情況に対して発言する

 ここでは、日々の出来事に接する中で個人的に感じたことを書き綴っていきたいと思います(2007年10月2日更新)なお、2002年以前の発言は、別項目にしました。


法務大臣の暴言と共謀罪法案の行方

 2007年9月25日、鳩山邦夫法務大臣が、福田内閣の発足前の退任会見で、「法務大臣によっては、自らの気持ちや信条、宗教的な理由で執行をしないという人も存在する。法改正が必要かもしれないが、法相が絡まなくても自動的に執行が進むような方法があればと思うことがある」と述べて、法務大臣が死刑執行命令書に署名しなければ執行されない現行制度の見直しに言及した。

 鳩山法務大臣はその際に、「法務大臣が絡まなくても、自動的に客観的に進むような方法を考えたらどうか」として、「ベルトコンベヤーと言ってはいけないが、
(死刑確定の)順番通りにするか、乱数表にするか、そうした客観性がある何か」を基準として執行されるべきだという見解を示した。

 これは、鳩山法務大臣が、これで退任し、自らは再任されることがないことを前提に話した「暴言」であったが、福田内閣で、法務大臣に留任することになったことから、この発言が大きな波紋を呼んでいる。

 さすがに、法務大臣に再任された後の会見では、「死刑という回復不能な極刑を執行して、人の命を奪うという大変重大なことを致すわけで、法務行政上の総合的な判断が求められるとするならば、それは法務大臣の仕事ではないかと。乱数表などと言ったのがいいかどうか、今は反省してますけども」と述べて、その発言を一部修正したが、全面的に撤回することはなかった。

 これに対して、
死刑廃止議員連盟会長でもある国民新党の亀井静香氏は、翌26日の記者会見で、鳩山法務大臣の発言を批判し、「鳩山氏には法相の資格もなければ、人間の資格もない」と厳しく批判するとともに、鳩山法務大臣との面会を求めたが、鳩山法務大臣は面会を断っている。

 この鳩山法務大臣の発言は、その後、大きな波紋を呼んでおり、毎日新聞は「『署名なし死刑』暴言に法相の資質を疑う」と題する社説を掲載し、「人命を軽んじ、厳粛な法制度を冒とくする暴言」であり、「不用意で、致命的な失言である」と厳しく批判している(毎日新聞2007年9月27日付社説)。

 また、東京新聞も、「『法の日』法相の認識が足らない」と題する社説を掲載し、「まるで機械的な執行システムを導入しようという発想自体が、人権感覚を疑わせる」と批判している
(東京新聞2007年10月1日付社説)

 いずれも全く同感である。人の命を左右する死刑執行命令書への署名の権限を有する法務大臣としての資質を疑わせる一連の発言である。

 そして、これは、人の生命に関わる問題において暴言をした閣僚を、「再任」という形で登用した任命権者である福田首相の責任でもある。

 法の執行は、人の生命や身体や自由にかかわり、人の人生を変えるような大きな影響力を持つ峻厳な行為である。それを、ゲーム感覚で語る法務大臣には、およそ法務大臣の資質も資格もないと言わなければならない。マスコミは、単なる「失言」と捉えているが、まだまだ生ぬるいと言わなければならない。
 野党が多数を占める参議院では、是非とも、鳩山法務大臣に対する
問責決議を可決して、一日も早く、鳩山氏を法務大臣の席から葬り去らなければならない。

 ところが、その鳩山法務大臣が、
共謀罪法案に意欲を燃やしている。安部第2次内閣での法務大臣就任時の訓示において、「継続審議となっている『組織的犯罪処罰法案』の早期成立ということがあります。これは,来年の洞爺湖サミットのときに並行して,正式名称は分かりませんが,法務大臣・司法大臣のサミットのようなものが,東京で開かれると思います。その時に,条約にきちんと入っていないということになりますと,それはある意味,国際的な批判を浴びかねないというふうに思っていますから,犯罪も国際化・組織化していますし,サイバー犯罪等も頻発していまして,これは,正に今の流行のようなものでありますから,犯罪の流行は困りますので,これを阻止するような努力を,これは私も頑張らなければいけないなと。国会を通さなければなりませんから,私も自民党も一生懸命やりたいと思っています。」(法務省ホームページ)と述べている。

 これを見ると、鳩山法務大臣には、信念や理想のためではなく、単に、来年の洞爺湖サミットと並行して東京で開かれる法務大臣等の会議の時に、日本だけ国連越境組織犯罪防止条約に加盟していないのは格好悪いという政治家の体面のために、共謀罪法案を通したいという本音が垣間見える。この点からしても、鳩山氏に、法務大臣としての資質も資格もないことがよく示されていると言える。

 ところで、安部前首相の「政権投げ出し」を受けて行われた自民党内部の総裁選挙の間、事実上「開店休業」状態だった国会が、、2007年10月1日からようやく再開された。「テロ特措法」の延長問題については、政府・与党も延長を断念し、新法制定に向けた動きが始まっている。
 
 そのような中で、最も私たちにとって気になるのが、法務委員会で継続審議となっている共謀罪法案の行方である。現在の参議院における野党勢力からして、衆議院法務委員会での共謀罪法案の強行採決等は考えにくいが、大幅な修正案を野党に提案して、「小さく産んで大きく育てる」作戦をとろうとする可能性があり、決して油断することはできない。

 私たちは臨時国会においても
(政府・与党は2007年12月中旬までの延長を考えていると伝えられている)、改めて、共謀罪法案の問題や危険性を訴えて、今度こそ、もう二度と提案できないように完膚なきまでに粉砕して、廃案にさせるために全力を注ぐべきであるだろう。
 そのために、微力ながら、私も全力を尽くしたい。

(2007年10月2日記)

*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年10月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである

参議院選挙結果を受けた秋の臨時国会に向けて

 2007年7月29日に実施された参議院選挙では自民党が歴史的な大敗を喫し、参議院においては野党の民主党が初の第一党となった。

 参議院選挙を受けて、第167臨時国会が8月7日に召集され、参議院本会議で、議長に民主党の江田五月氏が選出されるとともに、参議院議院運営委員長に民主党の西岡武夫氏が選出されるなど、民主党が参議院の運営権限を獲得した。

 今回の選挙結果は、安部首相と官邸が主導で第166通常国会において強行採決を連発した強引な国会運営や、閣僚の「政治とカネ」の問題についての不祥事が続いたことなどを受けて、国民が、安部首相を否定し、その退陣を求める内容であった。

 ところが、安部首相は、選挙結果が出る前から「続投宣言」をして居座り、8月27日には内閣改造を行って、秋の臨時国会に臨もうとしている。

 秋の臨時国会では、テロ特措法の延長問題が最大の争点となることは間違いない。民主党の小沢党首はいち早く延長に反対の姿勢を示し、秋の臨時国会では激しいぶつかりあいになることは必至である。その中で、果たして、安部内閣の総辞職に追い込むことができるのか、果たして年内に衆議院の解散はあるのかが焦点となるだろう。

 法務委員会に目を移すと、現在、衆議院法務委員会には、共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「共謀罪法案」という)だけが継続審議となって残っており、現在閉会中審査の状態となっている。

 2007年2月27日、自民党の「条約刑法検討に関する小委員会」は、この法案の修正案要綱をまとめ、共謀罪の名称を「テロ等謀議罪」に変更するとともに、政府案では、対象犯罪を長期4年以上の全て罪を対象犯罪としていたのを、テロ、薬物、銃器、密入国・人身取引、組織犯罪の五分野に限定し、政府案の600超からその4分の1以下に絞り込む内容となっていると言われている。

 秋の臨時国会では、衆議院法務委員会において、共謀罪法案についての実質審議に入るのか、与党から修正案が提出されるかが焦点となる。それ程遠くない時期に予想される衆議院解散に備えて、与党が相変わらず「死んだふり」を続けるのか、それとも、衆議院だけでも数にまかせて可決しようとするのか、その出方を注視する必要がある。

 内閣改造で退任した前の法務大臣である長勢氏は、最後まで、共謀罪法案の成立に意欲を示し続けていた。内閣改造で新たに法務大臣に就任した鳩山邦夫氏は、現在までのところ、この点に関する方針等を示していないが、共謀罪法案を提案した法務省の意向を受けて、成立に向けた意欲を示すことは多いに予想される。

 新しい国会情勢について、私たちは決して楽観したり油断することなく、秋の臨時国会での共謀罪法案の成否について注視して、むしろこの機会に共謀罪法案を廃案に追い込めるよう運動を強めていくことが必要であるだろう。

(2007年8月29日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年9月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである


刑事裁判に導入された公判前整理手続について考える

 刑事裁判が大きく変わろうとしている。最も大きな契機は、言うまでもなく、「司法制度改革」として行われてきた一連の法律改正や法律の制定であり、その中でも公判前整理手続の導入がある。

 1999年7月に、政府は、司法制度改革審議会を内閣に設置して、「司法制度改革」の検討を開始し、同審議会は、2001年6月に最終報告書をまとめた。

 司法制度改革審議会が、刑事裁判の改革について、もっとも強調した点が、「刑事裁判の充実・迅速化」であり、「その基本的な方向は、真に争いのある事件につき、当事者の十分な事前準備を前提に、集中審理(連日的開廷)により、裁判所の適切な訴訟指揮の下で、明確化された争点を中心に当事者が活発な主張立証活動を行い、効率的かつ効果的な公判審理の実現を図ることと、そのための人的体制の整備及び手続的見直しを行うことである。」と指摘していた。

 2001年11月、司法制度改革推進法が成立し、それを受けて、政府は、司法制度改革推進本部を内閣に設置し、具体的な司法制度改革の内容を検討し、2002年3月には、司法制度改革推進計画を閣議決定し、以後、2002年の第154国会から2004年の第161国会にかけて、順次、関係法案を提出して、成立させている。

 刑事裁判については、2004年の第159国会(通常国会)で、刑事訴訟法等の一部を改正する法律、裁判員制度を導入するための「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」の制定、国選弁護制度について、日本司法支援センター(いわゆる法テラス)を設立して国選弁護人の推薦等の業務を行わせるための総合法律支援法がそれぞれ成立している。 裁判の迅速を図るための手続として、公判前整理手続が2005年11月から施行され、広く実施されるようになっている。

 公判前整理手続は、公判開始前に、争点と証拠を整理し、公判では証拠調期日を連日的に開廷して、短期間で審理を終えるという手続である。
 争点と証拠を整理するための公判前整理手続は非公開で行われ、被告人が出席することも義務的ではない。
 そのため、従来は全て公開された公判で決められていたことの大部分が密室での協議で決められるようになったことから、刑事裁判を支援したり応援し、傍聴をしてきた市民などから疑問が提起されている。

 制定時には、裁判員制度との関係で公判整理手続を導入したとの説明もなされたが、実際には、公判前整理手続は、裁判員裁判対象事件以外にも適用され、最近では、検察官が否認事件であれば公判前整理手続の適用を主張するなど、極めて広い範囲に適用されようとしている。

 公判前整理手続は極めて短期間に行われ、特に、被告人・弁護人側も、公判で主張予定の事実上・法律上の主張を全て行うとともに、原則として、証拠請求も全てその手続内で行わなければならないため(公判になって請求しても、特別の事情がない限り、請求が却下される)、その準備に負担が極めて大きい上に、予め手の内を全てさらすために、例えば、アリバイ主張をしても、公判までに警察・検察の捜査で潰されてしまうおそれすらある。

 今回の「司法制度改革」でも、検察官の手持ち証拠の全面開示は実現されず、相変わらず、検察官と被告人・弁護人との力の差は歴然としているのに、被告人・弁護人は、検察官と「対等」に攻撃防御を行わなければならないという点で極めて問題が大きい。

 検察庁は2007年4月以降、全て裁判員裁判対象事件について、公判前整理手続を求める方針を打ち出すとともに、最近では、前述したように、否認事件であれば、検察官は、裁判員裁判対象事件以外でも積極的に公判前整理手続の適用を求めるようになっている。

 この公判前整理手続の導入によって、刑事裁判は大きく変わろうとしているのであり、変えられようとしている刑事裁判が被告人の防御権を侵害しているのではないかという視点から、その運用を厳しく監視していく必要があると言わなければならない。
(2007年7月27日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年8月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである

通常国会が終わって

 今年の通常国会においては、重罰化に繋がる問題のある法案が次々と成立し、2007年7月5日で会期末を迎えた。

 自動車運転による人身事故について、これまで業務上過失致死傷罪が適用されており、その法定刑の上限は懲役5年だったが、刑法の一部改正案が2007年5月16日に成立し(6月12日から施行されている)自動車運転過失致死傷罪が新設されて、法定刑の上限が7年に引き上げられた。

 ちなみに、法務委員会ではなく内閣委員会の所管であるが、警察庁の提案による道路交通法改正案も、6月14日に衆議院で可決成立しており(9月から施行される予定)、酒酔い運転の罰則が重罰化されるとともに、ひき逃げは、従来5年以下の懲役または50万円以下の罰金だったが、それが2倍の10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に重罰化されている。

 5月25日には、参議院で少年法改正案が可決され、成立している。改正された少年法は、14歳未満の触法少年に対して警察が強制捜査の権限を持つことを認めるとともに、任意の取り調べができるようになること、おおむね12歳以上の少年でも少年院送致できるようになること、一旦保護観察になった少年について遵守事項違反がある場合に、改めて審判をして少年院送致できるようにするなど、2000年の少年法改正に引き続いて、少年に対する厳罰化の傾向が一層進むことになる。

 また、6月8日には、現行の「犯罪者予防更生法」と「執行猶予者保護観察法」を統合する更生保護法案が、参議院で可決され成立している。この法律は、従来、犯罪を犯してしまった者の更生を図ることを基本理念としていたことを変更し、再犯防止という目的を新たに追加して、重罰化を図ろうとしている。具体的には、仮出所者らが保護観察中に守るべき順守事項に違反した場合に、仮出所などの取消ができることなどが新設するなどして厳格化するとともに、仮釈放を判断する際に犯罪被害者の意見を聴取する制度も新設されるなど犯罪被害者対策も盛り込まれている。

 今通常国会においては、裁判員法改正案も既に成立している。すなわち、5月22日には、複数の事件の審理を区分して審理する「区分審理制度」を裁判員制度に導入する「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律等の一部を改正する法律案」が衆議院で可決・成立している。

 さらに、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」も、6月20日に参議院で可決・成立している。
 この法律は、被害者が刑事裁判に直接参加する制度や、刑事裁判官が刑事裁判の成果を利用して簡易迅速に損害賠償命令を出す制度を新設しようとすることなどを内容としている。

 以上が、今通常国会において、法務委員会や内閣委員会で成立した主要な法律であるが、いずれも厳罰化の流れの中で、そのいずれの法案についても、十分な審議がされることなく、与党の決めるスケジュール通りに審議が行われ、野党が反対しても与党が強行採決するなどして法案を通すというやり方が多用され、極めて異常な国会運営が行われたと言える。

