― 民間マンション建築工事に関する実態調査から ―
●マンション販売価格は安くなるが・・・ ●厳しい設定工期の中で働く作業職員 ・「土曜はおろか日曜も作業」が半数
・なぜ工期が厳しいか
・施工管理にさまざまな悪影響
・無理な短工期施工に良いところはない●こんなにひどい安値受注の実態 ・「まったくなりない、持ち出し」が約4割
・なぜ持ち出しで受注するのか
・作業所運営への影響は大きい
・協力会社との健全な契約関係が維持できない
●納得できない! 契約の実態 ・契約、設計変更について問題があるは9割
・サービス業務の存在
・課題 対等な立場での契約●今後の活動
調査対象: 日建協加盟44組合
民間マンション工事作業所(首都圏・近畿圏)
主任、署長(工程、原価管理者)配布枚数: 304枚(内、調査対象物件該当なし:27枚) 回収枚数: 161枚(回収率:53%)
●マンション販売価格は安くなるが・・・● 最近、近所のいたるところでマンション建設現場を目にします。不景気の中とはいってもマンションの販売戸数はここ数年増加しており、販売価格のほうもバブル期に比べだいぶ安くなっているようです。私たちが造る建築物の中で、もっとも生活に身近なものはマンションではないでしょうか。家族と過ごす大切な場所であり、仕事の辛さから解放される安らぎの空間、今ではペットとともに生活できるマンション、夜景が一望できる高層マンションなど、その内容もさまざまです。
しかし今、このマンション工事が建設産業で働く私たちにとって大きな問題になっています。マンションの販売価格がだいぶ安くなっているとはいうものの、その工事価格はそれ以上に下がっているのが現状です。また、11月の時短アンケートの結果を見ると、外勤全体の平均残業時間74時間に対して、民間マンション関連に従事している人の平均残業時間は88時間と、工種別の中でもっとも多くなっています。なぜこのような状況を招いているのでしょうか。受注金額、工期について何か原因がありそうです。
そこで日建協では、まず民間マンション建築工事の実態を把握するため、昨年12月に加盟44組合を対象とした「民間マンション建築工事に関する実態調査アンケート」を実施しました。また、昨年11月の時短アンケートでは、サービス業務(設計事務所・デベロッパーなどからの要望で行う書類・図面作成や設計・積算などの業務で、相手先からその業務担当の対価がもらえない業務)の現状と、作業所の人員が適正かどうかについての質問項目を設け、実態の把握を行いました。
今回は、とくに「民間マンション建築工事に関する実態調査アンケート」を中心に、その結果をお知らせするとともに、現状と問題について考えていきたいと思います。
●厳しい設定工期の中で働く作業所職員● 土曜日はおろか日曜も作業・・・が半数
まずはじめに、工事受注時の設定工期を見てみましょう。現状の設定工期がどのようになっているのか、休日閉所状況について回答してもらいました。
図−1:設定工期の休日閉所状況
図−1が示すように「土曜、日曜とも全て作業しないと間に合わない」「土曜は全て、日曜も数日作業しないと間に合わない」の回答を合わせると、作業所の半数が土曜日はおろか日曜日も作業しないと竣工日に間に合わないということです。さらに、「日曜は休めるが土曜日は全て作業しないと間にあわない」を含めると95%の作業所が該当し、週休2日制とはかなりかけ離れた厳しい工期設定になっていることがわかります。
なぜ工期が厳しいか
理由としては、受注後における発注者側の計画や申請手続きの遅れなどによる要因や受注者自ら経費節減のため工期を短くしている場合もありますが、アンケート回答作業所の73%が「施主の要望で最初から厳しい工期と知りながら契約した」と答えています。発注者であるデベロッパーは、事業経費を安く抑えるために少しでも早く工事を完成させ、マンションを販売したいと考えます。そのため、このような短工期による工期設定が行われているのです。また、受注側も工事を受注したいため、自ら短工期による施工を営業上のツールとして使用する場合もあります。
施工管理にさまざまな悪影響
このように過度な短工期により工事を進めていくと、施工管理上さまざまな問題が発生します。図−2はその問題点についての回答結果です。「生コンの養生や下地の乾燥期間が取れない、施工が雑になるなど充分な品質が得られない」が72.9%ともっとも多く、次いで「若手社員を教育・指導する余裕がなく、技術力の低下が懸念される」となっています。また、32.3%が「安全管理がおろそかになる」と回答しています。
図−2:過度な短工期施工による施工管理上の問題点
