企業の組織再編と雇用をめぐる法改正の動き
私たちの「雇用」「働く権利と義務」はどこへ行くのか
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第一勧業・富士・日本興業銀行・三菱・東京・住友・三井などの統合に象徴されるように、銀行業界では、持株会社の制度を利用した大規模な合併の計画が相次いでいます。また、メーカーはもちろん、合併のメリットが無いと言われてきた商社の世界でも、分社化や、他社との資本提携・業務提携が行われるなど、他産業では、企業が生き残りをかけて、分社・合併・提携といった、企業そのものを再編するような動きが急速に増えています。

こうした動きに併せて、法律の面でも、企業組織の再編を促す改正が相次いでいます。またその一方で、私たち働く者の「雇用」、「企業が再編されても、働く者の雇用は継承されなければならない」という当然の課題が、きわめて重要な問題としてクローズアップされてきました。

ここでは、そうした企業の再編と、それに伴う雇用の問題について、法改正の動きの中から簡単にご紹介します。

企業の組織再編を促す法改正がぞくぞくと



日本では、戦後50年、企業法制の分野での大きな変化はありませんでした。はじまりは1996年の橋本内閣の経済政策からです。「6つの改革」のなかで、1997年12月には「純粋持株会社」、続いて1998年には「金融持株会社」が解禁となり、1999年に入ると「株式交換に関わる商法改正」、「産業活力再生法」が次々と成立しました。

また、関連して、倒産法制も大きく変わりました。経営不振となった企業の再建を容易にし、雇用不安を抑えるために、今まで使いづらかった和議法を全面改訂した「民事再生法」が昨年12月に成立し、この4月から施行されています。
さらに現在(2000年4月)、こうした企業組織再編にかかわる総仕上げともいわれる「企業分割に関する商法改正」が国会で審議されています。

この法改正により、企業が事業部門を分離・独立させたり、お互いの重複部門を統合することが簡単になります。企業の再編の動きが加速するとも言われています。いままで、日本の法体系にはこの種の規定がなく、欧米よりも遅れていました。
金融業界の大型合併でも、この企業分割の手法を利用して事業の整理・統合を進めることが前提となっており、経済界では、この商法改正の早期成立を望む声が強いようです。


私たちの雇用や労働条件はどうなる?
知らない間に別の会社の人間に…



こうした動き自体は、企業の倒産を未然に防ぎ、むしろ再建・存続をはかるための改革であり、労働組合としても異論はないところでしょう。
ただ、問題は、こうした
企業再編に対応して、そこに働く人たちの雇用や労働条件を守るような法律が、現在、整備されていないということです。

例えばいままでは、会社の転籍に際しては、当然のことですが「本人の同意が必要」とされていました(民法625条)。しかし、この商法改正がそのまま通れば、従業員の知らない間に企業間で事業部門の分割・譲渡が行われ、気がついたら別の会社の人間になっていたというようなことが起こりかねないという問題があります。

今の話は、従業員を無視したあまりにも極端な例ですが、
転籍した先で、賃金や休暇制度などの労働条件が、いつのまにか切り下げられてしまうことなどは十分考えられます。そうしたことが無制限に起こらないように規制する法律が、今の日本にはありません。


わたしたちの雇用・労働条件を守る法律制定の動き


連合や学者・弁護士などの訴えにより、労働省もこうした一連の法改正に労働者保護の観点が抜けていることは認めました。そして、この2月頃から、労働者の保護を目的とした法改正の動きが出てきています。

一つは、
労働省が出している「労働契約承継法案」です。しかしこれは、法の適用範囲を企業の分割に絞っており、転籍について本人が拒否できないケースもあり、企業にとっては再編を進めやすいのでしょうが、労働者の保護という観点からは不十分と、言わざるをえません。