 これは安部内閣になって以降の特徴であり、「数の力」によって、民主主義を踏みにじるような国会運営がなされてきた。それは、刑事法以外の分野においても、国民投票法や、教育三法、年金関連法などが強行採決されたことなどからも明らかである。

 安部内閣が続く限り、この傾向はますます拍車をかけるだろう。その意味において、秋の臨時国会以降の国会においても、厳罰化の流れに沿った法案や治安立法の提案が次々となされるおそれがある。そのような数の横暴による与党の国会運営を止めるためには、参議院選挙によって、今の与党政権のあり方に対する民意を示すことが不可欠であると考えられる。その時機は迫っている。

(2007年7月8日記)

*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年7月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである

今通常国会の情勢と共謀罪法案の行方

 今通常国会は、2007年7月に参議院選挙が控えていることから、当初から、会期の延長は難しい国会として極めてタイトな審議日程となっていた。

 当初、与党は、予算案審議が終了した後比較的早い時期に、共謀罪法案を衆議院法務委員かで審議入りさせて強行採決し、今通常国会での成立を目指すのではないかと危惧されていた。

 ところが、自民党は、共謀罪法案に対する反対の声がここまで広がったことに恐れをなしたのか、政府案に対する多少の修正程度では、国民の強い反対の声をはねのけて強行突破することは難しいと考えたのか、大幅な「修正」の検討を始めた。

 自民党の「条約刑法検討に関する小委員会」は、何回か会合を続けた後、2007年2月27日、「共謀罪」創設を盛り込んでいた組織犯罪処罰法改正案の修正案要綱をまとめた。
 そこでは、「共謀罪」の名称を「テロ等謀議罪」に変更するとともに(当初は「テロ・組織犯罪謀議罪」とされたが、「組織犯罪」を「等」に変更した)、政府案が、共謀罪の対象となる犯罪を一律に長期四年以上の罪としていたのを、テロ、薬物、銃器、密入国・人身取引、組織犯罪の五分野に限定し、600以上あった共謀罪の対象犯罪の数を、その約4分の1以下に絞り込む内容になっている。

 この手法は、かつて、1999年に盗聴法(犯罪捜査のための通信傍受のための法律)の審議の過程において、与党がとった手法とよく似ている。その当時、盗聴法や組織犯罪対策法案に対する市民による反対運動が盛んに行われている中で、与党は、通信傍受法を「盗聴法」と呼ぶことをマスコミに対して禁止するとともに、公明党が主導して、盗聴の対象犯罪を、組織的殺人、薬物、銃器、密入国の四分野に限定する修正案をまとめ、最終的に与党多数の賛成で可決して、盗聴法が成立した。

 おそらく、今回の自民党小委員会による修正案要綱の作り方は、その当時の立法手法に学んだものと考えられる。そして、それは、与党の修正案に対して野党の賛成が得られるない場合に、与党多数による「強行採決」をも視野に入れたものであると考えられる。

 しかしながら、元々、共謀罪は、国連越境組織犯罪防止条約に基づいて国内法整備をするために新設されようとしており、同条約は、テロ対策の条約ではなく、組織犯罪対策のための条約であることは、同条約の審議経過や、共謀罪法案に関するこれまでの政府答弁からも明らかである。

 ところが、ここに来て突然、与党は、これまでの政府答弁を否定して、共謀罪を「テロ対策」のための法律と位置づけようとしている。これは、アメリカの9.11事件以降、「テロ対策」と言えば多少の無理も許容してくれる世の中になっていることが背景にあると考えられる。

 このような与党による共謀罪法案の修正の方向は、明らかに、「テロ対策」を表看板に掲げることによって、反対の声や勢力を削いで、国民の反対の世論を抑制することを狙ったものであることは明らかであろう。

 今通常国会は、安部首相の強気の国会運営の影響を受けて、衆議院法務委員会では、完全に与党優位の国会運営が行われており、衆議院法務委員会においても、既に少年法更生保護法が次々と与党の圧倒的な数による強行採決をされているし、それ以後も、裁判員法改正案や犯罪被害者が刑事裁判に参加するための刑事訴訟法等改正案も審議入りして、1週間程度で採決されようとしている(6月1日に衆議院本会議で可決され参議院に送付された)

 今通常国会は、残ったわずかな審議日程からすると、共謀罪法案を審議する可能性は極めて少ないと考えられるし、与党は、参議院選挙を控えて、今通常国会では「死んだふり」を続けようと考えていると思われる。

 しかしながら、2007年7月の参議院選挙で与党が敗北しなかったり、万一勝利を収めるようなことがあった場合には、その後、政府や与党は、共謀罪法案の成立を目指して、なりふり構わぬ姿勢で強行突破を図ろうとするだろう。

 そのような場合には、同年8月下旬にも臨時国会を召集するという情報も流れており、臨時国会の冒頭にも、衆議院法務委員会で与党から修正案が提案されて強行採決し、参議院でも同様の手法で早期に共謀罪法案を成立させようとするおそれがある。

 共謀罪法案は、政府にとっては、市民が話し合っただけでも、それを犯罪として取り締まって、市民と市民のコミュニケーションそれ自体を摘発して弾圧することができるという強力な武器になるものである。一旦そのような権限を政府に持たせたら、戦前の治安維持法が果たしたように、言論弾圧の手段として広く用いられることは必至であり、政府に反対する運動や市民は、根こそぎ弾圧されることになるだろう。

 安部政権は、小泉政権を引き継ぎ、「いつでも戦争できる国」を目指して、アメリカ軍と自衛隊との一体化を推し進めるとともに、憲法9条を改憲して「自衛のため」の戦力で、アメリカに呼応して、いつでも海外派兵できることを目指し、それに反対する運動や市民を弾圧して黙らせるために利用されることは間違いないだろう。

 私たちは、2007年秋の臨時国会に向けて、再び、共謀罪法案反対の声をあげるとともに、反対運動の態勢を整えていかなければならない。

(2007年6月2日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年6月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである

犯罪被害者や遺族が刑事裁判に直接参加する制度の審議・採決が迫っている

 2007年3月13日、政府は、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に上程した。

 この法案は、裁判員裁判の対象となる犯罪(故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制わいせい及び強姦の罪、逮捕及び監禁の罪並びに略取、誘拐及び人身売買の罪等)及び業務上過失致死傷の罪について、その被害者等からの申し出を受けて、裁判所が許可した者(被害者参加人)について、(1)公判期日に出席すること、(2)直接に証人尋問をすること(弁護側の情状証人に対する反対尋問に限られる)、(3)直接に被告人質問をすること、(4)検察官の論告求刑の後に意見陳述(求刑を含む)を行うことを認める制度(被害者参加制度)や附帯私訴制度を新設しようとすることなどを内容としている。

 近代以降、刑事裁判については、検察官と被告人・弁護人が当事者として攻撃・防御を行い、それを公平な裁判所が判断するという当事者主義構造がとられてきた。これは、被害者が加害者に対して私的制裁(復讐・仇討ち)をすることを国家が禁じて、その代わりに国家が刑罰権を独占し、その行使を、もっぱら公益の代表者である検察官に委ねるというシステムをとってきたためであった。
 それは、刑事裁判を可能な限り公的な場として、被害者の報復感情を極力排除して、報復感情の連鎖を断ち切るという人類の知恵とでも言うべき制度を構築してきた。

 ところが、被害者団体の中でも、「全国犯罪被害者の会(あすの会)は、刑罰権は元々被害者が持っていた権限であり、それは国家に信託譲渡したものであるが、国家がその権限を行使しない場合には、その権限を取り戻すことを請求することができるという一種の抵抗権のようなものがあるなどと主張して、被害者が本来有している刑罰権・訴追権に基づいて刑事裁判への直接参加を求めてきた。

 その主張は、法治国家の中の刑事裁判という狭い分野ではあるが、国家の権限を一部否定しようとするもので、一種の「クーデター」とでも言うべきものである。

 ところが、この間、悲惨な刑事事件が起きる度に、加害者は絶対的な「悪」であるが、被害者は絶対的な「正義」であると取り扱われる二項対立の単純な図式が描かれる中で、被害者の声に対しては誰も異論を唱えられない雰囲気が作られてきた。そのような状況の中で、一部の被害者団体の声が、政府や与党に対して大きな影響を持つようになる。

 あすの会は、2000年に被害者対策二法が成立した後、犯罪被害者や遺族の刑事裁判への直接参加を求めて署名運動を開始して約40万人分の署名を集め、あすの会の代表が当時の森山真弓法務大臣にその署名を提出するとともに、当時の小泉前首相にも面談した。選挙対策にもなると見た小泉前首相は、犯罪被害者対策の推進を決めて関係機関に指示した。

 2004年12月には、犯罪被害者等基本法が成立し、2005年12月には、それを具体化する「犯罪被害者等基本計画」を政府で決めている。

 今回の被害者参加制度は、この延長線上にあり、法務大臣が、2006年9月7日に法制審議会に諮問を求め、刑事法(犯罪被害者関係)部会で、半年間で合計8回の審議を行って要綱を決めたものであり、その議論は極めて拙速であった。その審議においては、犯罪被害者のニーズを中心に議論されて、被害者参加が認められる根拠や実施された場合の弊害等についてはほとんど議論されないままであった。

 国会に提出された法案では、検察官が設定した訴因に関する事実の範囲内という限定はあるものの、被害者は独自の立場で訴訟活動を行い、事実面・法律面に関する意見を陳述することができ、検察官とは異なる求刑までできることになっている。これは、犯罪被害者やその遺族に、被告人への制裁・報復を求める権限を与えるもので、刑罰による復讐を事実上求めることを認めたに等しい。

 あすの会は、被害者参加制度が報復のための制度であることを正面からは認めていないが、被害者学の権威である諸澤英道・常磐大学教授は、最近では、「報復の何が悪いのか」と被害者の報復を肯定する発言をするようになっている。

 現在の被告人の防御権は、憲法や刑事訴訟法が規定する権利が十分に保障されておらず、強大な国家権力を背景とする検察官の権限と比べると圧倒的に不利で、当事者対等が実現されていない。

 ところが、被害者参加制度が新設されてしまうと、被告人・弁護人は、検察官による訴訟活動に対して防御するだけでなく、被害者やその遺族による訴訟活動に対しても防御しなければならなくなる。この事態について、東北大学名誉教授の小田中聡樹氏は、刑事裁判に異なる二人の検察官が登場するのと同じであり、当事者対等主義に反すると指摘されている。

 その結果、これまで以上に冤罪が増えたり、重罰化されることは避けられなくなると予想される。刑事裁判の場では、犯罪被害者やその遺族は、検察官の横に座って被告人に睨みをきかせるようになることから、気の弱い被告人や自責の念に支配されている被告人は自己に有利な弁解や主張をすることすらできなくなってしまうと考えられる。

 結局、被害者参加制度は、被告人に対して弁解を許さず、厳罰を課すための制度として機能することになるだろう。そして、この制度が裁判員制度と一緒になれば、刑事裁判は、犯罪被害者や遺族と市民が、被害を与えて国家秩序を乱した被告人を糾弾し断罪する「市民法廷」の場に変貌するだろう。

 法案が求める被害者参加制度の本質は、被告人に対する厳罰を求める国家権力が、犯罪被害者や遺族という「市民」の力を利用してその実現を図り、それを正当化しようとするものである。このような大きな意味において、国家権力は犯罪被害者のニーズを利用しているのである。

 この法案は後半国会において審議される予定であり、政府・与党は今通常国会での成立を目指している。あすの会も2007年4月21日に集会を開いて、今国会の成立を目指すことを宣言している。
 しかし、刑事裁判を根底から変質させようとする被害者参加制度に対しては、反対の声を挙げて、何としても今国会での成立を阻止しなければならない。

(2007年5月3日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年5月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

今通常国会は問題法案が続々上程され後半国会は大荒れになる

 今通常国会(第166国会)は2007年1月25日に召集された。会期は6月23日までの150日間を予定しており、参議院選挙があることから、会期の延長はない模様である。 

 この国会には、実に多くの問題法案が続々と上程されている。前に触れた「
犯罪収益移転防止法案」は、その後、日弁連の強い反対を受けて、士業である弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士について、疑わしい取引の届出義務を削除して、2月13日に国会に上程されている。既に、3月23日の衆議院本会議で、自民、公明、民主などの賛成で可決されて参議院に送付され、3月中にも可決成立の見込みと伝えられている。

 この法案は、金融機関、保険会社やクレジット会社、貴金属業者など42業種を「特定事業者」に指定し、(1)顧客の
本人確認義務、(2)取引記録保存義務(7年間)、(3)犯罪の疑いのある取引を関係省庁に届け出る義務を規定し、(3)の届出を受けた行政庁はその情報を主務大臣に通知し、主務大臣はこの情報を、国家公安委員会(警察庁)に通知する仕組みになっている。

 そして、その実現を実効あるものにするため、法案は、行政庁が特定事業者に対して報告・資料提出を求めることができる権限を与えるとともに、立入検査や指導・助言をする権限を与え、特定事業者に義務違反が認められれば、所轄する行政庁が是正命令を出し、それに従わなかった場合には罰則
(2年以下の懲役又は300万円以下の罰金)が科せられる仕組みとなっている。士業は除かれたものの、全国で五十万近い事業所がこの対象になると言われており、極めて広範な監視体制が作られることになる。
 これは、犯罪取締りの「民営化」であるとともに、「国民総スパイ化」を目指すものであり、市民を相互監視させる世の中を作ろうとする動きと評することができる。

 これ以外に、刑事法としては、前に指摘した犯罪被害者やその遺族が刑事裁判に直接参加する被害者参加制度を盛り込んだ「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」や自動車事故について、業務上過失致死傷罪
(法定刑の上限5年)から自動車運転による致死傷の類型を抜き出して自動車運転致死傷罪を新設する(法定刑の上限を7年に重罰化)等の「刑法の一部を改正する法律案」も、3月13日に国会に上程されている。

 さらに、裁判員制度について、複数の事件について、事件毎に区分して、裁判官は一貫して替わらないが、裁判員は事件毎に任務を終了して新たな裁判員を選任して審理し、有罪か無罪かだけを判決
(部分判決)し、最後の事件の審理の際に、その事件の有罪・無罪の別と全ての事件の量刑を行うという区分審理の制度の新設を提案する「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律等の一部を改正する法律案」も3月13日に国会に上程されている。これは、裁判官と裁判員との間で圧倒的な情報の格差を生じることを是認し、裁判員が単なる「お飾り」であることを認めるという意味において、裁判員制度の本質を明らかにする改正案である。

 これらの刑事法は、いずれも、現在の刑事裁判を大きく変えようとするものであるにもかかわらず、ほとんど国民の知らない間に拙速の審議で可決されようとしているのである。

 そして、最も問題がある法案は、いわゆる
国民投票法案(日本国憲法の改正手続に関する法律案)であり、与党議員による議員立法の形で、1月25日に国会に上程されている。
 3月22日以降、与党が強行して、地方公聴会と中央公聴会が矢継ぎ早に設定し、早ければ4月12日の衆議院憲法調査特別委員会で与党による強行採決を虎視眈々と狙っていると言われている。

