インターネットの自由と規制を考える

 ここでは、私の著書やこれまで寄稿した原稿をベースに、現在の状況を踏まえて、インターネット規制のあり方やインターネット上の著作権のあり方などについて考えたいと思います(最終更新2000年1月2日)。


【目 次】

インターネットの規制について考える

インターネット規制を考える基本的視点

インターネット規制の現況

「公然性を有する通信」と通信の自由との関係

米国通信品位法の最高裁違憲判決の評価

これからのインターネット規制の方向性

インターネットに対する特別な法的規制を求める見解の問題点

インターネットにおける自己責任の原則

ネットワーク上の自主的紛争解決機関の可能性

風俗営業法の改正によるインターネットに対する法的規制


インターネットとリンクについて(工事中)

 リンクと著作権について(工事中)

 リンクが犯罪行為になるか(工事中)

インターネットと著作権(工事中)

 著作権法に関する基礎知識(工事中)

 ホームページ作成にあたって必要な著作権法等の知識(工事中)

 インターネット上の著作権に関する基礎的考察(工事中)


インターネットの規制について考える

インターネット規制を考える基本的視点


 インターネットとはネットワーク同士が電話回線などを通して接続されている世界最大のコンピュータ・ネットワークのことを言いますが、我が国においても、1995年ころから爆発的に利用人口が増加ししました。それに伴い、インターネット上で様々な法律問題が生起し始めています。

 インターネット上で生起する法律問題を大別すると、インターネット特有の問題と、現実社会においても従来起きていた問題の二種類があります。
 前者の例としては、ネットワークへの不正侵入などの問題があり、後者の例としては、他人の著作物の無断利用、名誉毀損など個人に対する誹謗中傷、わいせつ画像の公然陳列、電子商取引についてのトラブル(注文しても商品が届かないなど)の問題があります。

 いずれの類型についても、ネットワークの特性である匿名性や覆面性、すなわち、住所や実名等を隠したままインターネット上で活動ができることから、不正侵入者や有害情報の発信者等の加害者を特定することが著しく困難であり、ネットワークに対する法的な規制が必要であるとの意見が有力に主張されています。
 特に、1997年5月26日、東京地方裁判所がパソコン通信のフォーラムの会議室での発言が名誉毀損になるとして、発言者、フォーラム管理者及び主宰会社の三者に対して損害賠償の支払を命じたケース(控訴され、東京高等裁判所で審理中)を契機に議論がなされています。

 インターネットの利点は、これまで情報の発信源になりえなかった市民が主人公となり、世界中のユーザーとの間で時間と空間を越えたグローバルな情報交換ができる点にあります。
 その意味で、インターネットはこれまでの閉塞的なメディア状況からは生まれ得なかった新たな文化創造の可能性を秘めている。その可能性を生かすためには自由な表現や活動が保障されることが不可欠であるし、国境を越えたインターネットを一国の法律で規制することも事実上困難ですから、法的な規制はなるべく避けることが望ましいと思います。
 したがって、インターネット上の法律問題については、現にある法律を弾力的に適用することで対応し、国家権力による法的な規制の隙を与えないように、ユーザー自身に自主的なルール作りをするなど不断の努力をする責任が課せられていると言えるでしょう。


インターネット規制の現況


 1996年2月16日には、<電子ネットワーク協議会>が「電子ネットワーク運営における倫理綱領」と「パソコン通信サービスを利用する方へのルール&マナー集」を発表しました。この文書は、通産省の「電子ネットワーク事業における倫理問題に係る自主ガイドラインについて」と題する文書と一緒に出されたもので、通産省の影響のもとに作成されたものと考えられます。

 この「倫理綱領」は、「電子ネットワークを介してパソコン通信サービスを提供する国内の事業者および主催者」に対して、「他人への誹謗中傷、公序良俗違反など様々な倫理問題が生じないようにするための基本方針を提示する」ことを目的とするとされています。この文書は、同協議会の会員(法人会員98社、特別・個人会員18名、協賛自治体52団体)のほか、会員千人以上のパソコンネット約100局及び主要インターネット・プロバイダーに送付されたようで、事実上の影響力があったと推測されます。

 また、最近では、大手接続業者(プロバイダー)などで組織する社団法人テレコムサービス協会も、インターネット上の情報に関する自主運営指針を設けました。
 そこでは他人を誹謗中傷する情報やわいせつ、暴力などの有害情報に対して、情報発信者が違法に情報を流したり、有害情報を発信しないよう約款で定めることや、利用者から苦情が出た時は、発信者に警告や内容の改善や削除を求め、それに応じない場合は契約解除などの対策を取るなどの内容となっています。自主規制とはいえ、かなり厳しい規制となっているので批判があります。

