雇用延長と少子高齢化
足らない労働力をどうするか
テレビのニュース番組や新聞の特集記事で皆さんもご存知かと思いますが、2001年4月から年金の支給開始年齢が1歳くり上げられました。この年金支給開始年齢のくり上げに対し、昨年の賃金交渉時期から電機連合や鉄鋼労連では雇用延長の要求が行われていたことを、以前のCompassでもお伝えしました。今回はその後の経緯も踏まえて、再度この話題に触れてみます。
雇用延長を求める単純明快な理由
その背景にある少子高齢化と年金財政の破綻
雇用延長の方法
雇用延長の問題点
不足する労働力対策へのもうひとつの道:既婚女性の活用
◆雇用延長を求める単純明快な理由
年金には基礎年金部分と報酬比例部分がありますが、今回のくり上げは基礎年金部分で報酬比例部分は今までどおり60歳から支給されます。このうち基礎年金部分は支給開始年齢が順次くり上げられ、最終的に2013年には65歳支給開始となり、その後、報酬比例部分も順次くり上げられ2025年に65歳支給開始となります。言い直すと、1961年4月2日以降生まれの方は65歳になるまで年金がもらえなくなります(表1)。
表 1 年金支給開始年齢の予定 基礎年金部分 報酬比例部分 2001年 61歳
2004年 62歳
2007年 63歳
2010年 64歳
2013年 65歳2013年 61歳
2016年 62歳
2019年 63歳
2022年 64歳
2025年 65歳(注)女性はこの表より5年遅れで実施される
日建協の加盟組合企業だけでなく、日本では60歳定年制を採用しているところが多いため、定年後に年金が支給されるまでの期間に所得のない状態が続くことになります。これでは老後の生活に対して不安が増すばかりです。退職金があるといっても、ローンの残りがあったり、その後の生活を考えると5年間無収入では困ります。そこで少なくとも年金の満額支給年齢までは働いて収入を得ることができるようにしようと、雇用延長が提案されました。
◆その背景にある少子高齢化と年金財政の破綻
ところで、なぜ年金制度はこのように変更されたのでしょうか。その背景には日本の人口構成が急激に少子高齢化にむかっている現実があります。厚生労働省国立社会保障・人口問題研究所では、今後人口は減少局面を迎えるが65歳以上の高齢者の占める割合が増大すると予測しています。世帯あたりの出生数の減少や未婚化・晩婚化によって少子化が進むとともに人口が減少するのです。20年以上も前から平均寿命の伸びなどによって高齢化について問題視されていましたが、少子化は高齢化をさらに加速させる要因になっています。この少子高齢化は労働力人口、特に若年労働者の減少につながり、年金財政に重大な影響を及ぼしています(図1)。
図 1 人口構成の推移予想
社会保険庁では公的年金を「公的年金に現役世代が必ず制度に加入することによって、安定的な保険集団を構成し、受給者にとって個人の責任で対応できない物価の上昇や、国民の生活水準の向上に対応した給付の改善などに必要な財源を、後代の世代に求めるという仕組み、いわゆる世代間扶養の仕組み」としています。
1990年では6.6人の労働者が1人の高齢者の年金を支える構造だったものが、2000年では3.9人に1人、そして2010年の予測では2.5人で1人を支えることになります(表2)。
このような背景から、年金制度を維持するために被保険者の保険料を引き上げながら年金支給開始年齢をくり上げることによって、給付水準をあまり下げることなく年金財政をうまく運用していこうという趣旨で年金制度は改定されてきました。
表 2 被保険者数と受給者数の推移 年 被保険者数
(万人)受給者数
(万人)受給者1人当りの
被保険者数(人)1990
2000
2010
2020
2030
2040
20503,100
3,430
3,380
3,170
3,000
2,710
2,440470
870
1,360
1,490
1,390
1,440
1,3606.6
3.9
2.5
2.1
2.2
1.9
1.8
社会保険研究所 「平成11年版年金白書」
年金財政は収支バランスが平衡するように、5年ごとに見直しが行われます。自営業者などサラリーマン以外の保険料未納問題などもあって、残念ながら年金制度は今の形がそのまま継続されずに、さらに給付水準減額などの改定が予想されます。年金制度は今後の動向も見守ることが必要です。ページトップへ
◆ 雇用延長の方法
では年金の満額支給までの雇用延長はどのように考えればよいのでしょうか。
現在、大きく4つの方法が考えられています。
@ 定年延長