 
国民投票法案は、憲法改正手続のための手続法だけでなく、憲法審査会を国会閉会中も常時設置して改憲作業を行うことを定めた法案であり、まさに憲法改正を一気に進めるための法案であり、安倍総理の直々の支持で与党が強行採決をしようとしていると伝えられている。自分の任期中に憲法改正を実現しようとする安倍首相の強権的な側面が明らかになりつつある。

 これ以外にも、様々な問題法案が今通常国会には次々上程されている。今通常国会は、最近の国会の中でも珍しい問題法案の上程ラッシュであり、安倍内閣の本性を現している。後半国会は、与党による強行採決の連続で、国会は大荒れになることが予想されるが、今こそ、問題法案との対決を強めて、その成立を阻止する闘いを組織することが求められている。

(2007年3月25日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年4月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。


刑事裁判に犯罪被害者や遺族を直接参加させる被害者参加制度について考える

 2004年12月に成立した犯罪被害者等基本法18条は、「国及び地方公共団体は、犯罪被害者等がその被害に係る刑事に関する手続に適切に関与することができるようにするため、刑事に関する手続の進捗状況等に関する情報の提供、刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等必要な施策を講ずるものとする。」と規定しており、同法8条に基づいて策定された犯罪被害者等基本計画においては、「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度の検討及び施策の実施」が挙げられていた。

 法務省は、これを受けて、犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度を検討の上、法務大臣が2006年9月6日に法制審議会総会に、「犯罪被害者等基本法の趣旨及び目的にかんがみ、刑事手続において、犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るため、早急に法整備を行う必要があると思われるので、左記の事項に関して、その整備要綱の骨子を示されたい」と諮問していた(諮問第80号)

 これを受けて、法制審議会刑事法(犯罪被害者関係)部会は計8回の審議を行い、2007年1月30日、犯罪被害者やその遺族が、刑事裁判に出廷し、直接に被告人や証人に質問し、検察官とは別に、求刑の意見を述べる権利を認める被害者参加制度などを導入する要綱をまとめた。

 2007年2月7日に開催された法制審議会総会において、その要綱を採択し、法務大臣に答申した。法務省では立法作業を進め、政府は2007年3月までにに刑事訴訟法改正案を上程し、今通常国会での成立を目指す方針であると伝えられている。

 法制審議会が答申した「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度」は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制わいせつ及び強姦の罪、業務上過失致死傷等の罪、逮捕及び監禁の罪並びに略取、誘拐及び人身売買の罪等の被害者等からの申し出を受けて裁判所が許可した者(これを「被害者参加人」と呼ぶ)は、公判期日に出席すること、証人尋問をすること(但し、弁護側の情状証人に対する反対尋問に限られる)、直接に被告人質問をすること、検察官の論告求刑の後に、被害者等として意見陳述及び求刑をすることでできるというもので、これらを総称して「被害者参加制度」と呼ぶことにしている。

 そもそも、現行の刑事訴訟法は、訴追側である検察官と、防御側の被告人・弁護人を当事者と定め、双方に攻撃・防禦をさせた上で、公平な第三者である裁判所が公訴事実の有無を判断するという当事者主義システムを採用している。この枠組みにおいては、犯罪被害者等は、あくまでも、目撃状況や被害感情を証言する証人としての立場でしか参加することができなかった。

 それに対する犯罪被害者等の不満が高まり、犯罪被害者等の強い要望を踏まえて、2000年に犯罪被害者保護関連二法が成立し、記録の閲覧謄写や犯罪被害者等の意見陳述が認められて運用されている。

 ところが、犯罪被害者の中でも最も強く刑事裁判手続への参加を求めてきた全国犯罪被害者の会(あすの会)は、この内容に満足せず、全国的な署名運動を実施するなどして陳述し、自民党への働きかけを強めた結果、犯罪被害者等基本法が成立し、その流れの中で、今回の法制審議会の答申が行われたものである。

 今回の法制審議会の審議に対しても、全国犯罪被害者の会からの働きかけを受けた自民党筋からの強く圧力があったと言われており、法務省も当初予想していた以上に犯罪被害者等の権限を拡大する内容になってしまったと言われており、極めて政治的な動きの中で、今回の立法提案がなされようとしているのである。

 しかしながら、そもそも、訴訟当事者でない犯罪被害者等(特に遺族は事件の当事者ですらない)が、刑事裁判に出廷して、検察官の横に座って、証人尋問や被告人質問や論告に代わる意見陳述や求刑などの訴訟活動を行うことが認められる根拠は極めて曖昧であり、政策的に認めたとしか言う他ない。

 そして、何よりも、犯罪被害者等を刑事裁判に参加させることによって、刑事法廷に犯罪被害者等の「怒り」を持ち込むことを許容し、その「闘いの場」となることを許容することになり、「怒り」の報復の連鎖を断ち切ろうとした近代的な刑事訴訟手続のあり方を大きく変質させてしまうものである。

 さすがに、今回答申された要綱については、読売新聞や産経新聞などの保守系の新聞を含めて、全ての新聞各紙が、その社説において、その弊害のおそれを理由に国会での慎重な審議を求めている。

 欧米と比較して、日本の刑事事件の被告人の防御権が必ずしも十分に保障されておらず、99.9%の有罪率という異常な刑事裁判の現状を踏まえると、犯罪被害者等が刑事裁判に参加して各種の訴訟行為を行った場合には、ますます有罪率が高まるとともに、厳しい重罰化が一層進むことは必定である。

 周防正行監督の「それでもボクはやってない」は、現在の日本の刑事裁判がいかに非科学的であり不条理であるかを、私たち市民に対して余すところなく示してくれた。我が国において、まず行うべきは国際的に見ると誰も信じられないような刑事裁判を改革し、被告人の防御権を実質的に保障することである。犯罪被害者等に対しても、まず行うべきは、国家による犯罪被害者等に対する経済的・精神的ケアの充実である。

 「安上がりな刑事政策」として、犯罪被害者等を刑事裁判に参加させて、その怒りや不満を被告人だけに向けて「怒る」を煽るような制度を作るべきではない。

 私たちは、この制度が、国家が不満の的にならないように、お互いに市民である被害者と加害者を直接に戦わせようとするものであるという本質を見抜き、反対の声を挙げなければならない。

(2007年2月25日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年3月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

密告を強制する犯罪収益移転防止法案の国会上程が迫っている

 警察庁が主管して立案された「犯罪による収益の移転防止に関する法律案」が、2月上旬にも閣議決定を経て国会に提出される運びとなっており、政府は「日切れ法案」扱いで、3月末までの成立を目指そうとしている。

 この法案は、これまで金融機関に対して、組織犯罪処罰法及び本人確認法によって課せられていた本人確認義務、記録保存義務及びマネー・ロンダリングの疑いのある取引の報告義務を、金融機関以外のリース業、宅建業者、貴金属商、私書箱業、さらには法律会計の専門家である弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士に適用しようとするものである。

 この法案の第1条に掲げられる目的には、「犯罪による収益の移転防止を図り、併せてテロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約等の的確な実施を確保し、もって国民生活の安全と平穏を確保するとともに、経済活動の健全な発展に寄与すること」を掲げており、テロ対策が大きな目的として掲げられていることが分かる。

 もともと、この法案は、2004年12月に政府が策定した「テロの未然防止に関する行動計画」において、テロ対策のために、FATFの「四〇の勧告」を完全実施する目標を掲げていたことが実行されたものであり、元々、テロ対策という側面が強かった。

 ところで、この法案の最大の特徴は、マネー・ロンダリング及びテロ資金の疑いがある取引を行政庁に届け出なければならないという届出義務を課すとともに、疑わしい取引の報告を行おうとすること又は行ったことを顧客又はその関係者に漏らしてはならない(内報の禁止)にある。すなわち、行政庁への届出は「密告」としてなされなければならないのである。

 既に、金融機関においては、年間1万件以上、この疑わしい取引の届け出がなされていると言われている。これが、今回、市民にとってより身近な業者に広げられるとともに、弁護士等の法律会計の専門家(ゲートキーパーと呼ばれる)にも拡大されている。

 特に、法律会計の専門家である私弁護士にも拡大されようとしている点については、日本弁護士連合会は兼ねてから強く反対してきた。これまで、依頼者から聞いた話は全て守秘義務の範囲に入るものとして秘密にされてきたが、今回の法案によると、一部の内容が密告の対象となる可能性がある。弁護士の場合には監督官庁が存在しないことから、行政庁への報告ではなく、直接、警察庁(国家公安委員会)への届け出となってしまうため、依頼者の秘密を、よりによって警察へ売り渡すことになる。それは、弁護士が、警察の手先であり、スパイとなることを強要されることを意味するのである。
 警察庁は、今回の法案で、弁護士の疑わしい取引の届出等については、日本弁護士連合会に対して届け出ること等を同連合会の会則で定めるという形で規定しており、直接法律で定めるのではなく、弁護士会の自治に委ねたような形式をとっている。しかしながら、その内容については、それ以外の法律会計の専門家に関する規定の例の準じて定める旨が決められており、弁護士会が会則で定めることができる内容がほぼ一義的に決められており、弁護士自治を尊重したと言えるかは疑問である。

 この法案は、金融機関から、それ以外の職種及び法律会計の専門家に対して、新たに密告義務を拡大しようとしている。これが一旦認められれば、今後、機会がある度に、この範囲はさらに広げられていく可能性がある。将来的には、全ての国民に対して、違法な行為の疑いがあれば密告義務が課されるようになる可能性がある。

 市民に対して犯罪に関する密告義務を課すというやり方は、「国民総スパイ化」を目指すものであり、市民を相互監視させる世の中を作ろうとする動きである。それは、市民をお互いに疑心暗鬼にし、市民の連帯を妨げ、国家権力による支配をより強固なものにする。

 「いつでも戦争できる国」を目指す安倍政権は、今通常国会での共謀罪法案の成立を目指すことを標榜している。この法案も同じ方向を目指している。市民を支配・統合し、異端を排除しようとするこの法案に対して、私たちは強く反対していかなければならない。
(2006年1月29日記)

*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年2月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

臨時国会が終わり来年の通常国会を迎えるに当たって

 2006年12月19日、秋から始まった臨時国会がようやく閉会した。この臨時国会の最大の焦点は、言うまでもなく、教育基本法改正案であった。小泉首相から引き継いだ安倍首相の下での最初の国会であったが、安倍政権は、戦後民主主義への挑戦として、教育基本法改正案を臨時国会で可決して、憲法改正への流れを一気に作ろうとしていた。

 審議の途中では、「いじめ」自殺が多発したり、全国の多数の高校で、単位偽装問題が発覚したり、教育改革に関するタウン・ミーティングが「やらせ」であったことが明らかになるなど、次から次へと、教育基本法改正より前になすべきことが山積していたにもかかわらず、安倍政権は、とにかく教育基本法改正案の可決に血道を上げた。

 昨年11月15日、衆議院教育基本法特別委員会において、与党は、野党の委員が欠席する中で、政府の教育基本法改正案を与党単独で強行採決した。翌11月16日、衆議院本会議を召集して、野党議員が抗議して欠席する中で、与党単独で強行採決を行い、衆議院を通過させた。

 同年12月14日、参議院教育基本法特別委員会において、野党も出席している審議の場で強行採決が行われ、同年12月15日、参議院本会議でも、与党多数で可決されて、教育基本法改正案が成立してしまった。

 政府の教育基本法改正案は、「愛国心」教育を正当化するという点で問題があることは当然として、その最大の問題は、法律の根拠に基づきさえすれば、国家や教育行政が、現場の教育に対して介入することが「不当な支配」に当たらないとされたことである。

 旧教育基本法10条1項は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。」と規定していたが、改正案一六条一項は、「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであ(る)」と規定して、「この法律及び他の法律の定め」が「不当な支配」から除外されたのである。

 これにより、今後、国家や都道府県が、法律や条例を制定することによって、教育に介入することが常態化することだろう。特に、当面は、全国各地で学校現場で、「日の丸・君が代」の掲揚・斉唱を法律等で義務づけるられるようになるだろう。

 このような意味において、今回の教育基本法改正は、戦後の民主主義体制それ自体を転覆しようとする「クーデター」を企図するに等しい内容をもっていたのである。

 ただ、国会周辺での反対運動は非常に盛り上がったことは確かであるが、教育基本法改正案の内容がほとんど国民に知られないまま成立してしまったのである。

 また、臨時国会では、同年11月30日に、防衛庁の省昇格関連法案が衆院本会議で与党多数で可決され、同年12月15日の参議院本会議において与党多数で可決されて成立した。

 同法案は、単なる防衛庁から防衛省への「看板」の掛けかけだけを内容とするものではなく、関連法案の中にある自衛隊法改正案によって、自衛隊の「海外派兵」が「本来任務」となることになっている。

 これによって、自衛隊は、名実共に「軍隊」となることが確実となった。すなわち、憲法9条2項が、「(前項の目的を達するため)陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」として軍隊を持つことを禁止しているにもかかわらず、憲法改正を先取りして、自衛隊法改正によって、自衛隊を、いつでも「海外派兵」可能な軍隊と位置付けようとしているのである。

 これによって、アメリカが戦争を仕掛けた国に、日本の自衛隊を海外派兵することを可能とするものであり、日本が「いつでも戦争できる国」になるための第一歩となったのである。

 ちなみに、今年の通常国会には、いつでも自衛隊を恒久的に海外派兵できる根拠となる法案が提出される予定となっており、着々と、憲法九条の改正を先取りする動きが続くことになる。

 憲法改正のための国民投票法案は臨時国会で成立しなかったが、安倍内閣は、来年の通常国会での成立を目指している。

 このように、昨年の臨時国会では、次々と戦後民主主義を否定するような悪法が成立し、憲法改正に向けて着々と包囲網を形成しているのである。

 臨時国会で唯一朗報と言えたのは、共謀罪法案が、衆議院法務委員会において審議入りすらせずに継続審議となったことであった。

 臨時国会において、衆議院法務委員会では、信託法改正案と少年法改正案と共謀罪法案の3つの法案しかなかったにもかかわらず、与党は信託法改正案を可決した後、共謀罪法案の審議入りを執拗に求めたが、国会の外での圧倒的な市民による反対と野党の頑張りによって、結局、会期末まで、実質審議入りすることなく終わった。そのため、最後の約3週間は、衆議院法務委員会は全く空転状態となり、極めて異例の展開であった。

 来年の通常国会は2007年1月25日に召集される予定であるが、また激しく長い闘いになりそうである。しかも、その後には参議院選挙も控えている。共謀罪法案については、今年の通常国会の早い段階で、与党は強行採決を仕掛けてくるだろう。

 来年1年も、最後まで気を抜かずに、安倍内閣が進める戦後民主主義の否定と憲法改正の野望を打ち砕くために頑張っていきたい。
(2006年12月22日記)

*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2007年1月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

