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パイプオルガン選定
レポート

北村憲昭(音環境アドヴァイザー)

ある新設のホールにパイプオルガンを設置するにあたり、
導入に関する意見書をまとめた。

C社レポート
*追加レポート
NO.5
今後のエレクトリックオルガンへの提言
を追加しました
 
06/05/01 更新

NO.1
本物パイプオルガンの導入の是非

   1.価格が一億円を越える。
   2.メンテナンスに、年に約200万円必要。
   3.用途がクラシックに限られる。
   4.クラシック音楽のオルガン音楽の最先端は、難解な即興が主流。
   5.一流パイプオルガン演奏家が日本には少ない。
   6.したがって其のオルガンが使用される機会が極めて限られる。

    近年のエレクトリック技術は進んでおり、とりわけオルガンに関して   は、日本において大変な進歩が見られる。

   1.価格が本物に比べ各段にリーズナブルである。
     本物と同じ様な使用で約1、000万から可能だ。
     メンテナンスも基本的にはいらない。
   2.用途はクラシックも含め、多用な音楽に対応できる。
   3.したがって奏者も多く、コンサートの機会も多くなる。
   4.メーカーは開発に非常に意欲的である。

   1.やはり本物の臨場感にはかける。
   2.アコ−スティックな音の状況が得られない為の、音楽的問題点があ     る。(音程、音律、ハーモニー。残響の変化、等)
   3.用途がクラシック以外の奏者が興味を持つ反面、本物のパイプオ     ルガン奏者は敬遠しがちである。
   4.まだ楽器として未完成な印象がある。

 

NO.2
エレクトリックオルガンの導入検討

 以上の考察から、とりわけクラシックや宗教的な音楽のみを演奏するホールでなければ、むしろエレクトリックオルガンを導入する事が妥当ではないかと考えられる。

 いくつかの日本にある楽器メーカーで取り扱っているが、今回はローランド社とカワイ楽器社のオルガンについて検討をした。

 理由は、ローランド社は今現在世界的に名の通った電子楽器メーカーであり、特にオルガンへのこだわりを感じられる。
 一方カワイ楽器は老舗の楽器メーカーである事と、近年結婚式場や教会へのオルガン納入実績が顕著である。

 これらの状況から2社のオルガンを選び比較検討した。

 其の結果を次の表にまとめてある。

 

NO.3
Pipe−Organ (Electnic)
比較検討表

 

比較項目

A社

B社

C社 *追加レポート

取り扱いメーカー Roland カワイ楽器 パックスアーレン株式会社
楽器製作ブランド RODGERS(米) JOHANNUS(蘭) Pax-Allen(米)
本体 デジタルシンセサイザー &オプションでパイプシステム デジタル・シンセサイザー デジタル・シンセサイザー
パイプシステム 本物の発音体のパイプシステム+ダミーパイプ ダミーパイプ(スピーカーシステム) なし
スピーカーシステム 通常据え置きスピーカ ダミーパイプの共鳴を狙った一体スピカー Allen製専用スピーカーシステム
音色 サンプルデータによるデジタルシンセサイザーと本物のパイプの音合成で本物に近い音色がある。
サンプルデーターによるシンセサイザーの音、本物パイプの共鳴で音程の歪みをおさえ聴きやすい音色に成っている。
本物のパイプの音にはいま少し隔たりを感じる。
サンプルデーターによるシンセサイザーの音。
専用スピーカーシステムにより本物パイプの音質を追求している。
足鍵盤の低音があればかなり本物に近い音色が得られる。
デメリット 本物パイプのメンテナンスが必要。
(年1回10万円程度)
デジタル音がスピーカーからの生音に成る為、音程のずれによる唸りがハッキリと出る。
サンプルデータによる音色、リアリティーに欠ける。 音色や音量のバランス(かなりの微細な設定が可能)により、場合によってはクラシックなパイプオルガンと言うより劇場オルガン的音色が目立つ。
この点はメーカーの意図でも有るように思える。
改善策 カワイ楽器のシステムの様にスピーカーをパイプの後ろに配置すればかなり改善できる。 サンプリングを改善する。
よりパイプを共鳴させればもっと生音に近づくと思われる。
音のレスポンスなどの音のデティールの研究が望まれる。
実装のパイプがないだけにアンプなどでの音のデティールの研究に期待したい。
企業開発姿勢 デジタル的アプローチ
音楽家の意見に消極的
アナログ音に近いアプローチ
音楽家的発想がある
音や楽器の細部に、本物のパイプオルガンへのこだわりや思い入れが見られる。
試聴印象 デジタル音特有のクリアーさがあるのはむしろ良い印象を与える。
風音やレスポンスに本物の音があることも良い印象。
パイプオルガンのウイークポイントの、音律の問題による唸りや雑音も取り入れていることに疑問が残る。
シンセサイザーのソフトで解決できる部分も有るので、その点を改良する意志がローランドに有ればかなり有望。
[浜松研究所と、大和銀行大阪本店講堂で試聴]
実際の音は電子音のままでありパイプオルガンその物の印象は薄い。
音律の問題に伴う唸りや耳障りな雑音やうなりもダミーパイプの共鳴で軽減されているのは聴いていて良い印象がある。
ダミーパイプの配置に工夫が必要。少し貧弱。
[三木大和殿で試聴]
デジタル的電子音の印象はあまりなく、アコースティックな印象がある。
音色や音域などによっては、かつてのハモンドオルガンのような印象が有るが、それは好みの問題であろう。
新しいモデルには音量や音律の設定がコンピュータで出来る機能が有り、自由に使える力があれば大変に期待が持てる。
スピーカーシステムでの音源であるので、音のデティールの研究を進めれば一層実際の音に近づくであろう。
[武庫之莊カトリック教会、仁川カトリック教会他]
付属設備 自動演奏装置(MIDI)
残響支援スピーカーシステム
残響デジタルアコースティックシステム スピーカーシステム各種
MIDIシーケンサー
アクセサリー各種
本体価格 140万〜1、000万
パイプシステム可は300万〜
115万〜380万 113万〜2811、2万
パイプシステム価格 300万〜1、000万