無理な短工期施工に良いところはない
以上のことからわかるように、厳しい工期の中で工事を進める短工期施工は、工事の施工管理や私たちの労働条件に多大な影響を与えています。また、建設産業の将来を担う若手の教育・育成という観点からも改善していかなければいけません。
そのために、発注者は工期が適切であるか検証し、事業計画との整合性をはかりながら施工者と協議した上で工期設定する必要があるでしょう。
また、受注する側の経営者も、品質・安全や社員の労働条件を犠牲にしてまで短工期を営業上のツールとして利用しないこと。さらに、建設産業の将来という観点からも適正工期の重要性を説明し理解を求めるべきだと考えます。
●こんなにひどい安値受注の実態● 「まったく足りない、持ち出し」が約4割
次に受注工事の実態について見てみます。
図−3:受注金額と実行予算について
まず、実際に受注した金額と工事の実行予算はどのようになっているのでしょう。図−3がその結果です。なんと、「まったく足りない、持ち出しである」が39%ともっとも多く、「本・支店経費、現場経費とも確保できない。赤字である」「本・支店経費ではないが、現場経費は確保できる」の2つを合わせ、会社として赤字になると回答した作業所が約9割にものぼっています。さらにそのうち95%が「受注金額が安すぎる(もともと受注金額に無理がある)」と回答しています。そもそも民間工事は、公共工事のような入札の最低制限価格制度のような法的規制がないため、過度な低価格による受注競争があとをたたない状況になっています。
なぜ持ち出しで受注するのか
それでは、なぜこのように赤字と知りながら受注するのでしょうか。仕事をしても損をするわけですから、はじめから受注しなければいいようなものですが。
これには経営者のさまざまな考えがあるでしょう。たとえば、私たちゼネコンにとってデベロッパーはこれからも取り引きし続けるお客様であり、次の工事の受注を当てにした先行投資との考えもあります。また、建設業には経営事項審査制度という建設会社の通信簿のようなものがあります。そのなかに完成工事高の項目があり、その点数を上げるために無理に受注しているということも考えられます。しかし、本当にそれだけでいいのでしょうか。目先の売上で金額を確保することばかり考え、もっと大事なことを忘れているのではないでしょうか。
作業所運営への影響は大きい
それでは、安値受注が実際の作業所にとってどのような影響を及ぼしているか、図−4でみてみましょう。
図−4:過度な安値受注による作業所への影響
もっとも多かった回答は「作業所の適正な施工要員を配置できない」です。これは、本来工事を行うために必要な人員を人件費削減のため減らし、少ない人数で作業所を運営するということです。当然、人数が少ない分一人あたりの仕事量は増加することになります。
次に多かったのが「社員の労働意欲が低下し、士気が低下した」です。一人あたりの仕事量が増加すれば残業も当然増えることになります。11月の時短アンケート結果が示すように休日も休めません。そのため、過度の疲労から労働意欲も低下することにつながります。さらに、一生懸命仕事をしても、会社にとって結果的に赤字をもたらす工事ということで会社に貢献できないと思うことから、社員の士気も低下してしまうのではないでしょうか。
協力会社との健全な契約関係が維持できない
アンケートでは、協力会社に対する影響についても聞いています。結果は図−5のように「協力会社との健全な契約関係が維持できない」が64%ともっとも多く、次いで「職人が品質より歩掛り重視になり品質が低下した」が60・9%となっています。
図−5:過度な安値受注による協力会社への影響
そもそも採算を度外視した赤字で受注しているため、少しでも利益を回復しようと協力会社に対しても同じように赤字を強いるような金額で発注しているのです。元請であるゼネコンも現状を反省し、改善にむけて努力していかなければなりません。このような状況が続けば、財務的に体力のない協力会社は倒産に追い込まれ、夜逃げや自殺など悲惨な結果をも招きかねません。
また、協力会社としても少ない予算の中でなんとか利益をあげようとすると、少々仕事は雑になっても早く終わらせた方がいい、安い職人を使えばいい、というようになってきます。ここでもやはり品質にかかわる問題が懸念されています。まったくの悪循環といわざるを得ません。
このように、安値受注の影響は私たちゼネコンばかりではなく、協力会社も含めた建設産業全体の問題となっています。
では、安値受注はどうすればなくなるのでしょうか。これは、不透明な契約体質が大きな原因になっています。次に、この契約の実態についてみてみましょう。