疑わしい取引の報告義務を弁護士に課そうとする犯罪収益流通防止法案の危険性

 いわゆる組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)第54条は、金融機関に対してマネーロンダリング(資金洗浄)の疑いのある取引を報告する義務を課すとともに、いわゆる本人確認法(金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律)は、金融機関に対して、取引をする者の身元確認義務と取引記録の保存義務を課している。

 2007年1月4日から、ATMを利用した10万円を超える現金送金はできなくなることが告知されているが、それは本人確認法施行令及び施行規則の改正に伴うものであり、マネー・ロンダリング対策及びテロ対策を理由とするものである。

 ところで、この規制を、金融機関以外にも大きく拡大するための法律として、現在、警察庁によって、犯罪収益流通防止法案(仮称)が準備されており、来年の通常国会に提出される予定である。

 ここでは、不動産業、クレジット・カード業、ファイナンス・リース業、宝石商・貴金属商、宝石商、私書箱業などの他、法律・会計専門家として、弁護士、税理士、公認会計士、行政書士、司法書士なども対象となる予定である。

 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、かねてから、この制度は、依頼者の秘密を警察に密告させる制度であるとして、強く反対の姿勢を示し、弁護士に関する規制を法案に盛り込まないように求めてきた。

 2006年10月、警察庁は日弁連に対して、犯罪収益流通防止法案のうち、弁護士に関する法案の骨子を提案した。
 その内容は、弁護士についても、本人確認、取引記録の保存及び疑わしい取引の届出の措置を講ずる責務を有することを前提に、(1)弁護士が講ずべき措置の内容については、他の法律・会計専門家の例に準じて日弁連の会則により定める、(2)弁護士による疑わしい取引の届出は日弁連に対し行う、(3)政府と日弁連とは、犯罪収益等の流通に関し相互に協力しなければならないことなどである。
 日弁連は、直ちに、この提案を受け入れることはできないと決定して、反対の姿勢を鮮明にしている。

 この提案によっても弁護士が日弁連に対して届け出た依頼者に関する秘密情報については、日弁連がこれを審査して、守秘義務の範囲外であると判断した場合には、その情報は国家公安委員会(警察庁)に対して通知しなければならないことになるが、そうなれば、結局、依頼者に関する一定の秘密情報が、弁護士から日弁連を通して国家公安委員会(警察庁)へと流れるルートが確保されることになり、依頼者の秘密は完全には守られないことになる。

 しかも、この場合、弁護士自らが、依頼者の秘密情報を国家公安委員会(警察庁)へと流すことになる。
そもそも、弁護士は、犯罪を犯したとされる被疑者・被告人を弁護することを職務としており、弁護士を信頼して依頼者からもたらされた秘密情報を、依頼者に内密に捜査機関に通報することは、弁護士に期待されている職務と本質的に相容れない。

 犯罪収益流通防止法案では、守秘義務の範囲内であれば、依頼者の秘密情報を日弁連の届け出る必要はないこととされる予定であるが、依頼者である市民にとっては、守秘義務の範囲内かどうかを自ら判断することは極めて困難である。

 そのため、依頼者である市民は、常に、弁護士に提供した秘密情報が、捜査機関に対して内密に通報されているかもしれないとの懸念を抱かざるを得なくなる。

 これでは、依頼者は弁護士に対して、全面的に信頼を寄せることは困難となり、弁護士と依頼者との間の信頼関係を構築すること自体が難しくなってしまい、弁護士制度の存在意義を危うくせざるを得ない

 弁護士の守秘義務の範囲内については報告義務が除外されていることから、そもそも、この制度によってマネー・ロンダリング対策やテロ対策にとって有益な情報が寄せられる可能性は極めて低い。
 それにもかかわらず、警察庁が、犯罪収益流通防止法案の制定を進めようとしており、その規制対象に弁護士も含めようとしているのは、国際機関であるFATF(金融作業部会)の勧告という外圧を利用して、市民と弁護士との分断を企図していると見るべきである。

 つまり、市民に対して、弁護士が権力の手先であり、「番犬」であるかのようなイメージを作りあげることによって、市民を弁護士から引き離し、孤立化されることを狙っているとしか考えられない。

 警察庁は、今回の提案について、弁護士自治を尊重し、「世界に類を見ない弁護士自治スキーム」と呼んで自画自賛している。
 読売新聞や産経新聞も、警察庁の提案を支持し、日弁連を非難する社説を掲載している。

 しかしながら、今回の警察庁の提案は、犯罪収益流通防止法案の中で、日弁連が定めるべき会規の内容を決める予定であり、日弁連はその内容に従った会規を作る以外の選択を認めないつもりである。いわば、自分で、自分の「首」を締めろと言っているに等しい。ところが、警察庁はマスコミを動員し、さらには国会議員にも圧倒的な物量作戦で説得して、この提案を推し進めようとしているのである。

 依頼者となるべき市民としては、この問題を単に弁護士の側の問題と捉えるのではなく、自分たちが弁護士にアクセスする権利が侵害されようとしていると考える必要がある。

 犯罪収益流通防止法案は、それだけではなく、前述したとおり、弁護士以外の法律・会計専門家や、市民の日常生活で広い接点のある金融機関や、それ以外の業者に対しても疑わしい取引の届出義務を課そうとしており、それらを通じて、私たち市民の秘密情報が国家公安委員会(警察庁)に対して流れる仕組みが作られようとしている。

 私たちは、私たち自身に関する秘密情報が国家公安委員会(警察庁)に集約され、監視される仕組みが作られて、市民としての権利が制限されようとしており、市民としての立場から、来年の通常国会に上程される予定の犯罪収益流通防止法案に強く反対していかなければならない。

(2006年12月1日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年12月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

臨時国会における共謀罪法案の動向について

 秋の臨時国会が始まった。臨時国会召集前後から、共謀罪法案については「先送り」との一部報道もなされていた。

 本年10月18日に、日本弁護士連合会が主催した市民集会「共謀罪と弁護士の警察に対する依頼者密告制度−犯罪対策と人権のバランスを考える−」において(参加者は約150名)、民主党の平岡秀夫・衆議院議員と社民党の保坂展人・衆議院議員から、それぞれ国会情勢が報告されたが、その席で、2人から、翌週の火曜日(10月24日)に、共謀罪法案が審議入りする可能性が示唆された。

 今年の通常国会において、与党側は、3度の強行採決を画策したが、いずれも、野党の強い反対と市民からの圧倒的な反対の声の前に、最後まで強行採決をすることはできなかった。したがって、与党が今臨時国会において審議入りするとしたら、即日に強行採決するしかないと考えられた。

 そのため、10月19日以降、その情報がインターネットなどを通じて一斉に流され、強行採決に反対する声が上がり始めた。

 実際にも、衆議院法務委員会の現場では、与党が、10月24日に共謀罪法案を審議入りして、短時間の審議を行った後で、即日に強行採決するシナリオが準備されていたことが判明している。ただ、そのシナリオは、国対レベルで一旦白紙になったようである。

 そのような状況の中で、10月22日に実施された衆議院議員補欠選挙で2勝した自民党は、本来であれば、強気で国会運営をすると思われた。

 ところが、10月23日には、新聞やテレビで、与党が今臨時国会での共謀罪法案の成立を断念したとの報道が一斉になされた。

 これは、前の週から、10月24日の審議入り即強行採決のシナリオが暴露され、野党や多くの市民からも圧倒的な反対の声が国会に届いていたことも大きく影響したと思われる。

 また、民主党が大きく方針転換し、共謀罪自体を法案から削除することを求め、これまでの与党との修正協議の席から完全に降りて、対決法案の姿勢を強めたことも関係があったと考えられる。

 そのため、与党側では、共謀罪法案を強行採決した場合、国会が空転し、教育基本法改正案など他の優先法案に対しても大きな悪影響がでることは必至であると判断し、10月24日の審議入りを断念したものと考えられる。

 これを受けて、衆議院法務委員会では、10月24日から、信託法改正案の審議に入っている。ただ、この後には、少年法改正案共謀罪法案しかないから、今臨時国会で、共謀罪法案の審議入りする可能性を否定することはできない。

 そして、実際にも、与党は決して共謀罪法案の成立を断念した訳ではない。

 自民党は、これからも福島県知事選挙や沖縄県知事選などいくつかの重要な選挙を控えており、ここで居丈高になって、有権者からの反発を買って、これらの選挙で負けることを極度に恐れている。そのため、これらの選挙が終わるまでのしばらくの間、おとなしい姿勢を見せようとしているに過ぎないのである。

 つまり、共謀罪法案について、「死んだふり」をしようとして、反対する勢力や運動を封じ込めるのが、その狙いと考えるべきである。

 他方で、与党は、安倍首相が今臨時国会で成立を期している教育基本法改正案について、10月25日から審議入りするとともに、11月の連休前にも強行採決をして衆議院を追加させ、今臨時国会で成立させることに必死である。

 これ以外にも、今臨時国会では、防衛「省」昇格法案などいくつかの優先法案があり、与党としては、福島県知事選挙や沖縄県知事選などの動向を見極めながら、これらの優先法案を処理し、後半国会において、信託法改正案を可決した後、時期を見計らって、共謀罪法案の審議入りし、即日、強行採決するという奇襲戦法でやってくると考えなければならない。

 いずれにしても、与党による「死んだふり」を真に受けて、反対運動の手を緩めては、まさに相手の思うつぼである。
 まずは、教育基本法改正案をめぐる与党側の攻勢があり、その後、後半国会に向けて、まだまだ油断できない情勢が継続するだろう。緊張感を保ちつつ、共謀罪法案に対する反対の声を上げ続けていきたい。

(2006年10月26日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年11月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

臨時国会が最大の山場となる共謀罪法案の廃案に向けて

 共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「共謀罪法案」という)は、2006年1月に召集されていた第164回通常国会では、野党共闘と圧倒的な市民からの反対の声を前に、与党は何度も強行採決を企図したが、最後まで実行することができず、最終的に秋の臨時国会への継続審議となっている。

 第165臨時国会は、2006年9月26日に召集され、同日、安倍晋三首相による安倍政権が発足した。

 安倍首相は、首相に任命される前の九月三日、盛岡市内で開かれた自民党東北ブロック大会において、秋の臨時国会において共謀罪法案の成立を目指す考えを表明したと報道されていたが、安倍首相に近い考えを持つと言われる長勢甚遠氏が法務大臣に任命され、就任直後の記者会見で、共謀罪法案について、「与党とよく相談しながら早期の成立に全力を挙げたい」と意欲を見せたと報道されている。

 安倍首相が憲法改正も具体的に視野に入れていることと併せ考えると、与党は、今臨時国会での共謀罪法案の強行採決を目指す可能性は極めて高いと考える必要がある。

法務大臣には、安倍首相に近い考えを持つと言われる長勢甚遠氏が任命された。安倍首相は、首相に任命される前の2006年9月3日、盛岡市内で開かれた
自民党東北ブロック大会において、秋の臨時国会において共謀罪法案の成立を目指す考えを表明したと報道されている。

 安倍首相が
憲法改正も具体的に視野に入れていることを考えると、与党は、今臨時国会での共謀罪法案の可決を目指す可能性は極めて高いと考える必要がある。

 その意味で、
今秋の臨時国会は、共謀罪法案の成否をめぐる最大の山場であり、決戦の場となることを覚悟して早急に闘いのための準備を進めなければならない

 ところで、通常国会の終わり頃から、国連の越境組織犯罪防止条約を批准するため、果たして政府が提案しているような600以上もの共謀罪を新設する必要があるのかが問題となっている。

 法務省はかねてから、日本国内には、共謀罪を作らなければならないような
立法事実がないことを認めながら、条約を批准するためには共謀罪を新設することが必要であると説明してきた。

 国連が、2004年に、各国の国内法起草者向けに作成した「
立法ガイド」では、「国内法の起草者は,単に条約文を翻訳したり,条約の文言を一字一句逐語的に新しい法律案や法改正案に盛り込むよう企図するよりも,むしろ条約の意味と精神に主眼を置くべきである。」、「国内法の起草者は,新しい法が国内の法的な伝統,原則,および基本法と合致するものとなることを確保しなければならない。」と述べて、各国の基本原則に従って国内法整備がされれば良く、条約の文言にこだわってそのまま国内法を制定する必要がないことが強調されている。

 この指針に従えば、
我が国の刑事法の体系が,犯罪の処罰については、「既遂」を原則とし,必要な場合に限って「未遂」を処罰するとともに,ごく例外的な場合に極めて重大な犯罪に限って着手以前の「予備」を処罰しており、法益の侵害又はその危険性が生じて初めて,事後的に国家権力を発動することができるという自由主義的な刑事司法システムをとっていることは、まさに、この「国内法の基本原則」に当たると言うべきである。

 そうであれば、越境組織犯罪防止条約を批准するためであっても、
国内法の基本原則に反する600以上もの共謀罪を新設する必要は全くないと言わなければならない。

 ところで、この「立法ガイド」は、共謀罪についての政府案ができた後に公表されているから、日本政府としては、それを知らなかったという言い訳をすることが考えられる。しかしながら、日本政府が越境組織犯罪防止条約起草のためのアドホック委員会
(199年3月8日から12日に開催)に対して提出した意見書においては、「日本の国内法の原則では、共謀や参加については、特に重大な犯罪に限定して処罰される。したがって、全ての重大な犯罪について、共謀罪や参加罪を導入することは日本の法原則になじまない。」などと主張するとともに、条約の原案が英米法系の共謀罪と大陸法系の参加罪しか規定していないことを批判して、「他の法制度を持っている国でも受け入れられるようにしなければならない」として、第3のオプション(限定された参加罪)を提案していたのである。

 これを今から見れば、その主張は、「立法ガイド」の主張と酷似して極めて抑制的であり、その頃は、日本政府としては、条約批准のために新たな法制度を新設するのではなく、既存の法制度そのままで批准しようとしていたことが窺えるのである。

 今夏、日本弁護士連合会の国際室が、国連の越境組織犯罪防止条約を批准した国が、国連薬物犯罪事務所
(UNODC)や国連事務総長宛てに提出された報告書などを分析したところ、ほとんどの国が、既存の法律で条約の要請を満たしているとして、新たに立法措置をとらないか、ちょっとした法改正で対応していると考えられ、日本のように600以上もの共謀罪を新設したような国は他にはないことが判明した。

 政府は、条約批准のために新たに法整備をした国として、
ノルウェー1カ国だけを挙げているが、実際にも、それ以外に、そのような法整備をした国は見つからないのが真実のようである。

 通常国会の最終日である2006年6月16日、
衆議院法務委員会において、与党は、野党の反対を押し切り、議事録に、共謀罪法案に対する与党の「修正試案」を添付することを決めている。
 これは民主党の修正案をある程度取り込んだ上で、与党としてのぎりぎりの妥協点を示したものと受け取ることができる。

 逆に言えば、与党としては、この「修正試案」を超えて、共謀罪法案を修正しようという考えはなく、臨時国会においては、衆議院法務委員会の2006年10月上旬ころからの審議の冒頭に、この修正案を提案した上で、強行採決することを狙ってくる可能性が高い。