ダミーは
140万〜240万
ダミーパイプ+スピーカー
100万〜1500万
パイプ連結OP.
大阪近隣設置例 大和銀行本店 神戸&西神オリエンタルホテル
神戸ポートピアホテル
日本キリスト教団甲子園教会
三木大和殿
ラヴィーナ加古川、姫路、和歌山
三井アーバンホテル(大阪)
武庫之莊カトリック教会
仁川カトリック教会
エスタシオン・デ・神戸
ホテルオークラ神戸

備考:
 製造は、共に実質製造。
 A&B社共にパイプは本物のパイプオルガンのパイプを使用。
 今のままではカワイのシステムの方が耳に心地よいが、価格ほどのクオリティーがあるかは疑問。
 改良の余地や技術を考えると、企業にその意志があればローランドの努力を期    待できる。

NO.4
結論
C社に付いては*追加レポートを参照して下さい。

印象

 今までの見当から結論を導くのには若干難しさが残る。

 すなわち、本来パイプオルガンと言うある種完成された楽器を最近出来た技術で置きかえるのは、あまりに歴史の差が大きすぎる。

 パイプオルガンは、今使われているピアノやヴァイオリン等の全ての楽器に先立ち完成された物であり、J.S.BACH等近代音楽の祖と成った作曲家達が輩出されたのもパイプオルガンが有ったからと言っても言い過ぎではないからだ。

 しかし現在の技術は目覚しい物がある。

 特にこのオルガンに関しては、ヤマハのエレクトーンをパイオニアとして、ナショナルのテクニトーンをはじめ各社がこぞって開発し、もうすでに他の楽器の仲間入りを果たしている。
 ただ残念なのは、まだクラシックの世界ではオーケストラの中に含まれる時以外にはまだ市民権は得られているとは言えない。

 

一番の問題点

 其の理由はハッキリしている。音程の問題とスピーカーでの発音機能の問題だ。

 音程に関しては、一般にはピアノやオルガンの音はすでに正しく調律されており全く問題無く思われて居るが、それは全くの誤解である。

 それらは平均律と言われる音程(J.S.BACHが作ったとまで言われている?)で調律されているが、其の音律(音階の事)は人の耳に心地よく響く音程で無く、色々な調子で演奏される時でもさほど気になら無いように全てを12の音で演奏できる様にした便宜上の音程で出来ている。

 だからよく聴くと少しづつ「上ずったり」「ぶら下がった」ような感じの時が出来てしまう事になる。

 それでも現在使われるのは、実際の演奏では演奏空間での残響などの影響で、自然に最も美しく整って響き作用が起こるからだ。

 其の為にも演奏会場が2や3秒の残響が問題になっている。

 ピアノは其の楽器本体の中で其の作用が起こるので、大変に素晴らしい機能があるといえよう。

 歌や管楽器などは、むしろこの様な平均律の音程はとても意識しなければ出せない。

 元来心地よい音程しか出ないのが人の身体だ。

 スピーカーに付いては、今更何も言う必要は無いだろう。むしろ新しい楽器として新しい音として完成されるのを待つしかないだろう。

 