もう一つは、
連合・民主党が準備している「労働者保護法案」です。法律の適用範囲を企業の合併や営業譲渡も含めて広げ、企業組織の再編を理由とする解雇を明確に禁止する内容です。また、労働条件の一方的な切り下げを禁止したり、事前に労働組合との協議を義務づけるなど、その名の通り、労働者の雇用・地位の保護という観点から十分な内容となっています。
これら法律の改正案は、商法の改正と併せて、これから国会で審議されていくはずです。

企業組織再編を促進する法改正の動き
純粋持株会社
金融持株会社解禁
独占禁止法改正 1997年2月
1998年3月
50年ぶりに純粋持株会社を解禁
株式交換制度の
法制化
商法改正 1999年7月 商法で株式交換制度を法制化することにより
企業再編を促進
企業リストラへの
支援
産業活力再生法
制定
1999年8月 リストラ企業への税制上の特典、金融支援、
国からの技術移転など。
中小企業の再建 民事再生法制定 1999年12月 和議法の全面改定
手続きの近代化と労組関与が規定
企業分割の法制化 商法改正 2000年 商法が認めていなかった株式・株主を含む本
格的な企業分割を規定


雇用・解雇をめぐる規制緩和のながれ


さらに、規制緩和の流れの中で、「雇用・解雇」についての法律そのものを見直そうという動きも出てきているようです。
実は、日本の法律では、企業が労働者を解雇することを明確に禁止している条文はありません。企業は、30日前に予告するか、その前に30日分の給料を支払えば、原則は解雇できるようになっています(労基法20条)。しかし、それでは、私たちの雇用は極めて不確かなものになり、生活はおろか安心して働くことすらできません。そこで、こうした企業の解雇権の濫用を防ぐべく、いままで、さまざまな裁判での判例が積み重ねられ、
「整理解雇の4要件」というものが築かれて来ました。
<整理解雇の4要件>

1.経営上の整理解雇の必要性
  …人員削減をしなければならないほどの、経営上の必要性があるか。
2.解雇の回避義務
  …新規採用の停止、休業・転籍・希望退職者募集など、解雇を避けるべくで
   きるかぎりの努力を行ったか。
3.解雇基準と選択の合理性
  …解雇の対象となる人の選定に、合理性があるか。恣意的ではないか。
4.組合・従業員への説明・協議
  …労働組合等に、十分な説明を行い、理解を得るために誠意を持って協議
   を行ったか。
懲戒免職等は別にして、「この4つの要件を全て満たさなければ、企業は従業員を解雇してはいけない」ということが、数々の裁判を通じて、また、労働組合の活動を通じて、確立されてきたのです。実際、私たちの雇用は、法的には、この「4要件」によって守られているといって良いでしょう。

しかし現在、政府の規制改革委員会の話し合いなどで、企業の側から、こうした判例の積み上げによる企業の解雇権の規制を見直そうという動きが出てきているようです。 さまざまな理由があり、一概には否定できないかもしれませんが、単に企業活動をやりやすくするために、働く者の雇用が犠牲になるようなことはあってはなりません。
経済的な規制、消費者のメリットにつながる企業競争を阻害している規制は、できる限りなくしていく必要があるでしょうが、逆に、市民・労働者の地位・生活を守っている規制、社会的な規制は、安易に緩和してはいけないでしょう。

ここ数年、たとえば、労働時間の短縮につながるような労働基準法の改正(週40時間労働制)や、福祉につながるような育児休業・介護休業制度、働く権利を守る男女雇用機会均等法など、私たちの職場レベルでの働き方を豊かにする法律の制定・改正が相次いできました。それらの法改正は、今、一段落ついたといえます。これからは、今回紹介したような、私たちの「雇用」「働く権利と義務」そのものに結びつくような法改正の動きに、労働組合として注目していかねばなりません。 今後、新聞などで報道されることも増えてくると思いますので、みなさんも、ちょっと気をつけて見ておいてください。■



Compass 2000/May. Vol.734
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