 野党は足並みを揃えて、臨時国会で、共謀罪法案の採決を阻止することを合意している。私たち市民は、再び反対の声を挙げ、与党議員を震え上がらせるような激しく熱い市民の怒りを国会に集中する必要がある。

 「いつでも戦争できる国」を作ることを目標に掲げた安倍政権にとって、共謀罪法案の可決は必須の前提条件であると考えられる。日本をそのような国にしないためにも、臨時国会での共謀罪法案の可決を阻止し、廃案にするために全力で闘うことを誓い合いたい。
(2006年9月27日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年9月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

犯罪被害者の刑事訴訟手続への参加について考える

 法務省は2006年9月日に開かれる法制審議会総会において、犯罪被害者の刑事訴訟手続への参加について諮問することを予定している。報道等によると、その中でも特に注目すべきものとして、以下の3点についての新設が諮問される見込みである。

 まず、犯罪被害者が裁判所に申し出たら、終始法廷に在廷できる
(検察官の横に座ることが想定されているようである)という在廷権である。

 次に、現在、犯罪被害者には意見陳述する機会が与えられているが
(2000年に成立した犯罪被害者保護関連二法によって認められている)、その意見陳述のために必要な事項について被告人に直接発問する機会を与える発問権である。

 最後に、犯罪被害者が、刑事訴訟において、起訴状に記載された訴因において特定された事実を原因とする不法行為の損害賠償を求めて、刑事判決が出た後、3回程度の審理
(口頭弁論又は審尋)を行って、損害賠償に関する民事判決を言い渡す附帯私訴制度(被害回復命令申立制度)である。

 いずれも、犯罪被害者を刑事訴訟手続に参加させる大胆な制度改革を意図している。

 2004年に成立した
犯罪被害者等基本法12条は、「国及び地方公共団体は、犯罪等による被害に係る損害賠償の請求の適切かつ円滑な実現を図るため、犯罪被害者等の行う損害賠償の請求についての援助、当該損害賠償の請求についてその被害に係る刑事に関する手続との有機的な連携を図るための制度の拡充等必要な施策を講ずるものとする。」と規定するとともに、同法18条は「国及び地方公共団体は、犯罪被害者等がその被害に係る刑事に関する手続に適切に関与することができるようにするため、刑事に関する手続の進捗状況等に関する情報の提供、刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等必要な施策を講ずるものとする。」とそれぞれ規定している。これを受けて政府が策定した「犯罪被害者等基本計画」において、「損害賠償請求に関し刑事手続の成果を利用する制度を新たに導入する方向での検討及び施策の実施」と「犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することができる制度の検討及び施策の実施」が挙げられていた。これを受けて、今回の諮問に至ったものである。

 今回の提案は、本来、刑事訴訟の当事者でない犯罪被害者が、刑事法廷に在廷できたり、被告人に対する発問という訴訟行為を行うことを認めている。その法的根拠は曖昧である。法務省は、同時に附帯私訴制度を導入して、犯罪被害者に対して民事訴訟の当事者という地位を与えることで何とか整合性を図ろうとしているが、いかにも姑息である。しかしながら、犯罪被害者に民事訴訟の原告
(申立人)という地位を与えることによって、刑事訴訟に民事の争いを持ち込むことを認めることになる。

 その結果、刑事訴訟は、刑事裁判官が冷静かつ公平に犯罪事実の有無と程度を判断する場から、犯罪被害者と被告人との「闘いの場」に大きく変化することを認めることになる。最近では、被告人と犯罪被害者との関係を二項対立の対立構造として捉える見方が広がっているが、この傾向がますます増幅することになる。

 マスコミは、これまで以上に、被告人と犯罪被害者との対立構造を面白おかしく取り上げ、法廷での被告人の一挙手一投足をあげつらって、被告人を非難することになることが強く予想される。

 そして、被告人は、法廷に常にいる犯罪被害者からの威圧を受けて、その防御活動が萎縮させられ、言いたいことが言えなくなる可能性が高くなる。弁護人も、犯罪被害者からの非難を恐れて「被害者の落ち度」などを主張することが困難になることも予想される
(現在行われている犯罪被害者による意見陳述も弁護活動に大きな影響を与えていると報告されている)

 今回提案されている附帯私訴制度は、これまでイメージされていた制度とは異なり、刑事判決が言い渡された後に、損害の有無・損害額について犯罪被害者
(申立人)に立証させ、それを踏まえて、刑事判決をした刑事裁判官が民事の決定をするというものである。

 しかしながら、損害の主張立証が困難な事案については犯罪被害者に重い負担を課すし、3回以上の審理を要する場合には民事裁判所に移送されてしまうし、決定に対して双方の当事者が異議を申し出れば民事裁判所に移送されることになっているから、犯罪被害者にとってこの制度が有効に利用できる範囲は著しく限定されている。

 被告人にとっても、刑事判決が出た後は、特に国選弁護人だった場合には、経済的理由によって新たに民事訴訟の訴訟代理人を選任できない場合が多いと考えられるが、刑事について有罪判決が出されて拘置所に収容されている場合にはそもそも損害に関する審理にほとんど出頭できないと考えられるから、
裁判を受ける権利が侵害されるおそれがある。

 このように、犯罪被害者の刑事訴訟手続への参加は、現在の刑事訴訟のあり方を根本的に変えてしまうものである。

 現在においても、我が国の刑事訴訟手続は、被告人の権利保障が極めて不十分であり、99.9%の有罪率であるという現状をそのままにして、犯罪被害者を刑事訴訟手続に参加させることは、被告人の権利保障をさらに弱める方向に働くことが必至であるから、このような制度の導入には強く反対したい。

(2006年9月2日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年9月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。


裁判員裁判実施を前にして弁護人による情報開示について考える

 2005年12月に広島県で発生した女児殺害事件について、接見を終えたばかりの弁護人が広島県海田警察署前で、テレビを含めた多くのマスコミの前で、「悪魔が自分の中に入ってきた」という衝撃的な言葉など、その日の被疑者との接見内容を詳細に伝えるものであった。

 その後、弁護人は、被疑者本人に十分に確認した上で発表して欲しいという内容だけを公表しているし、一方的な警察報道に対して被疑者の反論権を保障することが必要であるなどとして、その公表は正当であると説明している。

 この事件は、その後、2005年11月から施行された改正刑事訴訟法に基づいて公判前整理手続が実施された後、連日開廷による刑事裁判が行われ、広島地方裁判所は、2006年7月4日、死刑求刑を受けていた被告人に対して、早々と無期懲役判決を言い渡している(弁護側・検察側の双方が控訴中)

 この事件での弁護人によるマスコミへの情報開示が、弁護活動として果たして正当であったかどうかは慎重に検証される必要があると考えられる(武井康年「弁護人のマスコミ対応−広島女児殺害事件を題材に」季刊刑事弁護47号98頁以下参照)

 2005年5月に発生した秋田県で発生した男児殺害事件に関して、弁護人は、県警記者クラブに対して「被疑者の供述・様子について発表するに当たっての誓約条件」と題する文書を送付し、(1)親族に取材しない、(2)親族の写真や声は取材済みの分も含め掲載・放送しない、(3)親族への取材は弁護士を通すという三点を弁護人の記者会見の条件とすることを申し入れた(朝日新聞2006年6月27日付朝刊メディア欄「取材制約ジレンマ 容疑者弁護士から情報積極開示」)

 県警記者クラブはこの条件を受け入れて、その後、弁護人の記者会見が既に何度も実施されており、その模様はテレビでも大きく報道されている。

 この事件の弁護人は、「真実を話したいという本人と話し合い、皆さんへの条件を詰めて守秘義務を解除した」と話しているという(前掲・朝日新聞記事による)

 このように、最近になって、重大事件において、弁護人が被疑者との接見内容をマスコミに公表する例が多く見られるようになってきた。しかも、弁護人の側では、意識的かつ積極的に公表しようとしており、これまで多くの弁護人が沈黙を守ってきたことに対抗して、問題提起しようとしていると考えられる。

 2009年から、市民が裁判員となって刑事裁判に参加する裁判員制度が開始される予定となっている。あと3年余りで始まろうとしている裁判員裁判を前に、弁護人による情報開示のあり方が改めて問われようとしている。

 マスコミ関係者からは、弁護人による情報開示を肯定的に受け止める見解が多いように思われる。それは、マスコミからすれば、報道すべき情報が増えるのであるから当然であろう。

 しかしながら、私は、事態が流動的で不安定な時期である捜査段階においては、被疑者との接見内容を公表することについては極めて慎重であるべきであると考える。

 身体をいわゆる「代用監獄」に拘束され、捜査機関による全人格的な支配を受け、厳しい取調べを受けている被疑者が、長くても1日に1時間程度の弁護人の接見をするだけの状況下で、自分の発言がマスコミに公表されることの是非についての冷静な判断を下すことができるとは到底考えられない。

 また、流動的な被疑者の供述を断片的に公表することによって、供述の変遷を積極的に明らかにすることが後の公判で不利益に判断される可能性もある。

 逆に、被疑者にとって有利な情報(例えば、アリバイの存在)を公表することによって、警察・検察によってアリバイ潰しが行われる可能性は極めて高い。

 このように考えると、最近の弁護人が情報公表に積極的なことに対しては強い疑問を呈さざるを得ない。

 しかも、これまで被疑者との接見内容は秘密であるとして守秘義務を理由にその秘密性を守ってきたのに、弁護人自らがその守秘義務を放棄してぺらぺらと話すようになったことによって、被疑者との秘密交通権それ自体が重大な危機に瀕していると言わなければならない。

 弁護人による情報開示によって、マスコミの報道はますます過熱化しており、刑事裁判が始まる前に、マスコミの「裁判」によって被疑者・被告人が断罪される傾向を強めることにもなりかねない。

 それは、裁判員制度の下での刑事裁判においても、裁判員として参加する市民に対して、被告人は有罪であるという偏見を植え付け、「推定無罪」の原則を崩壊させることになってしまうのである。

 そのような観点から、私は、最近の弁護人による情報開示の傾向に対しては、深く憂慮せざるを得ないし、市民からもそのような弁護活動に対して批判することが求められていると考える。

(2006年7月27日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年8月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

犯罪被害者によって変えられる司法制度について考える

 山口県光市で起きた母子殺害事件について、2006年6月20日、最高裁第三小法廷(浜田邦夫裁判長、退官のため上田豊三裁判長代読)は、第一審の無期懲役判決を支持していた広島高裁判決を破棄して差し戻す旨の判決を言い渡した。この結果、差し戻し後の裁判で死刑判決が言い渡される可能性が極めて高いことになった。

 この事件では、被告人が犯行時に18歳と30日であったことから、少年法が18歳未満の少年に対して死刑を禁止していることとの関係が問題となっていた。

 この事件の被害者遺族である男性は、事件発生直後から死刑判決を求め、死刑判決が出なければ自ら被告人を殺すとまで公言して厳罰を求めてきた。今回の最高裁判決は、その被害者遺族の声を受け入れる形で、従来の運用を事実上変更して、死刑判決の可能性を認めた。

 最近の犯罪被害者やその遺族による「被害者の権利」確立に向けた運動の勢いは、確実に司法制度に変化をもたらそうとしている。今回の最高裁判決も、その流れの中で捉える必要がある。

 2004年12月には犯罪被害者基本法が成立し、政府に対して、犯罪被害者のための具体的な施策の実施を要求しており、既にその施策に向けた具体的検討が始まっている。

 今通常国会では、2006年6月13日に、組織犯罪で奪われた財産(犯罪被害財産)を、国が犯人から没収・追徴して被害者に分配することができる被害回復給付金支給法組織犯罪処罰法改正案が成立した。

 そして、法務省は、2006年10月から始まる法制審議会に、刑事訴訟の法廷で被害者が被った損害の賠償に関する審理を同時に進め、有罪の場合は同じ裁判官が賠償命令も出す附帯私訴制度や、犯罪被害者やその遺族が刑事訴訟の法廷に在廷したり、被告人に質問する制度の導入について諮問し、年内にもその答申を得て、2007年の通常国会に刑事訴訟法改正案を提出する方針であると伝えられている。

 司法制度は、もはや被害者遺族の声を無視することはできなくなっている。その流れは、マスコミが被害者の声を大きく取り上げることによって、ますます増幅されている。

 しかしながら、我が国のように、元々、被疑者や被告人の権利自体がきちんと保障されていない国において、被害者やその遺族が刑事訴訟の法廷に登場することによって、被告人の権利の保障がますます危うくされる危険がある。

 犯罪被害者やその遺族に対しては、まず、国によって、手厚い経済的な支援と精神的なケアが提供されることが必要である。ところが、政府はこれまでそれを怠るとともに、今後も真剣にそれを行おうとしているようには見えない。刑事訴訟の法廷に犯罪被害者やその遺族を在廷させたり、附帯私訴制度を認めて、「安上がりな被害者対策」をしようとしているとしか考えられないのである。

 2005年11月から施行されている改正刑事訴訟法は、裁判員制度導入のためと称して、公判前整理手続、連日開廷、開示証拠の目的外使用の禁止などを新設した。

 これに引き続いて、犯罪被害者やその遺族のために、さらに刑事訴訟法が大きく変えられようとしている。その結果、被疑者・被告人の権利の保障がますます後退させられようとしているのである。

 私たちは、犯罪被害者やその遺族の支援の問題と司法制度への影響について、今一度、冷静に議論することが求められている。

(2006年6月30日記)

*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年7月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

共謀罪法案の今国会成立を阻止した民衆の力

 犯罪をすることの合意があるだけで処罰できるという共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「共謀罪法案」という)について、2006年4月21日に審議再開されて以来、何度も強行採決の可能性があるとして緊迫してきた。

 しかしながら、衆議院法務委員会の与党の理事レベルで強行採決が確認されていた同年5月19日、河野洋平衆院議長が自民党の細田博之、公明党の東順治両国対委員長と会談し、共謀罪について「マスコミの大関心事で、私も事態を心配している」と述べて慎重な対応を求めた結果、その日の採決は回避されることになった。

 その後、石原法務委員長から、法務委の理事会を開催の上、与野党各3名ずつの実務者会合を開きたいとの意向が示され、自民党、公明党と民主党による実務者会合が始まっている
(社民党は廃案を求めていることからこの実務者会合には参加していない)

 この実務者会合は何度か開かれているようであるが、逮捕の限定の可否、対象犯罪の限定、黙示の共謀の限定、共謀罪と既遂犯との二重処罰の禁止等が議題となっており、しばらく継続される見込みである。

 共謀罪法案については、今通常国会の会期が同年6月18日までであることから、既に現在の情勢からは参議院も含めて今国会での成立が難しくなっているが、最近では、教育基本法案の成立を期して大幅延長という噂も出ていた。