 郵政省は、1993年10月から1994年6月までと1995年1月から8月までの2回にわたって「電子情報とネットワーク利用に関する調査研究会」(座長・堀部政男一橋大学教授)を開催し、二つの報告書をまとめています。この内容は、法的規制を求めるものではありませんが、現行法制では解決困難な問題が多いことを示唆する内容となっています。
 さらに、1996年6月7日には、郵政省の「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」(座長・那須翔経団連副会長)が最終報告書をまとめ、中長期的に通信と放送を区別している現行の法制度を根本的に見直し、法的な規制をすることを提言しています。
 1997年6月16日には、郵政省の「通信・放送の融合と展開を考える懇談会」(座長・那須翔経団連副会長)が、その中間報告において、インターネットやパソコン通信上での個人攻撃、わいせつ情報のはんらん、ハッカーによるネットワークへの不正侵入などが大きな社会問題になっていると指摘して、電子商取引の安全確保やプライバシー保護などを定めた「サイバー法」の制定に、関係省庁と連携して取り組む必要があると提言しています。
 また、郵政相の諮問機関である電気通信審議会は1997年6月17日、21世紀の情報通信の在り方をまとめた「情報通信21世紀ビジョン」を堀之内久男郵政相に答申しましたが、その中で、情報社会ではプライバシーの侵害やネットワーク犯罪などが懸念されると指摘して、電子商取引に必要な暗号政策の確立、個人情報の保護などのための「サイバー法」制定に、各省庁が連携して取り組むべきだとしています。

 また、郵政省の「情報通信の不適正利用と苦情対応のあり方に関する研究会」(座長、堀部政男・中央大教授)は、インターネットでの迷惑電子メールや電子掲示板を使ったひぼう中傷の書き込み、個人情報の勝手な公開などの問題につき、1998年7月から検討を重ね、インターネットの悪用を防止するため、メールの発信者や書き込み者の氏名などの情報を、被害に遭った人に開示する制度の創設を求める報告書を、1999年2月1日にまとめた。悪用の問題は発信者の匿名性によって民事上の責任追及が困難なことが要因とし、発信者の氏名などの公開は対策として有効と判断し、発信者の情報を開示する条件として報告書は、「他人の権利権益を侵害した場合」として、具体的には、繰り返し継続した発信や大量、大容量の発信を行う行為や、他人の個人情報、名誉を毀損すること、侮辱することを不特定多数に発信する行為を挙げています。

 このように、郵政省はインターネットの規制、とりわけ法的規制については積極的であり、今後の動きを注目していく必要があると思います。

 また、1999年11月12日、自民党の亀井静香・政務調査会長は、「(インターネットを悪用した)名誉棄損、脅迫、虚偽情報の公開がある。また、ハッカーのようなものもあり、放置できない。どこまでが処罰対象なのかを検討して、有害なものは取り締まりたい」などと述べ、「ネット犯罪対策法」の必要性を強調、議員立法による早急な法整備に意欲を示したと報道されており、与党である自民党の法規制に強い関心示しています。



「公然性を有する通信」と通信の自由との関係


 憲法21条2項後段は「通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定しています。これは、特定の人と人のコミュニケーションの内容を他に知られないようにするという私生活上の自由を保護することを主な目的としています。通信の秘密の保障は、通信の内容および存在自体に関するすべての事項に及ぶとされています。例えば、郵政省「21世紀に向けて通信・放送の融合に関する懇談会」編『融合メディアの新時代』205頁は「通信の内容、通信当事者の住所・氏名、発受信場所及び通信年月日等通信の構成要素並びに通信回数等の存在の事実の有無が含まれる」としています。

 また、電気通信事業法4条は、この憲法の規定を受けて、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定しています。

 1996年6月7日に、郵政省の「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」(座長・那須翔経団連副会長)が提出した最終報告書は、「情報活動形態の変化により、通信・放送分野において、それぞれ典型的な通信・放送以外の中間領域的なサービスが出現しつつある」として、「パソコン通信の電子掲示板、インターネットのホームページ等通信としての基本的特性は有しながら実質的に通信内容に秘匿性がない、いわば『公然性を有する通信』が登場している」「電子掲示板やインターネットのホームページ等『公然性を有する通信』において、公序良俗に反する<わいせつ>情報、個人の名誉・信用毀損となる他人の誹謗・中傷、虚偽情報等、主に情報内容に起因する問題が顕在化しつつある」として問題点を指摘した後、「情報内容に秘匿性がない『公然性を有する通信』の出現等に伴い、保護すべき『通信の秘密』の範囲について検討する必要が生じている」と指摘しています。

