高齢化社会と雇用延長
高齢化社会の到来が目の前まで迫っています。そのことは私たちの暮らし方や働き方を大きく変えようとしています。高齢化の中で働き方はどう変わってくるのでしょうか。
また、定年延長と再雇用はどう違うのでしょうか。
私たちは安定した将来のために何を準備すればいいのか、考えてみましょう。



年金支給開始 65歳に引上げ
所得なしの空白の5年をどうするか


年金にかかる将来世代の保険料負担の上昇を抑えるため給付水準を減らし、また、年金支給開始年齢を60歳から段階的に65歳へ引き上げる年金関連法案が3月末に成立しました。

年金の支給開始年齢が65歳へ引き上げられると、定年の60歳から支給開始の65歳までの間は所得がゼロになってしまいます。この間の所得を保証する雇用をどう考えたらいいのでしょうか?

電機連合(※)では他産別にさきがけてひとつの答をだしました。「リストラされる時代に賃上げのみの春闘ではまずい」という認識のもと、数年前から雇用延長に取り組み、2000年春闘で雇用延長について労使合意にいたりました。この動きは今後、他の業界でもさらに広がる可能性があります。

※電機連合:電機・電子・情報産業の産業別労働組合、構成組織は日立・松下・富士通など221組合、74万名で組織。

雇用延長とひとくちにいっても?

雇用延長は大別すると「定年延長」と「再雇用」の2種類があり、このふたつは大きな違いがあります。定年延長は文字通り定年の年齢を60歳から65歳まで延長することであり、60歳を通過する時点で雇用契約の終了はありません。再雇用は60歳で一度雇用契約は終了し、その後、通常は1年ごとに65歳まで雇用契約を結んで延長していくことです。簡単にいいますと、退職金の受け取りは、定年延長では65歳、再雇用では60歳ということになります。

「60歳時点でみずから選択」が理想か


雇用延長すれば、会社側にとっては余分に賃金コストとして跳ね返ってきます。会社にとって残ってほしい社員だけを選別したくなるのは当然の成り行きかもしれません。また、働く側にとっても、「もう60歳まで働いたのだからこれで現役を引退したい」という方もおられるでしょう。ここで重要なのは、強制的に65歳まですべての人を働かせることではなく、60歳時点で選択権を与えることです。そして、働く意思のある人には、会社は選別することなく働く場を与えることです。

現実にこの点が一番難しく、先行している電機連合でも交渉を開始した当初、会社側は「一律の定年延長」にはかなりの難色をしめしたそうです。定年延長を獲得できたのは1組合だけでしたが、結果的には再雇用でも会社に選別する権利は与えず、希望する社員にはすべて雇用延長を保証しました。

日建協の取り組みは


さて、それでは日建協ではどうでしょうか?

私たちのまわりを見回すと、リストラの嵐は収まったものの、まだ予断を許さないような状況です。「仲間の雇用が奪われているのに、高年齢者の雇用延長なんて」という声も聞こえてきそうです。

確かに、電機業界ではブルーカラーの方も構成人員の3分の1と多く、60歳まで組合員という方も多いようです。この点、ホワイトカラー主体の日建協と同じ立場で話はできないかもしれません。しかし、私たち建設産労懇()の仲間である全電工労連()でも雇用延長について取り組みを始めました。私たちにとっても雇用延長は身近な問題になりつつあります。

雇用延長を考えなければならない背景として、高年齢者の増加と若年人口の激減による人口構造の変化という大きな問題があります。2015年には日本の人口の4分の1が65歳以上の高年齢者になるだろうと予測されています。今後、働く人の年齢構成も大きく老齢化していくことになり、60歳以降の雇用についても取り組んでいかなければならない時期になっています。

(※)建設産労懇:建設産業労働組合懇話会の略称;建設産業の労働条件向上に向けて取り組んでいる建設産業とこれに関連する産業の産業別組合(日建協、全電工労連、建設連合、建設省職員組合、道建労協、全国通建)の友好的な団体。
(※)全電工労連:日本電設、東芝プラント、関電工など電気工事関係の37組合で構成、6万2000名で組織。

人事・賃金制度改定の方向から


ここで、「雇用」と対極の視点「人事・賃金制度」から考えてみたいと思います。私たちのまわりでも成果主義という言葉が身近になってきました。日建協加盟組合でも半数近くが既に導入したか導入予定(1999.9調査)となっています。

簡単に賃金制度の流れについてふれてみたいと思います。戦後日本社会を支えてきたのは「生活主義賃金」でした。とにかく食べるため、生活するための賃金でした。生活に少しゆとりがでてくると、個人の能力に焦点をあてた「能力主義賃金()」がでてきました。これは定昇制度に裏付けされ、成長率3%以上の右肩上がり経済のもとで機能してきました。しかし、ゼロ経済成長となり、組織や個人の業績を反映させた「成果主義賃金」がクローズアップされてきました。

このように社会全体では、賃金制度は成果主義へ大きく流れているようです。この流れを加速させるもうひとつの大きな要因があります。「高齢化」です。

(※)「能力主義」と「成果主義」の違い:新聞記事でもしばしば混同して使われているが、「能力主義」はできるだろうという能力に視点をおいた賃金であり、「成果主義」は実績・業績に視点をおいた賃金制度である。

人事・賃金制度をめぐる今日的課題


高齢化がなぜ問題になるのでしょうか。まず下のグラフを見てください。若年時では仕事をしてもそれに見合った賃金はもらえず、45歳あたりからこれが逆転し、最終的に定年時に精算されるというこれまでの一般的な賃金体系を表したものです。

団塊の世代といわれる方たちが、すでにこのクロスする点を通過しました。つまり会社からすれば成果以上に賃金を支払わずにすんだ「楽な」時代から、「きびしい」時代へ入ったわけです。この結果、会社側としては賃金カーブの修正が課題となり、成果主義賃金への転換を図るか、または45歳以上のリストラを検討せざるを得なくなったわけです。しかし、社員からすれば前半のマイナスを後半で取り戻さないままに成果カーブに転換することは理不尽であり、リストラされることはさらに問題であり、この対応は到底納得のいかないものです。
しかしながら、私たちもいつか高年齢者になることを考えれば、労使で長期的視野のなか、何らかの対応策を求めていかざるを得ない状況です。ひとつの方策として成果主義賃金を段階的に受け入れつつ、定年延長および定年までの雇用保障をするというあり方かもしれません。

また、年金保険料負担の問題から考えてみます。保険料を負担する私たち現役一人あたりの負担を増やすかわりに、保険料を負担してくれる人を増やすこともひとつの方策かもしれません。働く意思のある年金保険料を支払う側の高年齢者に、できるだけ長く働いていただければ、年金収支の悪化を緩和することにつながります。

最後に


今後、若年労働力が減少していくなかで、経験豊富な高年齢者に長く現役として活躍してもらうことは、会社にとっても望ましいことであると思います。ただ、高年齢者の方がたとえば高所足場を歩くような場面があることは災害防止上好ましくないかもしれません。当然高年齢者にふさわしい働き方を考えていかなければなりません。

60歳以降年金受取り開始までの収入の確保、年金収支の問題だけでなく、高年齢者の「働き方」も含めて雇用延長について考えていかなければならない時期にきたようです。■



Compass / Vol.734


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