メーカーについて

 それ等を考慮すると、カワイ楽器は楽器メーカーとしての伝統的なアプローチから実際に使われるには既成のオルガンの印象に近い物があり、音程の問題もスピーカーを本物のパイプの後ろで鳴らすなどの工夫がとても上手く出来ている。
 其の為に新しい楽器としての魅力となると今一つ将来のビジョンが感じられない。

 一方ローランドは、非常に意欲的なアプローチは賞賛に値すると思うが、技術の感性からのアプローチは、我々音楽家の感性と隔たりがある。
 またポピューラーの演奏家の中心の開発が目新しさが先行し、楽器本来が持っている美しい心地よい音や音楽を生み出す事に興味が今一つ無いように感じられた。
 これはここしばらくの事と思われるが、音楽の最も本質に関る事であるはずだから、遠からず気が付かなければ致命的な問題点に成るのではないかとさえ思っている。

 期せずして両極端な開発姿勢の楽器を検討したが、更なる努力を期待したい。

 芸術的な音楽を演奏ができる楽器にするには、まだまだ解決すべき課題は感じられた。

 現在は採算重視の時代だが、根源的的な音楽の要求は変わる物ではないと確信する。

 それに答えるには「心地よい音を作る」精神を大事にしていただきたい物である。

 

選定の結論

 楽器選定の結論としては、今現在では優劣はつけがたい。

 しかし、だからと言って本物のパイプオルガンにすべきと言うつもりも無い。
 何故ならそれは、もうすでに300年も前に完成され現代の要求に沿う物とも思われ無いからである。

 バロック時代の音楽だけを演奏するのであればそれも選択肢であろう。

 もっと現在や未来を志向するなら、エレクトリックを選ぶべきだと思う。

 この2社の製品だけで言うなら、目的までは等距離にあると思う。

 どちらを選んでも問題は無いし、不満も共に有るだろう。

 

ダミーパイプについて

 最後に、オルガンは其の姿にも大変な魅力がある。

 この2社の物にはダミーパイプが用意されている。
 これらは本物以上に素晴らしい効果を其の演奏会場にもたらすであろう。
 もちろん予算にも影響されるが、多ければそれだけ音響にも良い効果を及ぼす物であり、ただ単なる装飾以上に良い物と思われる。

 是非豪華に飾っていただきたい。

 

*追加レポート

 C社のオルガンを試聴する機会に恵まれたので、レポートを追加する事に成った。

 前記A,B2社のオルガンと少し違うのは、製造メーカーの嗜好は大変に実際のパイプオルガンへ傾倒しているが、本物のパイプを実装する考えがない事であろう。
 その点はむしろ積極的な電気的再生の技術の開発で本物へ近づけようとする姿勢として、好感を持った。
 もちろん其の為、発想音源が「点的」であり実際のパイプの「面的」で無いのは印象として、パイプオルガンの存在感に欠けるのは致し方が無いであろう。

 反対に壁に跳ねかえった間接的な音より、スピーカーからの直接音にむしろ本物仁近い印象を感じた。(ホテルオークラ神戸)
 これはあまり音量を上げずに家庭などで聴いた時には、かなりのリアリティーがあるであろうが、CDを聴くのと同じ様な音色に成ってしまうであろう。
 実際少し抑えた音響環境ではその様に聞えた。(仁川カトリック教会)

 十分な残響のある環境では生のようなパイプの音が実感できたが(武庫之莊カトリック教会、エスタシオン・デ・神戸)、音律によっては音程の歪みが非常にはっきり出てしまい、古典調律の出来る機種によるコントロールが出来なければ、やはり電子音の印象が残る。

 やはりこのような楽器は(どの様な楽器でも同じであろうが)設置場所も楽器と一体として考えておかなければならないであろう。

 メーカーの音に対する開発は、いずれも大変に熱心に取り組んでいるのには感心するばかりであるが、アコースティック楽器の演奏家の奏法に学ぶべき所はまだまだ有ると思える。
 特に発音に関するテクニックは、管弦奏者にとって大切な部分であり、高い技術を必要とし取得にかなりの修練がいるわけだが、未熟な奏者の様にあまり必要性を感じていないのではないかと思われるのは残念である。

 又、アンプからスピーカまでのシステムで、実際のパイプ内での音響的作用をいかに再現できるかに研究が成される事を期待したい。

 設置場所の音響空間の問題だけ全て責任を負わすだけで無く再現できる、エレクトリックなシステムに期待するのは無理なのであろうか?