 ところが、同年5月30日、小泉首相が国会の延長を否定し、翌5月31日には、政府・与党は今通常国会の会期を延長しない方針を固め、共謀罪法案についての衆議院法務委員会での採決を見送り、継続審議として、秋の臨時国会での成立を目指す方針を決めたと報道されている。

 これによって、共謀罪法案が今国会で成立する見込みがなくなったことがほぼ確定したのである。

 元々、政府与党は、共謀罪法案を何としても今通常国会で成立させることを企図していた。これは、2005年12月にアメリカ合衆国も
国連越境組織犯罪防止条約を批准し、G8の中でも、同条約を批准していない国が少なくなってきた中で、政府としては何としても同条約を早期に批准することに迫られていたことによるものと思われる。

 しかしながら、共謀罪法案が審議再開され、最初に強行採決の可能性があるとされた4月29日前後から、新聞やテレビなどが共謀罪のことを頻繁に取り上げるようになり、その後もテレビやラジオが競ってこの問題を取り上げるようになった。

 また、個人が情報発信するブログにおいても、その頃から急速に共謀罪に反対する声が掲載されるようになり、やがて、ブログで爆発的に取り上げられるようになった。

 院内集会や院外での集会にも、これまで来たことがなかった普通の市民が、ブログに掲載された情報を頼りに参加するケースが増え、特に院内集会は開催するたびに立ち見が出る程の盛況ぶりであった。

 これまで、共謀罪は分かりにくいということからなかなか運動的な広がりを持つことができなかったが、ここに来て、マスメディアの力とブログの力が融合し、共謀罪新設反対の民衆の声がようやく国会審議を動かすまでになったと評価することができるだろう。

 とりわけ、昨年秋の「郵政解散」後の与党圧勝により、衆議院議員の3分の2を占める勢力となった与党ですら、共謀罪反対の「民意」の前に、強行採決を行うことができなかったことは極めて大きな意義があったと言える。

 ただ、政府与党は、共謀罪法案の成立をあきらめた訳ではない。秋の臨時国会に向けて、着々と準備することは間違いない。夏を挟んで、世論の行方も不明確である。

 改めて秋の臨時国会に向けて、共謀罪法案を廃案に追い込むために、最後まであきらめることなく、反対の声をあげ続けることが必要である。

(2006年6月1日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年6月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。


共謀罪法案の成立をどうやって阻止すべきか

 犯罪をすることの合意があるだけで処罰できるという共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「共謀罪法案」という)が、4月21日から、衆議院法務委員会で審議が再開された。

 共謀罪法案は、昨年の特別国会で3度目の上程をされ、衆議院法務委員会では参考人質疑も実施して採決寸前まで行ったが、反対運動や世論の盛り上がりによって、与党が採決を断念して継続審議となっていた。

 4月21日についても、野党が審議再開に強く反対する中で審議入りが強行され、野党委員による抗議の声と怒号の中で、法務大臣による政府案についての趣旨説明と、与党修正案についての与党議員による趣旨説明が行われた。

 翌週の4月25日には与党質疑が行われたが、野党である民主党と社民党は審議を拒否して、与党議員だけで、与党修正案をめぐって質疑が行われた。

 民主党の小沢一郎代表は4月25日の記者会見で、共謀罪について「厳格に構成要件を定めないまま官憲の裁量を広げることは国民の基本的人権を束縛する」と批判し、その後、民主党は、共謀罪についての修正案をまとめて、4月27日に衆議院に提出した。

 その内容は、(1)適用を国境を越えた組織犯罪集団が関与した行為に限定する、(2)共謀罪の対象を4年以上の懲役・禁固に当たる罪(約600)から、5年超の犯罪(約300)に絞るというものであり、共謀罪の元になっている国連越境組織犯罪防止条約の批准に賛成した立場から、条約の内容を忠実に法文化するとともに、適用される犯罪を限定しようとするものである。

 4月28日には朝の理事懇談会で、同日の審議終結・採決を主張する与党側理事に対して、野党側理事は、採決するのであれば審議に応じないという姿勢で対決し、双方が国会対策委員会に持ち寄り、自民党と民主党の国会対策委員会が話し合って、同日の採決をしないことになったため、同日の与野党質疑が実施された。

 与党としては、連休前である4月28日の衆議院法務委員会での採決を目指していたが、その野望は阻止されたのである。

 その理由については、同日に、教育基本法改正案が閣議決定され、国会に提出されたことに関係があるという見方もあるが、最近になって、テレビや新聞などが共謀罪の危険性について頻繁に取り上げるようになり、反対の世論が高まったきたことが大きいと思われる。

 結局、本稿執筆時においては、衆議院法務委員会での今後の審議については、連休明けの四月九日に参考人質疑を行うことが決まっているだけである。

 共謀罪の危険性については、何度も述べてきたが、与党修正案によっても、人と人のコミュニケーションそのものが犯罪となり、警察・検察の捜査の対象とされるという共謀罪の本質的な問題点は何ら解消されていない。

 しかも、共謀罪の取締りのためと称して、盗聴法による盗聴の範囲は拡大されたり、室内盗聴が実施されるようになるなど捜査権限の拡大が次に予定されていることも明らかである。警察庁が早くやりたいと考えている「潜入捜査」(捜査官を組織にスパイとして潜入させる捜査手法)という新しい捜査手法の導入も間違いなくされるだろう。

 さらに、街中の監視カメラには高性能マイクが取り付けられ、コンピュータに予めプログラムされた危険な言葉を聞きつけたら、直ちに監視カメラがターゲットを撮影・録音するような監視社会が確実に訪れることは必至である。

 このような本質的な危険性を有している共謀罪を、今すぐに日本に設けなければならない国内での必要性(立法事実)も緊急性も認められない。

 共謀罪それ自体は、思想信条を直接取り締まるものではなく、その意味で、戦前の治安維持法が「国体の変革」に関わるあらゆる行為を取り締まろうとしたやり方とは異なっている。

 しかしながら、共謀罪の摘発を実際に担当する警察や検察が、共謀か否かの境界が曖昧な判断を恣意的に行うことによって、極めて政治的に運用される危険性を持っている

 今の日本は、確実に「戦争をいつでもすることができる国」を目指している。既に日米安保体制は変質し、有事法制も準備し、さらに軍隊の保持を認めるように憲法改正が準備されている。

 日本政府にとって、戦争に反対し、戦争の遂行を妨害する国民を「非国民」として検挙し、戦争を円滑に遂行することができるための道具が共謀罪なのである。

 このように、共謀罪は、戦前の治安維持法と全く同じ機能を果たすことが予想されるのである。「現代の治安維持法」と言われる所以である。

 共謀しただけで犯罪として処罰するという共謀罪のコンセプト自体が、我が国の法体系にとって異質であり、一旦成立させられれば、市民による様々な運動に対して、捜査機関が介入する口実を与え、市民間のコミュニケーションそれ自体が摘発の対象とされるおそれがあるという点において、これを多少修正したからと言って、許容するこどかできるものになることはおよそありえない。したがって、共謀罪法案は廃案にされなければならないのである。

 連休明けにの五月九日の参考人質疑の後には与党による強行採決が強く予想されるだろう。
 参議院法務委員会での審議も含めて、今通常国会において、共謀罪法案を成立させてはならない。

 それには、更なる反対運動の盛り上がりによる世論形成と毅然とした野党の対応が不可欠である。共謀罪法案については、今通常国会での戦いが最後の戦いになる可能性がある。全力で反対の声を広く伝えることが求められている。

(2006年4月29日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年5月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

入管法改正による指紋採取について考える

 衆議院法務委員会において、本年3月17日から、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)の一部を改正する法律案が審議されている。これは、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」が2004年12月に決定した「テロの未然防止に関する行動計画」を実行するために提案されている。

 入管法改正案の中で、特に注目すべきは、入管法6条3項の改正案である。そこでは、「上陸の申請をしようとする外国人は、特別永住者や16歳未満の者等を除いて、入国審査官に対し、電磁的方式によって個人識別情報(指紋、写真その他の個人を識別することができる情報)を提供しなければならない。」と規定されている。

 これは、日本に入国しようとする外国人のほとんどの者に対して、指紋顔写真を採取するものであり、応じない者は日本に入国させないようにする制度である。

 このような制度は、既にアメリカにおいては実施されており、これを日本においても実施しようとするものである。

 衆議院法務委員会における審議において、河野太郎・法務副大臣は「(指紋などは)偽造旅券などを見破る重要な情報。その人物がもう一度日本に来る可能性があれば保存が必要だ。基本的にその人間が生きている間は保有する。16歳以上から採取するので70〜80年は保有したい」と述べて、一度採取した指紋等を、その者の一生保存することを明らかにするとともに、法務省としては、採取した指紋等をデータベース化して犯罪捜査にも利用する方針であると報道されている。

 また、報道によると、今後の入国審査時に採取する指紋は年間600〜700万人分にのぼるという。これらの指紋等のデータを保存するとともに、データベース化して捜査にも使用するというのである。

 しかしながら、本来、この制度は、テロリストを入国させないための制度であるから、入国審査時に、テロリストのブラック・リストと比較照合し、その審査が終了したら、指紋等のデータは直ちに破棄されるべきものである。この制度が「テロ対策」のためであるというのであれば、「テロ対策」を超えた使用は許されるべきではない。

 ところが、法務省は、過去に退去強制処分にした約80万人分の指紋・顔写真のリストや国際刑事警察機構(ICPO)の手配者リストなどと照合するとともに、データベース化して、今後の捜査に使用しようとしているのである。

 これは明らかに、採取した指紋等のデータを、「テロ対策」以外の「目的」で使用しようとするものであり、「目的外使用」であると言わなければならない。

 このような運用を認めてしまえば、いずれは、必ず日本国民についても、全国民が指紋を登録して、データベース化されることを否定できなくなるはずである。

 ところが、衆議院法務委員会の審議において、今回の入管法改正が、来日外国人の指紋や顔写真を採取するための法改正だけでなく、併せて、日本人や定住外国人からも指紋を採取しようとしていることが明らかとなっている。

 社民党の保坂展人・衆議院議員によると、それは、「定住外国人や日本人の『希望者』に対して、あらかじめ入管で指紋登録をすませておくと、鉄道の自動改札機のような機械式ゲートを、高速道路のETCのようにスピーディに通過できる」という「自動化ゲート」が準備されているという。

 入管局長の説明では、今回の法案には、この「自動化ゲート」のことは規定されておらず、法律事項ではないという認識を示している。河野太郎・法務副大臣は、定住外国人や日本人の「希望者」が登録した指紋のデータについては、「本人が利用をやめるまで」保管されるが、死亡しても遺族から届け出がない限り消去されないとも回答したという。
 すなわち、日本人等の指紋データも半永久的に保管され、データベース化されるということである。

 実は、我が国でも、警察庁は、以前から、指紋データベースを構築して運用していることも知られている。これは、捜査で得られたあらゆる指紋が半永久的にデータベース化されて捜査に使用されている。これと法務省のデータベースはいずれリンクされて利用されることになるだろう。

 そこに一貫して見られるのは、行政機関が一旦取得した情報は、半永久的に保有した上で、それを様々な目的のために自由に使用してよいという発想である。

 そこでは、行政機関は決して誤らないという無謬性を前提とする「性善説」の考え方が前提とされている。

 しかしながら、そもそも、指紋は、個人情報としては極めてセンシティブなものであり、それを本人の意思にかかわらず半永久的に保存し、それを様々な目的のために使用する(目的外使用する)ことは絶対に許されないと言わなければならない。

 入管法改正案は、来日外国人を対象とする法案であることもあって、マスコミや世論の関心も低い。しかし、これは決して他人事ではないどころか、日本人の指紋までも採取しようとする企てなのである。

 与党は、3月28日に、衆議院法務委員会で入管法改正案についての質疑を行い、同日に採決を行うことを提案していた。これに対して、野党からは、入管法改正案の問題点が次々に明らかになっているとして慎重審議を求めた。その結果、3月29日に、衆議院法務委員会で入管法改正案の採決を行い、与党の多数により可決される可能性がある。

 しかしながら、入管法改正案は、単なる来日外国人だけの問題ではない。それは、日本における人権のあり方やそのレベルが問うものであり、私たち市民は、この問題に正面から向かい合い、反対の意思表示をすることが強く求められている。

(2006年3月27日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年4月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

共謀罪法案の継続審議にどう向かい合うか

 本年2月14日、与党側が民主党に対して、共謀罪についての修正案を初めて提示したと報道された。

 これによって、昨年秋の特別国会に3度目の上程をされ、継続審議とされていた共謀罪の新設を含む組織犯罪処罰法等の改正案(以下「共謀罪法案」という)の成立に向けた今通常国会での動きが始まったと言える。

 報道によると、与党の修正案は、(1)適用対象の限定と(2)何らかの準備行為があったことを共謀罪の構成要件に加えることの2点と伝えられている。

 民主党に提示された与党案によると、このうち、適用対象の限定については、「団体の活動」の後に括弧書きで、「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体である場合に限る。」との文言が挿入されることになっている。
 また、準備行為については、「その共謀をした者のいずれかにより共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において」との文言を挿入されることになっている。

 しかしながら、「共同の目的」を限定する修正案については、これから述べるように、ほとんど有効な限定にはならないと考えられる。この点については、特別国会における審議から明らかとなっている。

 特別国会において、富田法務副大臣(当時)が、民主党の枝野幸男議員の質問に対して、「団体が有している共同の目的が犯罪行為を行うことと相入れないような正当な目的で活動している団体については、仮にたまたまその団体の幹部が相談して組織的に犯罪行為を行うことを決定したとしても、共同の目的を有する団体として意思決定したとは言えない」と答弁している(昨年10月28日の衆議院法務委員会の議事録より)。おそらく、この内容を明文化しようとしたのが今回の与党の修正案の内容であるように思われる。

 しかしながら、与党の修正案を見ても、「その共同の目的が・・・罪を実行することにある団体」と書かれているだけであるから、団体の幹部が組織的に犯罪を行うという意思決定した場合に、「共同の目的を有する団体として意思決定したとは言えない」という解釈が当然に成立するわけではない。

 立法担当者が執筆した『組織的犯罪対策関連三法の解説』(法曹会)においては、団体の定義(組織犯罪処罰法二条)について、「その目的自体が必ずしも違法・不当なものであることを要しないのであり、例えば、会社が対外的な営利活動により利益を得ることなども、『共同の目的』に当たり得る。」と記載されており、この解釈によると、「共同の目的」は非常に広く解釈されていた。
 ところが、特別国会において、大林刑事局長は、この見解を否定して、前記の解釈を示したのである。

 しかしながら、組織的犯罪処罰法が立法された当初の立法担当者が示した解釈について、その後の刑事局長が国会の答弁上否定したところで、裁判所によってどちらが採用されるかは拘束するものでないことは明らかである。むしろ、裁判所としては、立法当初の解釈の方が広くて緩い解釈であるから、むしろ、その解釈の方を採用する可能性が高いと予測されるのである。

 今回、与党が民主党に示した修正案のうち、「共同の目的」を限定しようとしている点については、このような懸念が全く払拭されていないという点で大きな問題があると言わなければならない。

