「StrangeHighway」 第3章(父の葬式のくだり)


 朝、雨はやんでいたが、空は相変わらず不吉な様
相だった。
ジョーイは二日酔いにはなっていなかった。ビタミン
をとったり医学的に十分考えたケアを心がけているか
らであった。朝食をとり、シャワーを浴びると一張羅
のスーツを着た。ここ5年着たことがなく、サイズも
ぶかぶかで、父親の服を借りた15才の少年のようだ
った。長年の飲酒のせいで年に1ポンド(約454g)
ずつ痩せている。このままではあと100と16年で
消えて無くなる計算である。

 10時に繁華街にあるデヴォコウスキの斎場に行った。ルイス・デヴォコウスキはこ
こアッシュビルで35年続く葬儀屋である。「街の人の半分が夕べ焼香に見えたよ。み
んな親父さんが好きだった」と葬儀屋。母の死の際にも帰らなかったことを詫びるジョ
ーイ。そっとふれた父の頬は冷たく乾いていた。「I just took the wrong road. A
strange highway・・・もうやりなおせない。自分でもどうしてこうなったのかわから
ないんだ、お父さん。」ジョーイはしばらく何も言えなかった。
父:ダン・シャノンは炭坑の街にいながら炭坑で働いたことは無かった。いかつい顔。
広い肩。強くて無骨な指の手は傷だらけだった。彼は腕の良い自動車のメカニックだっ
た。心が酷く痛む。しかし死者との会話から許しは与えられなかった。
「P.J.はこのことを知っているのかい?」デヴォコウスキ。「いやまだ連絡がとれま
せん。」ジョーイ。彼の兄は、旅から旅のリサーチをするライターなので、留守電に連
絡を入れるしかできない。PJ・シャノンは、ジャック・ケルアック以来の最も有名な
典型的なジプシーライターである。
 ミサに参加するために通りに出、駐車してある自分の車に後ろから歩み寄ると、トラ
ンクがひとりでに開いた。その数インチの隙間から細い女の手が伸びる。親指は奇妙な
方向にねじ曲がり指先から血がしたたり落ちる。夕べの夢から抜け出た女だ。そんなこ
とはあり得ないが。ゆっくりと手が動き手のひらが上になる。その中心には血のシミと
ツメでつけられたような傷があった。不思議なことにジョーイが目をつぶると、まるで
聖域のようにOur Lady of Sorrowsが見えた。聖なる鐘の音が響き(それは現実の音で
はなく遠い昔の彼の記憶にある朝のミサの音)静寂を破った。「オレが間違っていたん
だ。最も酷い嘆かわしい間違いだ。」ろうそくの光を反射して聖餐杯がきらめいた。聖
餅が司祭の手にかかげられた。transubstantiation(聖餐のパンとぶどう酒はキリスト
の肉と血との全き実体と化する)の瞬間に目を見張る。信仰が満たされる。「オレのよ
うなろくでなしでもまだ希望はあるのか?」
目を開けると手は消え、トランクは閉まっていた。風が再び吹き遠くで犬がないていた。
幻覚。
自分の腕を上げてみると、酷く震えている。アルコール中毒・・・。飲んでない時に特
に症状が現れることが多いという・・・。
車の中で、ポケットから酒瓶を出し、長い間見つめた後、唇に運んだ。
ジョーイは葬儀にはしらふで臨みたかった。キャップをしめ酒瓶をポケットに戻し、霊
柩車の後を追った。一度ならず、運転中にトランクの中で何かが動く気配がした。
                                    つづく