 我々演奏家は、演奏会場でそのような効果を使って良い音を得ようとしているので、そのプロセスに関心を持って頂ければさらに良い楽器に成る事が期待できるのである。

 

NO.5
今後のエレクトリックオルガンへの提言

 以上の3社のエレクトロニックオルガンを試聴し、共通の問題が浮き上がってきた。

 等である。

 これらの問題点を踏まえて、今後の改善への提言を述べてみたい。

1.未来のオルガンについて

 18世紀から19世紀の音楽の大転換に大きな影響を及ぼしたピアノの様に、21世紀の音楽文化を根底から覆す可能性の有る楽器としては、このエレクトロニックオルガンの可能性は大変に大きい。

 そのピアノと、それ以前の主要な楽器のチェンバロとの比較をから更なる可能性を考察して見る事にする。                              

比較点

チェンバロ

ピアノ

エレクトロニックオルガンの可能性

音色 +リュート 単色 無限の可能性
音量 段階的に数種 フレキシブル 無限の可能性
音律 固定 固定 自由
移動性 不自由 さらに不自由 自由
対象聴衆 〜500(大広間) 〜3000(大ホール) 無限(IT利用可)
       

 具体的な未来のオルガン像は、

  1. 既存の楽器の音色+未知の音色 を持つ。

  2. 音律は、自由な音程設定が出来る。

  3. デジタル音源による利点を生かし、不特定多数の聴衆を対象にする。

 

2.それぞれの特徴の実現の為の提言

  1. 既存の楽器の音色+未知の音色 を持つ。

     既存の楽器の音色の研究がさらに望まれる。
     単に個々の演奏の部分成分の解析だけでなく、レスポンス、サステイン、フィニッシュそれぞれと、それらを含む変化(イントネーション)の積分的理解が必要であろう。
     さらにそれらの変化を自由にする事から、未知の音色を生み出されるであろう。

  2. 音律は、自由な音程設定が出来る。

     音程の問題は非常に大きな問題である。
     クラシカルなオルガンやピアノは、演奏空間での音響的作用に依存する事で、曖昧な音程設定(平均律)で問題を解決した。
     その演奏空間を必ずしも既定出来ないので、発音段階(スピーカーなど)までにすでに解消される必要があるであろう。すなわち演奏空間の音響的作用と同じ変化を楽器内あるいはアンプ内などで解消させておく必要が有る。

     視点を変えれば、既存の鍵盤による入力でなくフレキシブルな音程設定が可能なキーボードは、可能性を広げる事が出来るのではないだろうか。奏者に負担はかけることになるが、弦楽器を始めアコースティックな楽器では当然として行われている。
     J.S.BACHが初期のピアノに対して、「こんな不安定な楽器は使い物に成らない。」と言ったと伝えられているが、これは音量の不安定さであり、その後ピアニストは、克服しているのであり、音程に付いても必ず克服する事が出来るであろう。

     新しい音律を模索する事は無意味ではないが、上記の能力を持たない奏者の為のイージー機能の域を出ないであろう。
     可能性としては、自動調性判定機能を利用した純正律音律設定は実現可能性は高いであろう。

  3. デジタル音源による利点を生かし、不特定多数の聴衆を対象にする。

     インターネット機能を使った可能性は今更述べる必要はないかもしれないので、ここではさらに先を提言してみ様と思う。

     「ネット・コンサート」 :
     我々演奏家はやはり生の演奏をその活動の中心としたいし、その意味は常に語られる通りである。
     以外にその効用はレベルの低い演奏家を排除する事にもつながると考えている。
     反対に生での迫力や演出効果にだまされる事も少なくないが、訴える力は録音とは比べられない。
     演奏会場に左右される既存のライブ中継ではなく、最初から「インターネット・ライブ」を考えれば、十分にその価値は有ると思える。
     経費的にも多額の会場の使用料のため、実力より興行的に採算の合う演奏家や曲目に成ってしまっている現状を打開できるのではないだろうか。

    「ネット・アンサンブル」 :
     音楽をするの楽しさは合奏に有る事は、1度経験した物には良く判っていることだ。
     学校で習った様に「間違わない様に」「そろって」等考えずに、ただただ一緒に演奏する事は、本当に楽しい。
     この楽しさが音楽の根底に無くては成らない。
     もしいつでも望む時に誰とでも合奏出来ればと考えれば、こんなに嬉しい事はない。
     カラオケではない、一方的に従う事で無く、自分の音に相手が反応し、御互いに気を使いながら進む快感だ。
     確かにこれはまだまだ解決するべき問題は多いように思う。
     テレビ電話を使ったネット会議で出来るものか試して見たいと思う。
     もちろんコーラスでも出来るだろうが、このようなデジタル楽器でネット上で音を混ざり合えれば、もっと上手く行くのではないだろうか。

 

 可能性の大きいエレクトロオルガンには、音楽家として大きな期待を持っている。

 以 上