 また、準備行為の点については、従来から、顕示行為(overt act)というアメリカの一部の州で採用されている要件を付加しようとするものであるが、これもあまり限定には役立たないと考えられる。

 この点については、大林刑事局長も、特別国会の審議の中で、「これらの共謀が行われたことや組織性等の要件に該当することを立証するためには、実務上はオーバートアクトの存在が非常に重要となり、オーバートアクトが存在せず、あるいはその存在が立証できない事案においては、これらの立証が困難になる場合も多いと考えられます。 したがって、共謀罪において、オーバートアクトを要件としない場合と、した場合の実務上の差異は、結果としてはそれほど大きくない場合もあり得る、このように考えております。」(昨年10月14日の衆議院法務委員会における議事録より)と述べて、その要件を設けることと設けない場合とでは、実務上あまり違いはないことを認めていたのであり、与党の修正案の準備行為に関する部分についてはあまり限定の実益がないことが図らずも明らかになっていると言える。

 しかも、「共謀に係る犯罪の実行に資する行為」という「資する」という部分はかなり広い範囲を含むと解釈する余地があり、ほとんどの行為がこれに当たると考えられることからすると、共謀罪の成立を限定することにはならないと考えられる。

 このように、与党の修正案は、共謀罪の本質的危険性を何ら限定するものではないことが明らかである。

 与党は、共謀罪法案の今通常国会での成立に全力を尽くす姿勢を示しており、民主党が修正協議に応じない場合には、予算審議明けの3月中旬にも、衆議院法務委員会の冒頭で、与党だけで修正案を提出して質疑応答を行い、強行採決も予想される。

 しかしながら、現在の日本の国内情勢について、共謀罪法案の成立を急ぐような必要性は全く認められない。それにもかかわらず、共謀罪法案の成立を急ごうとするのは、共謀罪を強力な国内の治安対策として利用する意図があると疑われても仕方があるまい。

 今年も「政治の季節」がやってきた。3月以降、衆議院法務委員会では、与野党の激しい論戦が予想される。今回が本当の意味での「最終決戦」になることも予想される。

 私たちは、改めて戦いの陣形を固め、世論を味方にして、国会への圧倒的な反対の声をぶつけるような運動が求められている。

(2006年3月14日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年3月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

宇和島事件の国家賠償請求棄却判決から誤認逮捕の再発防止について考える

 2006年1月18日、愛媛県警に窃盗容疑などで誤認逮捕されて1年余り勾留され、後に真犯人の存在が分かったために、異例の無罪論告を経て無罪判決を受けた宇和島市の男性が、国と愛媛県に慰謝料などの支払を求めた国家賠償請求訴訟の判決が、松山地方裁判所であった。

 沢野芳夫裁判長は、「自白を強要した事実は認められず、男性に対する疑いがあると判断する合理的な理由があった。真犯人判明後の釈放も理由なく遅れたとはいえない」などとして、請求をすべて退ける原告全面敗訴の判決を言い渡した。

 宇和島事件は、真犯人が現れて、明確に被告人が誤認逮捕であることが明らかとなり、検察官ですら無罪弁論をせざるを得なかった事件であり、捜査段階での被疑者の自白が「虚偽自白」であったことが客観的に明らかになった珍しい事案であった。

 それにもかかわらず、その責任を追及して国家賠償請求訴訟を提起すると、その訴えが認められないというのでは、改めて、何のための国家賠償制度かと根本的な疑問を抱かざるを得ない。

 そもそも、このように国家賠償請求を無意味にするための理論として、最高裁判所が採用している「職務行為基準説」がある。
 これは、捜査当時に現に収集した証拠資料や通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して、合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、その捜査の結果として行った逮捕・勾留や起訴などは違法性を欠くという考え方である。

 これは、芦別事件についての最高裁判所1978年(昭和53年)10月20日第二小法廷判決(民集32巻7号1367頁)以来、最高裁判所が一貫して採用している見解であり、そのために、これまでも多くの冤罪事件について国家賠償請求が斥けられてきている。

 宇和島事件の場合には、職務行為基準説によると、真犯人が現れたのは公判になってからのことであるから、捜査段階で、捜査当局が嫌疑があると判断したことには違法性がないと判断したのは適法であることになる。今回の松山地方裁判所の今回の判決は、従来の判例理論を踏襲した判決であり、決して特異な判断を示した判決ではないということになる。

 また、この松山地裁の判決では、「自白を強要した事実は認められない」と判断されている。しかしながら、捜査段階における密室の取調室において、虚偽自白を強要されたかどうかについては、その取調べが録画・録音(可視化)されていない現状においては、被疑者・被告人側で立証することは不可能であり、結局、裁判において、「虚偽自白を強要していない」という警察側と原告側との間での「水掛け論」になるだけである。

 このように、我が国においては、仮に警察や検察による誤認逮捕がなされても、その法的責任が裁判所において明確に認められてこなかったために、捜査当局においても、本気で誤認逮捕の再発防止に取り組もうとせず、その結果、今なお、全国各地で誤認逮捕を繰り返しているのである。

 しかしながら、誤認逮捕は、逮捕される被疑者から見れば、最大の人権侵害である。逮捕されて疑いをかけられて、虚偽自白を強要されるという人権侵害もあるし、逮捕されたことがマスコミによって大々的に報道された場合には、世間から「犯人」との間違ったレッテルを貼られて、ひどい場合には引っ越しや自殺を余儀なくされる場合もあり、被疑者は一生深い傷を負ってしまうこともあるのである。
 したがって、誤認逮捕は絶対にあってはならないし、誤認逮捕が間違っても起こらないように最大限の努力をしなければならないはずである。

 諸外国の例を見ると、このような誤認逮捕や冤罪が明らかになった場合には、第三者による調査委員会が設けられて、徹底的に誤認逮捕等が行われた原因を追及し、関与した公務員の処分や処罰が徹底的になされることが多い。
 また、その調査結果を基にして、そのような誤認逮捕等を発生させないように法律改正を行う場合もある。例えば、オーストラリアでは、警察官の不祥事をきっかけに、徹底した捜査の可視化が法律で導入され、警察官による取調べや捜索・差押え等が全て録画されるようになったと伝えられている。

 我が国でも、誤認逮捕については、その事実が明らかになった時点で、警察の内部調査等に任せるのではなく、第三者からなる調査委員会を設置して、徹底的に誤認逮捕の原因を追及すべきである。
 そして、その結果を踏まえて、現場の警察官に対する厳正な行政処分(懲戒処分)を行い、そのような行為を行った警察官を現場から追放すべきであるし、それが犯罪行為である場合には厳正に摘発して処罰すべきである。

 また、国家賠償請求訴訟については、「職務行為基準説」を捨てて、事後的に誤認逮捕が明らかとなった場合でも公務員の行為の違法性を認める立場をとるべきである。

 さらに、取調室に入った時点から出る時点まで、取調官による全ての取調べ過程を録画(可視化)すべきことを法律で規定すべきであり、その規定に反して作成された供述調書の証拠能力を例外を設けることなく否定すべきである。

 我が国において、以上のような根本的な改革をしない限り、誤認逮捕はいつまで経ってもなくならなることはないだろう。誤認逮捕を繰り返してきた過去を反省し、そのような悲劇をこれ以上繰り返さべきではない。

 2009年に導入される裁判員制度やその他の司法改革に先立って、誤認逮捕が起こらないようにする根本的な捜査の改革ができないようでは、我が国の司法改革は画餅に帰するだけであるし、ほとんど無意味であると評さなければならない。

(2006年1月29日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年1月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

テロ対策を理由とする警職法改正について考える

 新聞報道によると、政府内に「テロ攻撃を未然に防ぐには、警察官らによる立ち入り制限や強制的な職務質問が必要だ」との見方が広がっているとして、重要施設の警備に関する警察官らの権限を強化するために警察官職務執行法(以下「警職法」という)の改正等が検討されているという(読売新聞2004年11月28日付夕刊)

 警職法は、戦前の行政執行法(明治33年制定)を廃止して、戦後、1948年7月に成立・公布され、その後、警察法改正に伴う文言等の改正はあったが、本質的な改正は一度も行われていない。

 ただ、1958年に警職法の大幅な改正案が第30回国会に上程されたことがあった。これは、所持品検査ができることを盛り込んだり、保護の対象を拡大したり、警告や制止や立入等のできる場合を「公共の安全と秩序」に対する危害等のおそれを要件として拡大するなどの提案であったが、突然に提案されたこともあり、また、警察に対する不信感が大きかったことも含めて、市民による圧倒的な反対運動の結果、廃案となっている。

 今回、警職法の改正案が出されるとしたら、それ以来、実に48年ぶりのことである。

 実は、政府は、2004年12月に決定した「テロの未然防止に関する行動計画」において、既に「情勢緊迫時における重要施設等の警備強化」を挙げていた。

 そこでは、「国の重要施設や大規模イベント会場等多数の人が集合する施設の警備に当たる警察官等は、職務質問や車両検問等によりテロの防止に努めているが、これらはあくまで相手方の任意の協力に基づくものであることから、警備の実施に様々な困難を生じている。」として、「そこで、警察庁及び海上保安庁は、テロ情勢が緊迫している場合等には、警戒区域を設定し、警察官等が当該区域内において安全確保のために必要な措置を講ずることができること、重要施設等の周辺に立入制限区域を設定することができることなどを内容とする法整備について検討を行い、平成17年中に結論を得る。これを踏まえ、平成18年度に必要な措置を講ずることとする。」と述べられていた。

 今回の報道によると、この内容を具体化するために、国内や日本周辺でテロ攻撃のおそれが出てきた場合に、重要施設(首相官邸、国会、原子力発電所、大規模イベント会場、重要港湾施設)などの周辺を警戒区域に設定した上で、その区域内での警察官らによる職務質問や警察施設への同行要請などに強制力を持たせようとするものであり、警戒区域の設定を可能とする新法の制定とともに、警察官らの権限強化については、警察官職務執行法の改正で対応しようとするものであると考えられる(もっとも、2005年12月20日に開催された犯罪対策閣僚会議で配布された「テロの未然防止のための行動計画」の実施状況等に関する一覧表の「情勢緊迫時における重要施設等の警備強化」の欄には、特に立法の予定が何も記載されていないので、当分の間、警職法の改正等の具体的な動きはないとも考えられる)

 警職法2条は、職務質問や警察署等への同行を規定しているが、同条3項は「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。」と規定して、あくまでも職務質問等は任意であり、強制力がないことを規定している。

 これは、警察官職務執行法が、あくまでも行政警察活動を規律する法律であり、司法警察活動を規律する刑事訴訟法が、裁判官による司法的抑制(チェック)を前提として強制処分を認めているのとは異なるためであり、しかも、自己に不利益な供述を強制されないという自己負罪拒否特権が憲法38条1項で保障されているためである。

 しかしながら、警職法については、現場において濫用的な運用がなされ、それを裁判所が追認する形で、警察官に対し、かなり広い権限や所持品検査が認められるに至っている。
 すなわち、最高裁判所は、所持品検査を一定の範囲で認めたり(最高裁1978年6月20日第三小法廷判決・刑集32巻4号670頁)、一定の範囲での有形力の行使を認めるに至っている(最高裁1994年9月16日第三小法廷決定・刑集48巻6号420頁)

 その結果、職務質問等は任意ではあるとされながらも、事実上の強制にわたる範囲まで認められているのが実情であり、法律改正を要することなく、警察官はその権限の拡大を獲得してきていたのである。

 しかしながら、今回報道されている警職法の改正案はこれまでとは明らかに質を異にしている。
 すなわち、一定の時期・エリアに限定されるとは言え、警察官に強制力を与えようというのであるから、行政警察活動のあり方を一変させるおそれがある。
 司法警察活動については裁判官による司法的抑制という担保が一応あるのに対して、行政警察活動については第三者が一切チェックできないために、警察官による権限濫用や暴走を誰も止めることができなくなり、市民の人権の侵害が一層多発するおそれがある。

 したがって、警職法につき報道されているような内容の改正がされれば、その性格を変えてしまい、市民を弾圧するための武器として用いられることになってしまうだろう。

 さらに、職務執行や同行に強制力が持たされることになると、それに抵抗する市民に対して、警察は公務執行妨害罪で逮捕するという形での弾圧が現在よりも多発される可能性がある。折しも、法制審議会刑事法部会は、2005年12月に、公務執行妨害罪に選択刑として罰金刑(上限50万円)を新設することを決め、本年の通常国会に刑法改正案が提出される予定である。
 罰金刑の新設によって、公務執行妨害罪による処理が容易になることから、公務執行妨害罪による検挙件数がより増加することが予想されるのである。

 このように、警職法を改正して、行政警察活動に携わる警察官に対して、職務質問や同行に強制力を与えることは、警察官の権限を強化するだけであり、それと対抗する市民にとっては、正当な運動や活動に対して、警察官が権限を濫用・暴走して、より多くの市民の弾圧を生むというマイナスの結果しかもたらさないと考えられる。

 そうであるとしたら、このような警職法の改正に到底賛成することはできないし、1958年の警職法改正案に対する全国民的な反対運動でこれを粉砕したという歴史を踏まえて、警職法改正案を国会に提出することすら許してはならない。
 そのためには、私たち市民は、このような動きに対しては、圧倒的な力による反対運動を構築していかなければならない。
(2005年12月24日記)

*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2006年1月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

マネロン・テロ資金規制制度の新たな局面を迎えて

 2005年11月17日に開催された政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、FATF勧告実施のための法律の整備について新しい方針を決めた。

 FATF(Financial Action Task Force 資金洗浄に関する金融活動作業部会)は、1989年に開催されたアルシュ・サミットの経済宣言を受けて政府間機関として設置され、1990年にマネーロンダリング規制に関する「40の勧告」を採択し、その後、1996年の改訂を経て、2003年6月に、新たな「40の勧告」を採択している。

 その勧告の要点の第一は、これまでは犯罪収益についてのマネーロンダリング規制だけが取り上げられていたが、テロ資金供与に対する規制も盛り込まれたという点と、第二は、これまで金融機関についてだけ認められていた本人確認等の義務や疑わしい取引の当局への報告義務が、弁護士、公証人、公認会計士などにも課せられることになった点である(これらの者は金融システムの「門番」であるとして、これを「ゲートキーパー規制」と呼んでいる)

 2004年12月、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は「テロの未然防止に関する行動計画」をまとめ、その中で、FATFの「40の勧告」等を完全実施するため、2005年7月までにその実施方法を検討して結論を出すことにし、法整備を必要とするものについては2006年の通常国会に所要の法律案を提出することを掲げていた。

 ところが、冒頭に述べたように、2005年11月17日に開催された国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、FATF勧告の実施のために必要となる法律の整備について、(1)法律案の作成は警察庁が行うこと、(2)本人確認法(金融庁所管)及び組織犯罪処罰法(法務省所管)第5章を参考として法律案を作成すること、(3)FIU(金融情報機関)は金融庁から警察庁に移管すること、(4)警察庁は2006年中に法律案の作成を終え、これを2007年の通常国会に提出することなどを決定した。