 この報告書は、従来の放送と通信に区分した規制が、「公然性を有する通信」と「限定性を有する放送」の登場により相対化し、新たな規制のあり方が検討されるべきであると提言しています。報告書が「情報発信に関するルールとしては自主規制を原則とすべき」と述べている点(6)は評価できると思いますが、憲法が保障する通信の秘密の範囲を、解釈によって限定することについては疑問があります。法律による通信内容の規制に向かわないように、今後の郵政省の動向に注目する必要があると思います。



米国通信品位法の最高裁違憲判決の評価


 我が国におけるインターネット規制を考える際には、アメリカの動向を無視することはできません。

 アメリカ合衆国の連邦議会において、1996年2月1日に「1996年電気通信法」が可決され(郵政省郵政研究所『1996年米国電気通信法の解説』参照)、同年2月8日にクリントン大統領が署名したことにより発効しました。このうち第5編は、通信品位法(CDA。Communications Decency Act of 1996の略語)と呼ばれていますが、未成年者が「下品」な、または「明白に不快な」表現の画像や文章にアクセスすることを防止することを目的として立法されました。
 CDAは、わいせつ規制にとどまらずに、「下品」や「明白に不快な」表現を規制し、最高25万ドルの罰金と2年以下の禁錮に処すると規定していました。

 アメリカの自由市民連合(ACLU)や図書館協会、商業通信ネットワーク、パソコン業界など57団体は、この条項が憲法違反であるとして、直ちにフィラデルフィア連邦地裁に提訴し、1996年6月12日、同地裁は原告側の主張を認めて、法律の執行を差し止める命令を出していました。これに対して、連邦政府がアメリカ連邦最高裁に対して上告していました。

 アメリカ連邦最高裁は、1997年6月26日、CDAが表現の自由を保障した連邦修正1条に違反する違憲の法律であるという判決を出しました。
 判決は、その理由として、(1)放送に関する規制が妥当する電波の有限性などの根拠はサイバースペースの中には存在していない、(2)「下品」や「明らかに不快」という用語はきわめて不明確であり、発言者は法律に違反しているかどうか疑わしい画像や言葉について情報交換しなくなるという萎縮効果がある、(3)CDAは有害であるかもしれない言論に未成年者がアクセスすることを防止するために、事実上憲法が成人に対して保障している言論を抑圧することになる、(4)CDAの適用範囲は商業的言論や営利団体に限らず、非営利団体や個人をも対象としていることなどを述べています。

 アメリカ連邦最高裁のこの判断は画期的なものであり、我が国でも参考にされるべきものだと思います。ちなみに、我が国の報道などでは、今回の最高裁判決が、「わいせつ」規制を違憲としたかのように伝えられていますが、アメリカにおいてもわいせつ規制は合憲とされており、今回の最高裁判決は、「下品」や「明らかに不快」という曖昧な言葉で、わいせつ以上に規制を拡大しようとしたことに対する判断であることを認識しておく必要があります。
 なお、報道によると、クリントン大統領は、法律による規制を断念して、別の方法による規制を検討しているとのことです。



これからのインターネット規制の方向性


 現在のところは、我が国には、アメリカ合衆国における通信品位法(CDA)のような法律は存在していませんが、後に述べる改正風俗営業法がコンテンツに関わる規制を間接ながらしていますし、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(いわゆる「児童ポルノ禁止法」)もインターネットのコンテンツを規制しています。

 さらに、今後は、郵政省などが、より強力に通信内容を規制する立法を提案してくる可能性があります。その場合には、アメリカ合衆国のCDA違憲訴訟の経験を参考にして、規制対象が明確か否かということや、より制限的でない他の規制手段が取れないか、などが検討される必要があるでしょう。

 また、日本では、業界団体による「自主規制」が数多くあります。これは国家権力による規制ではないために、法的に争いにくく、かえって強力な規制となることがありま
す。
 既に、電子ネットワーク協議会による「電子ネットワーク運営における倫理綱領」や、社団法人テレコムサービス協会によるインターネット上の情報に関する自主運営指針などが存在していますが、今後も、官庁主導の下に、業界団体で各種の自主規制が行われる可能性があります。