現在の60歳定年を変更し、順次引き上げながら、最終的に65歳定年をめざすもの。
A 再雇用
60歳定年で一度退職し、再度雇用契約を結ぶもの。定年退職時に退職金が支払われるなど雇用関係は一度清算される。
B 勤務延長制度
60歳定年後も退職することなく勤務を継続する制度
C 定年制廃止
本人が希望し職業能力があるならば、年齢に関係なく雇用を継続する制度
このうち実際の導入事例が多いものは、再雇用制度です。定年延長制度は会社にとって負担が多いこともありますが、労働者側にとって「もう働きたくない」と定年延長を望まない人たちもいることから導入は少数にとどまっています。勤務延長制度は、雇用の安定度という観点では再雇用制度よりも良い制度と考えられますが、退職金の優遇税制の適用など解決しなければならない問題が残っています。そして定年制廃止はアメリカの雇用における年齢差別禁止につながるものですが、日本ではまだそこまで議論が進展していません。
これらのなかで連合や他産業別組合が求めていることは、希望者全員の再雇用制度です。会社都合の再雇用制度であれば、皆さんの会社でもすでに営業担当者や特殊な資格保持者に対して適用されている事例があるでしょう。そうではなく、もう働きたくない人は別にして、経済的理由または働きがいをもとめて再雇用を求める人に、制度として雇用を認めてほしいというものです。ページトップへ
◆ 雇用延長の問題点
一般的な会社にとって、雇用延長はどのように考えられるのでしょうか。
これまでも産業界はグローバルな競争のなか、人員整理を含めた経費削減策をとってきました。この方策は現在でも変わることなく行われており、雇用延長によって経費が増大するような制度はなかなか受け入れられない状況にあります。このため雇用延長が導入された会社では、雇用延長を選択した時点で賃金水準を下げ、再雇用後の賃金は公的助成金を利用して、給付される年金との合計で退職時の年収とほぼ同水準となるような体系を採っているところが多いようです。
それから働き方・働く立場といった問題もあります。中小企業では熟練労働者の不足もあって比較的雇用延長制度が導入されつつありますが、大企業では全体的に導入が遅れています。またどちらかというと管理する側に立つホワイトカラー層に対しては、雇用延長後の勤務内容・ポストの扱いが難しく、さらに導入が遅れています。
とくに私たちの建設産業では雇用の受け皿という機能もあって人員整理が遅れていたにもかかわらず、昨今の建設投資の減少にともなって方向性を変え、急速に人員整理が行われています。このような背景もあって建設産業の雇用延長対策は他産業に比べて遅れています。しかし、他産業でも合理化を行ってきた上で雇用延長制度を導入しています。建設産業は特殊だからと高齢者雇用を他産業に頼ることは理由にならないと思います。雇用延長を求める内外の声がある以上、日建協はこの問題に取り組むこととし、加盟組合の皆さんと専門委員会を発足させてどのような雇用延長が考えられるのかを討議しています。
また、高齢者雇用を促進するために、高齢者自らが働き方を考えるとともに、私たち現役世代も高齢者の方にどのような働き方を求めるのか、議論をしていかなくてはなりません。
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◆ 不足する労働力対策へのもう一つの道
:既婚女性の活用
今回は「雇用延長と少子高齢化」というテーマで現状の考えを述べてきました。
実は少子高齢化にともなう労働力不足に対しては、他にも解決の糸口があります。諸外国に比べて就業率の低い、既婚女性の活用です。5月21日付の朝日新聞で、「政府が仕事と子育ての両立を支援するため学童保育施設を大幅に増設する方針」との記事が出ました。
厚生労働省では高齢者雇用にも助成金を出すなど支援を行っていますが、女性労働者に対しても取り組みを進めています。労働力不足を補うため、賃金収入の増加にともなう税収増のため、また厚生年金保険料が徴収されていないサラリーマンの配偶者(専業主婦)からも保険料を徴収して公的年金の財政基盤を補強するためなど、就労をうながしたい背景が多くあります。
既婚女性を活用するためには、育児休業制度や学童保育施設の拡充、企業内処遇の均等化施策、家庭内家事労働の分担など、インフラ整備や意識改革がここでも求められています。
高齢者雇用の問題は、掘り下げていくとさまざまな問題がからんでいて、これだけを切り離して考えていくべきではありません。今後はより広い視点からの取り組みが必要となっています。■
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