 これまで、我が国における金融機関に対するマネー・ロンダリング規制については、FIU(金融情報機関)は金融庁であり、同庁の「特定金融情報室」が担当部署であったが、今回、これを組織・人員ごと警察庁に移管することを決めるとともに、FATFの勧告を実施するための法律については、金融機関と非金融機関(この中には、公認会計士や弁護士などのゲートキーパーも含まれる)を一括して、一つの法律案を作成することになり、その作成の責任者が警察庁となったのである。これに伴い、当初予定されていた来年の通常国会への法案提出を1年先送りして2007年の通常国会に提出することを決めたのである。

 今回の決定は、この問題について、これまでは異なる全く新しい展開を見せるものと言わなければならない。

 確かに、金融機関だけでなく、非金融機関、とりわけ、公認会計士や弁護士などのゲートキーパーに対しても、一律にマネー・ロンダリング規制やテロ資金規制を行うためには、従来のように、FIU(金融情報機関)を金融庁のままにしておくことにも無理があることは確かであり、警察庁が情報の大本締めになることは、FATFの勧告を実現しようとする以上は必然とも考えられた。

 もっとも、警察庁がFIU(金融情報機関)になって、疑わしい取引の報告先になるとともに、マネー・ロンダリング規制とテロ資金規制をするための業界横断的で一元的な法律案を作成する責任者となったことによって、この制度が、これまでとは大きく性格を変えてしまうのではないかという強い危惧を抱かざるを得ない。

 すなわち、新しい制度の下では、マネー・ロンダリングやテロ資金に関するあらゆる情報が一元的に警察庁に集約され、多くの情報が警察庁に集中することを認めるとともに、金融機関から非金融機関、そして、公認会計士や弁護士などに対しても、広い意味での監督を及ぼすことを意味している。これによって、警察はますます権限を拡大して、警察国家化の傾向が一段と強められることは避けられない。

 特に、弁護士については、疑わしい取引を報告しなかったことを理由として、弁護士会に対して懲戒処分を求めたり、さらには、報告を怠ったことを犯罪として罰則を設けることも考えられ、その場合には、弁護士は、完全に警察庁の監督下に置かれてしまうおそれすらある

 日弁連は、かねてから、ゲートキーパー規制には反対してきたが、このような立法が設けられる最悪の場合に備えて、より侵害的でない制度として、各弁護士が日弁連を報告先とし、日弁連が各弁護士からの報告を審査した上で金融庁に報告する制度を作ることもやむを得ないと判断して法務省との協議を重ねていた。

 しかしながら、日弁連は、FIU(金融情報機関)が警察庁に移管されることが正式に決定された事態を受けて、2005年11月18日付で「今回の政府決定は到底容認できないものであり、国民各層の理解を得る努力をしつつ、諸外国との弁護士・弁護士会と連携し、反対運動を強力に展開していくことを決意する」とい会長声明を発表している。

 これは、単に、弁護士や弁護士会の職務のあり方や守秘義務だけの問題ではなく、警察庁を頂点とするこのような制度が、弁護士に秘密のうちに相談できる市民の権利の侵害にも繋がる問題でもあるという認識を広く共有する必要がある。
 そして、警察国家化を進めてきた警察庁が、ここでも主導的に立ち回り、大きく権限を拡大しようとしていることに注目しなければならない。

 2005年11月28日、大阪地検特捜部と大阪府警は、西村真悟・衆議院議員を、弁護士法違反(非弁護士との提携)の容疑で逮捕した。今後、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)容疑でも立件する方針だと伝えられている。
 これは、弁護士に対しても、マネー・ロンダリング罪による逮捕や起訴がありうることを示すものであり、そのような前例を作る第一歩とも考えられる。

 私たちは、警察の狙いがどこにあるかを見定めるとともに、警察庁に情報が一元化するような新たなマネー・ロンダリング規制・テロ資金規制の制度の新設に対して、強く反対していかなければならない。

(2005年11月29日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2005年12月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

特別国会における共謀罪審議から見た共謀罪法案の危険性

 今特別国会中の10月4日に三度目の国会上程がされた共謀罪の新設を含む「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「共謀罪法案」という)は、国会に上程された後、衆議院法務委員会において、10月14日に審議入りした後、同月21日、同月25日、同月26日(参考人質疑)と審議が行われ、同月28日も約4時間の審議が予定されている。

 10月中旬ころから、マスコミにおいて、与党が今通常国会における共謀罪法案の成立を断念したと報道され、政府・与党は10月24日の連絡協議会で、正式に今特別国会での成立を断念したと報じられている。
 この報道によって、反対運動の側の緊張感が多少なりとも削がれたことは確かであり、改めて与党側の世論操作の巧みさを感じる。

 ただ、政府・与党は、今特別国会で、共謀罪法案が可決・成立できないとしても、既に共謀罪法案を継続審議にする方針を固めており、来年の通常国会での成立を期すことにしただけのことである。

 衆議院の3分の2の議員を与党が占めている国会情勢の下では、今特別国会において共謀罪法案が廃案になることは考えられないし、政府・与党が共謀罪法案の成立を決してあきらめていないことを私たちは改めて確認する必要がある。その証拠に、衆議院法務委員会においては、通常の審議予定日以外である水曜日にも審議が行われ、着々と審議日程をこなしているのである。

 ところで、今年の通常国会で一度だけ実質審議が行われた7月12日の審議においても、与党議員からも、共謀罪法案に対する様々な疑問が提起されていたが、特別国会会期中の衆議院法務委員会における審議においても、与党議員も含めて、共謀罪法案に対する数々の疑問が提起され、それに対して、法務大臣や政府参考人から苦しい答弁がなされている。

 紙幅の関係で、ここでは、その中から2点取り上げたい。まず、共謀罪が適用される対象となっている団体性の問題について注目すべき答弁がなされている。

 衆議院法務委員会で実質審議入りした10月14日には、与党議員からの質疑が行われたが、公明党の漆原良夫議員の質問に対し、大林政府参考人(法務省刑事局長)は、

「団体とは共同の目的を有する多数人の継続的結合体ですので、そのような共同の目的を有する団体として犯罪行為を行うことを意思決定したと考えるためには、犯罪行為を行うことが団体の共同の目的に沿うものでなければならない。すなわち、共同の目的と相いれない場合には、『団体の活動として』という要件を満たさないと解しているところでございます。したがいまして、正当な目的を持って活動している団体につきましては、仮にたまたま団体の幹部以下が組織により行われる具体的な犯罪を共謀したとしても、犯罪行為を行うことがその団体の共同の目的と相いれない場合には、『団体の活動として』という要件を満たさない、このように考えております。」

 と述べて、団体性の要件を、団体の目的という観点から厳格に解釈する姿勢を示し、一見すると、労働組合や市民運動団体などはこの要件を満たさないかのように答弁している。

 ところが、漆原議員から、団体の性質が途中で変質する場合について質問されて、大林政府参考人は、

団体の共同の目的とは、必ずしも、設立登記や定款に記載されている目的や、団体が形成された当初の目的のみをいうものではなく、当該共謀が行われた時点における個別具体的な団体の活動実態に照らして判断されることになります。したがって…当初の目的が失われ…犯罪集団化した場合には、共謀罪が成立し得ると考えられます。

と答弁している。

 結局、政府は、団体の共同の目的というのは変化しうるものであり、正当な目的を持って成立し活動していた団体であっても、共謀を行った時点での共同の目的を実質的に判断して、場合によっては共謀罪が成立し得ると述べているのである。
 ここでは、共謀罪が対象とする団体を予め限定することは困難であることが示されている。つまり、共謀罪の対象となる団体には、労働組合や市民運動団体も入ってくることを否定していないのである。

 もう一点、10月21日には野党議員による質疑がなされたが、社民党の保坂展人議員が質問したことに対して、大林政府参考人(法務省刑事局長)は、いわゆる黙示の共謀でも共謀罪が成立することを認めている。

 すなわち、大林政府参考人(法務省刑事局長)は、

「共謀を認定するものはいろいろな形態、先程おっしゃられた順次共謀もあります、それから黙認による共謀もあります。ですから、それが具体的な犯罪に対して、犯罪をしようという主体的な合意である以上は共謀と言えると思います。」、「共謀としては目くばせでも十分共謀が成立する場合はあると思います。」

と答弁している。

 これまで、この点はあまり議論されていなかったが、判例が長年にわたって認めてきた共謀共同正犯の理論においては、古くから黙示の共謀は認められてきており、年々、その認定が緩和されてきているのである。
 そのため、現在の共謀共同正犯における共謀の認定に当たって、「目くばせ」すらも要求されていないことを知っておく必要がある。

 以上の2点については、衆議院法務委員会での議論の中でも、特に注目しておく必要があると思われる。

 政府・与党が今特別国会に、共謀罪法案を提出したのは、野党である民主党を巻き込んで修正協議を行うことを想定していたと思われる。

 しかしながら、今回、民主党は、与党からの修正協議を拒否し、共謀罪を廃案にして、我が国の刑法原則と条約の本来趣旨に則った処罰規定を設けた抜本的見直し法案を出し直すべきだという原則的な姿勢を最後まで貫いた。この結果、与党としては立ち往生せざるを得なくなり、今特別国会での成立を断念せざるを得なくなったと見ることができるだろう。

 それには、この間の多数の市民からの反対の声やマスコミによる批判的な報道、全国各地の弁護士会による反対声明など、世論が与党の暴走に歯止めをかけていることも確かである。

 さらに、表現活動に関わっている出版労連日本ペンクラブが共謀罪の成立に反対する声明を出したことも、政府・与党に対する大きな圧力となっていると考えられる。

 最近、アメリカで、反戦運動の運動家に対して共謀罪を適用しようとした刑事事件で、裁判所が無罪判決を言い渡したことが報道されているが、アメリカにおいても、反戦運動の弾圧のために共謀罪が用いられようとしていることが示されている。これは、将来、日本で共謀罪が成立した場合においても、共謀罪が誰に対して適用されるかを予兆するものとして認識しておく必要がある。

 共謀罪法案は、部分的に修正すれば成立させても良い、または成立してもやむを得ないという性格の法案ではなく、まさに治安立法であり、本質的に危険な法案である。したがって、このような法案は廃案とされるべきであるし、このような法案が提出すること自体を認めることはできない。

 本稿執筆現在、今特別国会の期間中の衆議院での採決はなされない見込みであるが、その場合でも、来年の通常国会においては間違いなく衆議院及び参議院での採決がなされることは避けられない。むしろ、来年の通常国会は本当の意味で最後の戦いの場となることが予想される。

 私は、通常国会までに、どれだけ多くの市民の反対の声を集めて、政府・与党が目指す共謀罪法案の成立を阻止することができるのか、私たちの力量が問われている。

(2005年10月28日記)
*これは、救援連絡センターの機関紙「救援」2005年11月号の連載記事として執筆されたものに一部訂正・加筆したものである。

アメリカのイリノイ州における刑事裁判改革への取り組みに学ぶ

 周知のとおり、アメリカのイリノイ州では、ライアン前知事が、2000年に、死刑執行についてのモラトリアムを実施して、死刑制度に関する委員会を設置し、その委員会は、2002年4月に、改善されるべき85項目にわたる提言をしている。

 そして、ライアン前知事は、その退任にあたって、167人の死刑囚を終身刑に減刑し、無実と確信した4人を恩赦で釈放していることは広く知られている(なお、ライアン前知事は、皮肉なことに、現在、刑事事件の被告人として、シカゴの刑事裁判所で陪審裁判を受けている)

 私は、2005年9月19日から23日まで、日本弁護士連合会の取調べ可視化実現委員会の代表として、イリノイ州のシカゴを視察訪問してきた。視察の目的は、被疑者の取調べに関する録画制度であったが、改めて、イリノイ州における刑事裁判の改革について色々と学ぶことができたので報告したい。

 イリノイ州の改革は、無実の者が死刑判決を受けていたという反省に立ち、どうしてそのような誤判が起きたのか、捜査から判決に至る全ての過程について見直すことによって、85項目にもわたる提言が生まれている。

 アメリカでは、陪審制度が採用されて、刑事裁判における有罪・無罪は、市民から選ばれた12人の陪審員によって判断されているが、それでも、誤判が起きる原因としては、取調べの際の捜査官による強制や利益誘導によって被疑者が虚偽自白をさせられているという現実と、目撃証人による間違った犯人識別供述が陪審員に信用されていることの2つが現在においても特に問題であると認識されているようである。

 市民である陪審員は、自分がやってもいない事件、とりわけ死刑判決が予想される殺人事件において自白することはありえないと考えており、捜査段階における自白を信用する傾向が強いという。また、陪審員は、目撃証人による犯人識別供述についても信用しやすいという。

 イリノイ州においては、この2つの問題についても改革が進んでいる。

 まず、2005年7月から、殺人事件については取調べの全過程を記録(録画・録音)することを義務づける法律が施行されている
 これまでも、被疑者の同意を得て、取調べが録画・録音されていたようであるが、今回の法律では被疑者の同意なく記録することができるようにするとともに、捜査官側の義務として規定した点に特徴がある。

 私たちは、シカゴ郊外にあるあるシカゴ警察署を訪問して、取調べの記録制度の運用について視察してきた。

 シカゴ警察署においては、各取調室にカメラとマイクが埋め込まれ、裁判所に送られるまでの原則四八時間の間、取調室に入った時から出る時までの全ての過程がサーバー(巨大なハードディスク)に電子的に記録され、専用の光ファイバー回線を使って本部に転送され、本部のサーバーで全ての警察署の取調室についての電子的記録が一括して保存・管理されることになっている。

 担当の警察官は、自分のデスクにあるコンピュータから本部のサーバーに接続して、その画像を閲覧できるようになっている。これは、イリノイ州の中でもシカゴ警察署だけが、民間会社と協力して、このようなシステムを開発したようであるが、とにかく徹底した取調室の記録システムであることは理解することができた。

 ただ、アメリカの警察署には留置場がないために、被疑者は窓もない取調室で寝泊まりし、夜間は電気が消灯されるようであるが、その間も赤外線カメラで記録されるようになっている辺りは、監視社会であるアメリカ的であった。

 また、目撃証人による犯人識別供述に関しては、目撃証人がどういう人物であるかということが証拠開示されるように改革されているそうである。これによって、その目撃証人が、いかがわしい人物であったり、たれ込み屋であることなどが分かり、目撃証人の弾劾に役立つとのことであった。

 シカゴは、かつてギャングの街と呼ばれたこともあり、さすがにその頃より状況はよくなっているとは言え、まだまだ殺人事件が多数発生するなど、決して治安が良いとは言えず、そのために警察官はかなり手荒で、逮捕後裁判所に送られるまでの間の原則48時間の間に、暴力を含め、あらゆる手段を使って自白を取ろうとするのだという。

 この辺りは、日本の警察と体質と非常によく似ていると感じた。それでも、イリノイ州では、新