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「StrangeHighway」 第16章 その3
PJは、再び水に手を触れようとしたがどうしても触ることができず、言葉にならないうなり声をあげながら、苛立って聖水盤を蹴った。、PJは、倒れた聖水盤を乗り越えて身廊に向かって突っ込んできた。ジョーイは立ち上がりショットガンに手を伸ばした。PJのまわりに硫黄臭い蒸気が立ち登った。床は向こうの方が相当に熱くなっているようだ。強い思いこみは、精神的な傷を現実のものとするものである。
「聖水」の揚げる蒸気はPJの思いこみに拍車をかけ、PJはパニックに陥った。PJは悲鳴をあげて蒸気をあげる床に滑って転び、手と膝を激しく打ち付けた。手を挙げると指からは煙が上がった。PJは獣のような叫びをあげて、入り口から外に飛び出して行った。
結局PJは射程内には入ってこなかった。
「驚いたわ。」「恐ろしくラッキーだったな。」「どういうこと?」「床が熱くなってたことさ。」「そんなに熱くは無いわよ。床のせいじゃないのよ。」「え?」「彼よ。」「単に冷たい水が熱い床に触れて蒸気が上がっただけで・・・」「いいえ、邪悪なものは、聖なるものに触れられないのよ。」
セレステがパニックかヒステリーにでも陥ったのかと訝ったジョーイだったが、そうは見えず、逆に彼女の感覚はジョーイのそれよりも明敏になっているようだった。
「だけど、水を入れたのは僕たちだぜ。聖職者じゃないんだから、ただの水だったはずだよ。」「いいえ違うわ。私は彼の手や顔を見たもの。赤くただれていたわ。スチームではそこまで熱くはならないはずよ。」「心因性の傷だ。」「違うわ。」「強い自己暗示のせいだ。」「時間が無いわ」彼女は十字架とろうそくを見て言った。
「ヤツが帰ってくるとは思えない。あんなにびっくりさせたんだから。」とジョーイは言ったが、「彼は来るわ。彼は何者にも怯えないわ。」というセレステが、彼の知らない高みから物を見ているような不思議な感慨に捕らわれていた。
彼女は十字を切り ”・・・in nomine Patris, et Filii, et Spiritus Sancti・・・”
彼女はPJよりもジョーイを驚かせた。
「殺人傾向のある異常者は、正常人と同じように恐れに敏感だ。彼らの多くは・・」
「いいえ彼は恐怖の父、虚言の父、冷酷で凶暴な・・彼は決してあきらめない・・・・」
床の水たまりに目をやり、ためらいがちにジョーイは聞いた。「誰のことを話してるんだい?セレステ。」
彼女は自分にしか聞こえない声を聞いているようだった。「彼がくるわ。」「何だって?誰が来るんだ?ユダか?そんなものはいないよ。」「ユダ以上のものよ。」「セレステ、しっかりしてくれ。悪魔が本当にPJに取り憑いてる訳無いじゃないか。」「もう時間が無いわ。信じて頂戴、どうしても」と言いつつセレステは聖職者席への手すりを飛び越え、聖域のゲートに走り寄りながら叫んだ。「ジョーイ、床の水に濡れた所に触って!蒸気より熱くなってかどうか確かめて!速く!」ジョーイも、セレステの様子に恐れを抱きながら手すりを飛び越える。
「待って!」
屋根を叩く雨の音を押しのけて、別の音が聞こえてきた。徐々に大きくなるうなり声。
「セレステ!君の手を見せて!」振り向いた彼女の顔は汗に濡れろうそくの光に照り映えた。聖人の顔。殉教者。
うなり声はますます大きくなり、エンジンを煽る音が混じる。
「手を見せて!」絶望的にジョーイが叫ぶ。上げた手の平にはぞっとするようなおぞましい傷が見えた。血で真っ黒になった穴。
凄まじい音を立てて、ムスタングが教会に突っ込んできた。ヘッドライトは消えていたが、エンジンはかかったままで、ベンチを跳ね飛ばし、教会内はメチャメチャになった。ジョーイは頭を腕で庇い、床に伏せたが生きた心地がしなかった。頭上から降り注ぐ粉々になったガラスやベンチの破片で、あたりは血の海になるだろう。周囲に渦巻く凄まじい騒音の中で、ジョーイは明らかに他とは違う音を聞いた。十字架が背後の壁から落ちる音だった。
つづく
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