーゼットの分析法へのアプローチである。

    一般には即興演奏は難しいもの、あるいは特別な能力がいると思われているのだが、実際にしてみれば、意外に易しい事が判る。

    手の内を明かしてしまうのは興味を失わせるが、即興演奏の価値観を必要以上に高く評価しない為にもあえていくつかのパターンを挙げる。

     

    譜例1.即興パターン 音源1

     

     

    1.2.は音階、3.はターン(回音)、4.は分散和音、どれもさほど難しい物ではない。始めてピアノを弾いた人でも、このような音形を弾くのは難しくはない。

    これらの1部分であれば、なお易しい。

    これが即興パターンの全てだと言ったら極論であるが、事実だ。

    音楽はこのパターンが全てで、後はその応用と言えるであろう。

    どんなに複雑に聞こえるジャズの即興でも、これらのパターンを組み合わせたバリエーションである。

    それだけでなく、BACHでも同じなのである。過去の作曲された音楽は全てこれらのパターンで説明する事が出来る。

    すなわち、「全ての音楽(旋律)は、音階と分散和音で出来ている。」と言う事だ。

    その方法論を、作曲法としての説明を、G.ストラングL.スタイン編「アルノルト・シェーンベルクによる作曲の基礎技法」5)に見る事ができる。

    この中では、第1部第3章で動機の変奏方法を詳しく述べている。又その前の第2章楽句の所では「構造上最も小さい単位は、楽句である。」と定義しているが、この中において作曲家の理念としてそれより小さい物には、作曲家の意図を反映させるには小さすぎるとの意識であろう。

    つまり作曲家の潜在意識の問題と捉えているのであろう。そこを問題としたいと思っている。

    むしろこのような所に作曲家の真意が表われている様に思うのであり、我々演奏者が楽譜を頼りに作曲家の深意を探る手がかりとしては、むしろ動機の変奏方法にあると見ている。

    シェーンベルクはこの第2、3章で試みられる変奏の実例に多くのBeethovenの作品を引いている。

    すなわち今ここで述べ様としているフレーゼットの分析法を試みた結果をもって、作曲家を目指す者に変奏の方法を説いているのである。

    ここで大切な点としては、これらの装飾やヴァリエーションは、音形を変化させるだけではなくあくまでその骨格となる音をいかに強調するかが目的で有る事だ。

    その強調される音がどれであり、その音への意味付けをしているのはどの音であるかが判っている事が大切で有り、それを論理的に説明しようとするのがこのフレーゼットの分析である。


    分析の演習

     

    よく知られている旋律の譜例を例題としています。

    楽譜をプリントアウトして、フレーゼットの分析をしてみてください。

     それぞれの楽譜をフレーゼットに分割し、その分かれ目に図2、を参考に線(この例では白線)を入れてください。

    例、

     

    演習問題

     

    演習1、Beethoven Sym.No.5 c-moll V

     

    演習2、Beethoven Sym.No.5 c-moll U

     

    演習3、A. Dovorak Sym. No.9 e-moll op. 95 U

     

    演習4、Beethoven Sym. No.6 op.68 F-Durl T冒頭テーマ

     

    演習5、F. Schubert Moments musicaux D.780

     

    演習6-1、J.Pachelbel Kanon 1

    解答と解説

     

    演習6-2、J.Pachelbel Kanon 2

    解答と解説

     

    演習7、Beethoven Sym.No.9 d-moll W

     


    解答と説明

    をご覧ください。

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