 なお、インターネットの規制については、アメリカ合衆国の動向が参考になります。
アメリカでは、インターネット上の情報について、未成年者にアクセスすることが問題と思われる内容を、暴力、性的行為、ヌード、部分的ヌード、人種差別、ドラッグ等12のカテゴリーに分類し、ユーザーがアクセスしたくないカテゴリーを選択することによって、情報受信者側で情報を選別する技術(PICS)が開発され、フィルタリング・ソフトが販売されています。
 我が国でも、PICSの技術を利用して、自分の子どもがインターネット上の有害情報にアクセスしないように、ユーザーがフィルタリング・ソフトを設定することによって、自主的に規制を行うことになることが予想されます。もっとも、その場合に、子どもは親の設定に従わなければならないのか、あるいは親が過剰にアクセス規制を行うことが子どもの権利を侵害しないかなど問題は山積しているように思われます。むしろ、家庭内の問題とされることによって、子どもがインターネットにアクセスする権利を侵害されても、その事実が隠蔽される危険性もあるかもしれません。



インターネットに対する特別な法的規制を求める見解の問題点


 ところで、インターネットの法的規制が必要であるとする論者は、「今後、インターネットがネットワーク社会の一端を担う重要な通信インフラとして成長し、本格的にさまざまな情報発信や電子商取引、電子決済などが行われるようになると、インターネットのユーザーも大学、企業、一部のマニアから、一般の個人利用者へと拡大して行くものと思われる。しかし、そのマイナス面を克服しない限り、インターネットは一般の利用者が安心して使えるネットワークとはなり得ない」などと述べています(藤原宏高編『サイバースペースと法規制』9頁以下〔藤原宏高〕)。

 また、法的規制が必要であるとする別の論者は、「名誉毀損やわいせつ表現のように、現実社会において許されないものなら、サイバースペースでも許されるはずはありません。これは考えてみれば当たり前のことです。サイバースペースも端末を通じて現実社会とつながっており、これを利用するのは生身の人間なのですから、現実社会の規制に従うのは当然のことなのです。」と述べています(紀藤正樹『電脳犯罪対策虎ノ巻−ネットワークの新ルール』21頁)。

 インターネットの法的規制を求める見解は、インターネットが安心できないような状況にあることを前提として、既存の法的規制では対応しきれないとして、既存の法的規制とは異なる新しい法的規制を求めている。しかし、インターネットはけっして無法地帯ではないのであり、既存の法的規制である民事の不法行為として名誉毀損について損害賠償も認められているし、刑法のわいせつ物公然陳列罪の規定が現に適用されて摘発されているのです。

 したがって、インターネットの法的規制をすべきか否かについて論じる場合には、既存の法的規制では本当に対応しきれていないのかどうかについての現状認識が極めて重要になるはずですが、規制論者に都合のよいデータだけが利用されるか、実際にはインターネットをよく知らない者が法的規制の必要性を論じている場合が多いように思われます。
 なお、紀藤正樹『電脳犯罪対策虎ノ巻−ネットワークの新ルール』25頁以下には、インターネットを「免許制」にすべきだという主張があるが、これがインターネットユーザーの意識や認識とあまりに乖離した主張であることは明らかでしょう。



インターネットにおける自己責任の原則


 そもそもインターネット自体が、「一般の利用者が安心して使えるネットワーク」として成立したものでもなければ、商用利用を目指して作られたものでもありません。このようなインターネットにおいては、「自己責任の原則」が貫徹している場であると考えるべきです。
 つまり、インターネットを使用する者は使用したことによる利益も不利益も全て自分自身が受けることを覚悟し、自己の責任をおいて利用すべきであるということです。

 インターネットは、その最たるものなのです。インターネットによって、それまででは得られなかったような情報を得ることができる一方、それまでは考えられなかった消費者問題などが起こりうることも確かです。

 しかし、それは、インターネットを利用しようとして回線を接続した瞬間から、そのような不利益を受ける可能性があることを認識した上で利用しなければならないのであり、そのような不利益を受けたくないのであれば利用しなければよいのである。利益は享受したいが、不利益は国家権力によって除去してもらいたいというのはあまりにも虫が良すぎる話と言わなければなりません。