●納得できない! 契約の実態● 「契約・設計変更について問題がある」は9割
アンケート結果では、9割の作業所で「契約・設計変更について問題がある」と回答しています。その内容は図−6のとおりです。
図−6:契約、設計変更の問題点
もっとも多いのは「概算見積が先行し、本見積までの過程で仕様があがったにもかかわらず、概算金額で契約している」で、67.8%の回答となっています。契約前の詳細な内容がまだ決まっていない段階で、建物の規模や大括りの仕様などから概算見積を作成し発注者に提出します。発注者は数社のゼネコンの見積を比較し、安いゼネコンに発注を決定します。その後、仕様の変更があっても、金額の見直しを行わず概算金額がそのまま契約金額になってしまうのです。それに対し、受注側も納得できないと思いながらも受注してしまうのが現状です。当然余分にかかった費用は受注者が負担することになります。
また、54.5%の回答があった「契約後、発注者の指示による材料等のグレード・仕様が上がったにもかかわらず、追加が認められない」についても、契約前後での違いはありますが、設計変更の増額分を受注者が負担するという点で同じことです。発注者の指示によって発生した追加工事の代金が支払われないということでは、明らかに不公平な契約です。
サービス業務の存在
さらに、回答の中には「工事費には影響しないが契約業務外の設計者・発注者が行うべき書類・図面の作成を依頼される」や、「無償での瑕疵(かし)でないメンテナンス工事を依頼される」、また「発注者から契約業務外の販売協力を依頼される」など、いわゆるサービス業務も指摘しています。なかには、自分の業務の3割以上がサービス業務であると回答している人もいます。このサービス業務については、昨年11月の時短アンケートで質問項目を設け、その内容についても整理しています。今回は紙面の関係で細かい内容については割愛しますが、次の機械にぜひ報告したいと思っています。
課題 対等な立場での契約
これまで述べてきたことから、契約の不透明な実態、取り引き上の優位な立場を利用した発注者の姿勢やそれを安易に受け入れる受注者の問題が明らかになってきました。仕事を行う上でもっとも基本となるのが契約です。契約での諸問題を改善することが急務といえるでしょう。
問題の完全にむけ、まず私たち受注する側の意識として「請負契約」=「受け負け」という構図を改め、脱却しなければいけません。また、契約を締結する上では発注者並びに受注者は対等であることは当然です。双方、契約内容を遵守し、誠意をもって契約を履行しなければなりません。請負契約において双方は対等な立場であり、毅然とした態度、姿勢が必要です。片務的な関係とならないよう意識改革が必要となります。そのためには役割・経費を含めた業務や報酬など、契約内容の細部にわたって明確にする必要があります。また、工事内容はあくまでも契約時の設計図書がベースであり、曖昧なものであってはいけません。
このような、不透明なコスト構造を受・発注者双方で容認し放置し続けるということは、建設産業の生産システムである重層下請け構造をも歪め、産業全体を疲弊させる結果となることを忘れてはいけません。
●今後の活動● 以上述べてきたように、安値受注が行われる背景に不透明な契約体質、不公平な請負契約が介在しています。安値受注による低価格競争は公平な市場競争を衰退させ、産業の健全な発展を阻害するばかりでなく、そこで働くわたしたちの労働条件を悪化させる要因となっています。また、過度な安値受注により会社の収益力が圧迫され、その結果財務内容が悪化し、私たちの生活の糧である賃金のカットやリストラという状況を招いており、さらに企業の存続をも危うくしています。
このような実態についてみなさんはどのように思われたでしょうか。率直なところ納得できない現状に、怒りさえ覚えたのではないでしょうか。私自身も入社以来作業所で勤務してきましたが、納得のいかない状況にジレンマを感じることも多々ありました。このような問題は一職員、一作業所、一企業単独で取り組むのは実際のところ難しいと思います。日建協では、産業別組合として建設産業の健全な発展と明るい将来のために、民間工事における契約の適正化にも目をむけ取り組んでいきます。今後、アンケートの結果をさらに分析・検証し提言書にまとめ、発注者団体、経営者・業界団体、行政関係機関に対し契約の透明性を確保し、競争性・公平性の高い市場構築の必要性を強く訴えていきます。
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