 これは、インターネットが「本当につなぎたい人」だけが接続するのではなく、誰もが接続するという通信インフラとして成長した場合においても、基本的には変わらないと考えられる。それを変えるためには通信インフラとして整備するための認証制度の確立や暗号技術の向上、セキュリティシステムの導入などが必然的に伴わなければならないのであり、そのような設備投資が十分になされていない現在のインターネットにおいては、「自己責任の原則」は強く妥当すると考えられます。

インターネットユーザーによる団結と協働

 「自己責任の原則」の中には利益だけでなく不利益も享受するという消極的な面だけでなく、自分たちで新しいルールを作っていくという積極的な面もある。だから、インターネットユーザーには、自分たちがインターネットを更によりよいものにしていくための主体者であるとの意識とルールを作るなどの具体的な行動が求められており、現にそのような自主的なルールが作られてきています。

 では、インターネットにおける「表現の自由」を認めるためにはどうすればよいのでしょうか。
 そのためには、インターネットユーザーが、国家権力による法的規制を目指した介入によって、インターネット上の「表現の自由」がまさに脅かされ危機に立たされていることを認識した上でゆるやかな団結をすることが必要だと思います。

 先に述べたように、アメリカにおけるCDAに対する訴訟の勝利は、国家権力による法的規制に、インターネットユーザーたちが裁判という方法で真正面から挑んだものでしたが、この戦いが勝利したことはわが国のインターネットユーザーにも希望を与えてくれていると思います。これは、インターネットユーザーたちによる緩やかな団結と協働がインターネットにおける「表現の自由」を認めるためには重要であり不可欠であることを教えてくれた。
 ちなみに、インターネットユーザーの中で、インターネットという新しい世界をよりよい場にするために時間を費やし努力し、インターネットのために協働する人々は「ネティズン」(Netizen)と呼ばれています(マイケル・ハウベン、ロンダ・ハウベン、井上博樹・小林統訳『ネティズン』8頁以下)。
 私たちインターネットユーザーは、「ネティズン」として、「緩やかな団結と協働」のために何ができるかが今問われていると思います。



ネットワーク上の自主的紛争解決機関の可能性


 ところで、インターネットやパソコン通信上で起こることが予想される紛争については、現在のところは、泣き寝入りするか、裁判所に持ち込むことによってしか紛争解決を図ることができない状況があります。

 しかし、日本で訴訟を提起することは、経済的にも精神的にも極めて負担が大きいために、裁判を起こさずに泣き寝入りすることが多くなると考えられます。また、ネットワーク上の紛争に裁判所という国家権力が介入して裁定を下すことは、ネットワークの発展という観点からはあまり望ましくないと思います。

 そこで、まず、ユーザー同士がマナーないしネチケットを十分に自覚して行動することにより紛争を起こさないことが第一であると思います。

 しかし、それにもかかわらず紛争が起きた場合には、ネットワーク上に、自主的紛争解決機関が設けられるべきではないかと思います。その場合には、その機関の構成員としては、ユーザーである会員を代表する者、ネットワーク運営者を代表する者と、第三者的な者(学識経験者や法曹関係者など)の三者で構成することが必要であり、また望ましいと思います。このうち、会員代表の委員については、例えば会員資格を1年以上有しており、毎月最低数時間以上アクセスしている者の中から無作為に一定の人数を選択するという方法が考えられるでしょう。

 最近、新聞報道についての紛争は、裁判所による司法的な解決だけではなく、自主的な紛争解決機関として「報道評議会」を作ろうという動きがあります。例えば、その提案者の一人である浅野健一・同志社大学教授が発表した「報道倫理綱領試案」によると、報道評議会の構成については、メディア側と市民(非メディア)側を同数として、メディア側は、新聞協会、雑誌協会、新聞労連、出版労連、日本記者クラブなどから選出し、市民側は、元裁判官または法律家、日本マス・コミュニケーション学会、法学者、日弁連、消費者団体、報道被害者と一般市民から選出するという提案をしています(浅野健一「法規制と自主規制の瀬戸際」『無責任なマスメディア−権力介入の危機と報道被害』235頁)。

 こうした方向性は、ネットワークにおける自主的な紛争解決機関の構想と方向性を同じくするものであり、参考になると思います。



風俗営業法の改正によるインターネットに対する法的規制


 警察庁は、インターネットにおけるアダルトサイトの取締りの必要性があるなどを理由として、「風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律」(以下「風営法」という)の改正案を国会に上程していたが、1998年4月30日、衆議院本会議で全会一致で可決され成立した。1999年4月から施行されており、既に摘発例も数多く報道されている。

 風営法が改正されたのは1984年以来14年ぶりであるが、今回の風営法の特徴は、従来の風営法の規制対象外であった派遣型デートクラブ、アダルトビデオの通信販売、インターネット利用のわいせつ画像提供営業を「無店舗型営業」として新たに規制対象に指定することとし、これらの業者に対し、(1)住所地を管轄する都道府県公安委員会への届け出、(2)18歳未満を客とすることを禁止するなどを規定し、無届けには罰則を設け、18歳未満対象の営業には、悪質な場合は営業停止などの行政処分を行うことなどを内容としている点にある。

 特に、インターネット上におけるわいせつ画像を有料で提供することを「風俗営業」とみなして法的に規制しようとしている点は極めて問題である。改正風営法は、我が国におけるインターネット上の表現を規制する初めての法的規制となる。

 すなわち、インターネット利用のアダルト画像提供に関しては、プロバイダー(接続業者)に対しても、業者がアダルト画像を送信しないようにするため「必要な措置」をとる義務を定めている。すなわち、無店舗型の業者とプロバイダーがホームページの開設について契約を結ぶ際に、わいせつ画像を不特定多数の者に見せることは法律で禁止されていることを告げ(告知義務)、そのような内容を記載した書面を交付しなければならない(書面交付義務)。さらに、契約後、プロバイダーは「業者が他人にわいせつな映像を見せることがないよう必要な措置を講じなければならない」とされ(措置義務)、わいせつな画像を現認した場合には、削除するなど事実上送信できないような措置をとることが義務づけられている。

 つまり、改正風営法は、プロバイダーに対してわいせつな映像についての削除義務を課しているのである。警察庁生活環境課の後藤啓二理事官は、読売新聞に対するインタビューの中で、「プロバイダーはポルノ画像を自ら発信しているわけではありませんが、ポルノ画像の発信業者から利益を得ており、かつ、それを管理しうる立場にあります。いわば二次的な関与ですが、ポルノのはんらんから子供を守るため、何らかの役割を担っていただきたいということです。」、「今回のプロバイダーに対する規制案は、わいせつ画像が自分のサーバーに記録されていることを知ったときに、それが送信されないよう努力義務としてお願いするものです。」などと述べている(読売新聞1998年3月4日付朝刊マルチメディア欄)。

 今回の改正風営法は、無料でわいせつ画像をインターネット上で提供する場合には適用されないが、その種の画像を提供するホームページの多くが、実際には有料で提供していることが多いことから(警察庁の調査でも1721のホームページのうち632がわいせつ画像の有料提供をしていると報道されている)、来年4月以降は、かなりのホームページが無届出となり、そのようなホームページが開設されているプロバイダーは削除すべき「努力」義務が課せられることになる。法形式的には「努力」義務であっても、警察が圧力をかければ削除せざるを得ないことは必然である(任意同行が真の意味で「任意」でないのと同様である)。

 今回の風営法改正は、警察庁による行政警察権限の更なる拡大を狙ったものであり、インターネットの法的規制に先鞭を付け、「風俗営業」とは直接関係のないプロバイダーをも警察の監視・支配下に置いてしまおうという野望が見える。そのため、プロバイダーの所轄官庁である郵政省の自見郵政相ですら、「プロバイダーに過度な負担を与え、インターネットの健全な発展やサービスの円滑な提供を阻害しないように、利用者や事業者に対する一定の配慮が必要だ」と述べて警察庁の行き過ぎを牽制している程なのである。

 改正風営法は、インターネット上の表現を法律で規制しようとするという点で問題があるだけでなく、「わいせつな映像」であるかどうかについて警察が自由に判断する権限を与えることになるという点で問題がある。

 そもそも世界中が電話回線等で結ばれている国境のないネットワークであるインターネットに対して、わが国だけが法的規制をすることにどれほどの実効性があるのかが疑問である。改正風営法についても、日本国外から、海外のプロバイダーにアップロードされた映像については効力は及ばないことになるが、それにしても、日本国内に住んでいる我々にとっては、日本国内において、警察が有害とみなしさえすれば、プロバイダーに掲載すること自体が取締りの対象とされることは、憲法が保障する「表現の自由」に対する重大な制限となることは否定できない。

*改正後の風俗営業法の解釈と運用については、風俗問題研究会『最新風営適正化法ハンドブック』(立花書房、1999年)が参考になる。

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